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AMDが「Vega」と「Navi」など今後3世代のGPUロードマップを発表

AMD幹部が揃った米サンフランシスコでのイベント

 AMDは、今年(2016年)投入する次世代GPUアーキテクチャ「Polaris(ポラリス)」のフラッグシップGPU「Polaris 10」と「Polaris 11」の実チップデモを公開。また、Polarisに続く「Vega(ヴェガ)」と「Navi(ナヴィ)」までのロードマップを明らかにした。さらに、Fiji(フィージー)を2チップ搭載した16TFLOPSのハイエンド製品「Radeon Pro DUO」を発表。AMD APUを搭載した画期的なオールインワンVR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)ヘッドセット「Sulon Q」も紹介した。

 AMDは、「CAPSAICIN(辛み成分)」と題したカンファレンスを米サンフランシスコで開催。新GPUロードマップとともに、Polarisのデモやパートナー各社のVRコンテンツなど盛りだくさんの内容を紹介した。カンファレンスには、Radeon製品グループのトップRaja Koduri(ラジャ・コドゥリ)氏(Senior Vice President and Chief Architect, Radeon Technologies Group, AMD)だけでなく、AMDを率いるLisa Su(リサ・スー)氏(President and CEO, AMD)も登壇。また、会場には技術面のトップであるMark Papermaster(マーク・ペーパーマスター)氏(Senior Vice President and Chief Technology Officer, AMD)もおり、オールスターの顔ぶれで、今回の発表にAMDが力が入れていることを示した。

AMDの経営トップであるLisa Su(President and CEO, AMD)氏
会場となったサンフランシスコの「Ruby Skye」
Polarisではゲーム「Hitman」をデモ
Fijiを2個搭載したモンスターボード「Radeon Pro Duo」

恒星シリーズとなったAMD GPUアーキテクチャコードネーム

 AMD GPUは、いよいよFinFET 3Dトランジスタ世代に突入する。4年以上続いた28nmプロセスから抜けだし、電力当たりの性能を大幅に向上させる。FinFETの最初の世代となるPolarisファミリは、今年(2016年)登場する。Polarisでは、28nm世代のGPUに対して、性能/電力が2.5倍に上がるという。これは、FinFETではトランジスタが立体構造になり、チャネルがボディからほぼ分離され、ゲート面積が増えることで、リーク電流(Leakage)の抑制が容易になるためだ。性能/電力は、どの製品を比較するかによって変わるので、2.5倍という数字は最大2.5倍と考えた方がいいだろう。それでも、劇的に電力効率がアップすることは間違いがない。ちなみに、AMDはGLOBALFOUNDRIESの14nm LPPプロセスを採用すると見られている。

FinFETプロセスに突入するAMD GPU
FinFETは電力効率の面で圧倒的に従来のプレーナ型トランジスタより優れる
FinFETプロセスで大きく発展するAMD GPU
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 AMDの、GPUアーキテクチャのコードネームは、今後の世代は恒星名となる。FinFETの最初の世代のPolaris(北極星)が天球の指針となる星であることは、今後の方向性を示すことを暗示しているようだ。2世代目のVega(こと座α)は明るく輝く1等星で、より性能がアップすることと関係するように見える。ちなみに、3世代目のNavi(カシオペヤ座γ)は変則的な変光星で、ミステリアスな巨星だ。Naviという名前は、悲運の宇宙飛行士ガス・グリソン(アポロ1号の事故で死亡)が名付けたという。

恒星名シリーズとなったAMDの新GPUアーキテクチャ
Raja Koduri(ラジャ・コドゥリ)氏(Senior Vice President and Chief Architect, Radeon Technologies Group, AMD)

HBM2とスケーラビリティインターコネクトの時期が明らかに

 今回、Polaris世代では、メモリはHBM2ではなく、HBM1世代になることが明らかにされた。HBM2メモリに変わるのは、Polarisに続くVegaとなる。AMDのチャートでは、PolarisとVegaのリリース時期が近接している。これは、この2つのGPUアーキテクチャが比較的近似であることを推測される。GPUマイクロアーキテクチャ的には、VegaはPolarisの発展形で、メモリ帯域が最大2倍に上がると予想される。

 HBM2になるとメモリのピンあたり転送レートが2倍になるだけでなく、スードメモリチャネルでメモリチャネルの効率が大幅に上がる。また、DRAMダイの容量が2G-bitから8G-bitに上がるため、メモリ容量も大幅に増える。現在のHBM1採用のGPU Fijiは、4スタック構成でメモリ容量が4GBだが、HBM2になるとメモリ容量は最大で32GBと8倍に増える。そのため、サーバー市場での魅力が増す。

HBMメモリの容量推移
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HBMメモリのバンド幅推移
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HBM1とHBM2世代の比較

 Naviでは、「Scalability(スケーラビリティ)」と「Nexgen Memory(次世代メモリ)」の2つがキーワードとなっている。スケーラビリティについては、Raja Koduri氏が昨年(2015年)概要を明らかにしている。同氏によると、スケーラビリティはマルチGPUを効率的に動作させるためのプラットフォームで、GPUに最適化したスケーラブルな超広帯域インターコネクトを導入するという。新インターコネクトでGPU同士だけでなく、CPUやFPGAなども接続可能とする。また、メモリコヒーレンシも実現する見込みだ。昨年の段階で同氏は導入時期を明らかにしなかったが、今回、Navi世代から導入されることが明らかになった。次世代メモリについては、現時点ではまだ明らかになっていない。新メモリとしては、HBMの拡張規格、GDDR5の後継となる規格などが現在ディスカッションされている。

 Naviの製造プロセス技術については、ロードマップ上は10nmプロセスも利用できるが、最近は新プロセスのGPUへの適用はずれ込むため、分からない。

オールインワンのVR/ARデバイスが実現

 AMDは今回のCAPSAICINカンファレンスで、GPUの今後の適用分野としてVR/AR分野を特に重視していることを改めて強調した。そうした路線の最新の製品としてAMDが紹介したのは「Sulon Q」だ。カナダのスタートアップSulon Technologiesが開発しSulon Qは一見ほかのVRヘッドセットと同様に見える。しかし、実態は、ヘッドセット内にコンピュータを内蔵して、PCが不要なオールインワンVR/ARデバイスだ。

 内蔵するのはCarrizo(キャリゾ)APU(Accelerated Processing Unit)ベースの「AMD FX-8800P」で、Windows 10が走るモバイルコンピュータとなっている。256GB SSDの8GB DRAMを内蔵し、ディスプレイは2,560×1,440の有機LED。カメラも内蔵し、カメラからの画像を取りこむことでARデバイスにもなる。それも、従来のARのようにカメラ画像に単にオーバーラップさせるのではなく、取り込んだ画像から「空間プロセッシング(Spatial Processing)」を行なう。「Spatial Processing Unit」と呼ぶユニットを搭載しており、リアルタイムに現実世界を3DマップしてCGと合成する。

 AMDのカンファレンスでは、SulonのCEOであるDhan Balachand氏が登壇。Sulon Qを使ったARデモを見せた。デモでは、Sulonのオフィスに、ARで重ね合わせた魔法書が登場。魔法書からまかれた種が、オフィスの屋根を突き破ってつるを伸ばす。その屋根の裂け目から巨人が覗き込み、Sulon Qのユーザーを掴み上げる。

Sulonのオフィスに重ね合わせて表示される魔法書
ツタがオフィスの天井を突き破る
天井の裂け目から巨人が覗き込む
SulonのCEO Balachand氏
Sulon Qヘッドセット

 AMD GPUは、FinFET世代のPolaris以降は、低電圧時の特性が大幅に上がる。そのため、こうしたオールインワンVR/ARデバイスは、さらに作りやすくなる。

デュアルGPUソリューションの最高峰Radeon Pro DUOが登場

 AMDは、今回製品としては、Fijiを2チップ搭載したRadeon Pro Duoを発表した。FijiはHBMメモリであるため、メモリ自体はオンパッケージとなり、デュアルチップボードでも実装面積はそれほど混み合っていない。こうしたデュアルGPUソリューションも、スケーラビリティインターコネクトを備えたNavi以降は大きく変わる。GPU同士を広帯域インターコネクトで直結することが可能になり、スケーラビリティの面で大きく進化する。

クーリングソリューションとセットとなったRadeon Pro Duo
現状では最強の16TFLOPSのピーク演算性能
Radeon Pro Duoのボードはカバーされている
Radeon Pro Duoのボードのカバーを外したところ
2個のFijiパッケージが搭載されていることがよく分かる

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)E-mail