後藤弘茂のWeekly海外ニュース
Samsungが256G-bitの3D NANDチップで16TBのSSDを実現
(2015/8/13 14:38)
3D NAND時代がやってくる
NANDフラッシュメモリが本格的に3D時代に突入する。米サンタクララで開催されているフラッシュメモリのカンファレンス「Flash Memory Summit 2015」で、3D NAND時代がNANDメーカー各社により宣言された。
カンファレンスでは、3D NAND技術で先行するSamsung Semiconductorと、技術面でSamsungと並んでいた東芝/Sandiskだけでなく、Intel/MicronとSK hynixも、3D NAND製品の計画を明らかにした。東芝/SandiskとIntel/Micronはサンプル出荷を開始しており、SK hynixも年内の量産開始をアナウンスした。先行していたSamsungと東芝だけでなく、MicronやSK hynixがダッシュしたことで、来年(2016年)には、NANDを製造する4陣営全てが3D戦線に揃う見込みだ。
とは言え、各社とも、まだ従来の2DのプレーナNAND製品も併存させる。3D NANDへはオーバーラップしながら徐々に移行する見込みだ。チップ容量としては、128G-bitチップまでが2DプレーナNANDで、256G-bitから先が3D NANDという色分けになりそうだ。もっとも、3D NANDの最初の世代は128G-bitで、プレーナNANDの256G-bit品も登場する可能性はあるが、大まかには128G-bitと256G-bitが、プレーナNANDと3D NANDの分岐点となる。
NANDの容量増大は、2DプレーナNANDが行き詰まり始めたことで、チップ容量で64G-bit以降は鈍化していた。それまで、NANDには『ファンの法則(Hwang's Law)』と呼ばれる容量増大則があり、1年で倍容量(実際には15カ月で2倍程度)になるとされていた。3D NANDの登場で、NANDのファンの法則が復活するという声もある。少なくとも、256G-bitの4倍の1T-bitまでは、道筋が見えて来た。
3D NANDによってNANDフラッシュの展望が変わった
エンドユーザーにとって3D NANDの意味は、SSDがより大容量かつ高速、低消費電力になることだ。3D NANDが本格化する今年(2015年)後半から来年には、256G-bitのNANDチップが先端容量となる。256G-bitの3D NANDを使えば、SSDの容量は16TBにまで引き上げることができるとSamsungは説明する。SSDはHDDでも実現できない容量帯に突入する。近い将来には、大容量ドライブと言えばHDDではなくSSDを指すようになるかも知れない。
NANDの容量増加ペースが再び復活したことで、NANDフラッシュ自体の展望も大きく変わった。今回のFlash Memory Summitで多くのベンダーが引き合いに出していたのが44ZB(ゼタバイト:zettabyte)という数字。2020年のストレージ需要として予想れている数字だ。ゼタはエクサのさらに1,000倍、10の21乗。44ZBとなると、4TBのHDD/SSDなら100億個以上が必要となる計算だ。NANDベンダーは、天文学的な数字に膨れ上がる膨大なストレージ需要の受け皿になろうと意気込んでいる。
そのため、NANDフラッシュ業界は、現在、データセンターにフォーカスしており、チップベンダーもデータセンター向けのソリューションに力を入れている。NAND SSDへのインターフェイスも、PCI Express Gen3へと向かいつつある。また、その流れの中で、データベースのソートなどのコンピューティングもストレージ側で実行するインストレージコンピューティングといったビジョンが浮上している。また、膨れ上がるサーバーのメモリスペース要求に答えるために、NANDなど不揮発性メモリをメモリモジュールに載せるNVDIMMも、JEDEC(半導体の標準化団体)の標準化によって加速しつつある。
3D NANDの立ち上がりによるNANDの活性化で、NANDを取り巻く状況は大きく変わりつつある。そのため、数年前まで小さな業界カンファレンスに過ぎなかったFlash Memory Summitも、活性化している。今回は、主催側の発表では参加登録者は6,000人を越えたという。
256G-bit容量のTLC 3D NANDチップを発表
NANDベンダーの中で製品化で先行するSamsungは、3D NAND技術に「V-NAND」という技術ブランドを冠している。今回、Samsungは、Flash Memory Summitのキーノートスピーチで256G-bitのV-NANDチップを発表した。同社は今月から量産に入るとしており、256G-bit品の量産で他社に先んじたことになる。同社は、これまでV-NANDを2世代製品化しているが、どちらも128G-bit容量だった。ちなみに、256G-bitは東芝/SandiskとIntel/Micronも製品化するが、それに先んじた格好だ。
3D NANDは名前の通り、メモリセルを縦に3D積層することで大容量を実現する。Samsungが最初に試作したV-NANDチップは、メモリセルを24層に積層した2-bit/CellのMLC(Multi-Level Cell)128G-bitチップだった。このチップは作られたものの、実際の製品としては出されなかった。
最初に製品化したV-NANDは、同じMLCだが、メモリセルの積層数を32層へと1.5倍に高めた。次にSamsungが製品化したV-NANDは、メモリセルの積層数は32層と同じだが、今度は1セル当たりのビットを2-bitから3-bitに増やしたTLC(Triple-Level Cell)製品だった。同じ128G-bit容量ながら、メモリセルの積層数を増やし、各メモリセルのビット数を増やすことで、ダイサイズを縮小して来た。
今回Samsungが発表した新しいV-NAND製品は、メモリセルの積層数を48層へとさらに増やしている。各メモリセルは3-bit/セルのTLCだ。TLCである点は同じだが、48層へと層数を増やすことで、1.4倍のメモリ密度を実現。その結果、256G-bitの大容量を、経済的なダイサイズに収めることに成功したという。結果として、ビット当たりのコストを下げただけでなく、電力消費も減らし、パフォーマンスも高めることに成功したとSamsungのBob Brennan氏(Senior Vice President, Memory Solutions Lab, Samsung Semiconductor)は説明する。
企業向けに注力するSamsungの「インストレージコンピュート」構想
今回Samsungは、48層のV-NANDを発表しただけでなく、具体的な自社SSD製品計画も明らかにした。コンシューマ向けではSamsung 850 EVOの新バージョンに、256G-bit 48層 TLCを搭載する。また、企業向けには256G-bitの大容量チップを活かして、16TB(15.36TB)の大容量SSDも可能にするという。Flash Memory Summitでは、ショウフロアで16TB SSDも展示していた。ただし、16TB版のPM1633aについては、実際の製品化計画が決まっているわけではなく、ニーズに応じて製品化を検討するという。
Samsungは、48層のTLC V-NANDをテコに、エンタープライズとデータセンター市場にフォーカスする。日本市場では、SSDはまだクライアントが主流だが、米国ではデータセンターのフルSSD化が現在大きなテーマとなっている。数年前からデータセンター向けSSDのラッシュとなっており、ここが最もSSDでホットな市場となっている。Samsungは、企業市場への展開は顧客ベンダーに依存する部分が大きかったが、今後はSamsung自身も積極的に取り組んで行く。
そして、企業向けSSDとして、Total cost of ownership (TCO)を下げるためにSSDのインテリジェンスを高める方向へと向かうという。ここで興味深いのは、Samsungがさらに突っ込んで、「インストレージコンピュート(In-Storage Compute)」を提唱し始めたこと。これは、ストレージデバイス側に、ある程度のコンピューティング機能を持たせて、例えば、クエリーなどをストテージ側で処理してリザルトだけをCPU側に送り返すようにするアイデアだ。
こうしたアイデアは、これまでも何度か提唱されたことがある。Flash Memory Summitでも、この手のアイデアがベンチャーから発表されたことがあった。しかし、Samsungが言い始めた点にポイントがある。
現在のコンピュータアーキテクチャでは、データの移動が最も電力を食う材料となっている。データのできるだけ近くでコンピュートを行なえば、データ移動の電力を低減できる。その意味では、インストレージコンピュートは電力コンシャスな現在のデータセンターのニーズに合っている。ただし、具体的に動くには、さまざまな企業との協力が必要となるだろう。