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新世代ゲーム機「PS4」と「Xbox One」の2014年以降の技術

PS4の製造コストでは半導体チップが大きな比重を占める

 新世代ゲーム機「PlayStation 4(PS4)」と「Xbox One」は、今後、どう進化するのか。どのタイミングで価格を下げるのか。また、従来のゲーム機のように一定のスペックを維持するのか、機能を拡張したり追加する可能性はあるのか。

 まず、ゲーム機の進化を考える基本は、製造プロセス技術のロードマップとなる。プロセスが微細化してチップが小型化したり消費電力が下がると、価格を下げたり機能を追加しやすくなる。通常は、同じプロセス技術のままなら、あまりアグレッシブな価格や機能の改革を行なわない。

 現在、PS4とXbox OneはどちらもメインのAPU(Accelerated Processing Unit)をTSMCの28nmプロセスで製造している。プロセス技術のトレンドでは、次は20nmプロセスに移行し、そして、16/14nmのFinFET 3Dトランジスタ技術に移行することになる。さらにその先にはFinFET 10nmプロセスも待っている。プロセス技術の移行では、いつ、どのファウンダリで、製造を行なうかが重要なポイントとなる。

プロセスロードマップ
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 調査会社のIHSは、先月、PS4のコスト解析を発表した。プレスリリースによると、同社が推測するPS4の製造コストは381ドル。メインのAPUが100ドル、DRAMが88ドルと見積もっている。ぱっと見て分かる通り、半導体チップのコストの比重が非常に高い。つまり、半導体チップのコストが下がれば、全体のコストを引き下げて価格を下げることが容易となるコスト構造だ。固定的でコストを引き下げる要素が薄いドライブ類はHDDが37ドル、光学ドライブが28ドルとなっている。Xbox Oneは若干異なり、同じIHSのレポートではKinectのコストが75ドルと高いコストを占めているが、やはりAPUの比率も高い。

ワンチップだが大きなダイサイズのゲーム機APU

 PS4のメインAPUのコスト見積もりが高いのはダイサイズが大きいからだ。調査会社のchipworksはPS4 APUのダイ解析の結果をブログで発表した。それによると、ダイは348平方mmと、Xbox OneのAPUの363平方mm(HotChipsでの発表値)に迫る大きなサイズとなっている。以前、このコラムで予想したよりもかなり大きいが、GPUコアのサイズがグラフィックス固定機能を含めてかなり大きかったことと、チップ内のインターコネクトと見られる部分が大きかったことが影響していると見られる。APU自体のコスト見積もりはXbox Oneの方がやや大きい。

PS4 APUのアーキテクチャ
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Xbox One APUのアーキテクチャ
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Xbox OneのSoC

 300平方mm台のダイは大きいが、これまでのPS2とPS3は、どちらも、200平方mm台のCPUと200平方mm台のGPUの2チップ構成だったことを考えると、必ずしも不利とは言えない。また、今回のAPUは、面積が大きなGPUコアの部分については、スペック上の18個のCU(Compute Unit)に対して、20個のCUを搭載することで、CU 2個分の冗長性を持たせて歩留まりを上げている。

 PS4のメインメモリのコスト見積もりが非常に高いのは、GDDR5の高速品を16チップも載せているからだ。PS4のメインメモリはGDDR5で、2012年秋にスペック変更を行ない8GBに容量を倍増したため、生産が始まったばかりの4G-bitチップを使わなくてはならなくなった。

PlayStationシリーズのDRAM
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 従来のゲーム機は、DRAM容量を切り詰め、DRAMコストをかなり抑えていた。しかし、ソフトウェアモデルの変化により、PC並にDRAMを積む必要が出たため、ゲーム機に必要な広帯域を得ようとすると難しい。結果としてPS4では、メモリはかなり調達コストが高くなっている。PS4の開発を担当する伊藤雅康氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント、第1事業部 事業部長兼SVP)も、TGS(東京ゲームショウ)時のインタビューで、DRAMがコスト面で厳しいことを認めていた。

 しかし、メインAPUとGDDR5についても、しばらくすればコストが下がる。まず、DRAMは、GDDR5は4G-bit品を製造できるのがSamsungだけだったので、シングルソースでスタートしたが、それほど遠くないうちにセカンドソースが加わる見込みだ。そのため、次第にDRAMコストは低減して行くことが予想される。また、将来、GDDR5が8G-bit品に移行すると、チップ数を半分の8個に減らしてコストを削減できる。GDDR5のインターフェイスはx16/x32をスイッチできるので、チップ個数を減らしても帯域とインターフェイス幅は変わらない。

PS4のDRAM
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 メインAPUについては、28nmプロセスで先行するTSMCが、当初28nmプロセスについて高価格に設定していたという背景もある。28nmで他のファウンダリの生産量が上がるにつれて、28nmの価格の設定は下がりつつある。また、28nmのラーニングカーブが上がると歩留まりも上がる。そのため、APU自身のコストも下がって行く。

プロセス微細化で小さくなるゲーム機のメインチップ

 では、その先のコスト削減はどうなるのか。メインのAPUチップについては、プロセスの微細化でダイのサイズが小さくなる。ダイが小さくなると原則としてチップ自体の製造コストは下がる。そして、PS4では、最初からワンチップのAPUなので、CPUとGPUのチップ統合の必要がなくシュリンクが楽だ。これはXbox Oneも同様だ。

 歴代PlayStationを見ると、過去のPlayStation 2(PS2)とPlayStation 3(PS3)は、メインはCPUとGPUが別チップだった。そのため、PS2ではCPUとGPUを統合するまでにかなり時間がかかり、PS3では統合できないまま来てしまった。その点で、最初からAPU構成のPS4は、半導体チップ自体のシュリンクと統合の設計作業が必要ないという面では有利だ。

 もう少し詳しく見ると、PS2ではCPU「EE(Emotion Engine)」とGPU「GS(Graphics Synthesizer)」それぞれを初代の250nmプロセスから180nm、さらに150/130nmへと微細化し、最後に90nmプロセスでワンチップに統合した。ダイサイズ(半導体本体の面積)は初代のEEが240/224平方mm、GSがeDRAMを統合して279平方mm。これが最終的に90nmではEE+GSの統合チップで86平方mmにまで縮小した。

PlayStationのチップのシュリンク
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 それに対して、PS3ではCPUの「Cell Broadband Engine(Cell B.E.)」とGPUの「RSX(Reality Synthesizer)」とも90nmで製造をスタート。Cell B.E.は65nm、45nmと微細化したが32nmプロセスは見送られた。RSXは65nm、40nmと微細化し、現在は28nmへと置き換わりつつあるという。つまり、Cell B.E.で3世代、RSXで4世代のプロセス移行を行なったか、行ないつつある。しかし、Cell B.E.について言えば、EEほど劇的にはダイを縮小できなかった。初代のCell B.E.は235平方mmだったのが、45nmでようやく半分の115平方mm。小さくできなかった原因にはエッジのI/Oの配置などの制約などがある。実際、45nm版のCell B.E.ではムダスペースが生じている。

 プロセス移行で順調にシュリンク&統合化を行ない、チップコストを劇的に下げたPS2。それに対して、微細化しても以前ほどはダイを縮小できず、チップの統合化もできなかったPS3と分かれる。では、PS4はどうなのか。APUは300平方mm台中盤と大型ながら、すでに説明したように、始めからワンチップであるため、設計に大きな手を加えなくてもシュリンクできる。しかし、コスト低減は、プロセス技術側の問題から簡単には行かない。

ダイの小型化が難しい16/14nmプロセス

 ファウンダリのプロセス技術は、ノードの数字の上では、28nm→20nm→16/14nmと小さくなる。しかし、今回のプロセス移行は多少事情が特殊で、20nmはプレーナトランジスタで、16/14nmはFinFET 3Dトランジスタとなっている。20nmの次に、トランジスタ構造が根本的に変わる。そして、ファウンダリ各社は、プレーナ20nmとFinFET 16/14nmプロセスの2世代に渡って、バックエンドBEOL(Back End Of Line)については、共通の土台を使う。

プロセスルールのシュリンク
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 つまり、バックエンドプロセスは20nm世代のままで、トランジスタをFinFETに切り替えたのが16/14nmプロセスとなる。難度が増すバックエンドは2プロセス世代共通化して開発労力を抑えて、こちらも難度が高いフロントエンドのFinFET化だけに絞り込む。

 こうした事情から、実際には20nmと16/14nmは平行して開発が行なわれて来た。時期的にも両プロセスは1年しか製造開始の時期が変わらない。同じプロセス世代で、トランジスタ構造が異なるのが20nmと16/14nmと考えてもいい。また、20nmと16/14nmはバックエンドが同じであるため、基本的に同程度の回路規模のダイエリアは変わらない。つまり、同じトランジスタ数のチップなら、ダイサイズも20nmと16/14nmでは大きくは変わらないと見られている。ただし、16/14nmではFinFETで性能が上がる分、例えば12トラックライブラリから、9トラックライブラリへと切り替えることでダイエリアを小さくすることは可能だ。

 この状況で、28nmでファウンダリに製造委託しているチップベンダーには2つの選択肢がある。1つは、穏当に20nmプロセスへと移行する道、もう1つは20nmをスキップしてFinFETの16/14nmに移行する道だ。しかし、SCEの伊藤氏は「20nmのスキップは難しいだろう」と答えており、SCEは現状では、穏当な20nm→16/14nmの道を考えているようだ。

 実際、ファウンダリ各社で、プレーナ20nmとFinFET 16/14nmの位置付けは揺れてきた。例えば、TSMCは当初は20nmをある程度限定的なプロセスと位置付けて、16nmに力を入れる姿勢を見せていた。ところが、昨年(2013年)前半から20nmにも、より注力するようになっている。

 PS4のAPUの微細化版を20nmにするとして、機能拡張は行なうのかどうか。昨年(2013年)9月の段階では、伊藤氏は「シュリンクして機能アップするかどうかは議論中。PS4を進化させることを考えると、シュリンクしつつも何かを加えるといいとは考えている」と語っている。もはやゲーム機でも機能拡張がタブーではないことが分かる。

 SCEがTSMCファウンダリのまま20nmに移行するとしたら、PS4は今年(2014年)に20nmプロセスに移行できる。しかし、TSMC以外のファウンダリへと移行しようとすると、場合によっては2015年まで20nm化はスリップする可能性もある。しかし、TSMCのライバルは、より安く20nmプロセスの価格を設定しているため、SCEがファウンダリを乗り換える利点はある。16/14nmプロセスも同様で、ファウンダリ間の価格競争がある可能性が高い。

チョイスが難しい28nmの先のプロセス微細化

 難しいのは、20nmと16/14nmではダイサイズ的に大きな違いが出ないため、ダイの小型化によるコストの低減は見込みにくいこと。さらに、20nm以降のプロセスでは、トランジスタ当たりのコストが、前世代とそれほど変わらなくなるという問題もある。新プロセスノードの立ち上げと運転にかかるコストは世代毎に急激に高くなりつつあり、コスト上昇は、微細化のダイの小型化をある程度まで相殺してしまう。

 すると、20nmプロセスより16/14nmの方が、同程度のダイサイズのチップのコストが高くなる可能性が高い。FinFETの歩留まりによってもコストが変わる。もちろん、消費電力で見ればFinFETの16/14nmプロセスの方が有利となるが、コスト面では16/14nmへの移行に意味があるかどうかは疑問だ。

 そのため、プロセスの以降は、コスト的に意味をなすのかどうかが問題となる。「その点は明瞭で、まず、コストを考える。FinFETなら省電力になるが、省電力した分だけコストがアップして見合うかどうか天秤にかける」(伊藤氏)という。

 16/14nm以降のプロセスになると、さらに未知数の部分が多くなる。10nm以降になると、今度はウェハの450mmへの大口径化とEUV露光も絡んで来る。PlayStationのこれまでのチップの微細化の経緯を見ると、プロセス技術的には各世代が3〜4プロセス世代にまたがることが分かる。PS2、PS3、PS4とも同じようなプロセス微細化のパターンを辿ると見られるが、チップの小型化では、以前ほど劇的な効果を望みにくくなっている。

PlayStationのチップのシュリンク
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(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail