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ファウンダリ顧客にAtom CPUコアを提供するIntel

Atomコアを顧客が使うことができるが……

 Intelはファウンダリビジネスを始めるに当たって、自社の開発したIPも顧客に提供することを明確にしている。IPの提供については、同社は9月の技術カンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」でリストを示しており、幅広く網羅するIPを揃えていることを謳う。中でも目玉は、Intelの“宝”とも言うべき、CPUコアだ。

 Intelは、かつてTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)にAtomコアのIPを出した。しかしこれはもともと、FPGAシンセサイザブルなRTLに修正したAtomコアをTSMCの顧客が使えるようにしてライセンスしたもので、Atomコアのフルの性能を出せるIPではなかったと言われている。そのため、このAtomコアは、結局製品に使われることはなかった。

 しかし、今回のファウンダリサービスでは、Intelは本格的にCPUコアを顧客が利用できるように提供する。開発中のAtomコアを提供することが、9月のIDFで発表されている。顧客は、Atom CPUコアを搭載したSoCを、セミカスタムまたはフルカスタムのモデルで開発・製造委託することができる。

 この場合、当然出てくる疑問は、Intel自身の製品との競合だ。顧客がAtomコアを使ったSoC(System on a Chip)を開発するなら、それはIntelの既存のAtomベースの製品と競合する可能性が出る。例えば、他社がAtomベースのモバイルSoCをスマートフォン向けに開発した場合は、Intel製品との競合はどうなるのか。Intelは、自社と競合する製品の開発を許すのか。

Sunit Rikhi氏

 この問題については、IDFのセッションでそのものずばりの質問があり、Intel側は非常に興味深い回答をしている。「私が予測するもっとも一般的なAtomコアの使い方は、顧客がセミカスタムモデルで、いや、フルカスタムモデルであっても、Intelのビジネスユニットと協議して使うことだ」。Sunit Rikhi氏(General Manager, Intel Custom Foundry/Vice President, Technology and Manufacturing Group, Intel)はこのように答えた。

 つまり、Intelの中核IPであるプロセッサコアを使う製品の場合は、まず、Intelの製品部門であるIntelビジネスユニットと協議をして、その結果、製品の開発に入ることが一般的だとIntelは考えている。ファウンダリの顧客が、Intel製品部門との話合いを経ずに勝手にIntelのコアを使った製品を作ることは、一般的とは考えられていないことが分かる。コアのIP自体は、多様な製品に組み込み可能なプラガブル(Pluggable)設計になっているが、その利用については、ビジネス上の交渉があることをIntelは想定しているようだ。このあたりの感覚は、ファウンダリのものではない。IntelがIDM(Integrated Device Manufacturer)とファウンダリの二足のわらじをはく制約だ。

IDMとファウンダリのビジネスモデル
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CoreとQuarkが欠けているプロセッサIPリスト

 また、提供するプロセッサコアのリストには、Intelの主力CPUコアである「Core i」系のCPUコアは入っていない。Core iのライセンスを認めてしまうと、Intelが圧倒的に強いPC&サーバー市場で直接競合する製品が産まれてしまう可能性があるから、当然かも知れない。しかし、Intelが、自らの強味としているIPの強さの象徴を提供しないというのは、IDMの強味を活かすという宣言と矛盾する部分もある。それどころか、組み込み向けとして発表したはずの「Quark」CPUコアも、IDF時のリストに入っていない。Quark自体がIntelのラインナップの中でどうなるのか明瞭でない状況ではあるが、Quarkがないことは、Intelのターゲットとする顧客が一定以上の性能を求める層にあることを示唆している。

 ただし、IntelはIDFで「Intelは、ここで見せたもの以外のものも、交渉のテーブルに上げることができる」(Rikhi氏)と、なんらかの交渉の余地があることも示唆している。

 上のセリフは、インターフェイス回りのIPに関して述べたものだが、おそらく、他のIPについても当てはまるだろう。ある業界関係者は「Intelは大口のセミカスタム設計なら、Core iコアも出すはず」と言う。実際、ファウンダリ部門ができる前の話だが、ゲーム機のCPUの交渉では、IntelはHaswellコアも提示していた。

 ファウンダリ顧客の製品との競合の問題は、自社製品も開発製造するファウンダリにとって非常に微妙な問題だ。そこで、自社製品を守る選択をするか、それとも顧客との競合を避ける方を優先するかは、各社の戦略と密接に絡む。最近の例では、Samsungのサーバー向けARM SoCのキャンセルがある。

 SamsungはARMv8ベースの64-bit ARMサーバーSoCを独自に開発していた。このチップは、2014年前半に無事テープアウトして試作チップが作られ、OS系など一部のソフトウェア開発者にもサンプルチップが提供された。そうした顧客の下で、チップは評価ボード上で問題なく動作しており、評判も上々で、後は製品化に向けて進むだけだった。ところが、そのチップは、夏前に急遽キャンセルとなり、製品化は見送られてしまった。テストで技術上の大きな問題が見当たらなかったことから、製品化中止は、Samsungが自社のファウンダリの潜在顧客との競合を避けたためだろうと言われている。

インターフェイスIPではHBMとWide I/Oを計画

 Intelのインターフェイス回りのIP提供で一際目立つのはHBMとWide I/Oが入っていることだ。現状のIntel製品がサポートしていないメモリI/Oが、検討中とはいえリストに入っている。検討中としているのは、まだHBMの製品が出ていないからだとIDF時には説明していた。

 HBMはGDDR5の後継となる超広帯域スタックDRAMのJEDEC規格だ。AMDやNVIDIAはHBMには非常に熱心に取り組んでおり、ハイエンドGPUから採用して行く見こみだ。しかし、IntelのHBMに対する姿勢は、これまで不明瞭だった。むしろ、HPC向けのメニイコア製品「Knights Landing」には、HBMと同様の広帯域スタックメモリHMC(Hybrid Memory Cube)を採用するなど、HBMとは別な動きが目立っていた。

 しかし、IntelのカスタムファウンダリのIPオファリングでは、HBMとモバイル向けのスタックメモリWide I/Oがリストされている。その一方で、Intelが採用するHMCのI/Oについてはオファリングに入っていない。これは、IPの権利が絡んでいるのかも知れないが、より市場の広いと見られるスタックメモリのI/Oを提供しようとしているようだ。

 IntelのIPオファリング計画にHBMとWide I/Oが入っていることは、Intelの自社製品でのHBMとWide I/Oの採用も暗示している。これらスタックメモリについては、Intelはコスト削減の切り札と言うべきパッケージ技術「Embedded Multi-die Interconnect Bridge(EMIB)」も発表している。

 インターフェイスIPに関しては、Intelだけでなく、パートナーのIPも提供するとIntelは説明する。また、Intelが得意とする高速SerDes(シリアライザ/デシリアライザ)などの技術が差別化の要素になると言う。

 IntelはミクスドシグナルIPも揃える。また、基本となるロジックライブラリとメモリコンパイラも網羅するという。スタンダードセルでは、高密度ライブラリ(High Density Lib)と、高速ライブラリ(High Speed Lib)となっている。2013年の資料では、セルライブラリは3種類となっていたが、これは、現状では7T(トラック)クラスの超高密度ライブラリが提供されていないことを示しているのかも知れない。メモリコンパイラにはレジスタファイルコンパイラ、各種SRAMコンパイラ、Ternary content-addressable memory (TCAM)コンパイラなどがあり、フューズも示されている。

スタンダードセルの構造
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ファウンダリの一般的なセルライブラリファミリとセル高
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ファウンダリビジネスのために業界の標準的なツールを揃える

 よりローレベルでは、Intelはファウンダリの顧客に「Foundry Design Kit(FDK)」を提供する。実際には、このFDKはプロセス技術毎に分かれているはずだ。プロセスに密着したツール群からプリミティイブライブラリ、デザインフローツールまでである。

 Rikhi氏は、デザインフローでは、顧客が必ず聞いてくる疑問があると語る。

 「第1の質問は、顧客もIntelの内部ツールを使わなければならないのか、第2の質問は、顧客が現在使っているツールはそのまま使えるのかだ。最初の質問に対する答えは簡単だ。ノーだ。Intel内部ツールは使う必要がない。業界の標準的なツールを使うことができる。我々はファウンダリをスタートさせるに当たって、まず、そこに投資を行なった。

 2つ目の質問については、デザインフローの全域に渡って、業界のスタンダードツールを揃えている。Synopsys、Cadence、Mentor Graphicsのそれぞれのツールを選ぶことができる。アナログ/ミクスドシグナルのフローでも、同様に各種ツールがサポートされている」。

 IntelとEDAベンダーの間は決してこれまで密接ではなかった。しかし、Intelはファウンダリをスタートさせるに当たって、彼らの協力が重要であると認識して、そこに注力したと説明する。とはいえ、実際にEDAベンダーにとって、Intel Fabがビジネス的に美味しくなるかどうかは、実際の顧客数が非常に限られている現在は、まだ分からないだろう。

 ちなみに、ツールは業界標準であっても、現在はファウンダリをまたがって製品を製造することは難しいだろうという。かつては、ファブレスベンダが特定の製品を、複数のファウンダリで製造することがよくあった。だが、プロセス技術と製品設計が複雑化した現在では、それはよほど余力のある企業でなければできなくなった。

 Rikhi氏は、次のように説明する。

 「当社の14nmとファウンダリの16nmは同じではない。設計を簡単に移すことは不可能だ。Fabをまたがって製造するには、充分なエンジニアリング労力をかけるか、どこかで(性能などを)妥協して迅速に設計を移すか、どちらかになってしまう。実際に複数Fabを使う(Qualcommのような)例があるが、それは極めて限られたケースだ。大規模な設計では、ファブレス企業は、Fabを1つに選択しなければならないと思う。私が、35年前に妻を選択したように(笑)」。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail