電力消費のピークシフトについて考える



 大震災からも2週間が経過しようとしている中、それでも首都圏が通常モードになりにくいのは、ひとえに電力不足による活動量の制限と福島第一原子力発電所の事故、そしてそれに伴う精神的なものが多いと思う。

 前回、震災時の情報交換手段に積極的に使われたツイッターに関するコラムを書いた。その執筆時点では300人もフォロワーが増えたと書いたが、実はさらに増え続けて今では1,000人も増加している。それだけツイッターに情報を求めた人が多かったのだろう。

 当初は自衛団的にデマの拡散を止めるユーザーが多く、上手に仮想的な社会システムが機能していた。ところが、事態が多少落ち着いてくると、今度は放射線への見えない恐怖からか、過剰な反応も見られるようになってきており、混乱の波高は高くないものの、その波及する範囲はひときわ大きくなってきた印象だ。

 特殊な分野だけに正しい知識、判断、説明をできる人材が少なく、自警団的な役割を果たすグループの数が圧倒的に少ないことも原因かもしれない。放射性物質飛散に関しての注意を喚起する声が多いが、まずは次のリンク先を見て、自分でもよくよく考えてみるべきだろう。リンク先の内容評価については、門外漢のため書かないが、個人的には大変に信頼感のある話だ。放射線が心配という方は、一読しておくことをお勧めしたい。

□2011年3月21日14時- 山下俊一氏・高村昇氏「放射線と私たちの健康との関係」講演会
http://ameblo.jp/kaiken-matome/entry-10839525483.html

 また、NTTドコモが早急な3G回線の復旧を進め、KDDIは移動基地局で避難所をカバーしつつ基地局復旧、UQコミュニケーションズもほぼ復旧しつつあり、モバイルWiMAXが利用できる避難所が同社ホームページ上で公開されている。ソフトバンク・モバイルの復旧状況に関してはキャッチアップできていないが、おそらく昼夜を通して復旧に力を尽くしているのだろう。

 PC業界では、インテル、UQコミュニケーションズなどがモバイルWiMAX内蔵PCを仙台市内の避難所に設置したというニュースがあったが、これは三連休中にインテル日本法人の有志6人が集まり、現地ボランティアNPOと協力しながらPC設置を行なった結果だという。

 またインテルのお膝元である、つくば市には福島からの原発避難民が多数避難しており、ここでもインターネットを使った情報を提供するためにPCの設置を進めているそうだ。他にも具体的異な行動を起こしているPC業界の方々もいると思うが、冷静に自分たちが可能な範囲での行動を示している事に敬意を表したい。

 さて、震災モードからそろそろ抜け出ねばならぬと書いたばかりだが、震災後の電力事情はPC業界にも少なからぬ影響を与えると考えられる。まだ、今後どうなるか見通しがわからない部分もあるが、この電力問題は日本のPC業界変化するきっかけになるかもしれない。

●問題はピーク電力

 東京電力は震災後の電力供給能力の復旧に関して、まだ確定的な事は発表していない。ハッキリしているのは、福島にある2カ所の原子力発電所の年内の稼働は絶対にないということ。それに、新潟にある原子炉のうち動作していない3つは耐震対策の施工中であり、さらに原子力事故の直後ということを考えると、こちらも動くことはないと考えられる(正式に動かさないと発表しているわけではない)。また、太平洋岸の火力発電所も被害を受けている。

 他の発電拠点から受電(電力を受け取ること)も可能だが、それらを合わせても実際に稼働できる発電の合計は5,000万kW(キロワット)に足りない、と東京電力は試算しているようだ(第三者機関の試算では5,100万kWまで可能との指摘もあるが、大幅に異なるものではない)。

2008年までの夏期最大消費電力実績グラフ

 東京電力管内の電力需要は、資源エネルギー庁による需要期(真夏)ピーク3日分の平均で昨年実績が5,961万kW(最大5,999万kW)。ここ数年では5,400万kWだった時期もある。この値はその年の気温に大きく左右され、日中の気温が35度近くになると5,500万kWを超えてくるようだ。

 首都圏に住む人間としては、震災後の今年の夏、神様が涼しい夏を届けてくれることを祈るばかりだが、現在の所、都心部の経済活動は大きく萎縮しているため、節電を行なえば大丈夫ではないか、との指摘もある。とはいえ、日本の場合は、すでに省電力な機器が普及しているため、毎日500万kW級の節電を行なうのはかなり大変だ。

 27度設定以上のクールビズはもちろん、日常的な生活の中で省電力への努力が求められるだろう。おそらく計画停電は避けられないのではないだろうか。

 こうした事は中部以西の方には関係のないことだが、ここで1つ省電力について考え直してみるべきかもしれない。この夏を乗り切るポイントはピーク電力の削減であり、省エネルギーではないという事(もちろん、エネルギー消費を抑える事は悪い事ではない)である。さらに急に新たな発電所が作れない事を考えると、来年以降も同様に省電力の努力が必要になる。

 これだけ省電力が話題になっているので、すっかり皆さんの中でも定着したと思うが、電気を大量に溜めることはできない。従って、上記の電力はピーク値で、しかもその日の気温によって大きく変化し、企業の活動が終わってくる夜には、すっかり電力消費が落ち着いてくる。

 消費電力が落ち着く夜は、省電力に努力する必要はない。例えば、昼間や夕方の省電力は必要だが、夜間の看板や幹線道路、高速道路の灯り、街灯、あるいは店舗のイルミネーション、それにスーパーの夜間営業などは、電力消費のピークからは外れているため、自粛する意味はあまりない。夜間に看板を明るくしているとクレームが入るという店舗もあるようなので、無用な批判を避けるために暗くしていることの方が多いのだろう。

 特に都会の独身者にとっては、スーパーの夜間営業自粛が続くと辛いという人もいるだろうから、早く意味のない自粛から解放されることを期待したいものだ(もちろん、化石燃料の節約という意味での省エネルギーは意味のあることだが、消費エネルギー量の削減は社会生活を大きく変えずに工夫するべきだろう)

 これは筆者の立場で提言する事ではないだろうが、経済活動と電力消費はかなり強い相関がある。ピーク消費電力を抑える事は大変に重要だが、だからといってピーク時以外の活動を自粛していると、失業者が増えるだけだ。いずれは沈静化するのだろうが、“省エネルギーと省ピーク電力は違う”ということをみんなで理解しないと、この事態はなかなか乗り越えることができない。

 さて、ここで問題はPCという視点で見た時に、どうこの問題に取り組んでいくかということだ。実はこのピーク消費電力という点に関しては、すでに実績のある企業がある。日本IBM(当時:現在はレノボ)だ。

●ノートPCのバッテリを使ってピークシフト
ピークシフトに対応したThinkPad R40(2003年の製品)

 ほとんどのPCの話になってない、という話もあるが、かつて日本IBMはThinkPadに“ピークシフト”という機能を盛り込んだ。この機能はレノボグループにも引き継がれており、また東芝を始め他社も企業向けに提供されている場合がある。

 もともとの目的は、夏の冷房に使う電力料金やCO2排出を抑えるためのツールである。暑い日中13〜16時の時間帯に、オフィスで使われているノートPCを自動的にバッテリ駆動へと切り替え。PCの消費電力を抑えることで室内の温度上昇を最小限とし、エアコンの電力消費を抑えるというものだ。

 バッテリ駆動の時間を終えると、ThinkPadは即充電を行なうのではなく、動作に必要な電力だけACから取る。そして夜間の電力消費が少なくCO2排出電源の比率が少ない時間帯に充電をして翌日に備える。詳しくはこの記事の末尾にURLがあるレノボの解説ページを参照して欲しい。

 残念ながらページの情報によると現行機種はピークシフトには対応していないように見える。しかし、今年(2011年)2月から提供を開始している省電力マネージャーv.3.40以降では、ピークシフトが組み込まれている。どの機種がどのような条件でサポートされるかは、ThinkPadを導入している企業の購買担当から確認するのがいいだろう。

 なお、こちらのページによると、省電力マネージャーv.3.40は一時的にピークシフト機能が一般向けにもオープンになっていたようだ。ところがその後、機能が隠れるようになっていると読み取れる。PCの消費電力など知れているとはいえ、一般ユーザー向けにも解放されることを期待したい。

【11時41分追記】省電力マネージャーに関する記述を追記しました。

 同様の機能を何社が提供しているかは、筆者はキャッチアップできてない。もちろん、製品によっては長時間のバッテリ駆動が期待できない機種もあるだろう。とはいえ、今回の東京電力管内の問題に対しては、かなり有効に働くのではないだろうか。ピークの時間帯は季節やその日の天候によっても変化するので、できればネット上でリアルタイムに電力消費状況を見ながら、ピークシフトに入る時間が自動的に変化する方が賢いだろう。

●通常のUPSは計画停電には有効だがピークシフトには役立たない

 都内の計画停電が始まってからというもの、秋葉原からはUPS(無停電電源装置)が店頭から消え去ったという。デスクトップPCの場合、停電になるとまったく役立たないばかりか、データを失ったりシステムに不具合が出る可能性もあるため、万一のためにUPSで自動的に遮断したいということなのだろう。

 バカ売れしているというよりも、もともとがさほど多く流通するものではなかったため、急に売れ始めて在庫がなくなったと考えるのが妥当だと思う。

UPSについての注意事項が書かれた秋葉原店頭の掲示

 さて、このUPSを用いれば、デスクトップのPCを救うことはできる。が、個人が購入しやすい2万円程度のUPSは内蔵バッテリの容量が少なく、シャットダウンのための時間ぐらいしか稼げないため、停電中にPCを使いたいという用途には向かない。

 たとえばオムロンの「BY35S」、「BY50S」は、いずれも12V 7.2Ahの容量しかなく、長時間のバックアップ電源にはならない。もう少し容量の多いものもあるが、もともと大容量を期待するものではないことを理解しておく必要がある。勘違いしてハイビジョンレコーダの録画予約を完遂させるためにUPSを購入した知人がいたが、おそらく停電直後に録画開始する番組ぐらいしか、録画を完了できないのではないだろうか。

 計画停電時、デスクトップPCのデータロストや、電力消費の少ない機器(たとえばインターネットへの接続モデムや無線基地局など)を停電中にも使いたい場合には便利だが、バックアップ電源になるわけではない、ということだ。

 ではピークシフトには使えるのでは、という意見もあるだろう。しかし、停電中にUPSを使い続けると充電容量が減り、つながった瞬間に充電が開始される。充電のタイミングはプログラムできないので、ピークシフトには残念ながらならない。

 また、本格的にピークシフトに活用するためには、もっと容量の大きなバッテリが必要だろう。そもそも、バッテリの充電サイクルを考えると、大量にみんなで利用するという場合には環境負荷の高さも考慮せねばならない。

 筆者の場合、デスクトップPCにあるデータをすべてNASに移し、必要な時だけNASを起動(やや不便だがUPSを使わない場合はそれしかない)。ただし、仕事に必要なデータは選択し、全部ノートPCに入れて仕事するように切り替えた。インターネットへのアクセスは、モバイルWiMAXルータがあるので安心。停電中でもインターネットへの接続速度に不満を覚えることは、今のところない。

 とはいえ、PCに限らず家庭内やオフィスにある機器を電力ピーク時にバッテリ駆動に切り替えるという、ピークシフト機能の基本的なアイディアは、色々なところで使えるだろう。インターネットに接続し、判断材料をモニタしながら自動的にバッテリへの切り替えと充電を行なう賢い電源装置が、今後流行るかもしれない。

●まずはベーシックなところから

 さて、ピークシフトというテーマでPCの消費電力について考えてみたが、やはりどのようにすれば節電できるのかという、基本的な知識は覚えておきたい。すでに本誌でもニュースが掲載されているが、日本マイクロソフトはWindowsにおける省電力設定の情報をWebページにまとめている。

 また、ディスプレイ輝度をほんの少し落とすだけでも、十分に省電力化が行なえる。ノートPCの場合はさほどでもないが、デスクトップ用ディスプレイはバカにできない。たいていのディスプレイは明るすぎるぐらい明るいので、目への刺激が少ない程度まで輝度を落とすといい。もちろん、TVの輝度も同様だ。

 活動を制限するような省電力は不要だが、ピーク電力を意識してどうするべきかは、ユーザーもPC(だけでなくあらゆる電気製品)も意識するべきだろう。幸い、日本では電力消費が伸びてない(経済成長が止まっているため)が、本格的に復興に取り組む課程では、どこかで生産量を増やしていく(基本的には電力消費も伸びる)必要がある。相反する事に対して、どう立ち向かうか、それぞれの立場でアイディアを捻り出したい。

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(2011年 3月 24日)

[Text by 本田 雅一]