後藤弘茂のWeekly海外ニュース

任天堂がE3で次世代ゲーム機「Wii U」を発表



●ディスプレイ距離によるインターフェイスの操作性

 任天堂は、今年(2012年)末に発売する次世代ゲーム機「Wii U」のプロモートに全力を注いでいる。米ロサンゼルスで開催されているゲームショウ「E3(Electronic Entertainment Expo)」で、任天堂はWii Uにフォーカスを絞ったカンファレンスを行なった。E3のショウフロアでは、Wii U実機によるデモも行なっている。

 Wii Uは、Wiiと同様にPowerアーキテクチャのCPUに、AMDのVLIWアーキテクチャのGPUを組み合わせたゲームコンソールだ。SD解像度で、モダンなシェーダを持たないGPUアーキテクチャだったWiiとは異なり、HD解像度のシェーダグラフィックスのマシンだ。Wiiから6年分の進化が結実している。しかし、最大の特徴は、本体機能より、ゲームコントローラであるWii U GamePadにタッチディスプレイが備えられていることにある。

 任天堂は、ユーザーや市場の本質的な変化をじっくりと調査し、独自の解答を見いだす。今回、任天堂は、ユーザーから2フィートの距離にあるタッチディスプレイが、エンドユーザーのプレイスタイルを変えるだろうと、タブレットブームの前に判断。Wii Uのコントローラに、そのアイデアを持ち込んだ。任天堂は、タッチペンのニンテンドーDS、モーションコントローラのWiiと、マンマシンインターフェイスの改革にこだわって来たが、次世代機にもその流れが受け継がれている。

 タブレットよりも前にアイデアができたWii Uの「GamePad」だが、Wii Uによってタブレットやスマートフォンの作り出した問題を解決することができると、E3直前に行なったWebcastで任天堂の岩田聡代表取締役社長は説明している。現在は、家庭の中ですら、2フィートの距離にあるタブレットやスマートフォンに人々が熱中し、コミュニケーションが分断された状況にある。2フィートのタッチパネルは、直観的な操作を可能にするが、大画面TVのような、画面を通じた体験の共有が難しい。

 それに対して、Wii Uは2フィートのディスプレイのコントローラと、Wii U本体に接続された10フィートの大型TVの組み合わせによって、その状況を変えることができるという。Wii Uでは、コントローラとTVの2つの画面を連携させることで、新しいゲームプレイの世界を開く。ユーザーは手元のGamePadで、TVの大画面のゲームなどを操作できる。つまり、エンドユーザーは、2フィートの画面での直観的な操作の利点と、10フィートの大型TVでの体験の共有という両方の利点を得ることができる。2フィートと10フィートの両方のいいところを取ろうというのがWii Uの基本的な考え方だ。

●大きく変わったWii U GamePad
昨年のE3時のWii Uのコントローラ

 Wii Uの抱える問題の1つは、タブレットデバイスがすでに浸透した後に出るため、どうしてもゲーム機にタブレットをつけただけのように受け取られてしまうことだ。「タブレットみたいなデバイスをつけて、どうするの」というのが、ゲーム業界の外からのWii Uに対する典型的な反応だろう。また、ゲーマーにとっては、果たしてWii U GamePadはゲームプレイで使いやすいのかどうか、という点に疑問符がついている。

 任天堂は、これに2つの方法で応えている。1つは、まずWii U GamePadのハードウェア自体。次は、GamePadの使い方の説明。

 Wii U GamePadは、昨年のE3での発表時のプロトタイプから、かなり変わった。1年前のWii U GamePadは、本当にタブレットにゲームコントローラの操作ボタンがついたような姿だった。ところが、1年経った実機のGamePadは、よりゲーム機のコントローラらしい姿になっている。具体的にはコントローラの左右の上についていたアナログスライドパッドを、本格的なアナログスティックへと変更した。これは、アナログコントローラを使うゲームでは、操作性をかなり大きく改善する変更だ。また、背面は凹凸がつけられグリップしやすくなった。これだけの変更で、かなり印象は変わり、ゲームコントローラらしく、操作しやすいデバイスになった。


新型のWii Uコントローラ

●GamePadの使い方を詳しく説明

 今回、E3での任天堂は、Wii UのGamePadの使い方の説明を丁寧に行なった。昨年のE3では、GamePadの使い方はコンセプトだけが示されたが、今年は実際のゲームでの使い方をじっくりと見せた。新コントローラのコンセプトが、うまく理解されていないだろうことを見越して、その利点を訴える戦術に出た。

 具体的には、サードパーティタイトルである「Batman Arkham City Armored Edition」や「ZombiU」など、Wii U GamePadに最適化したタイトルを紹介。ゲーム中で、武器選択にGamePadの画面を使ったり、マップを表示したり、あるいは、ゲーム世界中のオブジェクトに対してGamePadを掲げてスキャンしたり、スナイパーライフルでのスコープの拡大表示を掲げたGamePad画面に表示したり、ゲーム中のロックされたドアの解錠パネルをGamePadに表示させるといった例を見せた。ぱっと見ただけでも、GamePadの使い方は多様で、ゲームプレイ自体を多彩にする効果がわかる。このあたりの説明には、説得力がある。

 任天堂自体のファーストパーティタイトルでは、ピクミン3での操作を宮本茂氏自身が登場して説明。GamePad側に全体マップを表示するなどの方法が示された。Wii U GamePadの使い方のショーケース的なミニゲーム集である「Nintendo Land」もアナウンスされた。

 任天堂が示したGamePadの使い方で興味深かったのは、非対称型のゲームプレイ。これは、1人がGamePadを、他のプレイヤー(最大4人)が従来Wiiリモコンなどで、協力プレイや対抗プレイするというもの。「ルイージのゴーストマンション」で、GamePadを持ったユーザーだけがゴーストを見ることができる例が示された。お化け屋敷の、仕掛け側と、怖がるお客の役割分担のようなスタイルだ。やりようによっては、かなり面白いプレイができるアプローチだ。

 任天堂らしいのは、これを、リビングルームに物理的に集まった家族や仲間の間でのプレイスタイルとして提案している点だ。ネットワーク越しという発想ではない。


●よりコアなゲームへの傾斜が見えるWii U

 Wii Uの立ち上げには、前回のWiiの立ち上げと違う点がある。一言で言えば、ゲーム機の原点回帰、よりハードコアゲーマーに寄った戦略だ。

 Wiiでは、任天堂はゲーム人口の拡大を最大の目標に掲げていた。ゲームから離れたユーザーや、ゲームに触れたことがない人を、Wiiの直観的なマンマシンインターフェイスでゲームに引き込むことが大きなテーマだった。そして、Wiiは、当初は、それに成功した。Wiiは、非ゲーマー層を巻き込んだ結果、かつてのPlayStation 2を上回るペースで出荷台数が伸びた。ニンテンドーDSは、やや遅咲きだったが、こちらも新しいゲーム人口の掘り起こしに成功した。

 しかし、今回のWii Uでは、任天堂からゲーム人口の拡大という謳い文句は、それほど聞こえてこない。全てのプレイヤーのため、ファミリー全員のためのデバイスと言っているが、Wiiの時のようにカジュアル層を強調はしていない。

 Wiiの時は、カジュアル層を掘り起こすことが先に来て、その一方でコアなゲーマーもきちんとフォローするというスタンスだった。しかし、Wii Uでは、むしろコアなゲーマーの取り込みの方が目立つ。

 一例を挙げると、任天堂のカンファレンスにコアゲーマー向けタイトルで伸びてきたゲームパブリッシャーであるUbisoftのYves Guillemot氏(Co-Founder and CEO)が登場。同社の看板タイトルの1つである「ASSASSIN'S CREED III」を始め、サードパーティでは最大級の6タイトルをWii Uに提供することを明らかにした。

 現在発表されているWii Uのタイトルを見ても、すでに触れたバットマンやZombiU以外にも、「Mass Effect3」「ZombiU」「Tekken Tag Tournament 2」など、濃い目のタイトルが目立つ。ファミリー向けタイトルが充実していないというわけではないが、これまで弱かったコアゲーマー向けの部分が再び強化された雰囲気がある。

 もちろん、その背景には、Wii Uでは、CPUとGPUが強化されたため、Xbox 360やPLAYSTATION 3(PS3)からのタイトルの移植や共通タイトル開発が容易になったという事情もある。例えば、ASSASSIN'S CREED IIIはクロスプラットフォームだが、従来のWiiでは、この場合、Wiiだけ異なるバージョンを開発する必要があった。Wii Uではその必要がない。

 任天堂が、今回、カジュアル層の掘り起こしをそれほど強調しないのは、ゲーム機には、その部分ではもはや利がないことを認識しているためかもしれない。任天堂がせっかく掘り起こしたカジュアルゲーマー層は、その後、スマートフォンなどモバイルデバイスの台頭やソーシャルゲーミングの興隆で、任天堂プラットフォームから掠われてしまった感がある。それどころか、任天堂以上の勢いで、そうしたモバイルデバイスが新ユーザーを掘り起こしている。

 こうした状況では、ゲーム機メーカーがその強味を出せるのは、むしろゲームらしいゲームを、よりよい操作体系で遊ばせることにある。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)はそう判断してPS Vitaではスマートフォン的なアプローチに一定の距離を置いて原点のゲーム機に回帰した。任天堂も同様に、よりゲーム機らしさを出すという方向に向かっているのかもしれない。


●今後のゲーム機で重要なのは非ゲームの部分

 今年のE3での、ゲーム機ベンダー3社のカンファレンスに共通していることもある。それは、ゲーム機各社の業績比べ的なプレゼンテーションが、ほとんどなかったことだ。例えば、うちはゲーム機本体がこれだけ売れた、うちはこれだけ新ユーザーを獲得した、うちではサードパーティがこれだけ儲かっている、といった自画自賛だ。2〜3年前までは、こうした、他のゲーム機ベンダーと比較した、うちのプラットフォーム自慢が、盛んに行なわれていた。

 しかし、今では、そういったゲーム機対抗の発言はすっかり影を潜めている。代わりに目につくのは、旧来のゲーム以外の部分で、いかに自社プラットフォームが有用かという説明だ。ビデオコンテンツ配信などのエンターテイメント、ソーシャルネットワーキングなどの分野だ。3社とも、自分達の敵は、他のゲーム機ではないことに気がついている。モバイルデバイスや将来のスマートTVなどが、ゲーム機にとって最も手強い敵だ。だから、それに対抗して、ゲーム機に付加機能を加えつつある。

 これは、この記事の前半で説明したよりコアなゲーム機という部分と矛盾するようだが、そうではない。ゲーム機の強味を活かすために、非ゲーム機では遊ぶことができないゲームを充実させつつ、非ゲームの部分も付加して行くことが必要だ。

 実際には、現行世代のゲーム機(Wii/Xbox 360/PS3)からすでに「ゲーム機プラス」の時代に入っている。現世代から、ゲーム以外に何ができるかを示すことが重要になった。次世代では、それが、ますます重要となる。Wii Uの発表では、そうした傾向が顕著だった。

 前世代までは、ゲームというカテゴリにこだわっていた任天堂は、今回Wii Uの発表では、さまざまなゲームと並んで、ソーシャルとエンターテイメントを打ち出してきた。エンターテイメントでは、「NETFLIX」と「huluplus」の2大ビデオ配信サービスのサポートに加え、YouTubeなどのサポートも発表された。

 かつて、ゲーム機ベンダーは、ビデオはゲーム機にとって毒か薬かで、悩んだ。ビデオの視聴は、ゲーム機でゲームをプレイする時間を削ってしまう。すると、ゲームの購入本数が減り、ゲームのロイヤリティなどの収入を低下させる可能性があるからだ。

 しかし、もはや、そうした議論をする時代ではない。ゲーム機は、ビデオなどのサービスを積極的に取りこんで、エンターテイメントハブになるしか、これ以上の普及の道はないからだ。このアプローチでは、海外でXbox 360が成功しており、Microsoftは今回のE3ではそれを発展させて、Xbox 360でTVをスマートTVにすると宣言した。任天堂も、エンターテイメント面を強化せざるをえない。

●任天堂がソーシャルネットワークサービスへ

 ソーシャルでは、任天堂は「Miiverse」というサービスを打ち出した。任天堂はWii以降、Miiと呼ぶアバターシステムを導入して、自分や家族のコミカルなアバター化を実現した。Miiはゲーム内でも利用できるため、浸透した。また、3DSでは、そのMiiを使って、偶然のすれちがいを利用したMii交換システムを導入した。Miiverseは、Miiを使ったソーシャルサービスで、テキストだけでなく手書きメッセージなども交換できる。また、スマートフォンなどからもアクセスできるようにするという。

 ソーシャルネットワークサービス(SNS)も、ゲーム機が今直面している難題の1つだ。SNSがゲームに結びついているからで、どうやってその流れに対応するか、各メーカーとも苦慮している。任天堂は、ユーザーへの浸透度の高いMiiアバターシステムがあるため、それを利用することで、より親しみやすいSNSを実現しようとしている。

 任天堂は、この他にもWii Uの非ゲーム利用の例を示した。1つは、カラオケアプリの「SiNG (working title)」で、GamePad側に歌詞を表示するというもの。ただし、こういった利用で、スマートフォンやタブレットなどの汎用デバイスにどれだけ対抗できるか、難しいところだ。

 より有効な使い方としては、フィットネスアプリのWii FitのWii U版が示された。Wii Fitは、Wiiの非ゲーム的利用(言い換えればフィットネスのゲーミフィケーション)で大成功を収めた。しかし、TVを占有してしまうなどの難点も抱えていた。そこで、Wii Fit Uでは、GamePadの画面だけで利用できるなどの工夫を導入。また、ポータブルな活動量計を付加することで、日常の活動量も測定して、Wii U側にデータを送ることができるようにした。

 全体を概観すると、E3での任天堂のWii Uの説明は、ゲーム機の置かれた現状を把握し、それに対して正面から対応しているように見える。Wiiの時のようにゲーム人口を拡大するといった言い方をしないのは、ライバルに囲まれた現世代のゲーム機の難しさを認識しているためだと思われる。任天堂は、こうした現状認識という面では、比較的優れている。

 任天堂の問題は、そこから先の対処の方にある。任天堂の弱点は、リソースの限界にあり、ゲームに注力すれば非ゲームのサービスが弱くなるといった問題を抱えている。Wiiでは、そのために、せっかく掘り起こしたユーザーに、「毎日なんらかのカタチでWiiを使う」ようにさせて、ユーザーを固着させるという戦略がうまく行かなかった。Wii U世代では、ハードルがますまる上がり、任天堂の不得手な非ゲームの部分の充実が、さらに重要となるだろう。