武蔵野電波のプロトタイパーズ

FRISKケース内蔵型USBライト用調光モジュールの製作

 社内のなにげない会話の中で「今使っているUSBライトが明るすぎるんですよ。USB用の調光モジュールみたいなものがあるといいんだけど」という発言がありました。市販のものがまったくないわけではないらしいのですが、かなり値段が高いようです。そこで、なるべく安く作れて、そこそこ実用的に使える回路をプロトタイピングしてみました。今回はそのレポートです。

これが今回作ったものの最終形です。調光回路はFRISKのケースに実装し、ライトも秋月電子のLEDリフレクタとタミヤの工作材料を組み合わせて作ってみました。FRISKケースからちょこんと飛び出している可変抵抗器のツマミを回すと明るさが変わります

 回路の構成から順番に説明していきましょう。

 タイマーICのLMC555が心臓部です。これが可変抵抗器の値に応じてPWM波を生成し、LEDの明るさを変えます。

 PWM(Pulse Width Modulation=パルス幅変調)は矩形波のパルスの幅を変えることで、電力を制御する手法です。出力の状態は交互に繰り返されるオンとオフの2つだけですが、そのオンの時間を変えることで平均電圧を変化させます。オンとオフの時間の比率をデューティー比(デューティーサイクル)と言い、0%ならば0V(ボルト)、100%ならばオン時の電圧(今回はUSBなので5V)がそのまま出力されます。デューティー比50%のときには、オン時の電圧の半分(2.5V)が出力されるとみなしていいでしょう。

 LEDの調光にPWMを使うメリットは、回路図を見るとわかるように少ない部品数でスムーズなコントロールが可能な点です。それから、LEDに流す電流が一定であることから発色が安定します。LEDによっては電流の量が変化すると色も変わってしまうカラーシフトという現象が起こるため、PWMのように一定の電流値でコントロールする方法は光の品質の面でも有効です。

LMC555とその原型NE555。今回はLMC555を使いました。秋月電子で5個100円。本連載でも何度か登場しています。実に多くの用途に活用できるすごいICです。最初のプロトタイプが完成したのは1971年という超ロングセラー製品でもあります
左のUSB端子から電源をもらい、右端のUSB端子から出力します。LEDは右側のUSB端子につなぎます。LED側から見たときには、高速にスイッチがオンオフされているだけと言えます。オンオフの周期はおよそ100分の1秒。つまり、100HzのPWMです。LEDの前で手を素早く振るとチラツキが感じられるかもしれませんが、実用上は問題ない範囲と判断しました
PWMの模式図。毎秒100回のスピードでオンとオフを繰り返すだけです。オンの時間を変えることで、平均で見たときの出力値を設定できます

 この回路では、可変抵抗器を回すと、オン時間が約1%から約99%の間で変化します。回路の構成上、完全な0%と100%には推移しません。LEDによっては1%でも薄く光って見えるでしょう。完全なオフの状態を作りたい場合は、電源スイッチを設けて回路全体をシャットダウンできるようにしたほうがいいかもしれません。

 使用する電子部品をまとめておきます。秋月電子、共立電子、マルツなどで揃うでしょう。部品代は300円から400円といったところでしょうか。ただし、この他にUSBコネクタやブレッドボード、ユニバーサル基板などが必要です。

種類型番/仕様数量
ICLMC5551個
MOSFET2SK2231、2SK2232など1個
D1、D2(ダイオード)1N41082個
C1、C2、C3(積層セラミックコンデンサ)0.1μF3個
VR1(半固定抵抗器)100KΩ1個
R1(カーボン抵抗器)10KΩ1個

 制御回路全体をFRISKケースに収めることが目標です。しかし、いきなり実装するのはムリと判断し、まずブレッドボード上に構築しました。その際、問題となるのはUSBコネクタです。我々はサンハヤトの変換基板シリーズを用いて、サクッと組みました。ピン番号が基板上にプリントしてあるサンハヤトの基板は、USB端子との接続を間違って外部の機器を壊すリスクも低減してくれます。

555回路を小さなブレボの上に組むと、配線がチップの上空で交差したりして複雑そうな見た目になってしまいがち。部品数は多くないので、写真をよく見てつながりを解読してください。USB変換基板はサンハヤトのCK-41(Aタイプ・オス)とCK-38(Aタイプ・メス)を使いました。Bタイプのコネクタに対応する変換基板もあります
ドライバを使わずに調整できるように、半固定抵抗器はGF063P1KB104を使用しました。秋月の半固定ボリュームもドライバいらずです(サイズはひとまわり大きいです)
大容量モバイルバッテリと市販のUSBライトに接続してテスト中
半固定抵抗器のツマミを回すと、なめらかに明るさが変わります

 近頃、低コスト化が著しいモバイルバッテリを電源にして、ベッドサイドや階段に置いて使うことを想定していたので、まずそれを試してみました。

 回路に短絡(ショート)や極性間違えのような致命的ミスがあると、上流の機器にもダメージが及ぶ可能性があるので、PCにつなぐのはテストが十分済んだ後にしましょう。通常は短絡してもUSBインターフェイスの保護回路が働いて大事には至らないのですが、常に大丈夫と保証されているわけではなく、確実に嫌な汗が出ます。

参考までに、MacBook AirのUSB端子がショートしたときに表示されるダイアログを紹介します。もちろんワザとやったわけではありません。よそ見をしながらヘッドフォン端子にプラグを挿そうとしていて誤ってUSB端子に差し込んでしまったときに表示されました。2度と見たくないメッセージです

 調光モジュールをFRISKケースに実装するにあたって、便利なユニバーサル基板を調達しました。サンハヤトのモバイルケース用mini基板「UB-FSK01」です。ALTOIDSFRISKといったミント菓子のケースにピッタリ入るサイズで、電子部品店で入手可能です。大きなユニバーサル基板を切って使うこともできますが、製作の初手で一手間省くことができると、モチベーションが維持しやすいですね。白、赤、黒の3色から選べるので、ケースの中でお洒落したい人にもオススメです。

FRISKケースはどの味も同じ形のはずです
サンハヤトUB-FSK01は、4分割するとFRISKサイズ基板2枚と小さな「端っこ」が2枚取れます。のちほど、この端っこも活用します
先ほどブレッドボード上に組んだ回路を基板に移植するとこんな感じになりました。USBプラグは秋月が扱っている基板取り付けタイプです。ピンの間隔が基板側のピッチ(2.54mm)と少し違うので、曲げて調整する必要があります。オスのUSBコネクタは基板直付けではなく、不要になったケーブルをバラして再利用しました

 ユニバーサル基板を使って電子回路を組む方法については村田製作所「エレきっず学園」に分かりやすい解説があります。

・うまくいく電子工作のコツ > ユニバーサル基板に挑戦
http://www.murata.co.jp/elekids/ele/craft/knack/universal/

 部品を2セット用意し、まずブレッドボード上に実装してキチンと動くことを確かめてから、それを参照しつつ残りの1セットの部品を使ってユニバーサル基板上で組むようにすると迷いません。小さい基板ながら、面積は十分あるので、部品と部品の間をムリに詰める必要はありません。コネクタとICの位置を先に決めたら、その隙間の空間をまんべんなく使うようにしましょう。ギリギリになってしまうのは「高さ」です。FRISKケースの厚さにUSBコネクタ(メス)と基板を重ねて収めようとすると、ハンダ面のデコボコを最小限にする必要があります。ハンダを盛りすぎてしまったら、ハンダ吸い取り線で少し取り除いて平たくしましょう。

FRISKケース側の加工は簡単です。我々はニッパでプチプチ切って、コネクタとケーブルを通す穴を作りました。一度にたくさん切ろうとすると割れるので、ちょっとずつむしるようにするのがいいようです。カッター、彫刻刀、ミニルーターなどを使う方法もあるでしょう。可変抵抗用の丸穴をあけるときはドリルが欲しくなります
完成したFRISK版調光モジュール。ケース上面の穴から可変抵抗器のツマミが飛び出るようにしました(穴の位置が少々ずれました)
オスのコネクタをケーブル付きのものにしたところ、こういう使い方がしやすくなりました。組み合わせるUSB装置によっては、オスのコネクタも基板に直付けしてドングル型にしてもいいでしょう

 調光モジュールの出来に気をよくした我々はライトも自作することにしました。秋月が扱っているパワーLEDモジュールと専用のリフレクタを組み合わせると、高性能なLEDライトを簡単に組み立てることができます。

放熱基板付き1W白色パワーLED「OSW4XME1C1S-100」。放熱効果のあるアルミ基板に実装されているので、扱いやすいです。電球色のOSM5XME1C1Sも選べます。どちらも150円
「基板付パワーLEDリフレクターキット」は金属深絞り加工のナカザと秋月の協同開発製品。先述の基板付きパワーLEDをこのリフレクタと組み合わせると、より照明器具らしい輝きが得られます
組み立ては簡単。LED基板をリフレクタキットでパチンと挟んでください。端子面が合うよう角度に注意する必要はありますが、説明書をよく見れば大丈夫。配線は端子部に単線またはハンダメッキした縒り線を差し込むだけ
我々はこのLEDをタミヤのユニバーサルアームで作ったスタンドに取り付けました。可動部は1カ所だけの簡素なスタンドながら、実用性は十分です。ユニバーサルアーム工作が得意な人は、クレーンのような自在アームを組んでみてはどうでしょう
リフレクタのネジ穴とユニバーサルアームの穴のピッチはほぼ一致するので、写真のようにピタッとネジどめすることができます

 パワーLEDは発熱します。放熱基板が付いていても、大電流を流すと基板ごと熱を持ちます。プラスチックの工作材料に取り付けるので、電流を抑えめにして、熱の心配をしなくても済む領域で使うことにしました。

 電流の制限は単純に抵抗器を使って行なうことにし、入手しやすい33Ω 1/4Wのカーボン抵抗器を2本並列に接続した16.5Ω 1/2Wと、3本並列にした11Ω 3/4Wの抵抗(合成抵抗)を作って、明るさや実際の電流をチェックしながら仕様を決めました。最終的な回路は次のとおりです。

 33Ωの抵抗器を並列にして使うことで、小さい値の抵抗器を何種類も用意する必要がなくなり、耐電力を稼ぐこともできます。同じ値の抵抗器を2本並列にすると抵抗値は1/2、耐電力は2倍となり、3本並列にすると抵抗値は1/3、耐電力は3倍になります。

 作ったライトをモバイルバッテリのUSBポートへ接続し、何アンペア流れるか調べたところ、約0.17Aでした。

 テスターでこの回路の消費電流を調べるときは、電流モードを使うよりも、電圧モードを使って次のようにするのが簡単です。

 抵抗の両端(図中の赤い線で示した2点)にリードを当てて「電圧」を測り、計算で電流の値を求めます。「電圧÷抵抗=電流」という式に、調べた電圧と抵抗の値を当てはめてください。例えば、抵抗両端の電圧が1.8V、抵抗値が11Ωだとしたら、1.8÷11=0.16から、0.16A(160mA)流れていることがわかります。

さきほど余った基板にUSBコネクタと抵抗器を実装し、プラグを作りました。裸のままではアレなので、入れ物を作りたいと思っています。そろそろ我々も3Dプリンタを導入するべきでしょうか。

 0.17Aで連続使用すると、抵抗器と放熱基板がわずかに暖かくなります。夏場のテストはまだですが、問題ない範囲でしょう。用途によっては、抵抗を2本(16.5Ω)にして、明るさをもっと控えめにしてもいいかも。

このプロジェクトのテストを進めていた12月のある日、秋月から555を使ったPWMモジュールの専用基板付きキットが発売されました。偶然のタイミング。回路はとても似ています。このキットをベースにすればユニバーサル基板と格闘する手間が省けますね。FRISKケースに入れるのは難しそうですが……
FRISK型のケースは欲しいがミントは好きじゃない。かといって食べ物を粗末にできない質なので、中身だけ捨てることもできない……という人は、タカチのFRISKサイズケースを試してみてはどうでしょう。強度があり電池室が設けられていることから、FRISKケースほど簡単には加工できないかもしれませんが、ちょっとヘビーデューティーなモジュールになりそうです
こちらはサンハヤトの555パーツキット。555回路の実験に便利そう。次回はこのキットも含めて世界のいろいろな電子工作スターターキットを紹介する予定です

(武蔵野電波)