瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Cooler Master「Hyper D92(RR-HD92-28PK-R1)」

~LGA2011-v3をサポートするミッドタワー・サイドフロー

 Cooler Masterより、11月に販売されたばかりのサイドフロー型CPUクーラー「Hyper D92」のサンプルを借用する機会が得られた。今回は、Cooler Master曰く“最高のミッドタワー型クーラーである”と称するこの製品を紹介する。なお、筆者が別途購入した際の価格は6,998円だった。

92mmファンを2基搭載するサイドフローCPUクーラー

 Hyper D92は、全高146.4mmというコンパクトなヒートシンクに、92mm角ファンを2基備えたサイドフロー型CPUクーラー。シングルタワータイプのヒートシンクを2基のファンで挟むという、オーソドックスなサイドフローレイアウトを採用しているが、2基のファンの軸をずらして配置することで、クーラーの全高を抑えつつ、放熱面積を広く確保するというユニークな設計を採用する。

 Hyper D92のユニークなファンの配置は、2009年に発売された92mmファン搭載サイドフロー型CPUクーラー「Hyper N520」を踏襲したもの。Hyper D92は実質的にHyper N520の後継モデルに当たる製品であり、同社の製品紹介によれば、同じファン回転数において、Hyper N520を上回る冷却性能を実現しているという。

 Hyper D92のサイドフロー型ヒートシンクは、4本の6mm径ヒートパイプ、ヒートパイプダイレクトタッチ方式採用のベースユニット、47枚のアルミニウム製フィンを備える放熱ユニットによって構成されている。ヒートパイプの最上部には、装飾のために黒色の金属製プレートを備えているが、ヒートシンク全面へのめっき処理は行なわれていない。

 標準で搭載する2基の92mm角ファンは同一のもので、PWM制御により800~2,500rpm±10%の範囲で回転数を調整可能。フレームの厚みは25mm厚で、樹脂製のブラケットを介してヒートシンクに搭載する。なお、樹脂製ブラケットとファンの固定にはネジを用いる。このため、市販の92mm角ファンであれば、厚みを問わず搭載できる。

Hyper D92本体
リテンションキット
ファン電源分岐用のYケーブル
Hyper D92が備える2基のファンは軸をずらして配置されている
標準搭載の92mm角25mm厚ファン。PWM制御に対応し、800~2,500rpmの回転数域をカバーする
ファン固定用の樹脂製ブラケット。ヒートシンク側に接する面には、防振用のゴムが設けられている
ファンブラケットは、ファンにネジ止めすることで取り付ける
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE取り付け時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE取り付け時)

 周辺パーツとの物理的な干渉に関しては、92mm角ファンの採用と、放熱ユニット最下部のフィンを比較的高い位置に配置したことで、マザーボードのVRM冷却用ヒートシンクとの干渉を回避している。また、メモリスロット、拡張スロットとの干渉についても、今回テストに用いたASUS MAXIMUS V GENEでは発生していない。120mm以上のファンを備える大型サイドフロー型CPUクーラーに比べ、周辺パーツとの干渉が問題になる可能性は少なそうだ。

 リテンションキットには、マザーボード上に台座を組み、ベースユニットに設けられたバーでヒートシンクを固定するブリッジ式を採用。ブリッジ部のネジを固定する際、Hyper D92からファンを取り外す必要があるが、着脱が容易な樹脂製ブラケットの採用により、それほど手間がかかる印象は無い。IntelとAMDの主要なコンシューマ向けCPUソケットに対応しており、最新のLGA2011-v3を正式にサポートしている。

冷却性能テスト

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定。それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

【グラフ】テスト結果

 冷却性能テストの結果、Hyper D92は3.4GHz動作時に55~63℃というCPU温度を記録した。CPU付属クーラーの85℃に対して22~30℃低い結果であり、120mmファン搭載のサイドフロー型CPUクーラーと比べても遜色ない程度に冷却ができていることが分かる。

 一方、オーバークロック時のCPU温度は、4.4GHz動作時に~84℃を記録。4.6GHz動作時については、PWM制御20%設定時に94℃を超えたため測定を中止したが、50%設定時に90℃、100%設定時に84℃をそれぞれ記録した。サイドフロー型CPUクーラーとしては平均的だが、92mm角ファンを搭載した全高146.4mmのCPUクーラーとしては評価できる結果である。

 動作音は、1,200rpm程度までは風切り音も目立たず静かに動作する。ファンの風切り音は1,500rpmを超えるあたりからはっきりと聞こえるようになり、2,000rpm以上はかなり大きな騒音となる。ある程度静かに動作させることを望むなら、PWM制御を50%以下に設定して使いたいところだ。

ミッドタワー・サイドフローとしての出来は良いが価格は高い

 Hyper D92を使ってみて特に良かったのは、着脱が容易な樹脂製のファンブラケットと、扱いやすいリテンションキットだ。冷却性能についてはまずまずと言ったところだが、オーバークロックをしないのなら、コンシューマ向けにはTDP 140WのCPUしか存在しないLGA2011-v3環境でも十分利用可能だろう。全高146.4mmのサイドフロー型CPUクーラーとしては、確かに良くできた製品である。

 ただ、7,000円弱という価格は高い。同価格帯はおろか、より安い価格帯にも、Hyper D92を超える冷却性能を持つ製品は数多く存在しており、「全高146.4mm以下のヒートシンクでなければ搭載できない環境である」という前提条件は、Hyper D92を選択する上で必須の要素と言っても過言ではない。

 また、Cooler Masterのミッドタワー型CPUクーラーには、実売価格3,000円程度で購入できる「Hyper TX3 EVO」というヒットモデルが存在する。Hyper TX3 EVOはLGA2011系のソケットには対応していないが、CPU付属クーラーからのアップグレードには最適な製品の1つだ。この製品の存在を踏まえると、Hyper D92に期待すべきは「LGA2011系ソケット対応」と「Hyper TX3 EVO以上の冷却性能」の2点となる。

 なかなかニッチな製品だが、CPUクーラーとしての出来は確かに良い。自分の要求とHyper D92の特性が合致するなら、選択肢に加えてみると良いだろう。

Cooler Master「Hyper D92」製品スペック
メーカーCooler Master
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径×4本
放熱フィン47枚
サイズ(ファン搭載時)128.9×96.6×146.4mm(幅×奥行き×高さ)
重量(ヒートシンクのみ)448g
付属ファン92mm角ファン ×2基
電源:4ピン (PWM制御対応)
回転数:800~2,500rpm ±10%
風量(最大):15.7~54.8CFM
ノイズ(最大):10~33dBA
サイズ:92×92×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/115x/1366/2011/2011-v3
AMD:Socket AM2/AM2+/AM3/AM3+/FM1/FM2/FM2+

(瀬文茶)