瀬文茶のヒートシンクグラフィック

【番外編】Godavariの殻割りで、隠された改良を明らかにする

 先日、A10-7870Kとして発売された第5世代AシリーズAPUことGodavari。Kaveri Refreshなどとも呼ばれるGodavariは、既存のKaveriベースの製品よりも動作クロックを高めたマイナーチェンジモデルなのだが、なんと「ダイとヒートスプレッダ間のTIMがハンダに変更された」という情報がもたらされた。

 この予想だにしない情報に驚愕した筆者は、さっそく秋葉原に飛んでA10-7870Kを購入。その中身を自らの目で確かめることにした。

購入したA10-7870K。殻割り用とテスト用の2つを購入した

ソルダリング仕様に備えてヒートガンを導入

 動作確認を早々に終わらせ、早速殻割りに取り掛かる。まずはいつものように、ヒートスプレッダ外周部にカミソリを這わせ、基板とヒートスプレッダを接着しているシール材を切り裂いていく。A10-7870Kでは、0.25mm厚のカミソリでもスムーズに刃を入れることができるが、勢いよく滑らせすぎて基板上に実装されている部品類を切り飛ばさないように注意したい。

カミソリを使ってヒートスプレッダと基板を繋いでいるシール材を切り取る
スムーズに刃が入るので油断していたら、いつの間にか基板の端を切り飛ばしていた。この時点では正常に動作することが確認できたので一安心

 おおよそ全周に渡って刃を滑らせ終えたが、ヒートスプレッダに剥がれる気配はない。ヒートスプレッダと基板を接続するシール材を全て切り裂いてもなお、ヒートスプレッダが微動だにしないこの状況は、Core i7-5820Kの殻割を行なった時とまったく同じだ。このまま無理に剥がそうとすれば、あの時と同じ結果になるだろう。

 そこで今回は、ハンダを溶かすことのできるヒートガンを用意した。ヒートガンの熱風でヒートスプレッダを加熱し、ダイとヒートスプレッダを強固に接続するTIMを溶かしてしまおうというわけだ。

ヒートガンは太洋電機産業(goot)製のHG-905。450℃の熱風を毎分400L吐出が可能で、今回は別売りのオプションノズル「HG-900NS」を取り付けている。A10-7870Kを買うついでに秋葉原で購入。購入金額は9,350円
ヒートスプレッダを剥がす際に用いるモンキーレンチ。シリコンゴムを取り付け、ヒートスプレッダを確実に掴めるようにした

 本来なら万力などを使ってAPUの基板を固定するところだが、何かの拍子に基板裏面のピンを曲げてしまうのも嫌なので、今回はマザーボードを使って固定してみた。長時間熱を掛け過ぎればマザーボード側にダメージが発生する可能性もあるが、スプレッダを剥がす程度の短時間なら、直接熱風があたらないようにすれば大丈夫だろうと判断した。

APUをマザーボードに固定した状態。マザーボードに熱風が直撃しないよう、アルミホイルで簡易的な養生を施した

 ヒートスプレッダをレンチで掴み、ヒートガンの熱風をじっくり当ててやると、熱せられたヒートスプレッダが基板から浮き上がった。

 外れてしまうとあっけないものだが、APUやマザーボードを壊してしまうというプレッシャーからか、熱風を当てている時間は実際よりも長く感じられた。おかげで、4回ほど熱してはAPUの状態を確認するという無駄な作業を行なっている。

ヒートスプレッダを取り外したA10-7870K
基板側に実装されている部品の一部は、透明な樹脂で保護されている。
KaveriベースのA10-7700K(右)との比較。実装部品の位置などは変更されていないようだ

 熱を加える作業でもたついてしまったため、壊れていることも覚悟していたが、幸いなことにUEFIの起動までは確認できた。ただ、殻割りしたA10-7870Kを使えるようにするためには、ダイ表面に残った半田を溶かして平面にするなど追加作業が必要だ。

ダイの表面はハンダの残滓で凹凸が激しい。熱伝導シートを介してクーラーを載せることで起動の確認はできたが、とても常用できる状態ではない

なぜGodavariでグリスからソルダリングに変更されたのか

 以上の通り、Godavari採用のA10-7870Kでは、ダイとヒートスプレッダをソルダリングしていることが確認できた。では、なぜKaveriではサーマルグリスを使用していたところを、ソルダリングに変更したのだろうか。その理由を探るべく、Kaveriの最上位モデルA10-7850Kを用意して、殻を割らなかった方のA10-7870Kと比較してみることにした。

 比較テストの内容は、それぞれの定格動作設定を「A10-7870K相当」、「A10-7850K相当」の動作とし、それぞれの動作設定でストレステストを実行した際のCPU温度を取得し、比較するというもの。

 各動作設定については以下の表のとおり。CPUクロックはTurbo COREを無効化した際のクロック。電圧は両製品が標準で要求するCPU電圧(VID)に基づいて設定した。ただし、GPUクロックについては、各APUの標準設定に準じるため、完全に同じ動作設定というわけでは無い。

【表1】動作設定
A10-7870K相当
(3.9GHz@1,487mV)
A10-7850K相当
(3.7GHz@1,325mV)
ベースクロック 100 100
CPU倍率 39 37
CPU電圧 1,487mV 1,325mV
GPUクロック 各APUの定格値 各APUの定格値
A10-7870KのVIDは1,487mV。ちなみに、殻割りした個体も同じ数値だった
A10-7850KのVIDは1,325mV。A10-7870Kよりも0.15V以上低い数値だ

 ストレステストには「Prime95 v28.5」のSmall FFTsを利用。CPU温度は、ストレステスト開始から20分間の最高温度を「HWMonitor 1.27」で測定した。検証機材はケースに収めず室温27±0.5℃の環境に平置きで設置。CPUの冷却は、ファンをフル回転で固定した「CRYORIG R1 Ultimate」で行なった。

【表2】テスト環境
マザーボード ASUS A88X-PRO
メモリ DDR3-2133 4GB×2 (11-11-11-31、1.65V)
CPUクーラー CRYORIG R1 Ultimate
グリス Prolimatech PK-3
ケース ケース無し
ストレステスト Prime95 v28.5(Small FFTs)
モニタリングソフト HWMonitor 1.27(CPU-Package)
室温 27.0±0.5℃
テスト機材。APU以外の機材については、同じものを同じ設定で使用している

 テストの結果をまとめたものが、以下のグラフだ。

 3.7GHz@1,325mV動作と3.9GHz@1,487mV動作の温度差に注目してみると、A10-7850Kが16℃であるのに対し、A10-7870Kは9℃だった。本来、異なる個体のCPU温度は横並びにすべき数値ではないが、2つの動作条件で生じたCPU温度の差を見ると、ソルダリング仕様のA10-7870Kの方が効率的に熱をCPUクーラーへ伝えられていることが伺える。

 また、A10-7850Kの3.9GHz@1,487mV動作時の温度が80℃を超えていることにも注目したい。Prime95 v28.5のCPU負荷が一般的なアプリケーションよりはるかに高いものであることを考慮しても、空冷上位の冷却能力をもってしてこの温度では、純正CPUクーラーでの冷却は厳しいだろう。

 これらの結果から、A10-7870Kのソルダリング仕様は、倍率アンロックモデルとしてオーバークロッカーのために採用されたというより、A10-7870Kの動作を実現するために必要だったから採用されたものであると考えられる。TDP据え置きでありながら、付属する純正クーラーが強化されたのも、ソルダリング仕様の採用と同じ理由だろう。

APUに付属する純正クーラー。左がA10-7870Kで、右がA10-7850Kのもの

 何はともあれ、ダイとヒートスプレッダをソルダリングしたA10-7870Kが、従来のKaveriベースのAPUよりも冷却しやすい製品となっていることは間違いない。記事執筆時点でA10-7870Kの販売価格はA10-7850Kより3,000円ほど高い。だが、性能差に加えてソルダリング仕様という付加価値もあることを考えれば、価格差相応の魅力は十分にあると言える。今A10シリーズの購入を検討しているのであれば、A10-7870Kを是非おすすめしたい。

(瀬文茶)