森山和道の「ヒトと機械の境界面」
アクティブリンク、重量物運搬時の腰を助ける「アシストスーツAWN-02 阿吽」
~都内で技術セミナーを開催
(2014/9/12 06:00)
アクティブリンク株式会社は9月11日、パナソニックセンター東京にて、8月27日に発表した重量物の運搬を助ける「アシストスーツAWN-02 阿吽」に関する技術セミナーを開催した。「アシストスーツAWN-02 阿吽」は着脱が簡単なリュック型で、モーターを使って、重量物を持ち上げるときに上体を引き上げて腰の負担をサポートするアシストスーツである。
重量物の積み降ろし作業を想定して開発された「アシストスーツAWN-02」は、体幹の動きを位置センサーで検出し、動作に合わせて腰部分のモーターを回転させて、腰の負担を軽減する。アシスト力は15kgf。アクティブリンクが総合物流業を営む株式会社辰巳商會と共同で、物流現場における荷役作業の身体負担を軽減する補助器具として開発した。
稼働時間は約150分から180分程度。バッテリはリチウムイオンバッテリ。おおよそ、午前と午後にバッテリを交換するような使用状況を想定している。モーター数を2個に減らして7kg台(バッテリ込みでも収まる)に軽量化した。独自開発のアルゴリズムによって腰部分の位置センサー(ロータリーエンコーダ)を用いて着用者の動きを検出することができ、荷物の持ち上げを助けるモードや、上体を保持して荷物の搬送を補助するモード(中腰姿勢の保持)など、作業に追従してアシストモードを自動的に切り替えることができる。アシストは歩行時にはオフになり、自由に歩ける。
イメージとしては、手を膝について立ち上がるような感覚で背中を曲げた持ち上げ姿勢からの立ち上がりを補助してくれる。腰痛持ちの人には分かりやすいかもしれない。
2015年度中の量産を目指す。価格は検討中だが、売り切りでは1台あたり50万円程度を目標としている。
アクティブリンクは奈良市にある松下電器産業株式会社の社内ベンチャー制度「パナソニック・スピンアップ・ファンド」により2003年6月に設立された、今年で設立12年目の会社である。2013年3月には三井物産株式会社との業務・資本提携を発表した。現在の資本金は2億2,400万円で、内訳はパナソニック株式会社が79.6%、三井物産株式会社が19.6%となっている。従業員数は11名。
同社は「年齢や性別に左右されず思い通りに働くことのできるパワーバリアレス社会の実現」を目標に汎用パワードスーツの新規市場創成を行なうことを創業以来のビジョンとしている。労働人口減少と高齢化の進む社会の中で「力の必要な現場で、力のいらない作業を実現したい」と言う。
2024年にはパワーアシスト市場は1,000億円を超えると予想されている。創業当初はゴム人工筋を使ったリハビリ支援スーツなどを開発していたが、現在の同社は、まず物流現場でのBtoBビジネスから展開しようとしている。
労働衛生法には、自力での作業においては可搬重量を作業者体重の4割以下とする努力義務の制限がある。そのため人力ではおおむね20kg以下の作業に制限されている。また農作業では作業員が高齢化しており、力の補助にはニーズが大きい。そのほか、災害補助や医療福祉などパワーアシストの用途は広い。同社ではアシスト力30kgf以下と、災害現場などで対応する100kgf以下の力の補助の2つに分けられると考えていると言う。またコスト面からまずは単機能、単軸アシストに制限した機器を市場に出そうとしている。
同社のパワードスーツは、力センサーや位置センサーを用いて実際に検出された力変動に合わせて駆動力を調整し、装着時間は30秒以内で、足底や上体ベルトのみのラフな拘束を基本とした、重作業向けであることが特徴だ。拘束がラフであることによって機械と操作者の関節軸も一致しない機械とすることができるので、本質的な安全を実現できると考えているという。アシスト制御方法については藤本社長は「原理的にはアシスト付き自転車に近い」と紹介した。
今回の「アシストスーツAWN-02」は、同社がそれまでに開発した大型の「パワーローダー」の簡易版である「パワーローダーライトPLL-01 一徹」の一部分を取り出したものだ。「PLL-01 一徹」は、足首のペダル部分の6軸力センサーを使って力の大きさと向きを検出。それに合わせて足の動作を追従させる「力制御によるダイレクト・フォース・フィードバック・システム」が用いられており、ハードウェアスペック上では最大40kg重(約400N)脚力を増大させることができる。
だが「PLL-01」では上半身部分のアシストアームと対象物の重量を支えるために、腰、ひざ、足首の各部にモーターを配置しており、装置全体の重量も重く、コスト面においても課題があった。そこで「AWN-02」では腰の負担軽減に特化。モーター数を左右の腰の2個に減らした。設計も見直して重量も軽量化し、コストダウンを実現した。
実験室での荷物の上げ下ろし作業においては、腰の負担を軽減するだけでなく作業効率の改善効果も確認しており、既に2013年夏から辰巳商會の協力のもと、大阪港物流倉庫で荷役作業者へのヒアリングや実証試験などを実施。ギヤを樹脂化するなど、軽量化を中心に機能を向上させてきた。「道具としてうまく使っていただければ実用に耐える機能は実現している」という。特に何度も作業を繰り返すときに負担軽減効果が感じられるという。
このパワードスーツは自重を人間が支えなければならない。そのためずっと着用を続けていると負担になってくる。だが一定の疲れが溜まるまでは助けてくれるもので、2、3時間程度の着用であれば、着けて作業する方が楽だという。定性的な評価は現場でのテストを通してできているが、定量的な評価手法の開発等については苦労していると藤本氏は語った。
今後は物流現場以外にも農業や工業などの分野で用途開発を進め、2015年度中に量産を開始する予定。製品の販売は三井物産株式会社、パナソニック株式会社を通じて行なう予定で、レンタルやリースも検討中。農業分野では農林水産省「平成26年度農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」の支援の下、2014年9月から株式会社フィールドワークスなど福井県内の農家と連携した実証実験を開始する(重量野菜等の収穫作業における多様な動きに対応した、実用的な「農業用アシストスーツ」の開発・実証)。イモ生産農家での荷作業を行なうとのことだ。
今後は上半身も付いて軽作業支援ができるパワーローダーニンジャ「PLN-03」を2016年に、重作業ができる「PLL-X」の量産を2019年に実現することを目指す。