瀬文茶のヒートシンクグラフィック

SilverStone「SST-TD02」

~大型ラジエータを備えたオールインワン水冷ユニット

 今回は、SilverStoneブランドのオールインワン水冷ユニット「SST-TD02」を紹介する。購入金額は14,800円だった。

240mmラジエータ採用のオールインワン水冷

 昨年(2012年)から今年にかけて、7製品もの空冷CPUクーラーをリリースしたSilverStoneは、2013年5月にオールインワン水冷ユニット2製品を発売した。そのうち、120mmファンを2基横並びで搭載できる240mmラジエータを備えた製品が、今回紹介するSST-TD02である。

 本連載では初の登場となるオールインワン水冷ユニットとは、CPUから受け取った熱を冷媒に伝える水冷ヘッド、冷媒を冷却するラジエータ、冷媒を循環させるポンプの3パーツを1ユニットにまとめ、あらかじめ冷媒を充填した状態で販売される水冷クーラーだ。各部を密閉し、チューブに冷媒の蒸発を防ぐ素材を利用することで、水冷クーラーにおいて定期的に行なう必要のあった、冷媒の補充作業を不要としたことから、メンテナンスフリーを謳う製品も存在する。

 なお、誤解の無いように付け加えると、SST-TD02を含め、メンテナンスフリーを謳うオールインワン水冷ユニットが冷媒を補充することなく半永久的に使用できるわけではない。メンテナンスフリー設計のオールインワン水冷ユニットは、故障によって寿命が尽きるまでの期間、冷媒の補充が不要かつ不可能であり、冷媒の枯渇はポンプの故障と同じく、オールインワン水冷ユニットの寿命そのものなのである。

 さて、SST-TD02に話を戻したい。SST-TD02を構成するパーツは、銅製の接地面を備えた水冷ヘッドとポンプを一体化したヘッドユニットと、厚さ45mmの厚型ラジエータの2ユニットに分かれている。他社のオールインワン水冷ユニットに比べ、外装部に金属を多用したメタリックな外観が特徴的で、ユニット全体の重量も1,501gと重い。また、ラジエータの放熱フィンにも特徴があり、空冷CPUクーラーのようにアルミ製放熱フィンを並べ、そこを貫通する形で接続された水路と熱交換を行なう。

 標準ファンには、PWM制御によって1,500~2,500rpmという中~高速域をカバーする120mm角25mm厚ファンを2基備える。ラジエータへのファンの取り付けには付属のネジを使用するため、市販の120mm角25mm厚ファンへの交換も可能だ。

SST-TD02本体
付属品一覧
標準搭載の120mmファン
水冷ヘッド部。ポンプを内蔵しており、3ピン電源コネクタでの給電を必要とする
ラジエータ。120mmファン2基を横並びで配置可能
SST-TD02のラジエータは、空冷ヒートシンクのように1枚板の放熱フィンを並べて配置している
CPU周辺パーツとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE使用時)

 ポンプを一体化しながらもサイズを抑えた水冷ヘッドは、周辺パーツとのクリアランスが十分にとられているため、メモリスロットや拡張スロットとの干渉は起こらない。水冷ヘッドと周辺パーツの干渉が原因でSST-TD02を搭載できない可能性は極めて低い。

 一方、240mmラジエータ採用オールインワン水冷ユニットとしては異例となる、45mm厚ラジエータを採用したことが、SST-TD02とケースの干渉問題を極めて厳しいものとしている。45mm厚ラジエータに25mm厚ファンを搭載すると、その厚みは70mmに達するため、一般的なPCケースでは天板とマザーボード搭載位置のクリアランスが足りず、マザーボードのEPS12V電源コネクタやメモリスロットが使用できなくなる場合がある。

 ファンとラジエータを共にケース内に納めることが可能なPCケースは限られているため、SST-TD02を導入する際は、240mmラジエータ搭載オールインワン水冷対応を謳っているケースであっても、天板とマザーボード間のクリアランスが十分に設けられているか、よく確認することをお勧めする。

冷却性能テスト結果

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定した際の温度をそれぞれ取得した。

 冷却性能テストの結果を確認してみると、Intel Core i7-2600Kの定格動作に近い3.4GHz動作時の温度は52~55℃と、CPU付属クーラーから30~33℃低い結果を記録した。PWM制御を20%まで絞っても、約1,400rpmで動作する高速なファンの回転数を考慮する必要はあるが、なかなか優秀な結果であると言える。

 発熱量が増すオーバークロック動作時の結果では、4.4GHz動作時に62~64℃、4.6GHz動作時は68~74℃を記録した。過去本連載で取り上げた空冷最高峰のハイエンドCPUクーラーであっても達成しにくい極めて優秀な結果であり、SST-TD02が持つ高い冷却性能が伺える結果である。ファンの回転数差による温度差が小さいのは、ラジエータの放熱能力に余裕があるためだろう。

 動作音については少々厳しく、フル回転時や50%制御時はもちろん、20%制御時の約1,400rpmであっても、それなりの風切り音が発生している。水冷ヘッドと一体化しているポンプについては、そこまで気になる動作音を発しているわけではないのだが、付属のファンとの組み合わせで「静音」と呼べる動作を実現することは困難だ。

圧倒的な冷却性能を誇るオールインワン水冷の上級製品

 冷却性能テストでSST-TD02が示したパフォーマンスは、空冷最上級製品に勝るとも劣らぬ圧倒的なものだ。14,000円を超える価格は、CPUクーラーとしてはかなり高額だが、より高い冷却性能を求めるユーザーであれば、価格相応かそれ以上の価値を見出すことができるだろう。

 問題としては、比較的大きいファンノイズと、搭載可能なPCケースが限られる汎用性の低さが挙げられる。ファンの動作ノイズについては、ユーザーが好みのファンを取り付ければ解決する程度の些細な問題だが、大型ラジエータの採用による汎用性の低さは、SST-TD02の導入にあたって大きな障害となる。SilverStoneはSST-TD02の製品ページにて、推奨PCケースという形で自社ブランドのPCケースを紹介しているが、今のところ制限なく取り付けられるケースは極めて少ないのが現状である。

 冷却性能が魅力的なだけに、汎用性の低さが惜しいところではあるが、汎用性を捨てたからこその性能であるとも言えよう。ハイエンドプラットフォームでの常用オーバークロックを望むのならば、汎用性の低さを乗り越えて、是非使ってみてもらいたい製品である。

SilverStone「SST-TD02」製品スペック
メーカーSilverStone
フロータイプオールインワン水冷
水冷ヘッドサイズ:55×60×33.5mm(幅×奥行き×高さ)
ラジエータ240mmラジエーター(120mm×2)
サイズ:124×278×45mm (幅×奥行き×高さ)
重量1,501g
対応ファン120mm角25mm厚ファン×2
電源:4ピン(PWM制御対応)
回転数:1,500~2,500rpm
最大風量:92.5CFM
ノイズ(最大):16~33.5dBA
サイズ:120×120×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/115x/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2

(瀬文茶)