後藤弘茂のWeekly海外ニュース

スパコンと組込の技術接点が見えるカンファレンス「COOL Chips XV」



●接近するスパコンと組み込みの技術クロスオーバーがわかる

 半導体チップの最新動向がわかる国内のカンファレンス「COOL Chips XV」が、4月18日より3日間、横浜情報文化センターで開催される。COOL Chipsは、1998年以来、日本で開催されているIEEEの国際シンポジウムで、今年(2012年)で15回目を迎える。初日がスペシャルセッションで、本カンファレンスが19~20日に行なわれる。

 今年のCOOL Chipsの特徴を一言で言えば、スーパーコンピューティングとモバイル/組み込みとなる。「Blue Gene/Q」と「京」という2大スーパーコンピュータのセッションが行なわれる一方で、COOL Chipsが従来力を入れてきた低消費電力技術の話題も豊富だ。そして、スーパーコンピュータと組み込みの両分野の技術クロスオーバーをテーマにしたパネルディスカッション「Technology exchange: Supercomputing and Embedded computing」も行なわれる。

 今回のCOOL Chipsに見える、スパコンと組み込みの接近というテーマは、実はコンピュータ業界の重要トピックの1つだ。スパコンは、DARPAが掲げた1 ExaFLOPSを20 MWattで実現するという目標に向かって邁進している。一方の組み込み技術は、モバイルコンピューティングの興隆によって、パフォーマンス/電力を一層高める必要に迫られている。ExaFLOPS世代のスパコンンが最終目標とする50GFLOPS/Wattというパフォーマンス効率の目標は、モバイル/組み込みのハイパフォーマンスレンジのチップにとっても目標だ。

50GFLOPS/Wattにおけるコンピューティングスケーラビリティ(PDF版はこちら)

 電力効率が最重要の課題である両分野の技術は接近しつつあり、相互に利用可能な技術的な接点を見いだすことができると期待されている。スパコンと組み込みの接近については、昨年(2011年)のCOOL Chipsでも、Intelのキーノートスピーチで扱われた。今年はさらに踏み込んで議論される。2分野をカバーするカンファレンスは少ないため、COOL Chipsではこの技術トレンドを押さえることができる重要な場となっている。

●Blue Gene/Qと京の2大スーパーコンピュータのスピーチ

 今回のCOOL Chipsのキーノートスピーチは5本。そのうち2本がスーパーコンピュータ関連で、まず、19日にIBMの3世代目のBlue Geneスーパーコンピュータについての「The IBM Blue Gene/Q Supercomputer」(Liang-Tai Chiu氏)が行なわれる。Blue Gene/Qは、Power A2コアを18個搭載(ユーザーが利用可能なのは16コア)した「BlueGene/Q Compute」チップを使う、スモールメニイコア的なアプローチのアーキテクチャだ。Power A2は、組み込み向けのIBM PowerENチップのコアを拡張したもので、組み込みとスーパーコンピュータの技術接点の例とも言える。COOL Chipsでは、コンピュートチップだけでなく、ネットワークチップや全体アーキテクチャについても説明が行なわれる見込みだ。

昨年(2011年)のHot Chipsで公開されたBlueGene/Q Compute

 スーパーコンピュータ関係のキーノートスピーチでは20日に、富士通の安島雄一郎氏による「Tofu Interconnect Controller for Fujitsu's Highly Scalable Supercomputer」が行なわれる。京の88,128個のプロセッサチップを相互接続する「Tofu」インターコネクトについての講演だ。京はチップだけでなく、インターコネクトも独創的なアイデアで新設計された。6次元のメッシュ/トーラス構造で、豆腐のようなTofu unitsを3Dトーラスで接続した独特の構造を持つ。パスの多重化で冗長性を高めており、Cool ChipsではTofuネットワークと、その制御チップである「Interconnect Controller (ICC)」について講演される。

京のノード/ルーター各ドメイン

 スーパーコンピュータに絡むキーノートスピーチがもう1本ある。イリノイ大学のWen-mei Hwu氏による「Application Scalability - Key to Low Power, Performance Growth, and Exascale」だ。Hwu氏は特にGPUプログラミングの専門家として有名で、NVIDIAがCUDAのプログラミングコースを開設する際に真っ先に協力したのもHwu氏だった。UIUC Parallel Computing Instituteのチーフサイエンティストを務め、並列処理ソフトウェア企業MulticoreWareのCTOも務める。現在のメニイコア化/ヘテロジニアス化の流れのキーパースンの一人だ。Hwu氏はBlue Watersプロジェクトでの成果など新しい結果を交えつつ、今後の展望も語る。

●ARMのCortex-A15の実装も明らかに

 その他のキーノートスピーチでは、日本の画像処理ベンチャであるモルフォによる「The Expanding Universe of Embedded Imaging」が19日の冒頭に行なわれる。同社はモバイル機器向けの画像処理に注力しており、マルチコア化とGPUコンピューティング化する組み込みアプリケーションプロセッサのトレンドとマッチしている。キーノートでは、モバイル機器での画像処理の過去10年あまりの進化と将来の発展が語られる。

 東北大学からは「Nonvolatile Logic-in-Memory Architecture Using an MTJ/MOS-Hybrid Structure and Its Applications」と題したキーノートが講演される。MTJ(Magnetic Tunnel Junction)デバイスとMOSトランジスタを組み合わせた、不揮発性ロジックの研究だ。最近話題となっているノーマリー・オフ・コンピューティング、つまり、通常状態がオフで、コンピューティングが必要な時だけオンになるチップの実現への道でもある。

 さらに、キーノートスピーチとは別枠で、最終日の最後にARMによる招待講演「Seahawk - Optimizing power efficiency in high performance Cortex-A15 processor implementations」(Dermot O'Driscoll氏、Sumit Sahai氏)が行なわれる。これは、今年搭載SoC(System on a Chip)が登場するARMの次期CPUコア「Cortex-A15」の電力最適化についてのスピーチだ。ARMは物理設計したハードマクロにコードネームをつけており、SeahawkがCortex-A15世代のマクロと見られる。ARMは、Cortex-A15のフロアプランや電力効率の詳細などを、まだ公式には明かしておらず、Cool Chipsでそのベールが剥がされる。

ARM Cortex-A15ブロックダイヤグラム(PDF版はこちら)

 初日のスペシャルセッションはTIMA Laboratoryによる「Advanced Virtual Prototyping of Multiprocessor SoCs」と、EEMBCの「The Challenges of Analyzing Embedded Processor Behavior In the Age of Complex SoCs」。この他、一般セッションは「Object Recognition」「3D Integration」「Power Gating and Circuit」「Processor」の4分野で行なわれる。加えて、ポスター展示とポスターショートスピーチが行なわれる。

 COOL Chipsは、毎年、時流に沿ったテーマにフォーカスが当てられる傾向を強めている。これまでも、GPUコンピューティングや3Dダイスタッキングなど、重要な潮流となる技術ではキーパースンを呼び、いち早くフィーチャして来た。技術トレンドを知る場として、重要度が高まりつつある。