後藤弘茂のWeekly海外ニュース

E3でデビューした任天堂の次世代ゲーム機「Wii U」の狙い



●新コントローラとシェーダグラフィックスの本体の組み合わせ

 任天堂の次世代ゲーム機『Wii U』は、タッチスクリーン付きコントローラと、PowerアーキテクチャのマルチコアCPUと、AMDアーキテクチャのシェーダGPUを備えたゲーム機だった。任天堂は、米ロスアンジェルスで開催されているゲームショウ「E3」でのカンファレンスで、Wii Uの概要を明らかにした。E3のショウフロアでは、Wii Uのプロトタイプによる試遊も行なわれている。また、Wii Uのターゲットとして、Wiiで掘り起こしたカジュアルな層だけでなく、コアなゲーマー層を積極的に取りこんで行く戦略も明らかにされた。

 Wii Uのポイントは2つ。1つは、任天堂がマンマシンインターフェイスの改革こだわりを持ち続けていることが明確になったこと。もう1つは、任天堂が半導体技術の進歩を利用して従来のWiiの弱点だったグラフィックスやCPUパフォーマンスを引き上げることを決意したこと。その結果として、任天堂はカジュアルなゲーマー層も広く掴みつつ、“コアゲーマー”へも再浸透しようとしている。

 Wii Uの新しいコントローラは6.2型のタッチパネルスクリーンを備え、十字ボタン、A/B/X/Yボタンといったお馴染みのコントローラボタンから、左右にスライドパッド、角にL/Rボタン、下面に左右のトリガーボタンと、ほぼフル装備のボタン類を備えている。加えて、正面に対向カメラ、左右に内蔵スピーカー、マイク、加速度センサーを備える。入力系のてんこ盛りのコントローラだ。また、Wi-Fiと赤外線の2系統の通信リンクを持ち、HDMIインターフェイスまで備える。しかし、コントローラ自体はほとんどダムに近く、本体側でレンダリングした画像データを、コントローラ側のスクリーンで表示すると見られる。

Wii Uの新コントローラ

 Wii U自体は、Wii世代のコントローラにも対応し、オプションとして出したWii Fitのコントローラなどもサポートする。つまり、入力系で見るなら、Wii UはWiiの上位互換で、新タッチコントローラを加えたマシンとなる。Wii Uの登場は2012年中とだけアナウンスされた。

Wiiのコントローラにも対応 発売は2012年

●多彩な使い方が可能なWii Uの新コントローラ

 任天堂のカンファレンスでは、この新コントローラの使い方が詳しく紹介された。例えば、Wii Uを使ってTVでゲームをしている最中に、誰かがTV放送を見たい場合は、ゲームをそのままコントローラ側に移してTV側を明け渡して継続プレイをする使い方ができるという。これは、現在のゲーム機が家庭で抱えている、TVを占有してしまうという問題への解答だ。

 また、タブレットライクな使い方として、タッチペンでコントローラ側で絵を描く、あるいはコントローラ側だけでオセロのようなゲームをプレイするといった使い方が紹介された。この部分は、タブレットでできるようなことは、Wii Uのコンピューティングパワーを使ったリモート端末としてコントローラで実現できることを示している。

手元のコントローラのスクリーンでゲームを遊ぶ 「ゼルダの伝説」のリンクをタッチペンで描いている コントローラでオセロのようなゲームをプレイ

 さらに、TVに表示するゲームと連携したコントローラとしての使い方でも、ユニークな道が示された。例えば、野球ゲームでコントローラのスクリーンでコントロールをして投球や捕球をする。ゴルフゲームで床に置いたコントローラスクリーンに表示されたボールを打つといったプレイだ。コントローラ側に表示された手裏剣を、スクリーンを撫でる動作でTV画面に向かって投げるといったデモ映像も流された。

野球のキャッチャーミットをコントローラで狙う ゴルフゲームのボールがコントローラのスクリーンに映る
バンカーで“目玉”になったゴルフボールの表示 コントローラに映った手裏剣をTVに向かって投げる

 もちろん、アイテムやマップなどをコントローラ側に表示させるといった使い方もできる。また、Wii用の銃型コントローラザッパーと組み合わせて、新コントローラを銃のスコープのように使う方法も示された。

TV画面にゲーム、コントローラ画面にアイテムなどを表示
ザッパーに取り付けて、エイムした銃のスコープに

 ゲーム以外では、コントローラのディスプレイを使ったビデオチャットや、コントローラでブラウズした画像をTVに転送して大画面で共有する、Webブラウザで全体をTV画面で表示して手元のコントローラでは部分を表示して、タッチでWebページ上のボタンをクリックしたり、拡大してみるといった例が示された。後者の例は、細かいテキスト情報は手元で見て操作するというタブレット的な使い方だ。

話している2人が映っているビデオチャット Webブラウザの画面の一部をズーム 見せたい動画をコントローラから大画面TVへ飛ばす

コントローラだけを持ってWii Fitに乗る

 また、Wiiらしい面白い使い方としてヘルス管理のWii Fitと組み合わせて、Wii Fitコントローラで得られたユーザーのBMI値などのデータを、新コントローラに表示させるデモ映像が公開された。この使い方では、ユーザーはTVを全く立ち上げることなく、Wii Fitのデータ表示を手軽にコントローラで参照できる。これもTVが必要という現在のWii Fitの弱点をカバーする使い方だ。

 また、非ゲーム用途で威力を発揮するのは、文字入力だろう。Wiiを使って、文字入力で苦しんだ経験をした人は少なくないだろう。Wii Uでは、その問題は手元入力で解消されると推測される。

●タブレットとは異なるコンセプトの新コントローラ

 任天堂のWii Uは、パッと見た印象では、ゲーム機にタブレット型を組み合わせたように見える。TVに表示する本体の他に、6.2型の小さめのタブレットが手元にある印象だ。実際、Androidタブレットを使って、TVに接続されたゲーム機のようなデバイスをコントロールすることは、やろうと思えば可能だろう。

 しかし、似ているようだがWii Uコントローラとタブレットでは、コンセプトが大きく異なる。Wii Uのコントローラはあくまでもゲームコントローラであり、ゲームプレイのための多彩なボタン類を備え、それ自体ではプロセッシング能力は、おそらくほとんど持たない。また、開発時期から考えて、Wii UのコントローラはiPad以来のタブレットブームよりも前にスタートしているはずだ。

 しかし、新コントローラにはタブレットコンピュータと共通するポイントもある。それは1フィート(約30cm)の情報という側面だ。これまで、TVに表示するデバイスでは、TVとユーザーの距離である10フィート(約3m)でのユーザーインターフェイスと表示をどうするかがテーマだった。10フィートUIという言葉は、デジタル家電では非常にポピュラーで重要なキーワードだった。例えば、10フィートで使いやすいメニュー、テキスト、Webブラウザ、コントローラ。そういった10フィート環境の構築に、ゲーム機ベンダーやTVメーカーを含む各社が頭をひねってきた。

 ところが、タブレット型コンピュータが登場して状況が一変してしまった。Webなどの細かな情報は1フィートの手元にあって、タッチで直観的に操作できる方が便利だという認識が急に強くなった。かつて10フィートのUIを開発していたあるエンジニアは「iPadを手にして、もしかすると、10フィートUIという発想自体が間違えていたのかも知れないと思い始めた」と語っていた。この、情報操作に適した距離は、タブレットで再浮上してきた重要なポイントで、このところさまざまな議論を呼んできた。

 この状況で、任天堂がWii Uでタブレットライクなコントローラを持ってきたことは興味深い。もちろん、10フィートは臨場感や没頭感を実現するディスプレイには必要な距離で、その距離のインターフェイスも必要だ。しかし、それでは埋められない情報や操作があり、それに対応するためには、1フィートのデバイスで補完する必要があると任天堂は判断したと推測される。

 このことは、任天堂がマシンへのインターフェイスと情報への距離の問題を考えた結果、コンピュータメーカーと同じ結論に達し、似たようなフォームファクタを導入して来たことを意味する。同じ問題に取り組んだ結果生まれたものだから、タブレットとWii Uコントローラが似通ったと考えた方がよさそうだ。任天堂がユーザーインターフェイス(=コントローラ)の問題を、ゲーム機(コンピュータ)の最重要課題として考え続けていることを示している。

 任天堂がユーザーインターフェイスを最重視していることは、E3でのプレゼンテーションの方法にも如実に示されている。今回のWii Uの発表では、任天堂の岩田聡代表取締役社長はまず新コントローラを打ち出し、本体機能は、ほんの付け足し程度に言及しただけだった。本体機能のグラフィックスなどに対するコメントは、むしろサードパーティメーカーの方が多かった。こうしたコントローラありきの姿勢は、任天堂の戦略を反映していると推測される。

Wii Uコントローラ 任天堂の岩田聡代表取締役社長

●意味が変わってしまったコアゲーマー

 任天堂は今回のWii Uで、コアゲーマー層の獲得も打ち出した。コアなゲーマーは、もともと任天堂のユーザーだった。任天堂のゲームは絶妙な難度で、プレイヤに集中とスキルを要求し、ゲーム慣れしたコアなゲーマーが充分に楽しめるものだった。任天堂は、ゲームの核となるゲーム性でのアイデアの開拓では常にリーダーだった。

 しかし、任天堂がゲーム性にこだわり、自社の路線を守っている間に、任天堂の外ではコアゲームの“意味”が変わってしまった。現在では、コアゲームというと、FPS(First Person Shooting)タイトルを初めとする、緻密なグラフィックスやコンピューティングでリアリティを追求したゲームに寄ってしまっている。ゲーム性よりも重要なのは、グラフィックスやリアル度であったりする。そして、任天堂プラットフォームWiiでは、HD表示もシェーダグラフィックスもサポートしないため、そうした流れからは取り残されてしまった。

 つまり、任天堂自身のポジションは変わらないのに、世間のコアゲームの定義が変わってしまい、そのため、Wiiでの任天堂は、どちらかというとカジュアルゲームというイメージがついてしまった。結果、Wiiは、当初考えていたような全てのゲームユーザーのためのマシンではなく、コア層を除いたユーザーのためのものへとズレて行ってしまった。

 今回、任天堂は、Wii Uでシェーダグラフィックスとそれに見合うコンピューティング性能を提供することで、そうした新定義のコアゲームにもアプローチしようとしている。E3でのカンファレンスでは、特にそれが強調された。岩田氏は、より深いゲーム体験によって、より広いゲーマーにアピールすると表現した。

深いゲーム体験を、より広いゲーマーにアピール Wii Uはシェーダグラフィックスに強化される

●EAと任天堂の関係が躍進

 任天堂のこの転換を象徴するのは、米ゲームメーカー最大手のEA(Electronic Arts)のトップJohn Riccitiello氏(CEO, EA)が任天堂のステージに登壇したことだ。Riccitiello氏は任天堂のスピーチに登壇するのは初めてで、EAと任天堂の関係の大躍進だと語った。またビデオでは、かつてXbox 360のビジネス面の指揮官だったPeter Moore氏(現President, EA Sports)やUbisoftのYves Guillemot(CEO, Ubisoft Entertainment)など、SCEやMicrosoftのカンファレンスと共通するサードパーティの面子がWii Uへの賛辞を述べた。一瞬、どこのカンファレンスにいるのか、わからなくなってしまうような展開だった。

任天堂ステージにEAのJohn Riccitiello CEOが登場 UBIのYves Guillemot CEO EA SportsのPeter Moore氏

 さらに、Wii U向けタイトルとして「Assassin's Creed」や「Darksiders II」、「Batman: Arkham City」、「Tom Clancy's Ghost Recon Online」など、コアゲーマー向けタイトルが次々に紹介された。日本メーカーでは「鉄拳 Wii SUCCESSOR」、「Ninja Gaiden 3: Razor's Edge」など、こちらもコアなタイトルが紹介された。ただし、プラットフォームハードウェアの機能のレベルが近づいたことで、今後のゲームでは、PS3とXbox 360(さらにPC)だけでなく、Wii Uも含めたマルチプラットフォーム展開を行なうところも出てくることが推測される。開発する側にとっては、マルチプラットフォームでさらに悩む要素が増えることになる。

UBI「Tom Clancy's Ghost Recon Online」 コーエーテクモ「Ninja Gaiden 3: Razor's Edge」 THQ「Darksiders II」

「ゼルダの伝説」インタラクティブデモムービー

 もちろん、任天堂自身のゲームもWii Uに多数登場する。「大乱闘スマッシュブラザーズ」の新作が予定されている他、E3のショウフロアでは「ゼルダの伝説」のインタラクティブデモムービーが流されていた。