今回は先週あった2つの話題を取り上げてコラムを進めることにしたい。
1つはDoblog閉鎖に向けたアナウンスの話題。モバイルユーザーに関係なさそうな話に思えるが、しかしパーソナルにモバイル機器を使いこなそうと思えば、何らかのネットワークサービスに依存しているものだ。大手事業者によるサービスのトラブルと閉鎖までの動きというのは、モバイラー向けの各種ネットワークサービスにも起こりうる。
もう1つはiPhone向けアプリケーションのダウンロードが10億本を突破したという話題。新聞などを読んでいると、ブランド力のあるアップルの製品を担ぐことでソフトバンクは成功したというニュアンスだ。しかし、単純にブランド力やデザイン、機能といった問題でiPhoneが浸透してきたわけではない。静かに、少しずつ市場環境が変わってきているのだと思う。
●Doblogサービス停止に考える個人向けネットワークサービスDoblogでの告知 |
NTTデータが提供してきたDoblogが、今年2月8日に深刻なストレージシステムのトラブルが発生し、ユーザーが蓄積してきたデータが失われ、いったん昨年8月までの古いバックアップデータが復元されたものの完全な回復の目処が立たず、新たなエントリーの登録やコメントなどが行なえない状態になっていたことは、インターネットのユーザーならば多くの方がご存知のことだろう。
初心者にも優しい、管理しやすいブログサービスとして人気の高かったDoblogだが、これまでもトラブルやメンテナンスによる停止、あるいはアクセスピーク時のパフォーマンス不足が度々話題になっていた。
その後の復旧努力によって、トラブル前日ぐらいまでのデータはほぼ復旧したとのことで、筆者の知り合いが開設していたブログも一部のコメントを除いて、データがほぼ回復していた。2カ月半以上もかかったのは、有効なバックアップが無かったためだろうが、担当者はそうとうに大変な作業をこなしたのだろう。現場の方々にはお疲れさまと言いたい。
もちろん、トラブルが拡大したことそのものに関して同情の余地はない。データ保護や可用性の確保など、今回のような事態に至ってしまった不備の大部分はNTTデータ自身にある。個人ユーザーの筆者でさえ“RAID 5は怖い”と思っているのに、これだけ規模の大きなコンシューマ向けサービスでRAID 5を使い、さらにバックアップもトラブルを抱えたのだから。
Doblogでブログを展開してきたユーザーからすれば、いまだに腹が立っているという方もいるかもしれない。が、ストレージシステムの運用不備に関しては、NTTデータという会社の性質を考えれば、風評の悪化ということで充分にペナルティを受けているのではないだろうか。
また、今回のトラブルをきっかけに、サービス継続が難しくなった事情も理解できないわけではない。無料ブログサービスという事業形態は、そもそも利益を出しづらい状況にある。コンシューマ向けサービスはNTTデータの中核事業というわけでもなく、長期サービス停止でユーザーが離れた後ならば、サービス停止という選択肢を採るのも無理はない。
しかし、止め方が良くない。できることならば“立つ鳥跡を濁さず”ではないが、表面的な謝罪の言葉だけではなく、サービスを停止する理由はきちんと説明しなければならなかった。ところがNTTデータは「Doblog開設時の目的である、ブログシステムを構築するための技術的知見、およびコミュニティサービスを運用・運営するためのノウハウの蓄積については十分に達成できた」ことをサービス停止の理由とした。
しかし、これはおそらく事実ではないと思う。もちろん、ブログシステムを構築・運営するためのノウハウを得たかったというのは本当だろう。NTTデータはブログをベースにした、企業とユーザーとのコミュニケーションを行なうシステムの提案を行なってきた。そのためのトライアルとしてDoblogを始めたのだと思う。
とはいえ今回の場合、直接的な原因は異なるはずだ。キズに塩を塗り込むつもりはないが、もう少し別の止め方があったのではないだろうか。今回のようなことがあると、NTTデータが別のサービスを開始した時にも、不安を感じて積極的に利用したいとは思わなくなる。トラブルはない方が良いが、起きたときにはその後の対応で、その企業の本当の実力や考え方、経営方針が判ると思っている人は少なくないと思う。
この話を取り上げた理由は、冒頭でも述べたようにモバイル環境でPCを活用しようというユーザーにとって、Webサービスの活用は今や必須になってきているからだ。所属企業が用意してくれるサーバーがあれば充分という人はともかく、個人でPCを道具として活用している人、中小規模の事業者などは、今後、さらにWebサービスを使う機会が増えると思う。
Doblogのサービス終了というニュースは、決して対岸の火事ではない。なにしろDoblogの運営母体は経営基盤の弱い、始まったばかりのベンチャーなどではなく、NTTデータという大企業だ。トラブルの発生は避けられないとしても、サービスが突然終わることを想定していたユーザーは少ないと思う。
だが、一時はあれだけ流行した無料ブログサービスの採算性が大きく下がり、採算性が改善するアイディアもない。トラブルがあったとはいえNTTデータほどの大企業まで閉鎖を選択せざるをえなかったのは、今後の事業性が見込めないと経営側が判断したためだと考えられる。
言い換えれば、特定のサービスへの依存を強め過ぎた運用を行なっていると、そのサービスの流行が過ぎ去った時には、大手と言えどもちょっとしたきっかけで簡単にサービス停止を選択する可能性があるということだ。ユーザーは常に「今使っているサービスが中止された場合のこと」を意識して使わねばならない。
もっとも、あまり後ろ向きばかりではつまらない。これをきっかけに“必要な対価をきちんと支払って使う”サービスの割合が増えていくことに期待したい。どんな時にも、“無料化”という手法には罠があるものだ。
●発売後1年してもiPhoneが売れる理由カウントダウンイベントを行なっていたiPhoneアプリケーションのダウンロード数が10億本突破を突破した。ところが、冒頭に挙げたようにブランド力やデザイン、カッコ良さなどがiPhoneを成功に導いたという論調が多いように思う。
しかし、本質は別の所にあるのではないだろうか。
この連載では、以前にも同様の主張をしているので繰り返しになってしまうが、iPhoneの魅力はカタログとして売り文句を並べるだけでは理解できない。iPhoneの本質的な魅力は、“どんな機能が組み込まれているか?”ではなく、“どこまでできることが増えていくか?”にあるからだ。
10億本というダウンロード数が示すのは、単に端末が売れたということではなく、それだけ多様なアプリケーションが開発されたということだ。数本のヒット作が開発されただけで、これだけの数字が出るわけではない。
携帯電話という枠組みの中で汎用性の高いコンピュータプラットフォームを作る事で、デベロッパーとユーザーのコミュニティを形成し、自発的に機能が発展していく。そのことが生み出すダイナミズムこそが、発売後1年を経過してもiPhoneが異彩を放つ理由だ。いや、むしろ1年経過してアプリケーションの開発が進んだからこそ、一部のユーザーはiPhoneへの移行を決意したのではないだろうか。
年内には新機種の声も聞こえるiPhoneだが、しかし、現行のiPhoneもアプリケーションの追加、OSの更新によって新たな使い方を増やしていく。その部分の違いが見えてこなければ、iPhoneユーザーがiPhoneを愛でる理由は見えてこない。
(2009年 4月 28日)