後藤弘茂のWeekly海外ニュース

2020年には300億デバイスが予想されるIoT市場に賭けるARM

組み込みプロセッサでの占有度を背景にするARM

John Cornish氏(Executive Vice President and General Manager, System Design Division, ARM)

 ARMは米カリフォルニア州のサンタクララで先週(10月29〜31日)開催した同社の技術カンファレンス「ARM Techcon 2013」で、「IoT(The Internet of Things)」を大きくフィーチャした。モバイルや家電の次の市場として、2020年までに300億台に達する見込みのIoTデバイスに注力する。巨人Intelとは異なり相対的に小規模なARMは、同社のIPを使うコミュニティの力をIoTに向けようとしている。

 前回レポートしたように、ARMはCEOのキーノートスピーチでIoTの背景を説明した。続く3日目のキーノートスピーチでは、具体的なARMのIoTに対する取り組みが説明された。また、3人のゲストキーノートスピーカーにより、IoTとサーバーバックエンドについての展望が説明された。

 ARMのJohn Cornish氏(Executive Vice President and General Manager, System Design Division, ARM)はスピーチの中で、IoT(The Internet of Things)は現実の物理世界をデジタルワールドと結びつけるものだと位置付けた。現実世界を検知する膨大なセンサーからのデータが、無線ネットワークによってデバイス間で共有され、さらにクラウドに吸い上げられる。IoTからの小さな断片のデータの集合が、ビッグデータとしてサーバーで活用される。その上でのアプリケーションが花開くという構図だ。

センサーからのデータを無線ネットワークで繋ぎクラウドへ
接続機器、Webトラフィックが増大
リトルデータとともにビッグデータがスタート

 ARMがIoTに力を注ぐのは、IoTのノードに必要な組み込みプロセッサの世界が、もともとARMの市場だからだ。32-bit MCU(マイクロコントローラ)では、ARMは圧倒的なシェアを持ち、全世界にすでに数十億のARM組み込みデバイスがあるとCornish氏は説明する。ARMの現在のCPUコアはプロファイルによって下のスライドのように階層化されている。最上位はアプリケーションプロセッサ向けの「Cortex-A」系列。その下のリアルタイムプロセッサ向けが「Cortex-R」系列で、さらに下がマイクロコントローラの「Cortex-M」系列だ。Cortex-M搭載デバイスだけで、2012年に19億デバイスも出荷されたという。

ARMプロセッサファミリ
ARMアーキテクチャのプロファイル
Cortex製品のレンジ

 組み込みプロセッサに無線とセンサー、あとはワークメモリなどを組み込めばIoTデバイスチップになる。ARMは組み込みでの強さを背景に、組み込みデバイスのIoTデバイスへの進化を促そうとしている。

MCU、無線、センサーの搭載でIoTに
組み込みのインターネット

IoTに必要となる新しい技術標準

Simon Segars氏(CEO, ARM)

 問題は、IoTを成り立たせるために何が必要なのかというポイントとなる。ARMのCEOであるSimon Segars氏(Chief Executive Officer, ARM)は、重要な要素として相互運用性を支える技術と標準規格だと説明した。

 この問題は、1年前のARM Techconでも言及していた。極めて低電力かつ低コストが必要条件となるIoTデバイスと、従来のネットワークインフラストラクチャの間にはギャップがある。その間を適切な標準に基づいた技術で埋めることができなければ、各デバイスは孤立したサイロのようになってしまう(The Internet of Silos)。それを避けるための標準化活動が必要だとARMのSegars氏は指摘する。

接続性のギャップ
サイロのようになるのを避けなければならない
標準化活動が必要

 PCやネットワークの世界が長い時間をかけて確立したようなさまざまな“標準”を、IoTの世界も組み立てる必要がある。ARMはそのために、IoT向けのソフトウェア技術標準の開発に注力してきた企業SENSINODEを買収したことを8月に発表した。SENSINODEは、端末であるIoTノードと中継点となるIoTバックホールのソフトウェアのプロトコルスタックなど(6LoWPANやCoAPなど)の規格化をリードしてきた。SENSINODEを得たことで、ARMはIoTの規格化とソフトウェア提供で中心的な役割を果たすようになるとしている。

 さらにARMは、IoTのような組み込みデバイスの開発者を支援する「mbed Project」も以前から提供している。mbedは、ARMのCortex-Mマイクロコントローラをベースにした開発ボードとプログラミングフレームワークをセットにしたプロトタイピング環境だ。ARM Techconでは、mbedをベースにしたIoTデバイスのプロトタイピングを支援するXivelyなどのサービスが紹介された。

JavaをIoTのアプリケーションプラットフォームに

 ARMはIoTでのプログラミングフレームワークとしてJavaが重要な役割を果たすという視点も示した。IoTデバイス側のアプリケーションプラットフォームはJavaを想定している。

 Javaは、もともとSun MicrosystemsのOakプロジェクトとしてスタートした時点では、まさにIoTのようなデバイスをターゲットに考えられていた。家電のための移植性や信頼性を考えて開発がスタートしたのがOakであり、その発展であるJavaにも引き継がれた。Sunを買収してJavaを主導する立場になったOracleが、JavaをIoTのキーテクノロジとして推すのも不思議はない。ARM Techconのキーノートスピーチに登場したOracleのNandini Ramani氏(Vice President, Java Platform, Oracle)は、Oracleのソフトウェアプラットフォームが、IoTからビッグデータまでをカバーすると説明した。

Javaが重要な役割に
Nandini Ramani氏(Vice President, Java Platform, Oracle)

 OracleのRamani氏はIoTのソフトウェアアーキテクチャで必要な技術の多くを、OracleとARM SENSINODEで提供できると示した。IoTのアプリケーションフレームワークは、Java Embeddedプロファイルがカバーする。もちろん、Java EmbeddedはARM Cortex-Mに移植されており、Cortex-MをカバーするのはJava ME Embeddedだ。Oracleは、ARMv8の64-bitもJava SE Embeddedでカバーする予定で、Java EmbeddedでARMのソリューションの全域をカバーしようとしている。

ヘルスケア&医療がIoTの注目分野

 広範囲に渡るIoTの分野の中で、ARMは今回、特にヘルスケア&医療分野をキーノートスピーチでフィーチャした。市場には、すでにネットワーク接続型のアクティビティモニタ(生活活動計)として「FitBit」を始めとしたデバイスが次々に登場しつつある。しかし、今後のヘルスケアデバイスは、もっと広範かつ高機能に進化して行くという。

2020年にはBluetoothアクセサリが1,300億ドルの市場に
Daniel Kraft氏(Health Science Innovator)

 ARM Techconの2日目のキーノートスピーチには、スタンフォード大学のデジタル医療のフューチャリストとして知られるDaniel Kraft氏が登場。膨大な数のスライドで、IoT化で変わるヘルスケア&医療の世界を展望した。Kraft氏の描くIoT化ヘルスケアの未来では、体温、体組織、血圧、心拍、心電図、呼吸数、酸素飽和度、肺機能、鼓膜、血糖値、脳波、皮膚状態など、人体のさまざまなデータがIoTデバイスによってモニタされバックエンドのサービスに送られる。デバイス自体も皮膚に貼るパッチのような形状まで小型化される。

 データは可視化され、自分のデバイスで見ることもできるし、例えば、医療担当者がチェックすることもできる。具体的な例としてKraft氏は、ハンディなヘルスチェッカー「Scanadu」を紹介。このデバイスを額に当てるだけで体温だけでなく、心拍や呼吸、酸素飽和度などさまざまなデータをスキャンしてモニターできることを示した。

 さらに、将来像として、こうしたヘルスチェックデバイスによって自宅で病状をチェックしたデータをもとに、医療サービスからのアドバイスを得るといった使い方を紹介。データによって病院に行くべきとアドバイスされた場合に、データをもとに適切な病院を探してナビゲートするといったサービス展開をビデオで紹介した。

 TED(Technology Entertainment Design)カンファレンスにも出場したことがあるKraft氏は、TED風のスピーディなプレゼンテーションを行なった。実際には、上記の例以外にも、数十の事例を紹介している。その中にはGoogle Glassなどのデバイスで、料理を見るとカロリーや栄養素などを表示するといったアイデアから、エクソスケルトン(外骨格)フレームで障害者によりよい日常生活を可能にするといったものまであった。

HPはIoT時代に合わせたデータセンタの改革を展望

 ARM Techconのキーノートスピーチでは、サーバーベンダーの中でもっともARMサーバーに力を入れているHP(Hewlett-Packard)も登場した。HPのMartin Fink氏(CTO and Director of HP Labs, Hewlett-Packard)は、同社のマイクロサーバーシステムである「HP Moonshot System」とその背景について説明を行なった。

 HPの視点は、IoT化などでネットワークに繋がるデバイス数とデータ量が増えると、その変化に合わせてサーバーとデータセンターを変えなければならないというもの。そのためのソリューションがMoonshotという位置付けだ。

 Moonshotはボード自体が小さなマイクロサーバーで、極めてコンピュート密度が高い。Fink氏は80%のスペース削減と、77%のコスト削減、89%の電力削減が可能だと説明した。Moonshotシステムは実際にはIntelのx86ソリューションもあるが、今回はARMにフォーカスして説明を行なった。32-bit ARMだけでなく、来年(2014年)にはApplied Microの64-bit ARMチップを使ったサーバーも投入する。

ARMマイクロサーバー「HP Moonshot System」
ARMサーバーボードを手にしたMartin Fink氏(CTO and Director of HP Labs, Hewlett-Packard)

 面白いのは、HPによるARMとオープンソースコミュニティによって拓けるサーバー技術の今後の展望。Fink氏は、サーバー側のメモリ&ストレージが9階層の複雑な構造からユニバーサルメモリへと進み、CPUが汎用CPUから用途に特化したSoC(System on a Chip)へと変化し、ネットワークが電子からフォトニクスへと変わり、データマネージメントがリレーショナルデータベースからオープンソースのプラットフォームに変化し、複数のデバイスからの個別のデータへのアクセスが統一されたコンテンツビューを各デバイスで共有する仕組みへと変わると説明した。

 つまり、こうしたデータセンターのラディカルな変化を促す土台になるのがARMとオープンソースの組み合わせという位置付けだ。ARMサーバーを変化するサーバーのラインナップの1つとするというより、データセンターの変革の根本がサーバーのARM化というニュアンスだった。もちろん、これは技術的な問題というより、ARMのコミュニティの方がプレイヤーが多い分、柔軟性が高いと考えてのことだろう。

 今回のARM Techconは、キーノートスピーチを見ると徹頭徹尾、IoTとそれに伴うインフラストラクチャやデータセンターの変化にスポットが当たっていた。モバイルからIoTへという変化の波を先取りしたカンファレンスだった。Intelは、さらに小さなデバイス分野で、ARMとの戦いを迎えることになる。

(後藤 弘茂 (Hiroshige Goto) E-mail