■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
Intelの、廉価版Nehalem(ネヘイレム)系クアッドコアCPU「Core i5(Lynnfield:リンフィールド)」が、今年第3四半期の発表に向けて秒読み体制に入っている。Core i5は、まず、3つのSKU(Stock Keeping Unit=アイテム)で登場する。Core i5の最上位のSKUでは、動作周波数は2.93GHzとなる。これは4つのCPUコアがアクティブな時のベース周波数だ。1CPUコアだけがアクティブで、3CPUコアがSLEEP状態にあるようなターボモード時には最高3.6GHzになる。
下が現状でのIntelのデスクトップCPUロードマップだ。基本的なロードマップは、Intelが4月中旬に顧客に説明を行なった時点から、今までで、それほど変わっていない。つまり、このチャートは、Lynnfieldのクロックも含めて2カ月古い情報と、それほど差がない。それだけ、この2カ月はIntelに目立つような動きがない。
IntelデスクトップCPUのロードマップ |
ロードマップ図のNehalem系CPUには動作周波数が2つ記載してあるが、これはベース周波数とターボ周波数を示している。例えば、Core i7-965の3.2-3.46GHzは、ベース周波数が3.2GHzで、ターボ時には最高3.46GHzまで上がることを示す。
ターボ周波数を見ると、Lynnfieldは、シングルスレッド時にはハイエンドのCore i7(Bloomfield:ブルームフィールド)と同等のパフォーマンスを発揮できる計算になる。Core i7もターボモード時の上限は3.6GHzであるためだ。Lynnfield 2.93GHzは、ターボでは約23%の周波数アップとなり、Bloomfieldより向上幅が大きい。ちなみに、モバイル版のCore i5(Clarksfield:クラークスフィールド)は、ベース周波数が2GHzで、ターボ時は最高3.2GHzと、さらにターボでの性能向上幅が広い。周波数差は80%だ。
Turboモードの周波数の比較 |
Intelは、メモリチャネルが2チャネルのLynnfieldでは、DDR3-1333を正式サポートする。3チャネルメモリのBloomfieldと、その後継となる32nmプロセスの6コアCPU「Gulftown(ガルフタウン)」はDDR3-1066のままだ。これは、メモリ搭載量を重視するためと見られる。
●SKUがオーバーラップするCore iファミリロードマップ図でわかる通り、IntelはCore i5ブランドのLynnfieldを、3 SKUで投入する。Core i5の正式発表のタイミングは若干揺れており、まだ確定していない。Lynnfieldは、まだOEMでのバリデーション中だ。
Core i5の価格レンジは、Core i7 BloomfieldのSKUと部分的にオーバーラップするように設定されている。Core i7ブランド最上位のCore i7-975の製品ラインは999ドルの価格帯だが、このレンジには今後もCore i5ブランドは投入されない。2010年第2四半期に32nmプロセスの6コアCPU「Gulftown(ガルフタウン)」にバトンタッチするまで、Core i7のままだ。
しかし、Core i7の下の2つのSKU、すなわち500ドル台中盤のCore i7-940/950のラインと、280ドル台のCore i7-920のラインはCore i5ブランドとオーバーラップする。Core i5の最上位のベース2.93GHz版はCore i7-950と同価格、Core i5中堅の2.8GHz版はCore i7-920と同価格につける。Core i5の3つ目のSKUであるベース2.66GHz版は200ドルを少し切るレンジで、Nehalemアーキテクチャを下の市場へ伸ばす。
ややこしいことに、来年(2010年)第1四半期に登場するデュアルコア版のCore i3 (Clarkdale:クラークデール)もCore i5とオーバーラップする。Core i3ブランドの最上位は200ドル台中盤のメインストリーム3の価格レンジで登場する。Core i3は6 SKUが予定されているが、そのうち、上の2つのSKUはCore i5と重なる。NehalemファミリのSKUを整理すると次のようになる。
NehalemファミリのSKU |
●6コアのGulftownはエクストリーム系CPUで登場
6コアのGulftownは、現在のところ最上位のエクストリーム系、つまり999ドルのレンジしか予定されていない。しかし、同じLGA1366ソケットのCore i7の占める市場をそのまま継承すると考えられる。6コアでもGulftownは32nmプロセスで、ダイサイズ(半導体本体の面積)はおそらく現在のBloomfieldとそう変わらない200平方mm台中盤と推定される。Gulftownのブランド名はまだ決定していないが、穏当に行けばCore i9となりそうだ。
同じ6コアでも、AMDの45nmのIstanbul(イスタンブール)は、ダイサイズが2回りほど大きい(300平方mm台中盤)であるため、一定の価格レンジ以下では投入しにくい。ダイが大きな分、製造コストが高くなるからだ。投入するとしても、最上位のエンスージアスト向けの市場に限られるだろう。Intelとの性能競争が激化した場合には、利幅を狭めてもパフォーマンス市場向けに出す可能性はあるが、できれば、そうはしたくないというのが本音だろう。ただし、45nmのIstanbulには、32nmのGulftownより、プロセスが成熟しており、一般論として欠陥密度が低く歩留まりが相対的にいいという利点がある。
このチャートを見ると、Intel CPUのSKUの法則性が見えてくる。各ブランドはおよそ3倍の価格差のレンジでSKUを展開している。同じダイ(半導体本体)で、SKUの差をつける限界が、現在はその程度ということを示している。以前のシングルコア時代には、Intelは、1種類のダイで、これよりはるかに広い価格差のSKU展開をしていた。
価格差のために、IntelはそれぞれのブランドのSKUの中でスペックに差をつけている。Core i7の場合は、チップ間インターコネクトであるQuickPath Interconnect(QPI)のスペックが上位は6.4Gbps、下位は4.8Gbpsと分かれている。Core i5 Lynnfieldでも3つのSKUで1点、スペックに大きな差がつけられている。Hyper-Threadingだ。
Nehalemアーキテクチャでは、SMT(Simultaneous Multithreading)技術のHyper-Threadingが実装されている。しかし、Core i5の最下位のSKUである2.66GHz版では、Hyper-Threadingが無効にされている。
Clarkdaleでも似たようなSKUの差別化が行なわれる。コンシューマ向けでは、Clarkdaleの上位の3 SKUで、GPUコアの全ての機能が有効にされる。例えば、2ポートのHDMIやデュアルオーディオストリーム、HD解像度でのシャープネスなどが機能する。しかし、コンシューマ向けの下位のSKUではGPUコアの機能が抑えられる。また、コーポレイト向けにはvPro技術が上位の3 SKUでだけ有効にされる。また、上位の5 SKUのグラフィックスは中程度の機能に抑えられる。
つまり、従来ならグラフィックス統合チップセット(GMCH)のSKUで行っていた差別化が、Clarkdale CPUで行なわれるようになる。
IntelデスクトップCPU(2007-2010) |
●LGA1156と5シリーズチップセット
Core i5とCore i3は、新しいLGA1156ソケットとなる。対応するチップセットは新しいIntel 5シリーズ(Ibex Peak:アイベックスピーク)系PCH(Platform Controller Hub)となる。これらの概要は既報だが、下がIntelのデスクトップチップセットロードマップと、Ibex Peakの各SKUの機能一覧となる。Ibex Peakには5つのSKUが用意されており、Core i5のローンチ時には、このうちP55だけが登場する。
Intelデスクトップチップセットロードマップ |
Intel 5シリーズチップセットの比較 |
Core i5/i3ではCPUパッケージ側にメモリコントローラとPCI Express x16が移り、ClarkdaleではGPUコアもCPUパッケージに入る。そのため、旧来的な意味でのグラフィックス統合チップセットはなくなる。つまり、型番で言えば「G」がつくチップセットは5世代では存在しない。Intel 5シリーズの構成は、P系統のP55/57、H系統のH55/57、Q系統のQ57の5種類となる。
P系統は従来通りディスクリートグラフィックス向けだが、グラフィックスカード接続用のPCI Express x16インターフェイス自体はCPUパッケージ側にある。しかし、P系統だけが2x8のデュアルディスクリートグラフィックスをサポートできる。つまり、CPU側に2x8でビデオカードを接続する構成をサポートできるのは、P55/57だけだ。
H系統とQ系統はClarkdaleでの2x8のデュアルディスクリートグラフィックスはサポートしないが、通常の1x16のシングルのディスクリートグラフィックスはサポートする。一方で、H系統とQ系統は、Clarkdaleの内蔵するGPUコアをPAVP(Protect Audio Video Path) 1.5でサポートする。このグラフィックスサポートの違いが差別化のポイントとなっている。Q系列は、今まで同様に、企業向けのvProサポートチップセットとなる。
Intelの新プラットフォームアーキテクチャ |
Nehalemファミリの内部構造 |