第22回「プロ並み写真をすぐ撮れるLEDライトセイバー」



 今回はLEDライトセイバーをご紹介します。これはスタジオやストロボといった場所や機材を使わず、広告写真に肉薄するような美しい写真を得られる画期的な撮影用照明器具です。

天井の蛍光灯照明で手持ちのフィッシングリールを撮影しました。真下に影が出ています。また、リール表面が鏡面仕上げのため、周囲が写り込んでしまいました
同じリールをLEDライトセイバーを使って撮影しました。影や写り込みが全て消えました。なお、カメラやレンズ、撮影位置の変更は一切なく、上の写真もこの写真もリサイズしただけでレタッチはしていません。光源と露出(絞りとシャッター速度)が変わっただけです
彼女が持っているのが(プロトタイパーズ版の)LEDライトセイバー。棒状の写真撮影用照明器具です。映画「Star Wars」のジェダイの騎士が使う武器に似ているからそう名付けられたのでしょうか? ともかく、物凄い威力を発揮する照明器具で、安価かつ容易に自作できます
【動画】LEDライトセイバーは、道具としては非常にシンプルです。プロトタイパーズ版はニッケル水素電池(単3形エネループ×8本)とAvago製高出力LED(1W Moonstone×2個)で作りました

 上の2枚のリール写真をどう思いますか? 我々はLEDライトセイバーの効果を知って驚愕しました。白色LEDを使った小さな照明器具だけで、まるでスタジオで緻密なライティングをして撮ったような写真が得られるのです。

 この驚異的な照明器具/撮影法を考案したのは、写真家の伊藤裕一氏です。氏のサイトのLEDライトセイバーカテゴリには、多数のLEDライトセイバー愛好者から寄せられたとびきり美しい写真が多々あります。ともあれ、LEDライトセイバーがどのようなものなのか、簡単にご説明しましょう。

 たとえばフラッシュを使って写真を撮った場合、光が当たらない側には影ができます。フラッシュをもうひとつ使えば、その影を消せます。が、実際は背景などに複数の影ができてしまいます。そういった細かい影を消すために、さらにフラッシュを追加したり、ディフューザーやレフ板で光の当たり方を調節したりします。被写体に写り込みができる場合は、それを消すための工夫も必要です。プロが撮る美しい広告写真などは、そんな理由からスタジオや複数の照明器具をはじめとする大がかりな設備を必要とします。

 しかし、LEDライトセイバーを使えば、被写体の大きさは限られますが、上記のような設備をほぼ必要としません。要るのは、真っ暗な部屋とLEDライトセイバー、そして絞り値とシャッター速度とピント合わせを手動で調節できるデジタルカメラだけです。

 LEDライトセイバーは白色LEDの光をある一方から均一に放つ光源です。上の写真のように片手で持てるサイズの光源ですが、被写体に対して自由な角度から必要なだけ光を当てられる“自在な面光源”として使えます。

彼女の斜め右上(天井)にある室内照明だけで撮影したもの。光源は面積の限られた面光源ですね。顔に影ができています
部屋の照明を全て消し、LEDライトセイバーのみを光源として撮った写真。露光時間(シャッター速度)は10秒、絞りはf/10です。顔の正面/左右/下からほぼまんべんなく光を当てました。LEDライトセイバーが顔の正面/左右/下に広がる大きな面光源として機能したというわけです
これもLEDライトセイバーによる写真。もう少し髪のツヤを出したいと思いましたが、失敗しました。被写体に“光を塗るように当てる”のですが、うまく行くまで少々トライアンドエラーが必要です
LEDライトセイバーによる撮影は長時間露光になります。ので、LEDライトセイバーの光る面がレンズから見えると、このように光の帯となって写ってしまいます。被写体も動いてしまいましたので、このようにブレ(被写体ブレ)を起こしてしまいました

 我々はLEDライトセイバーを使い始めてまだ日が浅く、その威力を十分引き出せてはいないのですが、それでもLEDライトセイバーの効果を十二分に感じています。我々が感じる効果は、主に以下の3つです。

・写り込み問題を簡単に回避できること
・被写体の質感表現が容易なこと
・光と影の演出を自由に試せること

 まず写り込み問題。見た目はツルツルしてキレイな被写体も、実際に撮影してみると、その表面に余分なものが写り込んでしまい、美しい写真になりません。小物撮影をしたことのある方なら、誰でも頭を悩ませた問題だと思います。

 しかし、LEDライトセイバーは光を自由な位置/角度から被写体に当てられます。また、被写体にナニカが写り込むのは、その余計なナニカにも光が当たっていて、それが被写体に反射してレンズに入るからです。LEDライトセイバーを使う場合、写したいもののみに光を当てられますので、余計な写り込みを大幅(もしくは完全に)なくせるのです。

天井の蛍光灯照明器具で撮った例。照明器具自体が腕時計の表面に写り込んでしまいました。時計下部に濃い影も出ています
LEDライトセイバーで撮った例。写り込みや影をなくせました。なお、上の写真とこの写真で撮影条件が違うのは、光源/シャッター速度/絞り値のみです。ほか一切の撮影条件は同じで、写真に対する処理はリサイズのみ。いわゆるレタッチは施していません。このことは、以下に掲載する2枚組の作例についても同様です
【天井照明】ステンレス製の鏡面仕上げカップです。盛大に写り込んでいますね
【LEDライトセイバー】写り込みを消せました。影を消せて、カップの内側を明るくできるのも、自由な方向から光を当てられるからこそです。なお、カップ周囲に見えるグレーの部分は、十分に照らされず(白く飛ばなかった)白いテーブル面です
【天井照明】上のものと同じ質感の灰皿です。写り込みのほか、影、白飛びなども見られます
【LEDライトセイバー】写り込みも影も消せました。階調も豊かです
【天井照明】天井の照明器具がレンズ内に写り込んでいます
【LEDライトセイバー】写り込みは消せましたが、LEDライトセイバーの振り方(レンズ面への光の当て方)が不均一だったためか、広告写真のようには撮れませんでした

 それから、LEDライトセイバーを使えば“被写体にできる影の制御”も容易です。本来なら複数枚のレフ板やディフューザーを使い、それらのセッティングを何度も変えて撮るケースでも、LEDライトセイバーなら数度の撮り直しで影をなくしたり、良好な光の当たり具合になった写真を得られるでしょう。

【天井照明】文字盤や時計下部に影が出ています。レフ板などでこの影を消すのはやや面倒なケースだと思います
【LEDライトセイバー】数度のトライで不自然な影を消せました
【天井照明】被写体下部に影があるほか、暗くて見えにくい部分も多い写真です
【LEDライトセイバー】違和感のある影が消え、被写体の表面質感も印象のよいものになりました
【天井照明】ペンチ下部に影ができ、また先端の金属部も平坦な印象です
【LEDライトセイバー】影を自然な雰囲気にでき、先端の金属質感も良好になりました

 LEDライトセイバーを少し使い慣れてくると、光の演出が楽しくなります。被写体への光の当たり方で、被写体がさまざまな表情を見せてくれます。そんな写真を撮っていると時間を忘れることも。こういった遊びを思う存分楽しめるのも、LEDライトセイバーの大きな魅力です。

【天井照明】実物は非常に美しいフライフィッシングリールですが、天井の照明ではいまひとつです
【LEDライトセイバー】実物に対するイメージに近い写真になりました
【天井照明】強い影が出てしまいました。存在感がもう少し欲しいとも感じます
【LEDライトセイバー】印象は大きく変わり、邪魔な影も消えましたが、表面質感が失われたかもしれません
【天井照明】なんだかよくわからない写真です
【LEDライトセイバー】適度にハイライトが入り、被写体の形状がよくわかるようになりました
【天井照明】ちょっと平坦な写真です
【LEDライトセイバー】極端な影やハイライトが消え、高級感や繊細さが感じられるようになりました

 上の作例で、LEDライトセイバーの効果が伝わったでしょうか? 我々が「LEDライトセイバーは凄い」と思うのは、上記のような作例を本当に容易に───わずかの時間、数度の撮り直し、手近な機材と環境だけで行なえることです。

 実際に上記の作例は、多いもので8枚、少ないものだと3枚程度撮るだけで「これで十分」と思える写真が得られています。もちろん、さらに追求し、より美しい写真を追求することもできるでしょう。それほど、LEDライトセイバーは可能性に溢れた道具です。

 それでは、LEDライトセイバーの作り方を見てみましょう。下記のようにLEDを光らせる部分から作らなくても、たとえば白色LEDを使った(ある程度強い光を放つ)ハンドライトを使っても作れます。

LEDライトセイバーに使うLEDは、特別な理由がない限り高出力の白色LEDです。我々はAvagoの「ASMT-MW09-NLL00」、1WのMoonstoneを2個使いました。理由は、試した高出力白色LEDのなかで最も良好な演色性を示したから───カメラのホワイトバランスをオートにしても自然な発色が得られたからです
1WのMoonstoneは300mA以上の電流を流せて、非常に明るく輝きます。その分、発熱も多いので、ヒートシンクを取り付ける必要があります。ヒートシンクとしては秋月電子通商で購入した「P-01903」を使いました
2個の1W Moonstoneとヒートシンクは、秋月電子通商で購入した熱伝導両面テープ「P-00516」で接着しました。接着は、ヒートシンクとMoonstoneを基板に載せたあとに行ないました
プロトタイパーズ版LEDライトセイバーの回路図です。電源は単3形エネループ×8本で約9.6V。高出力LEDの1W MoonstoneはVf=3.6V×2個。電流制限抵抗として定格電力1/4Wの100Ω抵抗器を8本並列で使っています
抵抗器を8本も使っているのは、手元に定格電力1/4Wの抵抗器しかなかったためです。より大きな定格電力の抵抗器を使えば、1本の抵抗器で済みますね。ちなみに左下にあるのは電源スイッチです。電池ボックスとはコネクタで接続できるようにしました
電池は単3形エネループ8本を直列で使います(約9.6V)。電池ボックスとして、秋月電子の単3×4本用金属電池ソケット「P-00233」を2個使いました
LEDライトセイバーのシャーシは50cmの竹製物差しです。その端に電池ボックスや基板を取り付けます。電池ボックスは結束バンドで固定しました
高出力LEDやヒートシンクを載せた基板はこのように取り付けました
物差しにユニバーサル基板をテープで固定し、そこにスペーサーを付けてLEDの基板を載せています。雑な細工ですが強度的には十分です
ここからがLEDライトセイバーの肝です。LEDの光を均一に反射させるためにアルミホイルなどの反射材を細長い箱の内側に貼るのが一般的ですが、ちょうどよい段ボール箱(市販の保冷用段ボール箱)を見つけたので、これを使います
このような箱を作ります。箱の内側でLEDの光が反射します
物差しを通せるサヤのような構造にしてみました。箱の部分を交換可能にするためです───じつは今回作った箱は、開口部への光の拡散に偏りがあり、改良の余地があります。交換式にしておけば改良版と容易に交換できるというわけです
箱の開口部はトレーシングペーパーなどで覆って光をディフューズします。これで箱内部で反射した光が、開口部から柔らかかつ均等に放たれます。また、箱の外側には黒い紙などを貼ります。我々は黒いマット地のテープ(パーマセル)を貼りました。なお、この箱の根本に高輝度LEDハンドライトを付けただけでも立派なLEDライトセイバーとして使えます
光が出る部分の周囲はこのように少し覆います。こうすることで、開口部の横に光が漏れず、光源の光が直接レンズに入ることを防げます
電池の部分はこのような伸縮するバンドで覆ってしまいました。ズボンの裾や複数本の釣り竿をまとめる伸縮バンドです。ここがグリップになります

 以上でLEDライトセイバーは出来上がりです。これ以外に必要なのは、繰り返しになりますが、絞り値とシャッター速度とピント合わせを手動で調節できるデジタルカメラと、真っ暗な部屋だけです。

 また、できれば、被写体の周囲を黒い板など反射率の低いもので囲むといいでしょう。長時間露光で撮影しますので、少し光ったり反射したりするものでも、被写体に写り込んでしまう可能性が高いからです。

 ともあれ、少しの工作で作れるLEDライトセイバー。数度の試行錯誤で信じられないほど表現力豊かな静物写真を撮れますので、ぜひチャレンジしてみてください。