■西川和久の不定期コラム■
キヤノンは2月22日、2011年春モデルのインクジェットプリンタなどを4機種発表した。今回はその中から、FAXや両面対応ADFなどを搭載しているビジネス向けインクジェット複合機「PIXUS MX883」をご紹介する。
前モデルに相当する「PIXUS MX870」は、黒顔料系/染料系(W黒)+染料系CYMの5色独立カートリッジ、スキャナ/ADFや自動両面プリント、前面給紙カセット+後ろトレイ、2.5型の液晶パネル、FAXを搭載した、ビジネス向けインクジェット複合機だった。
そして今回発表された新モデル「PIXUS MX883」は、デザインと操作性を一新。機能面の大枠はあまり変わらないものの、細部がパワーアップしている。主な仕様は以下の通り。
・黒顔料系+染料系、CMY染料系インクカセット5色独立インクシステム、最高解像度9,600×2,400dpi、最小インク滴サイズ1pl、ノズル数4,608
・2,400dpi CISセンサー搭載/両面対応ADF、最大35枚
・自動両面プリント/両面コピー対応
・カラー約9.3ipm、モノクロ約12.5ipm
・前面給紙カセット 普通紙専用/最大150枚、後ろトレイ 写真用紙など/最大150枚
・3.0型ディスプレイ+デュアルファンクションパネル
・無線(IEEE 802.11b/g/n)/有線LAN(10/100Base-TX)/USB×2、メモリカードスロット
・スーパーG3・カラーFAX(PC FAXは送信のみ)
・491×448×218mm(幅×奥行き×高さ)/約11.7kg
・店頭予想価格29,980円
まずインクシステムは、黒顔料系/染料系(W黒)+染料系CYMの5色独立カートリッジ、最高解像度9,600×2,400dpi、最小インク滴サイズ1plと、ここまでは同じであるが、総ノズル数が2,364から4,608に大幅に増えている。ノズル数が多いと言うことは、印刷スピードに直結。カラー約6.1ipm/モノクロ約9.4ipmから、カラー約9.3ipm/モノクロ約12.5ipmへ向上している。
スキャナ部は変わらず、2,400dpi CISセンサーで最大35枚の両面対応ADFも搭載。嬉しい改善ポイントとしては、コピー予約機能があり、印刷時に次のコピーが読取り可能になり、操作時間を短縮できるようになった。
そして最も違う部分は、グレー中心だった配色から、黒中心の配色へ変更。スタイリッシュとなり、加えて3.0型へ液晶ディスプレイの大型化、更にモードにより表示キーが変わる「デュアルファンクションパネル」を搭載し、より使い易さが向上している。
インターフェイスは、有線LANが10/100Base-TX、無線LANがIEEE 802.11b/g/nと、11nが新たに加わった。らくらく無線スタート/AOSS/WPS対応は同じだ。USBはPC用とUSBデバイス用に各1ポート、メモリカードスロット、スーパーG3・カラーFAXを搭載。
サイズは491×448×218mm(幅×奥行き×高さ)で若干奥行きが増し、高さが減った。重量は約11.7kgと、0.1kg軽くなっている。店頭予想価格29,980円。
なお、下位モデルとなる「PIXUS MX420」は、解像度4,800×1,200dpi/2pl、黒のみ顔料系+染料系3色一体型インク、ノズル数1472、2.5型液晶モニタ、自動両面プリント/前面給紙カセット無し、スキャナー1,200dpiなど、結構スペックも違い、販売予定価格は19,980円となっている。
まず大幅に変わった配色は、操作パネル周囲とリアの部分などは“ツヤ無し黒”、前面給紙パネルも含めその周囲とADF部分、操作パネルそのものは“ツヤあり黒”になっている。
確かにスタイリッシュでかっこいいものの、前から指摘しているように、特に手が常に触れる部分が“ツヤあり黒”と言うのは、強烈に指紋跡が目立つ。またツヤ無し黒は、さほど指紋跡は気にならないものの、ホコリが目立つ。この写真を撮るのに結構まめにクリーニングして撮ったが、それでも色々取り切れていない。オフィス用途にしてもホーム用途にしても、もう少し違った配色の方が結果的に使いやすいように思う。
操作パネルは3型で見易く、その横に右側に配置された「デュアルファンクションパネル」は、4×4の無地のボタンで、操作するシーンによって、キーが浮き上がる仕掛けになっている。例えば多くのケースでは矢印などが表示されるが、FAXモードだと10キーの表示になるなど、シーンに応じて変わるのはなかなか楽しい仕掛けだ。また機能するボタンしか表示されないので、操作に迷うこともない。ただし、液晶パネルも含め、操作パネル部分は角度が変えられないため、設置場所によっては使い辛いこともあるだろう。
給紙は前面カセットと後ろトレイの2カ所。前者は普通紙専用。後者は写真用紙など“硬い紙”専用となる。「HP Officejet Pro 8500A Plus」の時に書いたが、前面給紙カセットが1段しかなく、主に普通紙、たまにL判写真用紙といった使い方であれば、このタイプの方が、1枚の写真プリントをするために、何十枚もの普通紙をカセットから出したり入れたりせずに済み扱い易い。物理的な高さとコストを抑え、前面1段式カセットとするには、この方法がベターなのかも知れない。
電源ONからの立ち上がりも早く、騒音も少なく、なかなか好印象。これなら自宅で使っても大丈夫だ。
普通紙へカラー両面コピー(上)、顔料系プリンタで印刷した原稿(下)、L判写真プリント(左)。L判専用紙の写真は鮮やかだが、普通紙にカラーコピーすると、元原稿よりにじみやコントラストの低下、紙のたわみ、裏写りなどの違いが分かる |
ただ1点気になる部分があるとすれば、CMYのインクが染料系になっていること。確かに写真のプリントは発色も良く綺麗なのだが、例えばベタ塗りの多い両面カラー原稿を、普通紙で両面コピーすると、用紙が波打つほどインクが滲むし、乾き切らず湿気ている。ここのところ顔料系のプリンタばかり触っていたので、ここまで違うとは今更ながら痛感した。黒のみ顔料系と染料系のW黒なので、ビジネス用途としては、モノクロ専用と割り切った方が無難かも知れない。
対応OSは、Windows 7(64/32bit)/Vista/XP、Mac OS Xは、v10.4.11以降。付属のCD-ROMからセットアップ・プログラムを起動し、「おまかせインストール」か「選んでインストール」かの選択、その後、「接続方法の選択」と、2回選ぶと後は自動的に必要なプログラムなどがインストールされる。
今回は事前にプリンタ側の無線LAN設定を行なったが、初期設定時、PCとUSBで接続し、自動で無線LANの設定を行なうことも可能だ。セットアップが終了すると、「Canon Solution Menu EX」が起動する。
「おまかせインストール」でインストールされるソフトウェアは、「MPドライバー」、「マイ プリンタ」、「短縮ダイアルツール」、「Solution Menu EX」、「読取革命Lite」、「電子マニュアル」、「MP Navigator EX」、「Easy-PhotoPrint EX」、「Adobe RGB(1998)」、「Easy-WebPrint Ex」(ダウンロード)となる。
本機はFAXを搭載しているものの、エプソンやHPのように、一連のセットアップ後、FAXの設定を行なうパネルは一切表示されなかった。
セットアップ/トップ画面 | セットアップ/おまかせインストール | セットアップ/選んでインストール |
接続方法確認(ここでは無線LAN接続) | ドライバなどをインストール中 | EasyWebPrintEXはダウンロードインストール |
プリンタの検出 | 検出したプリンタ一覧 | ドライバセットアップ完了 |
案内などを経て、セットアップ終了 | デスクトップ上のショートカットとCanon solution Menu EX |
●単独使用/プリント
単独でのプリントはメディア内の写真だけでなくPDFも印刷可能だ。メディアを認識すると[写真データを印刷]か[文書データを印刷]かのボタンが表示されるので、どちらかを選択。あとはパネルを操作し印刷するだけの手順となる。
プリントメニューは、「DPOF印刷」、「選んで文章印刷」、「選んで写真印刷」、「すべての写真を印刷」、「スライドショー」。写真関連の[印刷設定]には、「用紙サイズ」、「用紙種類」、「印刷品質」、「フチ指定」、「写真補正」、「赤目補正」、「日付印刷」。文書関連の設定は、「用紙サイズ」、「印刷品質」のみ変更できる。
ただし、どちらも意図的にモノクロ印刷はできず(モノクロスタートボタンが無効になっている)、カラー印刷のみとなる。顔料系インクが黒だけなので、できればPDF印刷時は、モノクロ印刷にも対応して欲しいところだ。
メディア内にある写真を選択 | 印刷枚数設定 | 綺麗な写真が印刷された |
選んで文書印刷 | メディア内にあるPDFを選択 | カラーコピーのみ対応(モノクロスタートボタンが有効にならない) |
【動画】L判フチ無し写真プリント。[スタート]ボタンを押してから約30秒 |
●単独使用/スキャナ
単独でのスキャナは、両面ADFにも対応。データの保存先として、「メールに添付」、「PC」、「USBメモリ」、「メモリーカード」の選択ができる。
原稿の種類は「文章」か「写真」。「文章」の場合は、「読取サイズ」、「データ形式」PDF/高圧縮PDF/TIFF/JPEG、「解像度」600/300/150/75dpi、「ADF原稿向き」、「ADF両面読取」、「原稿の裏写り低減」、「モアレ低減」、「輪郭強調」の設定が、「写真」の場合は、「読取サイズ」/「データ形式」/「解像度」までは文書と同じだが、「輪郭強調」のみ設定できる。
ただし、原稿台の場合はプレビューにも対応しているが、ADFからはプレビューできない。
メモリカードへ保存 | PDF/A4/300dpiで保存 | ADFからのスキャンはプレビューできない |
●単独使用/コピー
コピーメニューは、黒い外枠やとじ部の影が出ないようにする「枠消しコピー」、複数部コピーする場合ページ順に並べてコピーできる「ページ順にコピー」、「標準コピー」、「写真焼き増し」、「フチなしコピー」。
印刷設定は、「倍率」、「濃度」、「用紙サイズ」、「用紙種類」、「印刷品質」、「両面設定」、「レイアウト」、「原稿向き」の変更ができる。レイアウトは、2in1/4in1にも対応。またコピーに関しては原稿がカラーかどうかは無関係に、モノクロかカラーの印刷がスタートボタンで選べる。
コピーメニュー | 印刷設定で両面原稿/両面コピーへ | カラーの場合染料系のインクなので普通紙だとにじむ* |
【動画】カラー両面コピー。[スタートボタン]を押してから約1分30秒 |
●単独使用/FAX
FAXメニューは、「FAX用紙設定」、「電話番号登録」、「メモリ照会」、「レポート/リスト印刷」。送信時の読取画質や読取濃度も変更可能だ。また、後述する「短縮ダイアルツール」を使い、PCから電話番号、ユーザー情報、通信拒否番号設定もできる。
加えて、メモリ受信したFAX画像を自動でメモリカードやUSBメモリへ保存できる機能を搭載している。保存形式はPDF。この設定は、[セットアップ]ボタンを押し、「本体設定」/「FAX設定」/「自動保存設定」でセットする。PDFなので直ぐPCなどで見れる上、停電時などで本体内のメモリが消えてもデータはメディアに残るため、バックアップ用途として使える便利なものだ。
電話番号入力 | FAXメニュー | 電話番号登録 |
●単独使用/その他
その他の機能としては「定型フォーム印刷」がある。はじめはどこで選ぶのかと思ったが、[セットアップ]ボタンの中だった。対応しているフォームは、「レポート用紙1」、「レポート用紙2」、「レポート用紙3」、「方眼紙1」、「方眼紙2」、「チェックリスト」、「五線譜1」、「五線譜2」、「原稿用紙1」、「原稿用紙2」、「漢字練習用紙」、「アルファベット練習用紙」、「週間スケジュール」、「月間スケジュール」の14種類。顔料系の黒インクで普通紙でもくっきり印刷されるため、何かの時にあれば便利な機能だろう。
[セットアップ]ボタン | 定型フォーム印刷 | 方眼紙など14種類の定型フォームがある |
●PCからの使い勝手
インストール直後は、デスクトップに、「電子マニュアル」、「Solution Menu EX」、「読取革命Lite」のショートカットが増え、「Solution Menu EX」が常駐し、右側に丸いウィジェットを配置する。この「Solution Menu EX」は、用途に応じてアイコンが並び、それを選ぶことによって、より簡単に操作できる仕掛けになっている。多くの場合、実際に呼び出されるのは、印刷系は「Easy-PhotoPrint EX」、スキャン系は「MP Navigator EX」だ。
Solution Menu EX/フォトプリント | Solution Menu EX/スキャナーを使う | Solution Menu EX/キヤノンウェブサービス |
Solution Menu EX/ヘルプと設定 | Solution Menu EX/アプリケーションの起動 | Solution Menu EX/オンラインショッピング |
「Easy-PhotoPrint EX」は、ライブラリ管理といろいろなフォーマットに印刷できるツール。トップメニューには、「写真印刷」、「アルバム」、「名刺」、「カレンダー」、「シール」、「レイアウト印刷」が並んでいる。
実際の作業に入ると、左側に作業手順が表示され、例えば写真印刷だと1)画像選択→2)用紙選択→3)レイアウトの順に進み工程が一目で分かる。随分前から同社のインクジェットプリンタに同梱しているため、作動は極めて安定している。
ただ以前にも指摘しているが、セットで使うSolution Menu EXとMP Navigator EXのUIデザインがバラバラで統一感が無い。そろそろ手直ししてもいい時期ではないだろうか。
Easy-PhotoPrint EX/メニュー | Easy-PhotoPrint EX/写真印刷 | Easy-PhotoPrint EX/用紙選択 |
Easy-PhotoPrint EX/レイアウト・印刷 | Easy-PhotoPrint EX/カレンダーの作成 | Easy-PhotoPrint EX/名刺の作成 |
「MP Navigator EX」はスキャン用のアプリケーションだ。ワンクリックで目的別(おまかせ/PCに保存/PDFファイルに保存/メールに添付/OCR/お気に入り)スキャン、読み込み(おまかせ/写真や文書[原稿台]/まとまった量の文書[ADF]/メモリカード)、画像の表示/利用などを、用途に応じてパッパと操作できる。
またPDFに保存時、閲覧/編集/印刷が可能な2種類のパスワードをセットしたり、文字検索可能なPDFにも対応している。このアプリケーションも随分前からあり、完成度は高く、安心して操作できる。
MP Navigator EX/ワンクリックで目的別スキャン | MP Navigator EX/読み込み | MP Navigator EX/画像の表示・利用 |
MP Navigator EX/写真や文章(原稿台) | MP Navigator EX/マイボックス(読み込んだ画像) | MP Navigator EX/ワンクリック→PCに保存 |
そのほかとしては、「電子マニュアル」、OCRの「読取革命Lite」、PCからネットワーク上のスキャナを選択する「Canon IJ Network Scanner Selector EX」、ネットワーク接続時の管理ツール「Canon IJ Network Tools」、プリンタの診断/設定などができる「マイ プリンタ」など、同社の定番が入っている。
FAX対応機の固有なアプリケーションとしては、「短縮ダイアルツール」が挙げられる。機能としては、先の単独使用で書いた通りであるが、このアプリケーションとメディアにFAX画像を自動保存できる点は、「PIXUS MX883」の新機能だ。
電子マニュアル | 読取革命Lite | 短縮ダイアルツール |
Canon IJ Network Scanner Selector EX | Canon IJ Network Tools | マイ プリンタ |
以上のように「PIXUS MX883」は、店頭予想価格29,980円と、競合機種と比較して2万円程度安価で、両面ADF/両面印刷、FAX、前面1段カセット+後ろトレイの2way給紙、顔料系黒+染料系黒のW黒など、主要部分はほぼ同等の機能を持つインクジェット複合機だ。
ただCMYが染料系のインクなので、普通紙にカラープリントすると滲んでしまうが、主に書類は白黒、写真だけカラーという用途にピッタリな1台と言えよう。