西川和久の不定期コラム

「デジタルアンプLXA-OT1」改造編その2
~LPFと電源を改良して更に音質アップを狙う



イメージ写真

 年末掲載したように、「Stereo 2012年1月号付録のデジタルアンプ/LXA-OT1」を少しだけ改造し、毎日BGMを聴いて楽しんでいたが、気になる部分が残っており、ついつい更に手を加えたくなってしまった。そこで今回は改造編その2としてLPFのパーツ交換と電源の考察などを行なって見たい。

●その後正月休みに

 前回の記事で改造のポイントとして、「オペアンプの交換」、「ケースに入れる」、「電源を強化」、「アナログ部の電解コンデンサを交換」、「ボリュームを交換」、「TDA7491HVの出力段のL(22uH×4)を交換 」と、6つの項目を挙げた。その内、オペアンプと電解コンデンサの交換は完了しているので、Amp Base LXA-OT1をそのまま使うとすれば、気になる部分で具体的に残っているのは、LPFのL(22uH×4)と、電源となる。

 とりあえずアナログ電源だとどうなるか試したく、パーツ箱を漁ると、使えそうなトランスなどが出てきたので実験することにした。トランスは「NuVotem 70022K」。入力電圧115/230V AC、出力電圧 2x12V AC。5VAの小型(45×45×20mm)なものだ。2x12Vをパラにして使っても12Vで約0.4Aしか電流は流せない。足りるかなと思いながら配線を開始した。参考までにプラグは内径2.5mmのものを使っている。

 ところで話は前後するが、前回電解コンデンサを交換する時、耐圧をオリジナルと同じ25Vのものにした。これには理由があり、12V駆動であれば16V耐圧のも使え、そうすると若干大きめだが、OS-CONも場外乱闘せず何とか基板上に収まる。しかし誌面を見ると、このアンプは最大16V駆動が出来、実際16V駆動するとまた音が変わる(パワー感が増す)と載っていたので、これについてもテストしたかった。オリジナルのまま25V耐圧の電解コンデンサを使ったのにはこのような経緯がある。

LM317Tを使った15Vアナログ電源。たまたまあったトランスと、以前DAC用に使っていた基板をリメイクしたもの教科書通りの回路図。半固定抵抗で電圧を調整できるプリント基板を使った下駄。いつまでもICソケットを使った手配線の下駄では美しくないのでちょっと工作した

 定電圧回路は、2つの抵抗の組合せで電圧をコントロールできるLM317Tを使用した。手元にあった抵抗の関係上、16Vではなく15Vちょっとの電圧になったが(回路図上の91Ωを82Ωにして半固定抵抗を調整すれば16Vになる)、これがなかなかいける。付属のACアダプタと比較して、荒さが薄れ透明感が増す。しかも放熱板は冷たいままで、音を聴く限り、電流不足になっている雰囲気も無い。

 LM317TのIN/19VとOUT/15Vの電圧差は4V。この電圧と電流分がロスとなり発熱するのだが、あまり電流は流れていないと言うことなのだろうか。スピーカーは前回掲載した通りBOSE 111AD(6Ω/86dB)。ボリュームは12時だと曲によってはもう煩いレベルになる。いずれにしてもこちらの方が明らかに音が良いため、しばらくこの状態で使っていた。

 次はICソケットを使った手配線の1回路→2回路オペアンプの下駄は、さすがに見栄えが悪いため、以前自作DACを作っていた頃入手したプリント基板版へ変更した。OPA627BP×2とMUSES01Dを聴き比べた結果、前者は優等生的な音でもちろん悪くは無いが面白みに欠ける。後者はエージングも進んだのか、かなりムーディな音となり、個人的には好みのサウンドだ。結局、MUSES01DをLXA-OT1用にすることに決めた。

 さてここからは少し脱線なのだが、LXA-OT1とペアで使っているAT-HA35iは、iPhoneからデジタル出力を得るためだけに使っていたのでこれまで気にならなかったが、LXA-OT1へは、内蔵しているDAC/バッファ経由のアナログ出力を接続しているため、使われているパーツが気になってしまった。ケースから基板を取り出すと交換したい部分が満載されていた。しかも、LXA-OT1と同じオペアンプ「JRC 4558D」が2つもあった。先に作った1回路→2回路オペアンプの下駄/OPA627BPをこちらに乗せ替え、ついでにコンデンサも全て交換した。この原稿の趣旨からは外れるので写真などは掲載しないが、興味のある人は筆者のブログをご覧頂きたい。

Nanotec Systems「SP#79 Special」。スピーカーケーブルとしてはかなり細め。ただ意外と硬いLXA-OT1のスピーカー端子でもキッチリ入る。手持ちのケーブルなど、太い(普通の?)ものはまず入らない。このケーブルならピッタリだ

 正月3が日明けに御茶ノ水へ行く用事があったので、帰りにオーディオユニオンへ寄り、スピーカーケーブルを物色した。と言うのも、LXA-OT1のスピーカー端子は細く、手持ちのスピーカーケーブルだと太くて入りづらかったためだ。また長さも長過ぎるため、何か適当な物はないかとフラッと立ち寄った次第だ。

 丁度良さそうなのを見つけ、1mだけ購入。797円/mでスピーカーケーブルとしては安価な部類だ。自宅へ戻って半分の50cm×2に切断し、BOSE 111ADへ接続した。ご覧のように、LXA-OT1のスピーカー端子にもピッタリ入り、余計な長さも無いので気持ち良く聴く事ができる。音に関してはたった50cmなので何を使っても変わらないような気がするものの、接続直後は少し荒い感じもしたが、1日も鳴らしていると落ち着いてバランスも良くなった。

 ところでこのケーブル、自宅に持ち帰ってから気が付いたのだが、誌面で使われていたケーブルNanotec Systems「SP#79 Special」そのものだった。購入時、名指しではなく、何となく目に止まっただけだったのに、まさか同じケーブルだとは思ってもいなかった。まさにLXA-OT1にジャストフィットのスピーカーケーブルと言えよう。Amazonでも購入出来るようなので、気になる人は試して欲しい。

●LPFのパーツを交換

 ここまでは筆者のブログにも少し掲載していたが、ここからが今回の本番。LXA-OT1向かって左側のLPFなどの部品を交換することにした。回路図をご覧頂きたいが、この部分は左側の抵抗(R27)とコンデンサ(C57)がシリーズに入っているインピーダンス補正回路と、それ以降のLPFで構成されている。

 以前デジタルアンプを作った時も、この部分を触ると音質が向上したこともあり、出来る範囲でパーツのグレードを上げたいと思っていた。交換するならコンデンサも一緒だ。問題は、コンデンサに関してはいろいろ種類があり、秋葉原でもネットでも容易に購入できるが、インダクタは、デジタルアンプ用で22uH、そしてはみ出さないよう、小型のものが必要となる。

 調べた結果、「東光株式会社 デジタルアンプ用固定インダクタ / 11RHBP」を発見した。オリジナルと径が約1mmの違いなので、うまく乗せれば交換可能だ。ただ秋葉原で探しても見つからず、結局「RSコンポーネンツ」で購入した。最小単位が5個からなので1つ余分になるは仕方ないところ。745円(5個)+460円(送料)の消費税込みで計1,265円だった。初めの回答では在庫が無く納期2週間だったが、結局注文後3日で届いてしまった。

 ネットでLXA-OT1の改造ネタを掲載しているブログなどを拝見していると、結構このインダクタに交換しているケースを多く見かける。サイズがジャストフィットと言うことなのだろう。

 コンデンサに関しては全てWIMAを使用。これは特に音質的に拘ったのではなく(もちろん音もいいが)、色が好きだからだ。RSコンポーネンツで購入可能だが、サイズを考慮する必要があったので秋葉原で大きさを見ながら購入した。1つ60~90円。

購入したパーツ一式。11RHBP×4、WIMAは330pF×2、0.47uF×2、0.1uF×4交換する部分。青が330pF、赤が11RHBP、黄色が0.1uF、緑が0.47uF回路図。R27とC57はインピーダンス補正回路、それ以降がLPF
外したところ。表面実装タイプなので少し面倒だが、オペアンプ周辺と比較すると密集度は低いオリジナルのインダクタとの違い。径はぼぼ同じだが、高さが随分違う。その効果に期待したいところ何とかギリギリ収まった。リード線を適当に切って表面実装の外した部分に合わせて半田付けした。WIMAの赤がいい感じだ

 パーツが揃えば後は交換の作業となるが、オリジナルは全て表面実装タイプなので外すのは少し面倒だ。とは言え、オペアンプ周辺とは違い密集度は低く、それほどハードルは高くない。この時、注意する点としては、青いマークを付けたコンデンサを先に交換すること。インダクタを付けた後だと邪魔になって半田付けが出来なくなる。順番としては、青(330pF)→赤(22uH)→黄色/緑(0.1uF/0.47uF)となるだろうか。オリジナル、パーツ撤去後、パーツ交換後の写真を掲載したので参考にして欲しい。何とかギリギリ収まり、交換後はよりデジタルアンプらしくなった。

 さてこの交換による音の変化であるが、激変としか言いようが無いほど音質は向上する。見事な空気感や立体感、抜けが良く、コーラスの分離ははっきりくっきり、バスドラのドスンはよりパワフルに、打楽器は歌って、弦楽器やボーカールが艶やかで余韻も美しく、雑っぽさは皆無……などなど。もはや同じアンプとは思えない鳴りっぷりだ。TDA7491HVの本領発揮と言ったところか。加えてオペアンプがある関係であまりデジタルアンプっぽくない音がする。

●電源に関しての考察

 冒頭に書いたように、5VAの小型トランスでも問題無く鳴っていたが、仕上げにもう少しパワーのあるものを作ろうと思いちょっとした実験などを行なった。

 まずはeneloopを使ったバッテリ駆動。eneloopのパッケージを見ると、「1.2V、Min. 1,900mA」の記述がある。従って12本使えば14.4Vとなり、丁度いいので6本用の電池フォルダを2つ購入。しかし、手元にあるeneloopをかき集め、充電後、12本分の電圧を測ると約17.5Vあった。これではLXA-OT1が壊れるので、2本外して計10本で約14Vの状態で実験した。

 音的には5VAのトランスを使ったものより、より音がクリアに、そして“オンな音”(ライブハウスの最前列で聴いている感じ。逆にオフな音は後ろで聴いている感じ)となった。パワー感も十分あり、低音不足も無い。しばらく使っていると電圧は1.2V×10の12Vちょっとに落ち着く。そして電流を測ってみると驚きの結果が出た。

 アナログ式のテスターなので瞬時のピークは分からないが、何とボリューム12時の位置で75mA程度しか流れていない。しかも電源オフ時に25mA程度流れているため(TDA7491HVのスタンバイを使っている)、実際は50mA。仮に効率100%としても12V×50mAで0.6wの出力だ。もちろんデジタルアンプとは言え、効率100%ではないので、もっと少ない出力となる。なるほど5VAのトランスを使った電源でも問題無いはずだと納得した。

 さてこの状態でどの程度バッテリ駆動が出来るか、鳴らしっ放しにした。1時間が過ぎ2時間が過ぎ、その都度電圧を測ったが、微妙にダラダラ下がっているものの、一向に12Vを切る様子は無い。24時間越えてもこの状況は変わらず。さすがに疲れたので実験を終了した。

 接続するスピーカーや通常音量によってもバッテリ駆動時間は変わるが、少なくとも筆者の環境そして聞き方だと、eneloop 10本で24時間は駆動可能だ。仕事から帰宅後、夜数時間聴くのであれば1週間持つ計算となる。音質も付属のACアダプタと比較して良いため、難しい電源を作るのが面倒であれば、こちらを選ぶ手もありだろう。

オリジナルのACアダプタ。LUXMANのロゴはなかなか良いが、さすがに出番は無くなりそうだeneloop 10本を使ったバッテリ電源。これなら工作レベルなので簡単に出来る。結局2本抜いて10本で使用驚くことに筆者の環境ではたった75mAしか電流が流れない

 さてこうなると元々考えていた電源のプランが大幅に変わる。当初、30VA/2×12V程度のトロイダルトランスにLM338T(LM317Tの5A出力版)を使い、少なくとも1A以上電流が流れる定電圧電源を作ろうと思っていたが、明らかに筆者の環境ではオーバースペック。であればクオリティを上げようと、前回少し触れた「FIDELIXの+15V三端子レギュレータ」を使うことにした。

 回路自体は古典的な3端子レギュレータを使ったもので、掲載していないが、簡単なものだ。しかしここで困った問題が発生した。トランスは同じくNuVotemの入力電圧115/230V AC、出力電圧 2×12V ACで30VAタイプで、LM338Tとの組合せ用に事前に購入したものだ。これが100V接続時、SBDのブリッジ後、16Vしか電圧が上がらないのだ。オープンで計ると12Vだった。これだとLM338Tなら適当に丁度良い電圧に調整出来るが、15Vタイプの3端子レギュレータはINとOUTの電圧差が無さ過ぎて使えない(FIDELIXに確認したところ1.5V以上とのこと)。たったコンマ数V足らないだけなのに、こればっかりはどうにもならない。

 仕方なく同タイプの入力電圧115/230V AC、出力電圧 2x15V ACで30VAのものを再度購入した。こちらはオープンで17Vも電圧があり、3端子レギュレータのINは21Vとなる。2×12Vでも同程度(オープンで14V)あればそのまま使えたのに……と思っても後の祭りだった。

 仮配線した写真を掲載したのでご覧頂きたいが、2×15Vの片方(オレンジ色/黄色)は未接続になっている。出力15Vに拘っている理由がもう1つあり、実はペアで使っているAT-HA35iも15VのACアダプタなのだ。これに未使用の片方を割り当て、同じくFIDELIXの+15V 3端子レギュレータを使えば、高品位の15V電源を2系統用意できる。ケースに入れるのは、2回路目を作ってからの予定だ。

 さて、この電源の音は、5VAのトランス+LM317Tとも、eneloop 10本とも違う、実に好みの音がする。eneloopのクリアさや静けさに加え、パワー感がある上に、音量を上げても煩く感じない。FIDELIXの+15V 3端子レギュレータは、1本3,000円とそれなりに高価だが、予想以上の効果があり、しかも回路自体は簡単にできる。定電圧電源はいろいろなロジックで作れるが、パーツの数が増えると、その分、あれこれ悩む部分が増える。簡単な回路で済むに越したことはない。今回初めて使ったが、1A未満の出力であればお勧めのパーツと言えよう。

30VAの電源トランス。5VAのトランスと比較してなかなか強そうな感じだFIDELIXの+15V 3端子レギュレータなど。左からLM317T、LM338T、7812S、そしてFIDELIXの+15V 3端子レギュレータFIDELIXの+15V 3端子レギュレータを使った電源。これも教科書通り。裏にパスコンとしてWIMAの0.1uFを最短距離でINとOUTに入れている

●Amp Base LXA-OT1のリアパネルキット

 一通り書き終えたので原稿のチェックをしていた矢先、池田工業からAmp Base LXA-OT1専用リアパネルの試作サンプルが届いた。このAmp Base LXA-OT1は、仕上げも丁寧で、見た目もキュート。お気に入りの逸品だ。ただ唯一欠点として、リアがオープンのままだ。ケーブルの抜き差しは、コネクタや基板に負担がかからないように注意する必要がある。これを改善すべく開発されたリアパネルだ。

 仕掛け自体は単純。写真からも分かるように、全体はL字になっていてAmp Base LXA-OT1側にネジ止めしている4本のネジをBaseと基板で挿み固定した上で、スピーカー端子と入力端子もネジを使って固定する。使用している金属がかなり硬く、L字の部分がピクリとも動かず、端子の部分も頑丈になる。またボンネットの上側と少し隙間があるのは放熱用とのこと。発売は2月上旬(価格未定)なので期待したい。

 なお、届いたのは試作品で、出荷版は「表面処理はメッキ又は塗装を行ない、色は黒の予定」(サンプルはクリアーラッカー仕上げ)、「電源入力部の四角穴は若干小さくして隙間を少なくする予定」など細部に違いがある。

 これで見た目そしてサウンド共に、ご機嫌なアンプに仕上がり大満足。早く電源用のケースを加工しなければ。いつもACインレットの加工が面倒で放置してしまうのが悪い癖だ(笑)。

リアパネルキット。リアパネルと端子を固定するネジとワッシャーがセット。基板側を固定するのはアンプに付属していたネジを使うが、約2mm短くなるため長いものも4本入っている取り付けたところ(フロント)。これまでリアはずっとオープンだっただけに、今更ながらアンプらしくなった。今回交換したパーツも映えるボンネットを乗せたところ(リア)。少し隙間があるのは放熱のため。製品版では表面処理と色が異なり、電源入力部の四角穴は若干小さくして隙間を少なくする予定とのこと


 以上のように、LPFのパーツ交換と電源を変更することにより、更に音質が向上し、ますます良いデジタルアンプに仕上がった。もともとが2,800円なので、後から手を加えた部分の方が遥かにコストはかかっているものの、サウンドに直結するのでなかなか止められない部分だったりする。

 ネットを検索すると、このLXA-OT1をきっかけに久々に半田ごてを握った人、いろいろ手を入れて楽しんでいる人、スピーカーなどAV機器を新調した人、改造キットを販売するショップなど、業界へのインパクトはかなりあったようだ。Stereo誌そしてLUXMANには今後も面白い企画を期待したい。