後藤弘茂のWeekly海外ニュース

エルピーダメモリの行き詰まりはDRAMの終焉の象徴か



●DRAMの4大メーカーの一角がついに崩れる

 エルピーダメモリが行き詰まったというより、DRAMの終わりが近づきつつある。エルピーダの“事件”は、そうした状況を象徴しているように見える。

 エルピーダメモリは2月27日に、会社更生手続きの開始を申し立てしたことを明らかにした。しかし、問題があったのはエルピーダの経営というより、むしろDRAMという産業そのものの状況だ。DRAMの市場と技術が、だんだんと行き詰まり、ついに終わりまで見え始めたからだ。

 エルピーダの会社更生申請で、日本に残る最後のDRAMベンダーがついに崩れたことになる。DRAM市場は、上位2強のSamsung Electronicsと、Hynix Semiconductorの韓国勢2社を、日本のエルピーダと米Micron Technologyが追う態勢となっていた。その中から、エルピーダが脱落した最大の理由は、DRAM専業でここまで来たことにありそうだ。他のベンダーは、いずれもNANDフラッシュを持っている(合弁も含めて)のに、エルピーダだけがDRAMオンリー(NANDを開発し始めたが間に合わなかった)で戦っていた。

 DRAMを取り巻く状況は、過去数年で大きく変化した。現在では、さまざまな意味でDRAMが終わりつつあると指摘されている。

 まず、プロセスの微細化とともにメモリセルの小型化が、どんどん難しくなっており、近い将来に、メモリセルを小さくできない限界に達すると言われている。メモリは、プロセス技術の微細化による大容量化と低コスト化でドライブされて来たが、DRAMではその流れが終わろうとしている。微細化のペースも、今ではNANDに引き離されている。微細化の終焉は、そのデバイスの技術の終焉を意味する。

 市場自体も、PCの成長に支えられていたDRAMの総ビット需要の伸びが期待できなくなりつつある。Windows Vista需要の2007年頃までは波があっても右肩上がりで推移していたDRAM需要の伸びは、今ではすっかり鈍化してしまった。この先も、DRAM容量の小さなモバイルデバイスの成長が、PC市場の伸びを抑えて行くとしたら、DRAMの総ビット需要の伸びは鈍化したままだ。

 メモリ市場の主役は、現在はプロセス技術でも規模でも、NANDに代わってしまっている。しかも、NANDはまだまだ市場自体が広がりつつある。現在、NANDはエンタープライズSSDという、膨大な市場の扉が開きつつあり、そのためメモリベンダーは、ますますNANDに注力している。さらに、ポストDRAMとポストNANDを視野に入れた次世代不揮発性メモリの開発レースも熾烈になりつつある。

 DRAMの影は、どんどん薄れつつあり、メモリベンダーがDRAMだけで戦うことは難しい状況だ。

DRAMロードマップ(PDF版はこちら)

●オオカミ少年的なDRAM技術の終焉論

 DRAMは、過去にも何回か技術的な終わりが予言されてきた。そして、その度に技術革新によって延命を重ねてきた。そうした歴史を振り返ると、DRAMメモリセル技術の限界という話は、いささかオオカミ少年発言的で、「またか」という雰囲気もある。

 しかし、今回は、終焉を唱えている声が多く、より切迫感が強いように見える。DRAM微細化の終焉とまで言わなくても、微細化に伴う技術的なハードルがどんどん高まることを指摘する声はもっと多い。微細化を続けることができたとしても、開発はより困難になるわけだ。

 現状では、微細化とともに何も対策しなければ、DRAMのセルキャパシタの容量は小さくなり、データを保持できるリテンション時間は短くなり、オン電流は少なくなり、オフリーク電流(Leakage)は増えて行く。こうした問題をあの手この手で押さえ込んでいるのが今のDRAM開発だ。一歩技術の選択を間違えると、製造ができなくなり、最悪会社が倒れてしまう怖さがあるという。

 最大の壁は、セル面積を小さくしながらセルキャパシタの容量を保たなければならないところにある。答えはただ1つで、キャパシタを縦に細長くして容量を稼ぐしかない。そのため、スタック型の場合はキャパシタを円柱(pillar)として高いアスペクト比で積み上げている。しかし、これには構造上の限界があり、一定以上の比率にすることが難しい。加えて、キャパシタ絶縁膜の薄膜化も必要で、ハードルはどんどん高まっているという。

 現在言われているのは、DRAMが10nm台で微細化が止まる可能性が高いという論だ。あるメモリ業界関係者は「19nmあたりのいわゆる1x nm世代(10nm台後半)は行けそうで、10nm台中盤の1y nm世代も苦労するが行けるかも知れないと言われている。しかし、10nm台前半の1z nm世代は、今のDRAMのスペックでは無理じゃないかと見ている」と語る。

 実際には、フタを開けてみないとわからないし、人によって予測は異なる。そのため、確実には言えないが、ハードルが極めて高くなっていることだけは確かだ。「20nmプロセスでまともに生産できるのはエルピーダともう1社しかない」というエルピーダの主張は、決して誇張ではない。もちろん、もう1社はSamsungを指している。

 微細化のハードルの話にはリソグラフィ技術の変化も絡んでいる。10nmプロセス台は、液浸多重からEUVへの転換期に入ると見られている。EUV導入は膨大なコストがかかる。そのため、メーカーによっては、利益が上がらず、先も見えているDRAMのために高価な機器を導入できる体力があるかという問題もあるという。NANDとDRAMの両方を抱えるベンダは、高価なリソグラフィ機器を、まずNANDで導入し、DRAMに使い回すことができる。その点でも有利だ。

 一応、DRAMベンダーは延命策として、DRAMは「シリコン貫通ビア(TSV:Through Silicon Via)」による3Dダイスタッキングによって、パッケージ当たりの容量を増やそうとしている。しかし、それは根本解決ではない。

●コスト削減のための微細化が自分の首を絞める

 微細化のハードルが高まるにつれて、DRAMの微細化のペースもスローダウンし始めている。といっても、DRAMベンダーは、ここしばらくは微細化を急いでいた。それは、DRAM価格が暴落したからだ。メモリ市場調査大手のDRAMeXchangeのWebサイトを見ると、DDR3チップの価格は、DDR3 2G-bit品のx8 1,600Mbpsのスポット価格で1.07ドルとなっている。これだけの低価格になると、製造コストをできる限り抑えて赤字を減らすしか対応策ない。コストを下げるにはダイ(半導体本体)を小さくするしかなく、そのために微細化を急ぐ必要があった。

 DRAMはベンダーによってプロセス技術の差が大きいが、トップベンダは2010年が40nm台のプロセス、2011年が30nm台のプロセスで来ている。ノードでは20%程度ずつ微細化を進めてきた。ただし、この努力には自己矛盾がある。コストを下げるために微細化を進めてダイを小さくすると、1枚のウエハから採れるダイの数が増え、生産できるDRAMの総ビット量が増えてしまうからだ。そのため、市場が拡大して総ビット需要が増えてくれないと、微細化による総ビット量の伸びを吸収できない。需要が伸びなければ、生産量が増える分だけ、市場がますます供給過多になってしまう。

 テクノロジが20%シュリンクするとダイの数が約40%増えるので、需要もそれだけ伸びてくれないと釣り合わない。ところが、PCのメモリ需要の伸びは鈍化しているので、そこまでは大幅には需要が伸びない。そのため、せっかく微細化でダイを小さくしてコストを下げても、その分、市場が供給過多でだぶつき、さらに価格低下の圧力が加わってしまう。ネガティブ連鎖で、価格の下落が止まらない、現在がまさにこの状態だと思われる。

 とはいえ長期的に見ると、DRAMの微細化はペースが鈍化している。DRAMは、かつては先端プロセスで製造されており、NANDはDRAMより1世代遅れたプロセス技術で製造されていた。DRAMで設備投資をある程度回収したFabでNANDを製造すると言われていた。それが、2002〜2004年頃に逆転し、NANDの方がDRAMより進んだプロセス技術で製造されるようになった。現在は、DRAMはNANDより1世代かそれ以上遅れたプロセスで製造されるようになっている。

 そして、先ほど説明した微細化のハードルの高まりのために、この先の微細化はもっとペースダウンする予測となっている。下は半導体ロードマップのITRSの2012年1月のテーブルに修正が加えられたものをベースに一部を補完したものだ。実際にはこれより速くなることも多いが、今のところの予想ではペースダウンしつつある。そして、10nmプロセス台の中盤以降でDRAMの微細化が行き詰まるとすると、2020年までにはDRAMの進化がストップすることになる。ストップしなかったとしても、鈍化して行けば、そのうちポストDRAMを狙うメモリ技術(STT-RAMなど?)が追いついて来る可能性が高い。

DRAMのプロセス技術と容量世代ロードマップ(PDF版はこちら)

●ワンサイズフィッツオールから抜けつつあるDRAM

 DRAMは長年、1品種のコモディティDRAMだけが市場を支配する「ワンサイズフィッツオール」の世界だった。しかし、ここへ来て、モバイルデバイスの成長によってモバイルDRAMへとDRAMの多様化が加速し始めた。さらに、モバイルDRAM自体が、LPDDR系とWide I/O系に分化しつつあり、DRAMは従来のビジネスモデルが通用しない多様化の時代に入っている。今後は、Wide I/O型の3Dダイスタックだけでなく、TSVインタポーザを使った2.5Dスタックなど、さまざまなソリューションが登場する可能性がある。

モバイルメモリ帯域ロードマップ(PDF版はこちら)

 多様化が進み始めたのは、コモディティDRAMでは、低消費電力や広帯域などのニーズに応えきれないからだ。モバイル機器の急速な発達によって、消費電力を増やさずにメモリ帯域を増やすことが切実に求められている。また、PCやよりハイパフォーマンスなコンピュータシステムでも、メモリ帯域はヘテロジニアス(Heterogeneous:異種混合)マルチコア化するプロセッサにとって最大のボトルネックとなりつつある。そのため、コモディティDRAMのペースよりも広いメモリ帯域が求められている。

 市場がこうした状況にあるため、メモリベンダーにとって有利な戦略は、コモディティDRAMからある程度離れて、伸びる新DRAMに注力することとなる。モバイル系のLPDDR系メモリなどは好例で、DRAMeXchangeの調査では、LPDDR1/2の4G-bit品は、コントラクト価格で現在7.5ドルだという。コモディティのDDR3よりはるかに高価格で、十分に利益を出すことができる。

 今後は、例えば、Intelのような大口顧客が、ある程度カスタム化したメモリソリューションを考えた時に、うまくそこに乗ることができるか、といった戦略的な動きも強く求められるようになる。CPUパッケージに2.5DソリューションでグラフィックスバッファDRAMを載せるといったケースが登場する場合だ。こういった提携も、海外企業の方が得意とする部分だ。最近の具体例では、TSV技術を使ったメモリ技術「Hybrid Memory Cube(HMC)」で、Intelと提携して試作したのはMicron Technologyだった。

 こうしたDRAMを巡る動きの中で、DRAM専業から脱することができなかったエルピーダが、資金的にも限られた中でやれる範囲は少なかったとも言える。実際には、エルピーダは日本企業とは思えない柔軟な提携戦略を打ち出して、突破しようと努めた。しかし、DRAMを巡る状況は、それでどうにかなる範囲を超えていたようだ。この先にしても、難しくなる一方の微細化や高額なリソグラフィの革新、ポストDRAMのメモリ開発など、難題が山ほど積まれている。