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IntelのEden氏に聞くSandy Bridgeの姿



●イスラエルのハイファで産まれたSandy Bridge

 Intelは、次世代CPUマイクロアーキテクチャ「Sandy Bridge(サンディブリッジ)」を、Intel Developer Forum(IDF)でチラリと見せた。その姿は、クアッドコアにGPUコアを統合したバージョンだった。2011年にはSandy Bridge系CPUが急速に浸透し始めると見られている。

Sandy Bridgeのダイレイアウト

 IntelのPC&サーバー向けCPUの開発は、米オレゴン州ヒルズボロの設計センター、イスラエルのハイファの設計センター、インドのバンガロールの設計センターなどで行なわれている。完全な新アーキテクチャの開発を担当できるのはオレゴンとハイファだけだ。この他に、Atomを開発している米テキサス州オースティンの設計センターがある。

 IntelのメインストリームPC向けCPUは、ヒルズボロとハイファが交替で開発している。Core Microarchitecture(Core MA)はハイファで、Nehalemマイクロアーキテクチャはヒルズボロだ。Sandy Bridgeはハイファとなる。

 現在、IntelでPCクライアントビジネスを担当するShmuel (Mooly) Eden(ムーリー・エデン)氏(Vice President, General Manager, PC Client Group, Intel)は、ハイファの「Haifa Design Centre(ハイファデザインセンター)」でPentium M(Banias:バニアス)の開発を指揮した経験を持つ。

 「Sandy Bridgeの開発はハイファで行なったが、(派生チップの)1つの設計はオレゴン(ヒルズボロ)で行なっている。現在のNehalemについては、全てがオレゴンで行なわれた。だから次のSandy Bridgeはハイファで、次の次は再びオレゴンになる。

 1つのチームから、次のチームへと開発担当が移りながら、技術自体は共有される。せっかく開発した技術を利用しないで、(ゼロから開発するように)戻ることはできないからだ。その意味では、両開発センターが協力して開発している。

 フルアーキテクチャを開発するにはフルの開発チームが必要になるため、新規のアーキテクチャの開発は交互に担当する。しかし、プロセス微細化版については、開発リソースが空いているチームが担当する」(Eden氏)。

 Eden氏の説明で、Intelの現在のCPU開発体制が浮かび上がる。交替に設計を行なう2チームで技術は継承されるという説明からは、Core Microarchitecture(Core MA)とNehalemの間に、アーキテクチャ継承性が強い理由がわかる。同じ2チームの交替開発でも、チーム毎にアーキテクチャがガラリと変わるIBMのPower系とは大きく異なる(Power5→Power6→Power7)。また、この説明から、Sandy Bridgeのマイクロアーキテクチャが、Core MAやNehalemからの継承されることも予想される。ちなみに、Nehalem系では、サーバー向けのEagleton(Westmere-EX)がバンガロールで開発されていると言われている。

ハイファにあるデザインセンター

●モジュラー化が進んだIntel CPUの設計

 Sandy Bridgeの特長の1つは、GPUコアがCPUダイに統合されていることだ。現在のNehalemマイクロアーキテクチャでは、CPUにGPUコアを統合するのはデュアルコア製品のClarkdale/Arrandaleだけで、クアッドコア系のLynnfield/ClarksfieldはGPUが統合されていない。しかも、Clarkdale/Arrandaleでは、GPUコアはGMCH(Graphics Memory Controller Hub)ダイに分離されている。しかし、Sandy Bridge世代ではこれが変わる。

Sandy BridgeとClarkdaleArrandale

 「Clarksfieldはグラフィックスが非統合だ。しかし、この先の世代では、全ては統合グラフィックスへと向かう。Arrandaleでは依然として2ダイだ。しかし、次世代はグラフィックスもオンダイになる。Sandy Bridgeでは、メモリコントローラも含めて全てが統合される」(Eden氏)。

 Sandy Bridgeのダイを見ると、GPUコアが一際大きく、サイズだけで言うならCPUコアよりも重要な位置を占めている。またダイ全体は細長く、CPUコアとGPUコアが並んで配置されている。これまでのIntel CPUは、Atomを除けば比較的縦横比が小さいものが多かったので、この形は目立つ。

 「ダイの形は非常にシンプルな方法で決まる。まず、CPUコアを設計し、CPUコアの設計レイアウトには手を加えずに、マルチコアに複製して行く。CPUコアの複製が、まず、ダイを決める一要素だ。もうひとつの要素は、キャッシュだ。まず、キャッシュSRAMを1ブロック設計して、それを望むだけの分量に複製して行く。

 さらに、I/Oやその場のブロックを配置する。次に、フォームファクタで、パッケージにうまく収まるようにしなければならない。ダイが狭くて長細くなりすぎたりすると、例えば熱衝撃などに弱くなる。

 とはいえ、レイアウト設計での、基本的なルールは、たった1つだけだ。それは、できる限り小さくすることだ。できる限り小さくできたら、その上でパッケージにうまく適合するようにする。例えば、デスクトップが主なターゲットで、あまりモバイルは考えていないのなら、I/Oピンの配置を。4層マザーボードに対応できるようにしなければならない。モバイルなら通常は6層まで許容されるので、それほど4層への適応は求められない。

 また、ボード上でのレイアウトも考慮する必要がある。DRAMへの配線がしやすいようにする。なぜならメモリの周波数が上がっており、配線が重要になっているからだ。これらが設計上でのダイの形を決める要素だ。とくに、長方形より正方形が好ましいという理由はない」。

 つまり、細長いダイレイアウトになったのは設計上の偶然で、なんら制約はないというわけだ。もっとも、製造過程を考えると、1対2の縦横比で200平方mm台のダイサイズというのは、露光1ショットの中で2つのダイを採れるので、生産性が少し良いはずだ。

●クアッドコア版からデュアルコア版へと容易にカットアウト

 上の説明でわかる通り、Intelはこの世代のCPU設計では、CPUコア数の増減を容易にできるように設計を行なっているようだ。Nehalem世代から、Intelはモジュラリティの高い設計を行なっている。

 「CPUの設計では、最初から(CPUコアなどを)削減できるようにすることが非常に重要だ。例えば、4個のCPUコアとグラフィックスを統合した場合を考えてみよう。そこから、CPUコアをカットした時に、ダイ上に大きな空隙が開いてしまう設計はよくない。ダイ上の空隙は、カネをムダにすることになってしまう。削減する時に、あまり多くの空隙は作らずに小さなダイにできることが重要だ」。

 IDF時のウンドテーブルでのEden氏の説明からは、Sandy Bridgeのデュアルコア版の姿がある程度予想できる。現在の4 CPUコアのSandy Bridgeから、2つのCPUコアと2つのL3キャッシュブロックを取り去り、メモリパッドなどの位置をずらすと、下のような姿になる。

 Eden氏によると、32nm世代でもモバイルではデュアルコアが主力ということになる。すると、このような形態のSandy Bridgeが登場することになるだろう。計算上は、2 CPUコアにGPUコアなどを加えた構成で、150平方mm以上のサイズになる。しかし、現状でもClarkdale/Arrandaleは、80平方mm以下と見られるCPUに、45nmで100平方mm以上のGMCHが組み合わせられている。それが1チップにまとめられると考えれば、リーズナブルなダイサイズだ。

デュアルコアのSandy Bridge
ダイサイズ移行図

●戦略で決まるデスクトップとモバイルの製品化

 Sandy Bridgeは、イスラエルのハイファで産まれた。しかし、ハイファの設計センターは、もともとはモバイル向けCPUを担当していた。オレゴンがデスクトップ&サーバー向けCPUの担当だった。Intelの旧組織割りでは、ハイファはMobility Groupに属した設計センターだったためだ。同センターは、Pentium M(Banias:バニアス)とCore Microarchitecture(Core MA)の2つのマイクロアーキテクチャも手がけている。

 Banias同様にCore MAも、アーキテクチャの研究をスタートした時点では、ノートPC向けを目指していた。Core MAは途中から、デスクトップやサーバー向けにも提供するように変更された経緯がある。しかし、Sandy Bridgeにはその点で大きな違いがある。

 「アーキテクチャ研究の段階から、Sandy BridgeはデスクトップとノートPCの両方に提供することが決められていた。どちらでも、優れたCPUになることが求められていた。また、デスクトップ/ノートPC用とは別に、サーバー向けには、特別なものを用意する。サーバーでは、より多くのパフォーマンスが必要とされるからだ」

 これまでのハイファ製CPUとは異なり、Sandy Bridgeは設計の最初期の段階から市場を幅広くカバーすることを前提として設計されている。そこが大きな違いだ。では、IntelはSandy Bridgeファミリを、どのような順番で投入して行くつもりなのだろう。Eden氏は次のように説明する。

 「通常、モバイルとデスクトップのどちらに先に提供するかは、2つの事柄で決まる。戦略上と設計上の要素だ。

 まず、製品導入の1年程前の段階で、私は「デスクトップとモバイルのうち、どっちを先にしたらいいだろうか?」と尋ねられる。普通なら、私は、モバイルを先にしようとするだろう。それは、将来を見た場合、モバイルが市場の主流になると思うからだ。もし、全ての条件が同じなら、モバイルでスタートする。

 しかし、ここに別な要素がある。それはチックタック戦略(デスクトップとモバイルの両方に提供するCPUを2年置きに投入する)の下での、競争の予測だ。(他社との)競争が激しいと予想されるのはモバイルなのかデスクトップなのかを考慮する必要がある。

 そこで、製品投入の1年前に、私は設計マネージャを呼んでこう言う。「デスクトップチップを先にするか、モバイルチップを先にするか、設計上の事は抜きで、競争環境だけから判断して欲しい」と。これが1つの事柄だ。

 もう1つは、設計上の事柄だ。CPUの設計はハイエンドから始めることが、一般的な習慣だ。なぜなら、その方が設計がずっと容易になるからだ。例えば、クアッドコアを設計して、全てのクリティカルパスをつぶしたり、あやゆることを終える。それから、(クアッドコア)から機能を削り始めると、デュアルコアを簡単に設計できる。

 もし、その逆にデュアルコアCPUの設計からスタートして、次にクアッドコア設計に移ろうとすると、問題が生じる。クアッドコア化の段階で、新たなクリティカルパスなどの問題を見つけることになりかねないからだ。そのため、通常は、まずスーパーセットを作り、そこからサブセットへと削って行く。スーパーセットのCPUの方が先になる。

 設計上の要素は、こうした部分だ。しかし、すでに述べたように、最終的にモバイルとデスクトップのどちらを先にするかは、主に戦略的な動きとなる。競争があるところに、まず最初に投入したい。そこには、エンジニアリングのマジックは何もない。もし、モバイルで競争が激しく(ライバルとの)差が詰まっているなら、モバイルに先に投入する。その逆ならデスクトップに先に投入する。非常に戦略的だ」。

Sandy BridgeとNehalem系の比較

●同じウェハからデスクトップとモバイルを作り分ける

 Eden氏の説明からを要約・補足すると、次のようになる。

 まず、設計の段階では、より大きな構成のCPUを先に開発した方が、設計が容易になる。そのため、例えば、デュアルコアCPUよりクアッドコアCPUを先に設計した方がいい。クアッドコアCPUからCPUコアなどを削って行き、デュアルコアCPUを派生させることができるからだ。

 今回、Sandy Bridgeで、まずクアッドコアが公開された理由は、ここにあると推測される。メインストリームモバイルに向いたデュアルコアCPUよりも、どちらかと言えばデスクトップに向いたクアッドコアCPUの方が先に開発されたことになる。

 しかし、最終的に製品をデスクトップとモバイルのどちらに先に投入するかは、製品戦略上の決定となる。競争が激しく、新製品がより早く必要な市場に先にもたらされる。現実問題として、Intelにとって競争がより激しいのはデスクトップ市場であるため、そちらに先に製品が投入されることになりそうだ。

 もっとも、デスクトップとモバイルで別な設計のチップを使っているわけではない。同じウェハから採れるダイから作り分けている。歩留まりも変わらない。

 「デスクトップチップとモバイルチップは、同じようなダイだが、リーク電流(Leakage)が異なる。低リーク電流のダイはノートPCに行き、高リーク電流のダイはデスクトップに行く。だから、製品化する時には違いがあるが、歩留まりはほぼ同じだ。非常にエクストリームのハイエンドでだけは少し歩留まりに制約がある。テストを行なう結果だ」(Eden氏)。

 同じダイからデスクトップとモバイルに派生させる戦略自体は、従来通りだ。もちろん、特にリーク電流が少ないダイは、さらにULV(超低電圧)版へと派生させる。

 「ArrandaleでもULV版を提供するし、Sandy BridgeでもULV版がある。しかしULVはデュアルコア版のみで、クアッドコアのULVはない」。

●Sandy Bridgeではクアッドコアもモバイルに浸透する?
Eden氏

 しかし、デスクトップでは、すでにクアッドコアCPUがかなり下の市場にまで浸透して来ている。Sandy Bridge世代では、ノートPCにクアッドコアがもっと浸透しないのだろうか。メインストリームノートPCが全てクアッドコアに変わる日は、Sandy Bridge世代では来ないのだろうか。Eden氏は、2年前のラウンドテーブルで、クアッドコアCPUはモバイルでは限られたニッチだろうと答えていた。

 「クアッドコアはどこまでモバイル市場に深く浸透するのか。2年前に私は、次のように答えた。クアッドコアは大きなダイで、発熱も多いから、ノートPCの設計に2つのインパクトがある。1つはフォームファクタで、今日のクアッドコアではセクシーなデザインにできない。もう1つはバッテリ駆動時間で、CPUがより多くのトランジスタを載せている分だけ駆動時間は影響を受ける。だから、クアッドコアは、特定の市場に留まるだろう。ゲームや高解像度ワークステーションなどだ。

 私は、今でもそうだろうと考えている。特に、疑問符がつくのは利用形態で、問題は、クアッドコアがデュアルコアよりバッテリ駆動時間が短くなることだ。ユーザーにノートPCで何が重要かと尋ねたら、もちろんバッテリ駆動時間だと答えるだろう。

 今後も、我々がそれなりの技術を完成させるまでは、クアッドコアはあまりバッテリ駆動時間を得られないだろう。例えば、デュアルコアなら8時間駆動できるのが、クアッドコアなら6時間になってしまう。そのため、近い将来でも、クアッドコアはニッチに留まると思うが、競争も激しいため、もしかすると、市場が動くことになるかも知れない。

 顧客の視点からすれば、45nmでは、間違いなく(クアッドコアはニッチ)だ。32nm以下では、もしかするとやや下へ降りてくるかもしれない。しかし、メインストリームは依然としてデュアルコアに留まるだろう。22nmについては、わからない。これは、ハードウェアだけでなく、ソフトウェアに依存している」(Eden氏)。


●モバイル時にデュアルコア、電源時にクアッドコアは?

 しかし、Intelはすでにアイドル状態のコアのリーク電流(Leakage)を極限まで抑えることができるパワーゲーティングテクノロジを持っている。それなら、電源接続時にはクアッドコアCPUとして駆動し、バッテリ駆動時にはデュアルコアCPUとして駆動することはできないのだろうか。バッテリ駆動時に、モードを遷移して2つのCPUコアをディセーブルにしてパワーゲートで電力を止めれば、デュアルコアCPUとして使えるはずだ。電力の消費もデュアルコアCPUとそれほど変わらなくなるはずだ。それについて、Eden氏は次のように答える。

 「それは、まさしく我々が考えている選択肢の1つだ。しかし、問題がある。そうした設計を取ると、クアッドコアになる電源モード時に発生する、より多くの熱を排熱しなければならないことだ。

 熱問題を解決するには、2つの方法がある。1つは、ノートPC自体を厚く(排熱しやすく)すること。もう1つは、付加的な冷却機構を組み込んだドッキングステーションを用意することだ。ドッキングステーションにノートPCを接続すると、エアーが吹き出す仕組みを用意する。

 我々は、こうしたテクノロジを全て検討している。正確に言えば、持ち歩きモードとは別に、ドッキングステーションに接続するモードを設けることを検討している。多くのエンジニアやOEMが、実にさまざまなバリエーションを発想する。だから、モバイル時にデュアルコアで、電源時にクアッドコアも可能性はありうる。ただし、私は、多分、ドッキングステーションで冷却システムを提供しないと、意味をなさないだろうと思う。そうでなければ、厚いノートPCにするしかなくなる」。

 こうして見ると、Intelは今後のSandy Bridge世代のCPUで、様々なプランと技術を用意していることがわかる。特に、Sandy Bridgeはハイファで産まれたために、モバイルでのさまざまな仕掛けが想像される。