西川和久の不定期コラム

日本HP「Officejet 150 Mobile AiO」

~バッテリ駆動可能なポータブル複合機

 日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)は6月20日、バッテリ駆動で500枚印刷でき、スキャナも搭載したコンパクトなモバイル複合機を発表、11月から出荷開始した。小さいながらもUSBポートはもちろん、タッチスクリーンやSDカードスロット、Bluetoothにも対応している優れものだ。編集部から実機が送られて来たので、試用レポートをお届けする。

モバイルオールインワン

 同社複合機のラインナップは「Deskjet」、「Photosmart」、「ENVY」、「Officejet」、「Officejet Pro」……と、(現在欠番もあるようだが)かなり豊富だ。名前の通りOfficejetとOfficejet Proがビジネス用、その他が家庭用と分かれている。もちろんOfficejet系でも用途と機能がマッチすれば、家庭で使っても問題無く、実際筆者はデジタルFAX目当てで「Officejet Pro 8500A Plus」を利用中だ。受信したFAXを自動的に任意のメールアドレスへTIFFとして送信する機能があり重宝している。

 そんな中、他とは明らかに違うコンセプトの複合機、「Officejet 150 Mobile AiO」が11月から国内で発売開始となった。バッテリ駆動可能なちょっと変わった複合機だ。複合機として“世界初のモバイルオールインワン”を謳っている。主な仕様は以下の通り。

HP「Officejet 150 Mobile AiO」の仕様
インクシステムオンデマンド型サーマル・インクジェット/4色または6色交換式インク、K:顔料系672ノズル、CMY:染料系600ノズル(フォト:染料系600ノズル)、最高4,800×1,200dpi
印刷速度ISOモノクロ約5ppm、カラー約3.5ppm
CISセンサー光学解像度600×600dpi、階調最大24bit、ADF最大216×356mm
給紙トレイ普通紙50枚、フォト用紙5枚、封筒3枚
ADF普通紙(64~90g/平方m)単票のみ、サイズA4/B5/レター/リーガル
液晶2.36型カラータッチスクリーン
インターフェイスUSB 2.0×1、Bluetooth 2.0(プリント機能のみ)、PictBridge、SDカード(SDHC対応、miniSD/microSD対応にはアダプタが必要)/MMC(マルチメディアカード)スロット、USBポート×1
サイズ/重量350×171×90mm(幅×奥行き×高さ)/2.9kg(バッテリ無し)、3.1kg(バッテリ付き)
価格36,960円(HP Directplus)

 インクは黒が水などに強く普通紙でもにじまない顔料系、CMYは発色の良い染料系が使われている。基本は4色だがオプションで写真用の6色に変更出来るのも嬉しいポイントだ。印刷速度はモノクロで約5ppm、カラーで約3.5ppm。ものすごく速いわけではないものの、十分実用範囲になっている。給紙トレイは背面のみ。最大普通紙で50枚、フォト用紙で5枚、封筒で3枚セット可能だ。

 スキャナ部はCISセンサー光学解像度600×600dpi/階調最大24bit。ADFは普通紙(64~90g/平方m)単票のみ、サイズA4/B5/レター/リーガルに対応している。多くの複合機は1,200dpi以上のものが多く、600dpiは少々低めだが、書類のコピーなど用途を考えれば特に困ることは無いと思われる。

 操作系は、2.36型カラータッチスクリーン。コンパクトにまとめるため、収納時は後ろにパネルが倒れている。各機能アイコンに加え[ホーム]、[戻る]、[?/×]、[</>]のボタンだけで、マニュアルいらずの簡単操作が可能だ。

 インターフェイスは、USBが2ポート。片方はメディア用だ。Bluetooth 2.0とSDカードスロットも搭載する。Bluetooth接続時はプリンタ機能のみでスキャン機能は使えない(プロファイルはHCRP/BIP/OPP/SPPに対応)。またWi-Fiには未対応となっている。

 便利な機能としては「インクバックアップ印刷機能」があげられる。インク切れになった時、例えば黒が無い時はカラー合成で代用、カラーが無い場合は、グレースケールで印刷し、何も印刷できない状態を回避可能だ。

 そして最大の特徴は、バッテリ駆動で最大約500枚の印刷が可能なこと。もちろんバッテリはオプションではなく標準で同梱されている。今回バッテリ駆動ベンチマークテストは行なっていないが、試用中はスキャン・コピーも含め、ほとんどバッテリ駆動のみで評価できた(最後1時間程度だけ充電しつつAC駆動を行なった)。

 サイズは350×171×90mm(幅×奥行き×高さ)。重量は2.9kg(バッテリ無し)、3.1kg(バッテリ付き)となる。A4機なのである程度の大きさが必要なのは仕方ないところ。重量は、モバイルPCの約2台分だ。ハンドキャリーは大変なので、車などでの移動が主となるだろうか。

 価格は36,960円。他のOfficejet系と比較すると少し高めだが、何より複合機をバッテリ駆動でき、これが必要なユーザーにとっては最大の魅力となるだろう。

フロント。この状態で高さ約9cmとコンパクト
リア。メディア用のUSBコネクタ、PC接続用のUSB Type Bコネクタ、電源コネクタ。中央の長い凹にバッテリが入る
トップカバーを開けたところ。この状態はまだ液晶ディスプレイなどがあるパネルは収納されている状態。左側奥の凹はSDカードスロット
バッテリは約20cmで長細い。ACアダプタは約100×45×30mm(幅×奥行き×高さ)。コネクタはミッキータイプ
バッテリを装着したところ。凹の両サイドに爪を引っ掛けるような部分があり、そこへバッテリを装着する
インク部。Kの顔料系と、CMYの染料系のタンクが見える
タッチパネルと各種インジケータ。プリント/スキャン/コピー/Bluetoothのインジケータと、右側にタッチパネル式の液晶ディスプレイ

 筐体はシルバーとブラックの2色がうまく使われ、仕事はもちろん家庭で使ってもマッチする。たださすがに約3kgは重く、携帯可能と言っても持ち上げるとズッシリ重い。全体の強度は、普段持ち運ぶには十分と言ったところだ。

 前面は排紙用のパネルのみ。背面は、メディア用のUSBコネクタ、PC接続用のUSB コネクタ、そして電源入力となっている。中央にある長細い凹みはバッテリ装着場所だ。左右に爪のようなものがあり、それで固定する仕掛けだ。

 左側面奥にはSDカードスロットがある。操作性を考えると、メディア用のUSBコネクタは正面もしくはどちらかのサイドに欲しかった。ACアダプタは約100×45×30mm(幅×奥行き×高さ)とそれなりにコンパクトだ。同社によると、自社のノートPCと同じ仕様を採用することで、外出時はACアダプタ1つ荷物を減らすことができるそうだ。

 トップパネルを開くと、パネル自体が給紙トレイとなっている。またこの状態では操作パネルは後ろ側に倒れており、使用時は起こす必要がある(冒頭の写真が操作パネルを起したところ)。手前シルバーの部分はさらにパネルになっており、開けるとインクカートリッジにアクセスできる。全体的に限られたスペースでうまくまとまっており、先のUSBポートの場所以外は特に不満点は無い。

 起動時間は約30秒。この時面白い仕掛けがあって、フロントの排紙用パネルが自動的に開く。また操作パネルが倒れたままだと、起すようにディスプレイにアニメーションが表示される。ちょっとしたことだが、「お!」っと思わせるギミックだ。

 作動音や振動などは、以降に掲載している動画を参考にして欲しい。録音レベルが高めなので、少し煩いように感じられるが、実際はまあまあ静かだ。振動はそれなりに抑えられており、テーブルが左右に揺れることなく駆動する。

単独使用

 単独使用時、機能としては写真のプリント、スキャン、コピーとなる。ホーム画面は2画面あり、コピー/スキャン/写真、セットアップ/インクの状態/Bluetooth/電源メーターのアイコンが並ぶ。

 コピーは部数/モノクロ/カラー/設定。設定は用紙サイズ/用紙の種類/サイズ変更/品質/薄く・濃く/新しいデフォルトに設定。“新しいデフォルトに設定”の項目があるので、普段良く使うセッティングをプリセットして運用可能だ。

 スキャンは、スキャンの送信先としてコンピュータ/メモリカード/USBドライブを選択できる。後者2つに関しては本体のSDカードスロットもしくはUSB経由でメディアへ保存される。コンピュータを選択するとPC側のHPスキャニングが自動的に立上りスキャンが始まる(ただしUSB接続時のみBluetooth接続時は未対応)。どちらもPDFでの保存に対応。

 セットアップは、ツール/基本設定/レポート/Bluetooth/電源管理。ツールは推定インクレベルの表示/インクカートリッジのクリーニング/カートリッジの調整/デモモード/デフォルトに戻す。基本設定は言語/国・地域/サウンド効果のボリューム/高速参照。レポートはステータスレポートの印刷/印刷品質診断レポート。BluetoothはBluetoothラジオ/Bluetoothの概要/デバイスのアドレス/デバイス名/パスキー/表示/セキュリティレベル/Bluetoothをリセット。電源管理は電源メーター/スリープモード/自動オフ(バッテリ)/バッテリ残量低下の通知……となる。

ホームメニュー1/2
ホームメニュー2/2
コピー
コピー/設定1/2
コピー/設定2/2
スキャン/スキャンの送信先
写真/メモリデバイスの挿入
セットアップ1/2
セットアップ2/2
コピー結果

 コピーは、用紙をセット、操作パネルの下へ原稿を潜り込ませる形でセットする。この時、コピーする面は下側だ。少し入れると自動的に所定の位置まで送り込まれ、後はパネルから部数とモノクロかカラーを選択するとコピーがスタート。動画から分かると思うが、原稿は下から上へ、用紙は上から下へ動くのが特徴的だ。基本的に黒は顔料系のインクが使われ、普通紙でもシャープな仕上がりとなる。

【動画】カラー原稿をコピー。A4へのコピーが約75秒
印刷結果

 SDカードからの写真のプリントは、左側奥にあるSDカードスロットからか、裏側のUSBコネクタへメディアをセットすれば自動的に認識、写真メニュー/表示と印刷が起動する。ただし、SDカードのコンテンツは写真データ(JPEG)のみの対応で、PDFなどオフィス文書に非対応なのが残念なところ。“Officejet”ブランドを標榜しているだけに、惜しまれる。

 基本的に部数を選択するだけだが、全画面表示したり、編集(回転/トリミング)することも可能だ。一連の流れを画面キャプチャと動画を使って掲載したので参考にして欲しい。印刷クオリティは普段使いであれば十分だろう。

写真
写真/表示と印刷
写真/表示と印刷/全画面表示
写真/表示と印刷/写真の編集
写真/表示と印刷/写真の編集/回転
写真/表示と印刷/写真の編集/トリミング
【動画】写真。L判へのプリントが約80秒

Windows 8での使い勝手

 付属のCD-ROMは、Windows XP/Vista/7、Mac OS X 10.5/10.6/10.7対応で、Windows 8のモジュールは入っていない。試しにWindows 8上でSETUP.EXEを起動すると、SETUPメニューは立ち上がるものの、何も項目は表示されず、終了しか選べない状態だった。

 発売予定が7月だったのでCD-ROMへのWindows 8用ドライバの収録は時期的に不可能だ。ただし同社のHPには、Windows 8対応ドライバがあるので、ダウンロードし、インストールすることができる。冒頭でUSB接続かBluetooth接続かの選択があり、今回はUSB接続でのセットアップを実行した。一連の流れは以下の画面キャプチャの通り。

セットアップホーム/USBデバイスのインストール
インストール中
すべてのHPプロセスが実行できるようにしてください
インストール確認オプション
今すぐデバイスを接続
デバイスが検出されました
セットアップ完了
製品情報
ホーム画面に7つのアイコンが追加されている

 セットアップが完了すると、ホーム画面に「デバイスを追加」、「ヘルプ」、「ツールボックス」、「I.R.I.S. OCRの登録」、「HP Scan」、「製品登録」、「HPサプライ品の購入」のアイコンが追加される。

 いずれもデスクトップアプリで、(当然だが)Windowsストアアプリは1本も無かった。また、「デバイスとプリンター」にプリンタが追加されるものの、例えば筆者が所有する「HP Officejet Pro 8500A Plus」では、アイコンをクリックすると、さらに個別の項目が並んだパネルを表示するが、本機は単にプロパティパネルが開くのみとなっている。

 ツールボックスは、推定インクレベル/情報/サービス/Bluetoothの設定を構成、4つのタブが並び、それぞれ各項目の該当するボックスをクリックすると、別ウィンドウでパネルが開く。

 多くが一般的な項目なので、特に説明は不要だと思われるが、「情報/移動情報」は、プリンタを旅行などで携帯する時に便利な“旅行先で利用できる互換性のあるカートリッジのリストを表示”、“旅行のヒント”がヘルプ形式で表示される。

 HPスキャニングは、ドキュメントの詳細設定で75/100/150/200/300/600/1,200dpiの選択ができる。送り先は、Windows Photo Gallery/ペイント/電子メール/ワードパッド/Windows Mail/ファイルに保存に対応する。

ツールボックス/推定インクレベル
ツールボックス/情報
ツールボックス/サービス
ツールボックス/Bluetoothの設定を構成
HPスキャニング
HPスキャニング/PDF形式で保存

 先に書いたように、USB接続時はパネルからの操作で、スキャンデータの送り先をPCへ指定した場合は、このソフトウェアが自動的に起動する。OCRに関しては「I.R.I.S. OCRソフトウェア」が使われているようである。スタンドアロンでの使用ではJPEGかPDFでの保存のみとなるが、PC使用時は、ビットマップ/JPEG/PDF/PNG/リッチテキスト/テキスト/TIFFでの保存が可能だ。

 デバイスプロパティには、印刷機能のショートカット、機能、詳細設定のタブが並ぶ。詳細設定の「HP Real Life Technologies」は、PCからの出力やダイレクトプリントに関わらず、同社独自のアルゴリズムで写真画像を適切に自動補正する機能だ。

ユーザーガイド
i.R.I.S. OCRソフトウェアの登録
HPサプライ品の購入
デバイスプロパティ/印刷機能のショートカット
デバイスプロパティ/機能
デバイスプロパティ/詳細設定

Androidからの印刷

 iPadやiPhoneなどiOS機は、Bluetoothを搭載しているものの、サウンドとキーボードのみの対応で、マウスやプリンタには対応していない(デバイスを検索しても表示されない)。印刷をする時はWi-Fi経由でAirPrintを使うことになる。従って本機では出力することができない(iOSの対応しているBluetoothプロファイルはここを参照)。

 Android機はBluetooth搭載機であれば印刷は可能だ。設定自体は簡単で、まず設定/Bluetoothでペアリングを行なう。この時デフォルトのパスキーは000000となっている。ペアリングが済めば準備完了。設定したデバイスを使用可能となる。ただし、例えば写真アプリで共有をタップするとBluetoothが選択され、送信は可能なのだが、レンダリングされず送られるため、プリンタは何も印刷しない。単に用紙を白紙のまま出力することになる。従ってレンダリングに対応したアプリが必要だ。

 汎用的に使えるアプリとしては、例えば「PrinterShare」がその1つ(アプリ自体は無償で作動チェックは可能だが、実際の印刷はキーを購入する必要がある)。そのほかにもいろいろあるようなので、興味のある人は調べて欲しい。同社純正のアプリとしてはePrint系はあるのだが、Bluetooth用のものは見つけられなかった。本機を活かすためにもぜひ開発して欲しいところだ。

設定/Bluetooth
設定/Bluetooth/ペアリング
設定/Bluetooth(プリンタがペアリングされた)
写真/共有/Bluetooth(送信は出来るが印刷されない)
PrinterShare/ホーム画面
PrinterShare/印刷プレビュー

 以上のようにOfficejet 150 Mobile AiOは、バッテリ駆動や持ち運びも可能なコンパクトな複合機だ。ノートPC的なサイズ・重量で考えると大きく重いものの、A4サイズに対応したカラー複合機として考えれば十分納得できるコンパクトさだろう。

 また、タッチパネル式で操作は簡単、顔料系の黒インクで普通紙でもシャープな印刷結果が得られ、600dpiのスキャナを搭載しコピーやスキャンにも対応する。外出時にスキャンもプリントもしたいという、ヘビーなビジネスマンやユーザーにお勧めしたい製品だ。

(西川 和久)