瀬文茶のヒートシンクグラフィック

AMD「Wraith Cooler」

〜静粛性と冷却性能を向上させたAMDの次世代純正クーラー

 AMDより、次世代の純正CPUクーラー「Wraith Cooler」が付属する「AMD FX-8370 With Wraith Cooler」のサンプルを借用する機会が得られた。AMD製のCPUに同梱される次世代の純正クーラーとして、冷却能力と静粛性を高めたというWraith Cooler。今回は、その実力をチェックしてみた。

92mmファンを採用して大型化したWraith Cooler

 AMD Wraith Coolerは、CPUのリテールパッケージに同梱される、いわゆる「リテールクーラー」の新モデルだ。AMDによれば、Wraith Coolerは従来の純正クーラーより、放熱フィンの面積を24%、搭載ファンのエアフローを34%、それぞれ向上させ、動作ノイズを10分の1まで抑えたという。

 今回、AMDより借用したAMD FX-8370 With Wraith Coolerは、Socket AM3+対応のCPUであるAMD FX-8370にWraith Coolerを同梱したもの。AMD FX-8370はPiledriverアーキテクチャ採用のCPUコア「Vishera」ベースの8コアCPU。4〜4.3GHzで動作し、TDPは125W。

AMD FX-8370 With Wraith Cooler
AMD FX-8370

 AMD Wraith Coolerはトップフロー型のCPUクーラーで、銅製のベースプレート、4本のヒートパイプ、アルミニウム製放熱フィンで構成されたヒートシンクに、PWM制御対応の92mm角25mm厚の冷却ファンを備える。冷却ファンにはカバーが装着されており、カバー側面のAMDロゴが稼働時に白く発光する。

 クーラーをマザーボードに固定するリテンションは、AMDのメインストリーム向けプラットフォームに対応するレバー方式を採用。AMD FX-8370の対応ソケットであるSocket AM3+のほか、純正リテンションの互換性がある最新のSocket FM2+への取り付けも可能だ。

AMD Wraith Cooler
ベースプレート側
本体側面
ベースプレートにはサーマルグリスが塗布済み
ファンカバー取り外し時。カバーに繋がっている電源ケーブルは、ロゴLEDへの給電用
ファンカバーのロゴLED
冷却ファン。PWM制御対応の92mmファン(92×92×25mm)

 Wraith Coolerは、これまでAMDの上級製品に同梱されていた純正クーラーより一回り大型化されており、従来型では約56mmであった全高が約80mmと高くなっている。AMD FX-8370との組み合わせで約80mmという全高が問題になるケースは少ないと思われるが、ヒートシンクの大型化により一部のマザーボードで、メモリスロットとのクリアランスがやや厳しくなっている場合がある点には注意したい。

従来型クーラー(写真左側)との比較
メモリスロットとのクリアランス(GIGABYTE GA-990FXA-UD3 rev. 3.0搭載時)

サーミスタを廃して冷却ファンの制御をPWMに一本化

 Wraith Coolerは、従来型クーラーの冷却ファン(70mm角15mm厚)よりも大口径かつ厚い92mm厚25mm厚ファンを採用し、エアフローの向上とファンノイズの低減を図っている。また、見た目では分かりにくい変更点として、ファンの回転数制御について、従来型クーラーが備えていたサーミスタによるファン制御機能を廃している。

 従来型クーラーで行なわれていたサーミスタによるファン制御は、冷却ファンに搭載したサーミスタにより、周辺温度の変化に応じてファンの回転数を変更するというものだ。狙いとしては、ヒートシンク周辺温度が高くなった時にファンの回転数を上げ、強制的に冷却を行なうというものなのだが、動作状況に応じて温度は常に変化するため、ファンの回転数を一定に保つことが事実上不可能だった。

 Wraith Coolerはサーミスタを廃し、ファン回転数の制御をPWM制御に一本化したことにより、ユーザー側の設定次第で冷却ファンの回転数を一定に保てるようになった。マザーボード側がPWM制御について十分な設定を持っている必要はあるが、CPUの発熱具合によってファンの回転数が常時変化してしまう従来型クーラーより、静粛性を重視した設定が可能になったと言えるだろう。

 以下のグラフは、Wraith Coolerと従来型クーラー(AMD FX-8350付属品)の冷却ファンについて、PWM制御の設定を10%から100%まで10%刻みで設定した際の回転数をモニタリングソフト「HWMonitor 1.28」で取得したもの。室温26.0±0.5℃、CPUはアイドル状態という条件でテストしている。

 この結果によれば、Wraith Coolerは、おおよそ900〜3,000rpm程度の範囲でファンの回転数を制御できるようだ。ファンの動作ノイズは、2,000rpm程度まではかなり静かに抑えられており、2,200rpmを超える程度からはやや高音気味の風切り音が目立つようになってくる。

Wraith Coolerの性能をチェック

 続いて、Wraith Coolerの冷却性能をチェックしてみよう。

 冷却性能を検証するテストでは、FX-8370の動作クロックを4GHzに固定し、ストレステスト(Prime 95 28.7 - Small FFTs)を20分間実行した「ロード時」と、ストレステスト停止後10分経過後の「アイドル時」のCPU温度をそれぞれ取得した。なお、テスト時のPWM制御は100%に設定している。

 テストの結果、Wraith Coolerのロード時CPU温度は66℃を記録し、従来型クーラーの72℃を6℃下回った。

 この時、Wraith Coolerのファン回転数は3,000rpm近いため静かとは言いがたい動作音が発生しているが、従来型クーラーはサーミスタ制御によって6,000rpm近い回転数に達しており、動作音の大きさはWraith Coolerよりはるかに大きい。Wraith Coolerが従来型よりも優れた冷却性能を、より静かな動作音で実現していることが確認できる結果だ。

 なお、今回のテスト環境では、CPU温度が75℃を超えると熱保護機能によりCPUクロックが低下してしまうため、従来型クーラーはもちろんのこと、Wraith Coolerでもファン回転数を落としてテストを完走することはできなかった。

最低限から使えるレベルまで進化した純正クーラー

 Wraith Coolerの性能は、従来型クーラーより明らかに高いものとなっている。サードパーティー製のCPUクーラーの存在意義を奪うほどのレベルではないものの、TDP 125WのAMD FXシリーズを冷却するには力不足感が否めなかった従来型クーラーより、はるかに実用的な純正クーラーであると言える。製品保証を受けるには付属クーラーの使用が必須なAMD製CPU/APUにとって、純正クーラーの進化は歓迎できるものだ。

 また、2016年になり、M.2やNVMeなど最新のストレージが利用できるSocket AM3+マザーボードが発売されたことで、AMD FXシリーズは、高いマルチスレッド性能を低コストで得られる選択肢となっている。費用対効果に期待するユーザーにとって、より実用的な純正クーラーであるWraith Coolerの採用は価値あるアップデートと言えるだろう。

 Wraith Coolerは、今回紹介したAMD FX-8370だけでなく、今後登場予定のAMD製品へのバンドルが予定されている。大きく美しいヒートシンクは自作PCの必須要素であるという信条があるなら話は別だが、Wraith Coolerが採用されたAMD製品を手にする機会があれば、サードパーティー製CPUクーラーの購入を検討する前に、まずWraith Coolerを使ってみて欲しい。それだけの価値はあるCPUクーラーである。

(瀬文茶)