Mac版Office開発者インタビュー



 先日、Microsoftは次期バージョンのOfficeとなるOffice 2010を、2010年前半にリリースすると発表した。MicrosoftはExchange ServerがOffice開発チームの管轄になるなどの構造改革を行なっていたが、その成果が現れる最初のバージョンがOffice 2010になる。Exchange 2010はβ版のダウンロード提供が開始されており、今年後半には製品がリリースされる予定だ。

Geoff Price氏(写真右)とErik Rucker氏(左)

 今年後半からはWindows Server 2008 R2、Windows 7がリリースされることもあり、Windows環境におけるMicrosoftのオフィスワーカー向け環境は、大きく変化していくだろう。そんな中、昨年発売されたOffice for Mac 2008の開発者が来日し、インタビューを受けてくれた。

 Microsoft・マッキントッシュビジネスユニット(MacBU)ユニットマネージャのGeoff Price氏とMacBUグループプログラムマネージャのErik Rucker氏だ。


●Office 2010発表後のMac版はどうなる?

 Mac版のOfficeは、Windowsを前提に作られたオフィス環境において、Macユーザーが問題なく仕事に参加できることを目的に開発されてきた。最初のバージョンはWindows版Officeのクローンに近いもので、その後、Microsoftが企業向けのメッセージングサーバーとして提供するExchangeへのアクセス機能を持つOutlookのMac OS版も開発されたことがある(残念ながらClassic環境向けなので、現在のMac OS X上では動作しない)。

 2人は次期バージョンのMac版Officeに関して「将来の製品については、現時点で言えることはない」とした。Microsoftによると、Mac版Officeは通常2〜3年サイクルで新バージョンを提供しており、Windows版Officeの開発サイクルとは、必ずしも同期していない。これはMac OS向け製品を開発するMacBUが、独立して各種製品のメンテナンスを行なっているためだ。

 しかし、Windows版Officeの開発と同期していないとはいえ、Windows版との互換性を保つ必要はあるため、Windowsで新バージョンが提供されると、その6〜8カ月後にはMac版Officeをリリースできるよう作業は進めるという。

 また、現行のOffice 2008に対してメンテナンスを続け、追加機能を加えることで最新の環境に対応していく。以前にもMicrosoftはMac版Officeに関して次期バージョンへのつなぎとなる最新アップデートを提供してきたが、今回も同様の措置が採られる。

 これは今年1月のMacWorld Expoで発表されていたもの。

 たとえばEntourage 2008は、これまでExchange Serverへのアクセスパフォーマンスが低く、機能面でも制限されていた。過去のバージョンと比較すれば、それでもパフォーマンスは上がっていたのだが、一番大きな問題はパブリックフォルダにアクセスできなかったことだ。

 しかし、この問題はEntourage 2008へ追加モジュールを加え、Exchange Server 2008 R2を組み合わせることで解決する。すでにパブリックβテストが開始されている「Entourage for Exchange Web Services(Entourage EWS)」がそれだ。

 Entourageは、過去のバージョンにおいてExchange Serverの持つOutlook Web Accessを用いて情報を取得、現在のバージョンはExchange Serverのストレージに対してWebDAVでアクセスしているが、これがもっと高速なアーキテクチャになる。

 基本はOutlook Web Accessの仕組みを用いるが、Exchange Server側に用意された処理モジュール(Exchange Business Logic Layer)でパブリックフォルダなどが持つ機能を処理し、その結果をWeb Service(HTTP)でEntourageへと送る。Entourageからのリクエストも、いったんBusiness Logic Layerで受け取って処理が行なわれる。

 このほか、Entourage EWSと同時に発表されたMicrosoft Document Collaboration Companion for Macも鋭意開発中で、SharePointやSharePointベースで提供されているオンラインサービスのOffice Live Workspaceへのアクセスを、Mac OS Xネイティブのアプリケーションからアクセス可能になる。


●CalDAV対応よりWindows環境との親和性向上を重視

 このようにメジャーなバージョンアップとは別に、Windowsベースの企業システムへのアクセス性を高めるモジュールを既存バージョンに提供していくという手法を、前バージョン時と同じように続けていくことになるようだ。

 Windows版Officeが開発されると、そこで導入された新機能のコアロジックがMac版にも使われるが、ユーザーインターフェイスや文書の画面表示などの部分は、Mac版専用に実装が行なわれる。それにより「Mac的」アプリケーションでありながら、Windows版Officeとの親和性も上げている。

 だが、中にはMac版に盛り込むことができない機能も出てくる。Office 2008の場合、それはExchange Serverへのアクセスだったり、SharePointを用いたコラボレーション環境への対応だったりしたわけだが、前述したようにこれらには追加モジュールによるアップデートで対応しようとしている。

 次期バージョンへの持ち越しとなるのは、Visual Basic for Applicationへの対応ぐらいだ。VBAの追加は大規模な改修となるため、現バージョンには追加されないが、次期バージョンではVBAサポートを復活させることが、すでに発表されている。

Rucker氏

 Rucker氏は「Mac的なアプリケーションであるよう開発をしつつ、Windowsとの互換性も重視している。そのバランスを上手に取っていきたい」と話しているが、システムとしてはWindowsとの互換性、ユーザーインターフェイスやツールとして使う際の振る舞いなどはMac的にといった方向のように個人的には感じる。

 たとえばOS X Serverを中心に据えたコラボレーション環境では、スケジュールはCalDAVサーバー、アドレス帳はLDAPサーバーで共有し、メールはIMAP4/SMTPで構成する。共同作業の環境はBlog形式の共有WebサイトとRSSフィードが用いられる。

 しかし、EntourageはCalDAVに対応しておらず、その他の情報にもアクセスはできるが、有機的に統合された環境を構築することは難しい。かろうじてMobileMeを通じて同期を取ることはできるものの、これはMac OS X標準のiCalやAddressBookといったアプリケーションと連動させているだけだ。

 この点についてはPrice氏は「優先順位の問題だ」と話している。Mac版Officeのユーザーが抱えている一番大きな問題は、ExchangeやSharePointへのアクセス性であって、まずはそれを解決して、企業内でWindowsユーザーとMac OS Xユーザーが共存できるよう整備をすることだとしている。

●RDP 7.0やWindows Live Messenger、それにOneNoteへの対応も
Price氏

 Mac版Officeの開発を中心としたMacBUの活動の目的が、Windows環境との整合性にあるのだとすれば、Windowsのリモートデスクトップに接続するRemote Desktop Clientや、Winodws Live Messengerと互換性のあるMSNメッセンジャーなどの改善も予定されているのだろうか?

 現行のRemote Desktop ClientはRDP 6.1を通じてWindows Vistaの機能へとアクセスできるが、Windows 7ではより高速化され動画にも対応するRDP 7.0が導入される。RDP 7.0はWindows Server 2008R2でも使われ、Hyper-Vによる仮想クライアント環境への接続プロトコルとしても利用される。

 「我々、MacBUの開発者はみんなRDC(Remote Desktop Client)のユーザーで頻繁に利用しています。RDP 7.0は比較的大きな変更が含まれていますので多少時間はかかるでしょうが、対応はしていきたい(Rucker氏)」とした。Mac版MSNメッセンジャーとWindows Live Messengerの互換性向上に関しても同様である。

 またWord 2008には、OneNoteにも似た”ノートレイアウト”による編集機能があるが、これはOneNoteとのファイル形式やOneNoteのノート共有機能との互換性はなく、あくまでもWordをメモ取りツールとして使いやすくした編集モードという位置づけだ。

 MacにはタブレットPCに相当するハードウェアがないため、OneNoteがMac版Officeに存在しないことは理解できるが、しかし、OneNoteで取ったメモをOneNoteのメモ共有機能を経由してMac OS X上でも閲覧したり、追加編集を行ないたいというニーズはあるだろう。たとえば筆者はモバイル機に主にWinodwsマシンを使っているが、デスクトップ上では主にMac Proを利用している。

 「ニーズがあることは理解している。MacBUではWindowsとMac OS Xの混在環境でスムーズに作業できることを目標としているので将来的に対応していきたい」(Price氏)と話したが、具体的な対応計画については明言を避けた。

●Office 2010とMac版Office

 残念なことに将来のMac版Officeに関しては有用な情報を得られなかったが、しかし、Microsoftから発表されたOffice 2010や、その関連情報を見る限り、Mac版OfficeとWindows版Officeの親和性は、さらに高くなっていくようだ。

 ここで言う親和性とはファイル形式やレイアウトの互換性という意味ではない。ファイル形式やレイアウト、操作性などに関しては、一部にユーザー層の違いやOSの違いによる実装の差はあるものの、Office 2008の段階で高い互換性を備えている。

 問題はそうした個々のプログラムの互換性ではない。現在のOfficeは「Office System」という名称を使っていることからも判るとおり、コラボレーションやメッセージングのためのサーバーを含めたシステム製品だ。組織的にもExchangeServerもサーバー開発のチームではなく、Officeのチームが開発を担当している。

 Mac版Officeの当初の目標は、会社の仕事を自宅に持ち帰った時、Macユーザーであっても問題なく作業を行なえるようにすることだったが、現在はWindows Serverを中心とした企業システムにMacを接続した時にも、きちんと繋がるよう求められるようになってきた。

 Office 2010は従来のOfficeの枠から一歩踏み出し、PC・ブラウザ・携帯機器という3つの利用環境向けにOfficeの機能を提供する。どの利用環境で文書を作成しても、どの環境で修整を行なっても、データやフォーマットの情報は損なわれず、完全な相互運用を実現するという。また、Exchange Serverの開発がOfficeチームになった事を活かし、そのクライアント(主にOutlook)の関係強化されるようだ。

 たとえば、前述したExchange 2008R2で利用可能なExchange Business Logic Layerだが、これはOutlookが行なっていた処理の一部をサーバー側に移動させることで、クライアント側の処理をシンプルにする仕組みだ。このレイヤを挟むことで、従来はクライアントプログラムとサーバーが一体になって提供していた機能を、携帯機器やWebブラウザに対しても行なえるようになる。Entourage EWSは、こうしたExchange側の仕様変更に基づいて実現された機能なのである。

 Office 2010がWindows上のアプリケーションプログラムだけでなく、ブラウザや携帯機器を含む多様な利用環境においても機能差のない環境を提供するということは、Mac版Officeにおいても、システム的な互換性が取りやすくなることを意味している。

 予定通りに開発が進めば2010年春には発売されるOffice 2010。その後、6〜8カ月後のリリースとなると、Mac版Officeの次期バージョンは2010年終わりから2011年初頭といったところだろう。その次期バージョンでは、今よりもさらにWindowsとMac OS Xの親和性が高まっているに違いない。

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(2009421日)

[Text by 本田 雅一]

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