■西川和久の不定期コラム■
ASUS「Eee PC T91MT」
Windows 7が登場してから、タッチパネル式の液晶ディスプレイ搭載機が増えてきた。これは、マルチタッチ機能「Windows Touch」が、OSのコアに組み込まれたことで、各メーカーが積極的に対応している表れだ。中でもちょっと面白いノートPCがレビュー用に届いたのでご紹介する。
ASUS「Eee PC T91MT」の主な仕様は、CPUにIntel Atom Z520プロセッサ(1Core/1.33GHz/L2 512KB)を搭載。このCPUは同じAtomでも、お馴染みの230、330、N270、N280などとはラインが違い、元々ノートPCより、更に小さいMID向けに作られたものだ。ただネットブックが流行るにつれ、このZシリーズでもネットブックが作られるようになったと言う経緯がある。特徴としてはパワーより省エネ優先。TDPはたった2Wだ。また、Hyper-ThreadingとIntel VT-xには対応しているが、64bitは非対応となっている。従ってOSは32bit版しか動かない。
チップセットはIntel US15W、グラフィックスは内蔵のGMA500と、Atom Zシリーズ専用だ。ネットブックなどで一般的なGMA950やGMA3150と比較して全般的に非力なものの、動画再生支援機構を持っているため、動画再生能力だけは優れている。
そしてストレージは32GBのSSDを搭載。光学ドライブも無く0スピンドルなので、省エネに一役買っている。ここまでであれば、少し前にも同じようなネットブックがあったのだが、さらにワンセグチューナ内蔵、そしてマルチタッチに対応した8.9型ワイド液晶ディスプレイ搭載だ。解像度は1,024×600ドット。拡張表示モードで少し縦方向の表示が潰れるものの、1,024×768ドットにも標準で対応している。
サイズは8.9型のパネルと言うこともあり、225×164×25.2~28.4mm(幅×奥行き×高さ)と、結構小さく重量も960gと軽い。余談になるが編集部から荷物が届いた時、普段なら段ボール箱に入って来るのだが、今回は紙パックで、一瞬他のものが届いたのかと思うほどパッケージはコンパクトだった。バッテリ駆動時間は最大5.1時間。Atom ZシリーズとSSDとの組み合わせで長時間使用可能だ。その他の仕様は以下の通り。
ASUS「Eee PC T91MT」仕様 | |
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CPU | Intel Atom Z520プロセッサ(1Core/1.33GHz/L2 512KB) |
チップセット | Intel US15W |
メモリ | 2GB/SO-DIMM(1スロット空き0) |
SSD | 32GB |
OS | Windows 7 Home Premium(32bit) |
ディスプレイ | 8.9型ワイドTFTタッチスクリーンカラー液晶、1,024×600ドット |
GPU | チップセット内蔵GMA500、アナログRGB出力 |
ネットワーク | Ethernet(10BASE-T/100BASE-TX)、IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth(V2.1+EDR) |
その他 | USB 2.0×2、カードリーダ×2、Webカメラ、オーディオIN/OUT、ワンセグチューナ(専用外部アンテナ付き)、ステレオスピーカー、スタイラスペン付属 |
サイズ/重量 | 225×164×25.2~28.4mm(幅×奥行き×高さ)/約0.96kg |
バッテリ駆動時間 | 最長約5.1時間(充電時間約2.8時間) |
希望小売価格 | 59,800円 |
OSは32bit版のWindows 7 Home Premiumだ。ネットブックなのでWindows 7 Starterの選択も可能なのだが、Aeroが使えないのはともかくとして、肝心のWindows Touchが無いためタッチパネルを生かすにはHome Premiumが必要となる。ちなみにStarterはMPEG-2にも対応していない。従ってDVDビデオを観る時には別途デコーダが必要となる。メモリは2GB固定だ。OSが32bit版、そして用途を考えても十分な容量だろう。
ネットワーク関連は、有線LAN 100BASE-TX、無線LAN IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth(V2.1+EDR)と全部入り。いつも気にしているGigabit Ethernetに関しては、このクラスのマシンで無いのはあまり問題にはならないと思われる。
またちょっと変わっているのが、カードリーダが2つあること。SSDが32GBと少なめなので、片方にデータ用のメディアを入れっ放し、もう片方はデジカメなどで撮影で必要に応じて……と言う使い方ができる。実際ボディの表記もこの使い方を推奨しているらしく、向かって左側にあるリーダはカバー付きで、そのカバーには「DISK-EXPANDER」と書かれている。もう一方はフロント側にあり、こちらは一般的なカードリーダだ。前者にはメディアを入れっ放しでカバーをして外れないように保護できる。
カラーバリエーションはホワイトとブラックの2種類。希望小売価格59,800円だ。最近のネットブックは4万円を切る辺りからのスタートとなっているので、若干高い感じがするものの、SSD 32GB+マルチタッチ対応+ワンセグチューナ内蔵、そしてWindows 7 Home Premium搭載なので、ファンクションを考えるとリーズナブルと言えよう。
今回届いたのはブラック。実際はピアノブラックと言った感じで綺麗だ。天板、液晶の縁、パームレスト部分など、裏側以外は全てこの色で統一されている。ただ、写真からも分かるように、光沢なので周囲のものが映り込む上に指紋跡が強烈に目立つ。気になる人はホワイトにした方が無難かも知れない。持った感じはさすがに1kgを切っているだけあって非常に軽い。片手でヒョイと持ち上がる。これなら普段カバンに入れても持ち歩くのも苦にならないだろう。
液晶パネルは、タッチパネルと言う事もあり、グレアとノングレアの間のようなちょっとくすんだ感じになっている。発色自体はこのクラスとしては標準的だ。パネルが回転するため、中央のヒンジのみでの固定となるが、縦方向も横方向もガッチリしており、パネルがフラフラすることはない。
キーボードは85キーを採用している。レイアウト自体は筆者が所有するEee PC 901-Xと全く同じで、特に破綻している部分も見られず普通に入力できる。ただ全体的にたわむのと、周囲がピアノブラックなので、キートップのチープさが目立ってしまうのが気になるところだ。
パームレストやタッチパッドはボディのサイズ的に狭くなってしまうのは仕方ない部分だが特に問題無い。パームレストとタッチパッドは段差があり、加えて指の滑りが全く異なるので分かりやすい。ボタンはバー1本のシーソータイプとなっている。適度なクリック感と重過ぎず軽過ぎずでフィーリングも悪くない。
ノイズや振動などは、流石にAtom Zシリーズそして0スピンドルなので、全く感じられず、熱もほとんど持たず良好だ。
裏側を見るまで分からなかった事として、バッテリが固定で外せないことがあげられる。仕様によると「リチウムポリマーバッテリ(2セル)」だ。
意外だったのはステレオスピーカー。ありがちな正面斜め下に向いて付いているパターンではなく、ボディ左右裏面に少し角度が付いて配置されている。ネットブックも含め、これまでいろいろなノートPCを触ってきたが、この位置にあるのは初めてだ。また音質音量共、このサイズのネットブックとしては頑張っている。ワンセグを観たり、音楽や動画を楽しむのも、欲求不満になることは無いだろう。
前後180度傾く | 水平に180度回る | タブレットPC型ネットブックへ |
●マルチタッチとワンセグで独特な環境
標準での画面設定は「Aero」がONになっている。一時期、「GMA500でAeroは重いのでOFF」でと言うのを見たことがあるのだが、Windows 7でAeroがOFFなのは、いろいろな意味で操作性が悪くなる。Windows エクスペリエンス インデックスの値は後述するが、ゲーム用グラフィックスは遅くても用途的に問題無いとして、グラフィックスの値も使えないレベルではない。とは言え、できれば「視覚効果の調整」でアニメーション系の効果をOFFにし、表示を軽くした方がより快適になる。
32GBのSSDは、Cドライブとして29.8GBがWindows用となっている。SSDだけあって起動も速く、スペックの割には快適だ。メモリは起動直後で使用メモリは約700MB。従って重いアプリケーションを使わない限り、十分動かすことができる。
起動時のデスクトップ。画面中央上に見えるのは「Eee Docking Touch」 | デバイスドライバ/主要なデバイス。SSDにはsandisk pSSD-P2が使われている | SSDのパーテーション。Cドライブとして29.8GBがWindows用 |
プリインストールのアプリケーションは、タッチツールアクセス用ソフト「Eee Docking Touch」、ワンセグチューナソフト「DTV - Cyberlink TV Enhance」、統合ビジネスソフトウェア「StarSuite 9」、「ウイルスバスター 2010 60日間対応版」、「i-フィルター 5.0 30日間対応版」と結構豊富だ。また同社ではお馴染みの「ASUS Update For Eee PC」、「Super Hybrid Engine(省電力化ソフト)」、「ASUS WebStorage」、「Eee PC Tray Utility」なども入っている。
中でも面白いのは「Eee Docking Touch」だ。写真のズームや画像調整、アルバムの管理などが行なえる「フォトファン」、ビデオ、ミュージック、ゲーム、電子ブックなどにアクセスできる「ASUS @Vibe」、Webカメラコントロールの「You Cam」、そして「電卓」が、タッチパネルを使い操作できる。特に「フォトファン」は、マルチタッチでズームイン/アウト、回転などができ、「Windows Touch」を実感できる。写真だけでは動きが分からないと思うので、動画も一緒に掲載した。
もう1つの売りであるワンセグに関しては、「DTV - Cyberlink TV Enhance」を使って操作する。再生中もAeroはONのままだ。また筆者の事務所でも数チャンネル入ったのでアンテナの感度は高い方だと思われる。録画に対応していないのは残念な部分であるが、それより気になるのは、本体右側中央にある外部アンテナ用のコネクタだ。ロッドアンテナにするにしても、ケーブルを接続するにしても、この位置は邪魔になる。できれば奥へ配置して欲しかった。
DTV - Cyberlink TV Enhance | Eee Docking Touch | Eee Docking Touch/フォトファン |
【動画】Eee Docking Touch |
ベンチマークテストは、Windows エクスペリエンス インデックス、CrystalMark、そしてBBenchの結果を見たい。まずWindows エクスペリエンス インデックスの総合は1.9。内訳は、プロセッサ1.9、メモリ4.2、グラフィックス2.9、ゲーム用グラフィックス2.3、プライマリハードディスク5.1。CPUやグラフィックスは結構遅いものの、プライマリハードディスクがそれなりに速いので全体的な操作感はスムーズだ。しかし、一般的なSATA HDDが5.9前後なので、それから考えるとSSDだからと言って特別速いわけではない。
CrystalMarkは、グラフィックスはもちろんであるが、どちらかと言うとCPUのパフォーマンスの方が気になるところ。クロックが1.33GHzと言うこともあり、Atom 230プロセッサ(ALU 5,374、PFU 4,645)より更に低い値となっている。
BBenchは、キーストローク出力/ON、Web巡回/ON、WiFi/ON(BluetoothはOFF)、Power Saving Modeでの結果だ。バッテリの残5%で16,257秒(4.5時間)だった。2セルバッテリとしてはかなり優秀。960gのネットブックでこの程度持てば、ちょっとした外出時はに十分だろう。しかし、バッテリが固定式で外せないため、予備バッテリを持って歩くことはできない。この点は、人によって評価が別れるところだろう。
以上のように、Windows 7マシンとしてはパフォーマンス的にギリギリな感じがあるものの、マルチタッチ、コンパクトで軽量、ロングバッテリ、そしてワンセグチューナ内蔵と、モバイルマシンとしてはなかなか魅力的に仕上がっている。そして価格もゴッキュパ。これだけの機能が詰まっていると考えるとリーゾナブルだ。ライトで多機能なネットブックが欲しいユーザーには面白い選択肢ではないだろうか。