2010年のモバイル機器市場を占う



 ほぼ毎年、最後のコラムには翌年の事を書いてきている。昨年は何を書いていたかと振り返ってみると、モバイルPCの商品企画そのものに変化が現れてくるかも? (といより変化して欲しい)という話に始まり、ソフトウェア+サービスにハードウェアを絡めた商品の考え方に対して期待を書き、モバイルWiMAXやDLNA 1.5についても言及した。

 後者2つのテーマに関しては、まだ道半ばというところだが、出口は見え始めている。特にモバイルWiMAXに関しては実験サービス開始時の基地局数が約500、商用サービス開始時が1,500だったのが、今や4,500を超えて年内には5,000近くまで増えるという。

 2009年度末(2010年3月末)までには全県庁所在地をカバーエリアとするほか、都内などすでにエリア内の場所でも、基地局免許の申請手続きなしに設置可能な小電力出力リピータの包括免許が下りたことで、屋内やビルの影になってWiMAXが利用できない場所で利用可能な箇所が激増すると見られている。基地局自身も本命と見られていた、より高性能なNEC製基地局(従来型はSamsung製)が投入されており、実質的なカバーエリアはどんどん拡がっていくだろう。

 こんな事を書いていると「またかよ」と思うかもしれないが、実際に都内を動き回りながらWiMAXを使っているユーザーは、毎週のようにエリアが改善しているのを実感していると思う。そう考えると、今年もっとも残念だったのはWiMAXの実験サービス時のエリアが狭く、その後、急速にエリアを拡大しているのに評価されなくなってしまったことだろうか。

●来春は数年に一度のモバイルPC変革期

 IntelのPCロードマップに詳しい向きならば先刻承知だろうが、来年春はモバイルPC向けプロセッサが大きく変わる変革の時期だ。プロセッサとしてNehalemマイクロアーキテクチャを採用したデュアルコア構成のプロセッサチップに新しいGPUコアを1パッケージに収めるArrandaleが登場するからだ。

 ご存知のようにNehalemマイクロアーキテクチャは、モバイルPCプラットフォームがCalpella(例によってややこしいが、これはプロセッサではなくプロセッサやシステムチップ、通信チップなどを含むプラットフォームの名前)世代になったタイミングから使われているが、バッテリ持続時間はあまり長くない。

ArrandaleはCPUとグラフィックスの熱設計枠をシェアしながら協調動作する(9月のIDFにて)

 本格的にモバイルPC向けとして使うにはArrandaleが必要となる。当然ながらPCメーカーはArrandaleの登場にターゲットを絞って新機種を開発している。以前は新CPUが出てから1世代後ぐらいにしか、新プロセッサの特徴を活かした製品は投入できなかったが、今は開発サイクルが非常に速くなっており、アーキテクチャが新しくなると数カ月内にあらゆるタイプの製品が登場し始める。

 ということで、Core 2 Duoを採用していたモバイルPCの多くはArrandale採用のCalpellaプラットフォームへと移行していく。具体的にどの機種がどうとは書かないが、パフォーマンスを重視したモデルならば、まず間違いなくArrandaleを搭載するはずだ。

 Arrandaleの詳細に関しては、今年秋に行なわれたIDF Fall 2009のレポートを読み返していただきたいが、同じパッケージに封入されるCPUの各コアだけでなく、GPUも含めて統合的に発生熱量を管理、コントロールするというのだから画期的だ。

 筆者が知る限り、パフォーマンスもとても良好で、内蔵GPUのパフォーマンスもゲーマーを除けば充分に満足できるものだと思う。なによりパフォーマンスはとても良いので、上位のプロセッサを買っておけば当面は買い換えなくてもやっていけそう、と思うぐらい。

 加えて最新の省電力機能によってバッテリ駆動時間も……と行きたいところだが、実はここでIntelは少々つまづいている。ハッキリ言って、バッテリ駆動時間はどんなに工夫を重ねてもCore 2時代より落ちることになる。

 メーカー開発者によると「ハード設計の工夫などで省電力化が進歩している分を大きく超える」量の電力が増えてしまう。これはTDPの話ではなく、使用時の平均消費電力の話だ。Arrandaleが製造されるIntelの32nmプロセスは、とても良好な性能を発揮しているようなので、チップの省電力設計が甘かったのだろう。あらかじめ予想されていたよりも、消費電力が大きくなっているのだ。

 IntelもPCベンダーも、発表ギリギリのタイミングまで工夫をし続けるということだが、奇跡でも起こらない限り、現在のMontevinaプラットフォームと同等のバッテリ駆動時間にはならない。おおむねその前の世代のSantaRosaプラットフォームと同等以上の平均消費電力となると予想される。

 とはいえ、私自身はこの春はノートPCの買い時だと考えている。基本的なパフォーマンスが明らかに良くなるからだ。バッテリ駆動時間を重視するのであれば、今ならソニーVAIO XやNEC UltraLiteタイプVSのような製品、あるいは小ささを重視するなら富士通LOOX Uという選択肢もある。

 ましてや低価格製品としてネットブックが存在するので、もっと普通のモバイルPCが欲しいのであれば、少しでもパフォーマンスが良く、長い期間、満足感が持続するだろう新しいプラットフォームの方が良い。バッテリ持続時間こそすべてという方にはお勧めできないが、私は次の春のモバイルPC変革期は新しいプラットフォームへと冒険する価値があると思う。

 ちなみにArrandaleのその先はどうなの? という人もいるだろう。Arrandaleはオレゴンの開発チームが設計したものだが、その次はイスラエルHaifaで開発されているSandy Bridgeが投入される。しかし、Sandy Bridgeの登場は再来年の2011年だ。

 Sandy BridgeではArrandaleが抱える消費電力の問題は解決される見込みだが、熱設計はやや増えると見られている(ただし増えた分はハードウェア側の工夫で吸収できる程度)。Sandy Bridge世代のモバイルPCは、性能は格段に良くなると予想されるが、バッテリ駆動時間やサイズ、重さに関しては、Montevinaプラットフォーム世代の製品に近いものになると思う。いずれにせよ、2011年はまだずっと先のことだ。

●サービス+ソフトウェアよ、今度こそ

 冒頭でも挙げたように、Microsoftなどが掲げるソフトウェア+サービスというコンセプトに対して、そこにハードウェアも溶け込ませるように設計すべきと昨年末のコラムに書いていたのだが、実際には思ったよりもソフトウェアとサービスの融合に関して進みが遅い。

 Googleは特定端末やソフトウェアのアーキテクチャに依存しないようにするだめだと思うが、ブラウザベースでの提案ばかりだし、言い出しっぺのMicrosoftはWindows Azureの発表で企業向けのビジョンは示しているが、コンシューマ向けの解決策はWindows Liveを待たなければ判断できない。

 個人的には、来春に実施される予定のWindows Live刷新が試金石になると考えている。ここでMicrosoftは新しいOfficeを投入してWindows Liveを中心にした使い方の提案を行なうとともに、コンシューマ向けに何らかの答えを用意すると思う(というより、用意していないとしたら、誰もMicrosoftにコンシューマ向けのアプリケーションサービスを期待しなくなるだろう)。

 またLiveの刷新と同時に、Windows Live Essentialsも刷新されるだろう。こちらも現時点では全く使い物になっていないWindows Live Mailが、人身を掴むものになるかどうかや、どこまでサービスとソフトウェアの統合による利点を、わかりやすくコンシューマユーザーに訴求するのか? といった点で注目したい。

 もし、Windowsネイティブのリッチクライアントをサービスに組み合わせる利点を見いだせないようなら、ユーザーはGoogleのやり方で十分じゃないかと思うようになる。そこまでMicrosoftがそこを意識しているかは判りかねるが、LiveとLive Essentialsの刷新は、一般のPCユーザーに対するMicrosoftブランドの浸透度を高める上でかなり重要なものになるはずだ。

 この話題はモバイルPCを含む携帯端末のユーザーにとっても重要だ。Googleのサービスさえあれば、データはそこに預けて、あとは同じサービスをさまざまな端末から使えればいい。他はいらないという極端な意見もあるかもしれないが、1社への極端な集中は余り望ましいものではない。Microsoftだけでも、Googleだけでも歪みが出る。

●iPhoneの勢いは止まらない

 さて、そのGoogle。先日来より、Androidをベースにユーザーインターフェイスまでを自社で実装した携帯電話をテストしている。これはGoogle Mobileブログに書かれていることなので、特に隠し立てしていることではない。筆者の元には「Googleが自社でスマートフォンを開発する目的、理由は何だと思う? 」とさっそく経済誌や新聞記者からメールが届いた。

Android搭載ケータイ「HT-03A」

 すでに動作しているところを見た方もいると思うが、ハードウェアはHTC製でiPhoneのようにタッチパネルを使ったシンプルなフェイスのモバイル端末である。誰と話しても、もうハードウェアをGoogleが発売するという決定事項で話が進んでしまう。個人的には今この時点でも、Google自身がハードは出さないんじゃないの? と思っているのだが、真実はGoogleのトップあるいは実際にプロジェクトに関わっている人しか知らない。

 携帯電話のようにハードウェア機能と密接に結びついたアプリケーションの実装が必要なデバイスに関しては、端末側の実装も含めて自分たちで取り組んでいく必要があるとGoogleは考え始めたのだろう。Androidは非常にコンパクトで高性能なOSだが、ユーザーインターフェイスの実装までを含んでいるわけじゃない。

 このためAndroidケータイと言ったところで、iPhoneのような特定のフォーマットを意味するわけじゃない。自由度の面では利点があるが、しかしユーザー体験がバラバラで何がAndroidケータイなのか解りづらいという点では、コンシューマユーザーに対するメッセージ性は弱い。それに実際のところ、AndroidケータイがiPhoneに比べてユーザーインターフェイスで勝っている部分というのは思いつかない。

 だから、GoogleがGoogle Phone(仮称)を自社で作りたくなったとしても、それは自然なことだ。とはいえ、自社で本当に発売するのだろうか? AppleはiPhone事業においてハードウェアで利益を挙げている。AppStoreでの流通は収入源として見ていない。そうした様子を見て自社製品を……と考えるほど単純ではないと思うが、自社でハードウェアまで販売するようだと、うまくいかない可能性が高くなると思う。

 もっとも、いずれにしろiPhoneの勢いを止めるほどにはならないだろう。iPhone向けに開発できるアプリには制限がありすぎるという意見を聞くが、一般的な携帯電話に比べれば遙かにオープンスタンダードに合致した自由度の高いプラットフォームだ。

 たしかに革新的なアイディアの新しいアプリケーションでAppStoreが溢れかえるという状況ではなくなってきた。無料ソフトが増え、ライバルとの価格競争も激しくなって、初期のようなソフトウェア開発者にとってのパラダイスという状況はなくなってきている。

 そうした意味ではiPhoneも、来年には難しい状況を迎えるかもしれない。だが、それでもiPhoneの勢いは止まらないだろう。ただし条件がある。ここまで認知が拡がってくると、あとは必要な人には自然に拡がっていくものだが、ソフトバンク1社独占供給が続くと近いうちに必ず頭打ちとなる。

 来年中に頭打ちになるとは思わないが、もしソフトバンクの独占を続けるのであれば、来年末ぐらいには悪影響が出始めてくるだろう。来年中はまだまだiPhoneの勢いが弱まることはないだろうが、再来年には複数キャリアのサポートなども必要になってくると思う。

●来年の私的注目株
AmazonのKindle

 最後に来年、必ずブレイクすると思っている商品を挙げておきたい。それは電子ブックだ。日本での動向は不確定だが、北米は間違いなくブレイクするだろう。欧州も電子ブックへの注目度は上がっており、北米に次いで電子ブック関連事業が立ち上がっていくと思う。来年1月のInternational CESでは、電子ブックリーダを集めたパビリオンも設置されるそうだが、北米での注目度は日本からは想像できないほど大きい。

 なにしろ書籍の流通がまるまる電子化されるかもしれないのだから、注目度が高いのも当然だろう。単に注目されているだけでなく、北米では出版社自身が積極的に電子出版へと舵を取ろうとしており、コンテンツ不足に悩む必要がないこともブレイクするだろう理由の1つだ。

 北米のコンテンツ企業は、音楽流通で電子流通を制限しすぎたことで、かえって違法なコピーデータの流通が増えてしまったという事例の反省から、自ら正規品を電子流通させることに積極的だからだ。わざわざ違法コピーを作るモチベーションを下げるのが、違法コピー増加に対する良薬と知っているのだ。

 日本の場合も、大手出版社は電子出版にも前向きと聞く。ただし出版社側と流通側の取り分を巡っての意見の相違が大きい。日本の出版社は多くの場合、取り次ぎ(全国の書店に書籍や雑誌を配本する業者)が取っていた利益をそのまま自社に取り込み、書店利益分だけを流通側の取り分にしたいようだ。

 ただ、それでは流通側の取り分は売り上げ全体の3割ほどとなり、流通側の黒字化が難しくなってしまう。配信用サイトの運営コストはバカにできない。この部分に折り合いを付けていかなければ、日本で電子書籍の流通が活性化していく芽はないのではないか。問題解決の糸口は現状、まったく見えていないため日本で電子ブック市場が花開くのかどうか、現時点で動向を読むことはできない。

 春から夏ぐらいには日本語版Kindle、春ぐらいには電子ブックリーダにもなるAppleのタブレット型端末が登場すると噂されている。従って日本でも動きはあるだろうが、あまり大きなムーブメントにはならないかもしれない。ただ、世界中で電子ブックが注目されるようになり、違法なE-Pub形式の日本語書籍などがアンダーグラウンドで流通し始めると、やっと日本の出版社も重い腰を上げてくれるかもしれない。


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(2009年 12月 25日)

[Text by 本田 雅一]

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