■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
NVIDIAは台北で開催されたCOMPUTEXに合わせて、Jen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏(Co-founder, President and CEO)を囲むメディアラウンドテーブルを開催した。Huang氏は、席上、タブレットコンピュータの未来を力説。タブレットに必要な3要素、タッチディスプレイ、モバイル向けプロセッサ、モバイル向けOSの3つが揃うため、タブレットが立ち上がると語った。
モバイル向けプロセッサとして、NVIDIAは、モバイル向けSoC(System on a Chip)「Tegra(テグラ)」ファミリを投入している。しかし、タブレットの3要素のうち、OSについては他社と組むことになる。2009年のCOMPUTEXでHuang氏は、ネットブック対抗のSmartbookで複数のOSのサポートを行なうと説明していた。タブレットのOSについてはどうなのだろう。
NVIDIA CEO Jen-Hsun Huang(ジェンセン・フアン)氏 |
Huang氏 昨年(2009年)には業界はSmartbook(スマートブック)を推進したが、Smartbook市場の進展は遅かった。その時点でのSmartbookの最大の弱点は、適切なOSがなかったことだった。Windowsは、Smartbookやタブレットには大きく重すぎる。業界はOSを必要としていたが、業界が一丸となって押せるOSがなかった。それが昨年(2009年)のバッドニュースだった。
今年(2010年)のグッドニュースは、我々がついに優れたモバイル向けOSを得たことだ。それはAndroidだ。Androidは、非常に大きな勢いを得ており、世界で最も急速に伸びているモバイルOSだ。日本でもAndroidは浸透を始めていると聞いている。実際、成長率ではiPhoneを抜いており、今では世界中でAndroidを見ることができる。Androidがタブレットも推進するだろう。
--NVIDIAのTegra 2自体は複数のOSをサポートするが、Huang氏は、タブレットOSとしてはAndroidが最適だと言う。Androidの利点はどこにあると見ているのだろう。
Huang氏 業界にとってのAndroidの1つ目の利点は、単一であることだ。Linuxは多くのバージョンがありすぎる。それに対してAndroidは単一バージョン、単一プラットフォームで、業界が1つに結束できる。
2つ目の利点は、Androidが最初からモバイル機器に向けて作られていることだ。もちろん、iPadに追いつくには、改良しなければならない点、iPadから学ぶことができる点がいくつもある。まず、Androidがタブレットに対応するためには、OS自身も拡張する必要がある。携帯電話向けのユーザーインターフェイスとは、ある程度異なるユーザーインターフェイスがタブレットでは必要だからだ。ハードウェアアクセラレーションも重要なカギだ。
NVIDIAはGoogleのAndy Rubin(Vice President, Engineering)氏と彼のチーム(Android開発)とは密接に作業している。Androidは携帯電話用OSとして出発したが、今ではタブレットも重要なターゲットとなっている。Andy Rubin氏は現在、タブレットにフォーカスしており、タブレットのために必要な機能拡張を行なっている。
--今後の携帯デバイス向けOSでは、ハードウェアアクセラレーションがカギになるとHuang氏は語る。実際、NVIDIAのTegra 2は広汎なハードウェアアクセラレーションを提供している。しかし、その機能を使うためには、ハードウェアを叩けるAPIの整備と最適化や、OSのUIモジュールやメディアモジュールが実際にそうしたAPIを利用することが必要となる。実際に、AppleはKhronos Groupの各種APIを実装している。NVIDIAがGoogleに求めているのはこうした最適化のようだ。
Huang氏 NVIDIAから見て、明確にiPadが優れていると思う部分はグラフィックスパフォーマンスだ。iPadのグラフィックスは非常にいい。なぜなら、OpenGLをベースとしており、ハードウェアアクセラレーションされているからだ。そのため、iPadはゲームコンソールとして作られたようにさえ見える。例を挙げると、iPadとソニーのPSPを較べると、同じような印象を受けるだろう。これまでのモバイルコンピュータからは得られなかった体験だ。
iPadの利点は、全てをハードウェアでアクセラレートすることだ。H.264もグラフィックスも、全てハードウェアで処理される。AppleはiPadを機敏で素早くなるように設計した。何もかもがきびきび動く。ちょうど、スイッチを押せば電灯がついたり、アクセルを踏めばクルマが動くように。
このことが示しているのは、旧来の携帯電話/スマートフォンとはプログラムのあり方が変わってきている。これまでは低解像度で、できることも限られていた。だから、ランタイムベースで、ハードウェアアクセラレーションもないソフトウェアモデルで充分だった。しかし、今は解像度も上がり、用途も広がっており、そう行かなくなっている。
Appleは、このことを理解していると思う。機敏で美しいグラフィックスにはハードウェアアクセラレーションが必要であるとわかっている。GoogleでAndroidを開発しているAndy Rubin氏も、ハードウェアアクセラレーションを効かせる必要があることを理解している。彼らも、この点で、いい仕事をするだろう。
--Huang氏が強調するNVIDIAのTegraチップをベースとしたタブレットは、AndroidをOSとするようだ。Tegraタブレット群は、いつ市場に登場するのだろう。
Huang氏 今秋まで待たなければならない。その時になれば、OSもデバイスも一緒に登場する。TegraをベースにしたAndroidタブレットを多数紹介することができるだろう。Tegraタブレットの開発では、Googleのエンジニアはもちろん、OEMのエンジニアなど、数千ものエンジニアが世界中で動いている。
--Tegraベースのタブレットは、iPadと正面衝突することになる。iPadは、現在はiPad現象とも呼ぶべきブームを巻き起こしている。Huang氏自身は、iPadをどう見ているのだろう。
Huang氏 AppleはiPadの発表で、ユーザーの期待値のバーを設定した。私は、この事実に興奮している。コンシューマは、今後はiPadをモバイルコンピュータに対する期待値のベースラインと見なすようになるだろう。例えば、ネットブックのグラフィックスがiPadより劣ることは、コンシューマには受け容れがたい。
iPadが期待値のバーを引き上げたことは、業界全体に、目標を作ったという意味でいいことだ。そして、我々はiPadに対抗するために、もっとバーを高くする必要がある。それには、かなりの労力が必要だ。
実際、我々はCESでTegraベースのタブレットについて語って以来、世界中のOEMメーカーと、そのバーを超えるタブレットの開発で協力して来た。Tegraベースのタブレットは、率直に言って、iPadより優れたものにならなければならないからだ。それ以下では受け容れられないだろう。
--今秋に登場するというNVIDIA Tegraタブレットは、果たしてApple iPadに対して勝ち目があるのだろうか。そもそも、Appleにこれだけ遅れを取ったのはなぜなのか。
Huang氏 私はタブレットに必要な3要素としてタッチ、モバイル向けプロセッサ、タブレット向けOSを挙げた。Appleは単独でこれら3要素全てを揃えた。それができたのは、もともとAppleが全てを1社で開発する態勢でいるためだ。1社で全てをコントロールしたからこそ、3要素をいち早く揃えることができた。彼らがタブレットを最初に出せた理由はそこにあると考えている。
我々も同じことを長い間考えてきたが、我々の業界はAppleほど器用ではないので、遅れを取っている。不器用である理由は、我々のモデルでは、多数の企業が互いに協力してパートナーシップを完成させなければならないからだ。Appleが垂直型のソリューションであるのに対して、我々の業界は水平型のソリューションで、どうしても不器用になる。
しかし、水平型のモデルは、いったん動き始めれば、垂直型のAppleよりもずっと速いペースで動くだろう。そうなれば、PC産業で起きたことが、タブレットでも起こるだろう。だから、私は(iPad以外の)タブレットの立ち上がりについて、楽観している。我々は、まさに離陸する直前に来ていると思う。
--PCの歴史では、垂直型のソリューションで開発されたAppleのMacintoshが、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)の実装で大きくリードした。しかし、Macintoshを不器用に追いかけたWindows PCは、やがて数でMacintoshをリードするようになる。同じことが、iPadと水平型のタブレットの間でも起こるとHuang氏は見ている。では、業界のエコシステムを打ち立てる中でNVIDIAはどんな役割を果たすのだろう。
Huang氏 Appleは、素晴らしい垂直型のソリューションを組み上げた。Qualcommも、明瞭にAppleのような垂直モデルを取ろうとしている。しかし、それ以外の業界にとっては、水平型のソリューションの方がずっといいだろう。Appleと垂直型のソリューションで競って、Apple以上のものを作ることは難しい。
それなら、水平型で試みる方がいい。水平型の利点は、変化が速く、適者生存で最も優れたものが選抜されることだ。水平型ならユーザーは、最も優れたプロセッサを使い、最も優れたOSを使い、最も優れた工業デザインと液晶パネルを使うことができる。
必要なものは、水平型ソリューションを提供するための各要素だ。OSについては、Androidが安定したプラットフォームになれば、その上で革新は適者生存の原理に則って急速に進むだろう。NVIDIAの戦略は、水平型の業界に、新しいアイデアを市場に休みなく送り出し続けることだ。例えば、Tegra 2を昨年からサンプル出荷して来た。先行したアイデアを業界に示すことで、業界の可能性を広げて行く。
--では、NVIDIAがiPadに対抗してタブレットを拡張できる点は、どんな部分になるのだろう。
Huang氏 AppleのiPadは素晴らしいが、タブレット自体には、まだ多くの解決しなければならない問題が残っている。私はタブレットがもっと軽くなるべきだと思う。また、PCと完全に同様に全てのWebサイトを楽しめるべきだと思う。例えば、Appleは、(iPhone/iPadで)Flashをサポートしていない。
--Appleは「Thoughts on Flash」と題した、Flashに対する意見の公開文書の中で、Flashをサポートしない理由の1つは、処理が重くバッテリ駆動時間への影響が大きいからだとしている。NVIDIAは、この意見をどう考えているのだろう。
Huang氏 その通り、AppleのSteve Jobs氏は完全に正しい。Flashはバッテリ駆動時間を恐ろしいほど短くする。その点では同意する。
しかし、だからこそ、Flashの処理は、GPUに移植するべきだ。CPUで走らせるから消費電力が激増するのであり、そもそもCPUで走らせるべきではない。なぜなら、Flashはマルチメディアインタラクティブプラットフォームであり、処理はビデオとグラフィックスだからだ。ここでも、ハードウェアアクセラレーションがカギとなる。
その点で、NVIDIAは優れたソリューションを提供している。我々のGPUは、Flashをハードウェアアクセラレートできる唯一のプラットフォームだ。例えば、通常のネットブックと、当社のION(NVIDIAのAtom ネットブック向けチップ)を搭載したネットブックで、Flashを走らせれば、その差は歴然としている。当社のIONの方が処理は高速で、消費電力はずっと低い。Tegraでも同様で、疑いもなくFlashが高速で低消費電力になる。
我々は以前からFlashはGPUで走るべきだと考えており、Adobeと協力してFlashをGPUに移植した。CPUで走らせれば、何百、何千という命令が必要になるところを、GPUならたった1つのグラフィックスコールで済ませられる場合もある。CPUでFlashを走らせるのは、チェーンソーで寿司を切ろうとするようなものだ。刺身包丁でさっと切れば済むところを、無理をしている。
--NVIDIAのTegraを使えば、Flashを走らせながらバッテリ駆動時間が長いタブレットを作ることができると言うHuang氏。そこまでTegraが魅力なら、なぜAppleのSteve Jobs氏はTegraをiPadに使わなかったのだろう。
Huang氏 彼には彼なりの理由がある。しかし、それは技術上の理由ではない。この質問は、Steveに直接聞くべきだろう(笑)。
--OSとプロセッサ、そして入力装置が揃えば、次はその上で走るコンテンツとなる。PCの上でアプリケーションソフトが栄え、ゲーム機の上でゲームコンテンツが育ったように、Android+Tegraタブレットの上でコンテンツコミュニティを育てる必要がある。NVIDIAはどう関わって行くのだろう。
Huang氏 その通りだ。タブレットの上でのコンテンツを繁栄させようとしたら、コンテンツ産業と協力する必要がある。そのための準備も進めている。
コンテンツを繁栄させるには、彼らと密接に働き、彼らを最新のテクノロジでインスパイヤし、また彼らから学ぶことが必要だ。例えば、テキストコンテンツでは、フォントが最大の問題だ。どのフォントも拡大縮小しても美しく見えるようにしなければならない。我々は、その点でも素晴らしい仕事をなしとげつつある。
我々は、これまで、ゲームデベロッパと良好な関係を築いてきた。同じことを、コンテンツ業界に対しても行なうことができるだろう。