武蔵野電波のプロトタイパーズ

世界の電子工作スターターキット・アメリカ/中国/日本編

 前回に引き続き、電子工作スターターキットの紹介です。今回はアメリカ、中国そして日本のキットから選んでみました。まずはアメリカ代表「littleBits」を見てみましょう。注目度の高い製品です。

ゲストは前回と同じく飯沢未央さんです。それぞれのキットを実際に体験してもらい、その感想を聞きました

 littleBitsのキャッチコピーを直訳すると「プロトタイピングと学習と遊びのための磁力で繋がるオープンソース電子モジュールライブラリ」となります。わかるような、わからないような……。いまひとつピンときませんね。でも、キットの箱を開けて、そのモジュールをひと目見れば「かわいい」「きれい」「さわってみたい」といった感覚が湧いてくるはず。既存の製品から類似性のあるものをあげるとしたら、電子ブロックやスナップサーキットあたりがまず思い浮かびますけれど、littleBitsはそれらよりもさらにカンタンで視覚的。とっつきやすさは最高レベルでしょう。

今回、記事のために調達したのは「Teaser Kit」という一番小さいお試し用のキット。Adafruitで29ドル。青い小箱に充電用のMicro USBケーブルが付いてきました
小箱の中身は3つのモジュール。右からバッテリ、LEDバーグラフ、圧力センサー。バッテリは充電式でUSBにつなぐとチャージが始まります。5個並んでいるLEDはメーターとして機能し、フィルムタイプの圧力センサーは指で押す力にちょうど良く反応します
littleBitsモジュールのキモはこの端子にあります。小さな磁石が埋め込まれていて、繋いでもいい端子同士を近づけたときは引き合い、間違った接続を行なおうとすると弾かれます。突起のおかげで表裏を逆に繋いでしまうこともありません。5つ見える電極の内2つが電源、残り3つは信号線と思われます。パチンと磁力で繋がるときの感触はなかなか良いものです(MacBookのMagSafeコネクタを少し弱くした感じ、と言えば分かるでしょうか)
電源モジュールとLEDバーグラフモジュールをパチリ。5つのLEDが明るくキレイに点灯しました。ここからスタートして、徐々に複雑な回路へと発展させていくのがlittleBits流
続いて2つ目の作例。いったん電源とLEDを切り離し、間に圧力センサーを挿入します。すると、指に加える力の強さに応じて光るLEDの数が変わる、タッチ式圧力メーターの出来あがり

 現在用意されているモジュールは35種類。中でもセンサー・スイッチ類が14種類と充実しています。モジュールはまっすぐ一列につなぐだけでなく、分岐モジュールを組み込むことで、1対2あるいは1対3の接続も可能です。また、反転や加算といった論理演算的なモジュールもあって、より複雑な信号処理へと発展する可能性が示されています。

 こうしたモジュールは1個1個バラで買うこともできますが(価格は12ドルから20ドル程度)、キットを買うほうがお得でしょう。かわいいケースも手に入ります。

89ドルの「starter kit」。10個のモジュールと電池がセットになっていて、センサーにLEDや振動モーターを組み合わせてインタラクティブなプロジェクトを作ることができます。
こちらはstarter kitを拡張するモジュールを集めた「extended kit」。価格は149ドル。USB充電タイプの電源モジュールはこちらに含まれます
2012年のクリスマスシーズンに発売された「holiday kit」(販売は終了しています)。クリスマスツリーを飾るのに最適なLEDチカチカ系のモジュール構成です

 littleBitsの開発者はレバノン出身でMIT卒の女子Ayah Bdeirさん。この方のお顔を見たことがある人は日本でも少なくないはず。実はNHKのTED紹介番組に登場してます。本家TEDでのプレゼンで脚光を浴び、資金面でのバックアップを得、プロジェクトが大きく前進したのが2011年から2012年。現在提供されているのは、2度の改良を経たver0.3です。

 我々は1つ前のバージョンのlittleBitsに触れたことがあるのですが、そのときは、かわいさや分かりやすさに共感する反面、制約の多さやコストが気になりました。その後、モジュールが増え、お得なキットも用意されたことで、印象はよりポジティブな方向へ変化しつつあります。

 littleBitsがオープンソースハードウエアを標榜し、コミュニティのアイデアを積極的に取り入れ始めた点も見逃せません。公式サイトのPROJECTSページには、ユーザーからの作例が集まりつつあります。

 ver0.3という呼び方から、littleBitsはまだ完成(ver1.0)の手前にあることがわかります。コンセプトは踏襲しながらも、少しずつ形を変え、要素を増やしながら、発展していくのでしょう。

 ここで飯沢さんのlittileBits評をまとめておきます。

 「よくできてますね。間違えて挿してしまうこともなく安心。今回は3つしか触ってませんけど、もっといろんなパーツがあったら凄いかも。ただ、できすぎという気も……。いろんな人が集まるワークショップならいいけど、作品づくりに使うときは、(そのできすぎなところが)かえって不便に感じるかもしれません」。

 さて、次は中国代表SeeedStudioの「Grove Starter Bundle」を紹介します。

 Groveは、センサーやアクチュエーター、表示装置などをモジュール化し、手軽にArduinoと接続できるようにしたモジュール群の名前。電子部品モジュールという意味ではlittleBitsに通じる存在でありながら、そのたたずまいはある意味対極ともいえ、我々はそこに中国らしさ、もっと範囲を狭めて言うと深センらしさを感じました。

我々が購入した時期のGrove Starter Bundleは、この専用ケースに入って届きました(時期によって入れ物は異なる可能性があります)。前回のArduino Starter kitやlittleBitsのときにも感じましたが、ぴったりサイズの箱に入ってくると気分が盛り上がります
フタを開けると、モジュールとケーブルがびっしり詰まっていて、秋葉原のパーツ屋さんでも嗅ぐことができる何かの匂いが立ち上がりました
約15本のケーブルが無造作に束ねられた塊がぞろっと出現。このケーブルを使って、専用シールド(Arduinoの拡張基板)と各モジュールを繋ぎます
パッケージ内に説明書の類は一切ありません。Seeed Studioのサイトに各モジュールの回路図とサンプルコードが掲載されているので、それを参照しながら自分で活用法を考えていくのがGroveのスタイルです
接続はカンタン。モジュールのコネクタはすべて4ピンに統一されています。本来なら多くの信号線を必要とする液晶ディスプレイもシリアル化されていて、ケーブル1本で接続可能です

 このキットに含まれるモジュールは次の通り。

・プッシュボタン
・ボリューム(可変抵抗)
・温度センサー
・プロトタイプ基板
・傾きセンサー
・LED
・ブザー
・液晶ディスプレイ
・リレー
・コネクタ付き電池ボックス

 上記に加えて、白い4ピンコネクタが並ぶ専用シールドとケーブルが付属します(Arduinoボードは含まれません)。これだけ揃って、お値段は39ドル。円高がピークの頃は、ことのほか廉価に思えました。

 入手できるモジュールは増加中で、ガイガーカウンターGPSといった高度なモジュールも加えられています。現在の総数はざっと数えて100種類。

 世界の工場、深センで作られているだけあって、コストパフォーマンスや品数の豊富さはとても魅力的。素の部品をブレッドボードで繋ぐ代わりにGroveを使ってなんでも作っちゃおう……という企画意図が見えてきます。残念なのはArduinoで走らせるプログラムや入門者向けの作例といった、ソフト面のサポートが充実しているとは言えない点。現在のGroveは「素材」として捉えるのが妥当でしょう。

 飯沢さんの意見はどうでしょうか。

 「フタを開けたときにアジアを感じました。基板と基板をしっかりつなぐので作品に取り込めそう。でも、使い方がわかりません(笑)。日本語のちゃんとした取説があったら見方が変わるかも」。

 Groveについては、入門者向けの作例を用意できなかったため、飯沢さんに何か動くものを作ってもらう過程は省略しました。

 続いては日本編。2つのキットを紹介します。まず、サンハヤトの『小型ブレッドボードパーツセットSBS-203 タイマーIC 555を使った電子工作キット』(以下555キット)から。

キットにはブレッドボード、電池ボックス、圧電ブザー、ジャンプワイヤーの小袋と、部品の小袋、そしてA4サイズ1枚の説明書が入っています。定価2,625円
説明書はオール日本語。ホッとしますね。キット同梱の説明書に載っている作例は2つだけですが、その他の7作例が製品情報ページで公開されています。同梱の説明書もダウンロード可能です(PDF)
飯沢さんは一番複雑そうな「電子オルガン」を作ることにしました。必要な工具はニッパーだけ。この作例ではタクトスイッチの足をテープから切り離すときに必要でした
説明書の配線図はカンペキで、ワイヤーの色まで一致しています。「この図を信じて1つ1つ部品を差し込んでいけば必ず完成しますよ」と、初心者に言えるキットです
キットに含まれるブレッドボードは単品でも販売されているSAD-101という使いやすい製品。リード線がサクサクと刺さるので、気持ちよく作れますね
電池(単3乾電池×2本)は別途必要です。最後に電池ボックスをつないで、完成
並んだタクトスイッチが鍵盤になっていて、押す位置によって抵抗値が変わり、タイマーICの発振周波数が変化します。ICの出力で直接ブザーを駆動するので、回路はブレッドボード上で完結します
青い半固定抵抗器も発信周波数を決める抵抗の一部となっていて、これを回すとピッチが変化して面白い効果が生まれます。予想以上に楽しく遊べる回路という印象でした

 完成後の飯沢さんの感想は次の通りです。

 「できあがりのキレイさがスゴイですね。図の通りそのままで組めるので親切。最初のうちはこのくらい正確に説明してくれないと間違えると思います。音が出るものを作ったことなかったので新鮮でした」。

 我々はこのキットを神田・神保町の三省堂書店で購入しました。電子部品店だけでなく、いくつかの大型書店でも扱っているので、秋葉原や日本橋に縁がない人も手に取りやすいはずです。取り扱い書店のリストがサンハヤトブログにあります。ただし、このリストは2011年にブレッドボードパーツキットを扱っていたお店を示しているので、SBS-203の在庫は店頭で確認してください。

 日本編の2つ目、そして本特集の最後は手芸系電子工作です。このキットも書店で入手できます。

 『羊毛フェルトでふわピカ動物をつくろう』(マイナビムック)はテクノ手芸部の監修による、電子部品と手芸用品からなるキット。32ぺージのかわいい冊子もついています。

 一口に手芸といってもいろんな素材が使われますが、この本で取り上げられているのは羊毛フェルト。もこっとした羊毛をフェルティング用の針でつついて形を作ります。このキットが提案するフェルティングが普通と違うのは、LEDを仕込んで光らせるところ。いわゆる「テクノ手芸」のスタート地点に立つことができます。

『羊毛フェルトでふわピカ動物をつくろう』(マイナビムック・1,590円)。内容物は羊毛フェルト(白10g、ピンク0.5g)、フェルティング用ニードル、フェルティング用マット、LED(あらかじめ抵抗器がハンダ付けされたもの2個)、ボタン電池、電池ホルダー、スイッチ、そして冊子。必要なものがすべてこの1箱で揃い、表紙にあるような「光るぬいぐるみ」を作るのに最適な構成となっています
事前にキットを飯沢さんにお渡しして、作例を1つ用意してもらいました。こちらがその成果物。赤目のスカル
羊毛を少し買い足したそうですが、それ以外はキットに含まれる道具と材料と情報だけで作れたとのこと。飯沢さんの芸風が発揮されています

 羊毛フェルト初体験だった飯沢さんの感想はかなりポジティブ。「思いのほか楽しかった。どこにいても、合間、合間の短い時間で少しずつ作れるのがいいです。この骸骨は1.5日くらいでできました。どこでやめるかが難しいですね」。

 これで世界の電子工作スターターキット特集は終了です。意図的に特徴的なキットを集めたので、その傾向からお国柄を論じることはできませんが、自分に合ったキット、あるいは友達に勧めたいキットを選ぶときの参考にはなると思います。もっとたくさんの国のキットを見てみたいですね。ドイツ、旧ソ連圏、タイ、南米あたりが気になってます。また新しいものが入手できたらご紹介しましょう。

(武蔵野電波)