西川和久の不定期コラム

Windows 7の使い勝手【その2】
~Anytime UpgradeもXP Modeも簡単にできる



 前々回は、Windows 7で強化されたエクスプローラーとタスクバーを中心にレポートした。記事中で「個人的にXP Modeは不要なのでHome Premiumを選んだ」と書いたものの、Windows 7を語るにおいてXP Modeを無視するわけにも行かない。そこで、Intel VTに対応したCPUに乗せ換え、Windows Anytime アップグレードでHome PremiumからProfessionalにアップグレードした。準備が整ったところでXP Modeの使用感、という一連の流れをレポートする。

●CPUのアップグレード

 もともと筆者のメインマシンのCPUは「Core 2 Quad Q8200」で、クロックが2.33GHz、キャッシュが4MB、TDPが95Wである。Intel VTには対応していないため、XP Modeを動かすことができなかった。そこでIntel VTに対応したCore 2 Quadに交換することにした。予算は2万円程度とした。

 また、どうせ交換するなら、前回Core i7-820QM搭載のノートPCに動画エンコード速度が負けたこともあり、少しグレードの高いものにしたいと思った。AKIBA PC Hotline!のCPU最安値情報を見ると、TDP 65W版もTDP 95W版もどちらも既に2.33GHzより高いクロックのCPUに切り替わっており、悩んだ末にCore 2 Quad Q9550(2.83GHz、6MB×2、95W)を選んだ。

Core 2 Quad 9550Q9500対応の最新BIOSへ更新CPU交換中

 CPUの交換自体は簡単だが、使用しているマザーボードはGIGABYTE「GA-P35-DS3(rev.2)」と少し古めだ。BIOSがQ9550に対応していない可能性があったが、同社のサイトを見たところ、バージョンF14で対応していた。早速ダウンロードしてBIOSを更新し、無事起動して準備は整った。

 話は少し戻るが、XP Modeを動かすにはCPUが「Intel VTもしくはAMD-V」に対応し、更に「BIOSで有効」になっている必要がある。一部のメーカーPCは「CPUは対応しているのにBIOSで無効になっている」機種もあるらしく注意が必要だ。この件、あまり知られていないようで、例えばAmazonのレビューなどを見ていると「XP Mode目当てでProfessonalを購入したのに動かない」と言う話が結構載っている。確かにWindows 7のパッケージを見ると注意書きに「ライセンス上、ProfessonalとUltimateでしか使えない」という記述があるものの、Intel VT、AMD-Vの話は載っていない。

 さらに同社のXP Modeのダウンロードサイトに行くと「PCがWindows XP Modeで実行できることを確認します。」の下に「この“ツール”をダウンロードして」とあるが、クリックするとUSのサイトにリンクされている。ダウンロードできるツール「havdetectiontool.exe」は英語のままでハードルが高い。一般ユーザーへの周知が不足しており、迅速な改善を望みたい。

 CPUが対応しているかを調べるには「CrystalCPUID」を使うのが簡単だ。画面キャプチャでは、Q8200はVTがグレーアウトで非対応、Q9550はVTの文字が表示されている。ただし、これはCPUが対応しているかを調べているだけであって、BIOSで有効になっているのかは分からない。この場合は「VirtualChecker」を使う。有効だと「有効」と表示されるので一発で分かる。Intel CPUにしてもAMD CPUにしても、対応の仕方が結構バラバラなので、XP Modeを使いたい場合は、各自で事前にチェックしてほしい。

Core 2 Quad Q8200のCrystalCPUID。Intel VT非対応Core 2 Quad Q9550のCrystalCPUID。Intel VT対応VirtualChecker。Intel VTが有効になっている

 さてQ8200とQ9550とで、どの程度速度的に違いが出るか気になり、早速簡単なベンチマークテストを行なった。WindowsエクスペリエンスインデックスはCPUとメモリが7.1から7.3へ上昇。なぜかディスクに関しては7.5から7.4に落ちてしまったが、CrystalDiskMarkの結果を見ても誤差の範囲だ。

 驚いたのは動画のエンコード時間だ。Core i7-820QM搭載のノートPCの時に行なった同じテストを実行したところQ8200では5分39秒かかっていたのが、Q9550では4分26秒と、73秒も速くなった。先のノートPCと比較しても40秒速い。計12MBのキャッシュが効いているのか、予想以上に差が出ていて、大変満足した。

Core 2 Quad Q8200のWindowsエクスペリエンスインデックスCore 2 Quad Q9550のWindowsエクスペリエンスインデックス
Core 2 Quad Q8200のCrystalDiskMarkCore 2 Quad Q9550のCrystalDiskMark
Core 2 Quad Q8200での動画エンコード時間は5分39秒Core 2 Quad Q9550での動画エンコード時間4分26秒

●Windows Anytime Upgradeを試す

 次にXP Modeの使用はライセンス上、「Professional」、「Enterprise」、「Ultimate」の3つのみ可能で、「Starter」と「Home Premium」では使えない。筆者のマシンはHome Premiumをインストールしたため、少なくともProfessonalへアップグレードする必要がある。

 Windows 7の場合、非常に簡単にアップグレードができる仕掛けとして「Windows Anytime Upgrade」が用意されている。アップグレードキーをオンラインもしくはパッケージで購入し、入力するだけで、環境を保ったまま即アップグレードできる優れものだ。Home PremiumからProfessionalへは約1.1万円の出費となる。今回、コラムにするネタということで、形のあるパッケージ版を購入したが、オンラインを利用するのが手っ取り早い。

 パッケージにメディアなどは入っておらず、簡単な説明書とアップグレードキーのみで構成される。必要なのはアップグレードキーだけなので、もう少し簡素化しエコに配慮してもいいだろう。

Windows Anytime アップグレードパッケージ。Home PremiumからProfessonalへのアップグレード版だ中身は手順と簡単なマニュアル、そしてライセンスキーとなる。メディアは入っていない

 実際の手順は、スタートボタンのプログラムとファイルの検索で“Upgrade”を入力、見つかった“Windows Anytime Upgrade”を実行しアップグレードキーを入力、Windows上での処理が数分、リブート、フルスクリーン上での処理、リブートといった流れで終わり、ログイン画面が表示される。

 表記では10分ほどだったが、実際は5分程度だった。何事もなかったようにWindows 7が起動し、Home PremiumからProfessionalへアップグレードされていた。非常に簡単な手順であり、初心者でも簡単に行なえる。

 Windows 7はインストール時、どのエディションでも一旦ファイルを全てコピーし、ライセンスに合わせてレジストリなどの情報を書き換えている。従ってアップグレード時にメディアを要求されることも無く、ネット接続によるキーのチェックのみが行なわれる。データはもちろん、インストールしたアプリケーションなどの環境もそのままだ。昨今、HDDの容量が大きくなっているので、なかなか合理的な方法だ。

マニュアルに従い「Upgrade」を検索見つかった「Windows Anytime Upgrade」を実行アップグレードキーを入力
アップグレード開始アップグレード完了無事Professionalへアップグレード

●いよいよXP Modeを試す

 CPUの交換によってIntel VTが有効となり、Windows 7 Professionalになったところで、XP Modeをインストールする準備が整った。Microsoftのダウンロードページへ行くと、手順3でWindows 7のエディションと言語を選ぶ画面がある。試しにここで「Home Premium」を選ぶと、条件を満たしていないとエラーが表示された。システムに合わせて「Professional/64bit、日本語」でダウンロードした。

 まず順番としては、先に「Windows XP Mode」をダウンロードしてセットアップ。このファイルは500MBほどあるため約20分ほどかかった。容量の割りにちょっと遅いのでホスト側が混んでいるのだろうか。HDDの空き領域は1.6GB必要だ。次に「Windows Virtual PC」をダウンロードしてセットアップする。このファイルは小さいのですぐ落とせる。セットアップの後に、一旦再起動する。

 その後、スタートメニューに「XP Mode」が追加されるている。これをクリックすると、今度は仮想HDDなど、環境のセットアップがはじまり、完了後にWindows XPがウィンドウモードで起動する。

 以上のように、全てのセットアップに3ステップが必要だ。少し煩雑な感じがするので、ダウンロードするファイルなどをまとめて欲しいところだ。

XP ModeのダウンロードページHome Premiumを選ぶと条件を満たしていないとエラーになるProfessional/64bitを選んでダウンロード
XP Modeで使うファイルをコピーする仮想HDDに空き領域1.6GB必要必要なファイルをコピーして一旦終了
Virtual PCのセットアップインストール中インストール後、OSの再起動が必要
スタートメニューに登録されたVirtual PCとXP ModeはじめてXP Modeを起動すると本体のセットアップが始まるXP Modeをセットアップ中

 XP Modeは、タネも仕掛けも無い。というわけではないが、Virtual PC上に構築された仮想PC上にWindows XP SP3がまるまま入っているだけだ。実際、買ったばかりのネットブックと同様に、インストールして間もなくWindows Updateが動いていた。

 さて、XP Modeの作動モードは、Windows 7のデスクトップ上に「デスクトップをウィンドウ表示」、「デスクトップをフルスクリーン表示」、「アプリケーションがシームレスにWinodws 7上で動く」、と3パターンを選択できる。シームレスモードに関しては、最初にアプリケーションを起動する時、裏で先にOSをロードしているので少し時間がかかる。

 工夫されているのがVirtual PCの「統合機能」で、ホストマシンとなるWindows 7とHDDやプリンターなどをネットワーク接続で共有したり、XP Mode上でインストールしたアプリケーションがWindows 7のスタートメニュー上に登録されるなど、より使いやすい環境になっている。

 またWindows 7のスタートメニューからXP Mode上にあるアプリケーションを起動する時に限り、シームレスモードで作動する。ただし、シームレスモードで起動したXP Mode側のアプリケーションにはドラッグ・アンド・ドロップができない。クリップボード経由での受け渡しとなる。

 この時、既にインストール済みのIE6や、スタートメニューにショートカットを登録しないアプリケーションなどを、Windows 7のスタートメニューに表示できる。方法は、XP Modeのスタートメニュー→(右クリック)All Usersフォルダを表示、ここへショートカットをコピーすればよい。

 XP Modeの使用感であるが、ホストマシンがCore 2 Quad Q9550、そしてシステムドライブがSSDと、それなりに速いマシンなので、ウィンドウモード、フルスクリーンモード、シームレスモード、そのどれで動かしてもそこそこ使える感触だ。HDBenchの値を見ると、グラフィックス関連以外は、十分なスコアになっている。グラフィックスは、エミュレーションしているのがS3 Trio32/64、16bitカラーなので、当時の速度を考えればこんなものだろう。それほど酷い値でもない。

 デフォルトでは512MBのメモリが割り当てられ、その分Windows 7側のメモリを圧迫する。今回のように4GB搭載機であれば問題無いものの、2GBでは、Windows 7の使えるメモリが減るので動きが鈍くなる可能性はある。特にメインメモリを共有するタイプのGPUでは、実質1GB強程度しか使用可能なメモリが存在しないことになる。またCPUモニタを見ていると、4コアの内、1つをVirtual PCが、もう1つをXP Modeが、そして残り2つをWindows 7が使っているという割り当てになっていた。従って、XP Modeを使いつつ、ストレスなくマシンを使うには、マルチコアを搭載したマシンを用意すべきだろう。

XP Modeのウィンドウ表示XP Mode/Virtual PCの設定XP ModeはWindows XP SP3そのものなので普通にWindows Updateがかかる
XP Modeのデバイスマネージャホストマシンのドライブがネットワーク接続になっているXP Modeのパフォーマンスなど
IE6をシームレスに起動するには、スタートメニュー→All Usersへショートカットをコピーすると、Windows 7のスタートメニューに登録されるWindows 7のデスクトップにシームレスにIE6が起動Virtual PCでCentOSを起動

 Virtual PCは、XP Mode専用ではなく、「仮想マシンの管理」を開き、「仮想マシンの作成」から、新たに他のOSを組み込める。試しにCentOSをインストールしたところ、問題無く起動した。ただ初期設定のままでは、X-Windowの作動が24bitカラーになっているため画面が崩れ(Virtual PCのS3 Trio32/64は16bitカラーまで)、グラフィカルインストーラやgnomeなどが表示できず、更にマウスも反応しなかった。これを解決するには、インストールをテキストモードとし、gnomeなどX-Windowを使う場合は、xorg.confを編集し色の設定を24から16へ変更、マウスに関してはkernelの起動オプションに「i8042.noloop」を追加するなど、多少手直しが必要である。

 さて、ここで興味深いのは、このXP Modeを使う仮想PCソフトウェアはライセンス上、Virtual PCに限らないことだ(Aero UIをサポートした「VMware Workstation 7」を試すを参照)。例えばVMWarePlayer 3.0では、Virtual PCの仮想マシンをインポートする機能があるので、簡単にXP Modeを動かすことができる。ただし、この場合、XPがインストール直後の状態に戻り、アプリケーションなどのセットアップはやり直しとなる。

 ちょっと触った感じでは、仮想PCに割り当てるコア数を最大物理数分割り当て可能、3Dグラフィックス・アクセラレーション、Virtual PCよりも高速、シームレスモードで対応していなかったドラッグ・アンド・ドロップが可能など、より進化したXP Modeとなる。事前の検証を十分行なって欲しいが、本気でXP Modeを運用するならこちらの方がお勧めかもしれない。

VMWarePlayer 3.0のセットアップWindows XPモード仮想マシンのインポートしたところXPモードが起動。「ユニティに切り替え」でシームレス表示も可能

 Windows XPからWindows 7へ移行を促す最終手段として登場したXP Mode。確かにそれなりのマシンでは違和感無く使えるので、カジュアルな用途であれば十分使える環境だ。しかし、VistaをスキップしXPを使い続けている企業からみると、多くのマシンリソースが必要で、これまでWindows XPを使っていたマシンでは力不足だ。と言っても、新規購入するにも割高になるノートPCではなかなか難しいと思われる。こうした点には注意が必要だ。