山口真弘の電子辞書最前線

キヤノン「wordtank A502」
~片手で使える手のひらサイズのTOEIC学習用モデル



「wordtank A502」。シャープのコンパクトモデルと外観はよく似ているが、サイズはやや大柄。カラーはブラックのみ

発売中
価格:オープンプライス



 

 キヤノンの電子辞書「wordtank A502」は、TOEIC対策に向いたコンテンツを多数搭載したコンパクトモデルだ。手のひらサイズのボディを採用しており、通勤通学などの時間を利用してTOEICの学習を行なうのに向いている。実売価格は11,000円前後だ。

 昨今の電子辞書においては、俗にクラムシェルタイプと言われる座学用の二つ折りタイプに比べて、コンパクトタイプの売上が徐々に伸びている。中でも2011年にシャープが発売したBlackberryライクな筐体のコンパクト辞書は、TOEIC学習用のほか、中国語モデル、韓国語モデルなどをラインナップし、通勤通学などの時間を利用してこれら語学の学習を行ないたいというニーズにマッチし売上を伸ばしている。店頭でも、クラムシェルタイプとは別に独立した棚が設けられるケースもあるほどだ。

 今回紹介するモデルは、TOEIC対策に特化した6種類のコンテンツを搭載しており、さらに片手で操作が行なえるという特徴からして、シャープのコンパクトモデル「PW-AC20」と直接競合する存在だ。また同じシリーズで中国語モデル、韓国語モデルもラインナップしており、シリーズ全体がシャープのラインナップを大いに意識していることは明らかだ。今回はこのTOEICモデルの詳細について見ていくことにしよう。

●シャープのコンパクトモデルに似た、片手で操作可能なボディ

 まずは外観と基本スペックから見ていこう。

 ボディは手のひらサイズで、液晶画面の下に各種ファンクションキーとキーボードを備えている。片手で本体を持ち、親指を中心に操作することを前提としたキー配置は、シャープのコンパクトモデルと基本的に同じだ。

 ただし本体サイズはやや大柄で、胸ポケットに入れるのはかなり苦しい。同社がこれまで展開していたストレートタイプのS500シリーズに比べると全長は圧倒的に短いものの、横幅と厚みはそれなりにある。胸ポケットになんとか入れるにしても、かなりパンパンに膨らんでしまう。なお、本体の質感は多少プラスチックめいているが、とくに安っぽいというわけではない。

 液晶はカラーで、サイズは2.8型、タッチ操作には対応しない。競合となるシャープPW-AC20は2.4型なので、画面サイズそのものは本製品のほうが一回り大きいが、実際に使っている限りではそれほど差を感じることはない。メニュー画面の配色が本製品はグレー系、シャープPW-AC20はホワイト系なので、そのあたりの印象の違いも大きいかもしれない。いずれにせよ発色もよく、なかなか見やすい。

 QWERTY配列のキーはラバータイプで、押し込んでも音がしない。キーが硬く押し込んだ際にカチッと音がするシャープPW-AC20とは好対照で、ユーザーの好みが分かれるところだろう。ストレートタイプなのでこのままの状態でバッグに入れるわけだが、電源キーのみやや奥まっているので、バッグの中で不用意に電源が入ってしまうということはなさそうだ。

 音声再生は、本体スピーカーと、イヤフォンの両方で利用できる。音量を本体側面のダイヤルで調整できるのは直感的に使えてよい。またイヤフォンジャックは、本体左側面にあるため握りにくいシャープPW-AC20と違い、本体上部に設けられている。iPhoneなどと同じ位置で、ケーブルの取り回しがしやすい。

 電源は単4電池×2本、連続使用時間は約80時間とされている。USBバスパワーでも駆動するが、たんに駆動するというだけで、USBで充電ができるわけではないので注意したい。重量は電池込みで125gと決して重いわけではないのだが、シャープPW-AC20が98gと大台を切っているので、実際に手に持って比べるとやや差があることを実感する。

片手でも持てるサイズだが、競合製品であるシャープPW-AC20に比べるとひとまわり大きく、手が小さい人は操作しづらいかもしれないiPhone 4S(右)との比較。スマートフォンサイズだが厚みはそこそこある。画面サイズは2.8型正面から見たところ。親指での操作を前提としたデザイン。画面右側の製品ロゴがある部分は、とくに操作系のパレットというわけではない
上面。イヤフォンジャックとUSB miniBコネクタを備える左側面。音量調節ダイヤルを備える。底部寄りの位置にはストラップホールがある右側面。とくに端子類はない。ちなみにmicroSDなどの拡張機能はない
底面。ストラップホールを備える液晶画面の真裏に電池を収納するシャープPW-AC20と異なり、本製品はキーボードの裏側に電池ボックスがある音量調節ダイヤルは直感的な操作ができて便利だ
キーボードはQWERTY配列。やや突起がある。キーボード下部にはスピーカーがあるリング状になった上下左右キーの中央に訳・決定ボタンを備える。周囲の青色のキーは各コンテンツを直接呼び出すショートカットだ

●TOEIC対策の基礎知識を養うコンテンツを搭載

 本製品はTOEIC学習用のモデルと位置づけられている。本製品に興味を持つ人の多くは、TOEIC学習に効果的な方法を探していて、電子辞書というツールに行きついたユーザーだろう。ここではTOEIC学習という目的において、本製品がどのように活用できるかについて見ていきたい。

 TOEIC学習用のコンテンツを搭載している電子辞書は多いが、本製品の大きな特徴は、通勤通学時などに電車の吊革につかまったまま、片手で操作が行なえるということだ。移動時などの短い時間を活用することで、学習を進めるというコンセプトだ。もちろん、就寝前にベッドに寝そべったまま使うというのもありだろう。どちらの場合も、クラムシェル型の電子辞書では難しい使い方だ。

 またいわゆる「英語モデル」の電子辞書とは異なり、単語の意味を調べる用途ではなく、問題集がコンテンツの柱になっているのも特徴だ。何かの文献を読んでいてわからない単語を調べたり、英作文にあたって単語を調べるために検索するといった用途とは異なり、出題される問いに対して画面上で答えていく使い方が主だ。分類上は電子辞書だが、どちらかというと紙の問題集から発展した、電子問題集という位置づけが正しいだろう。

メニューは一般的な横向きのタブ切り替え方式。全部で18個のコンテンツを搭載する複数辞書検索機能も搭載するが、コンテンツ数がそれほど多くないので、出番はあまりなさそうだ
文字サイズは3段階で可変する

 そんな本製品に搭載されているTOEIC関連コンテンツは6つ。穴埋め問題にあたる「1日1分レッスン! 新TOEIC TEST 千本ノック」シリーズが3冊、単語習得のための「1日1分レッスン! 新TOEIC TEST英単語、これだけ」シリーズが2冊と、「TOEIC TEST語彙文法問題」がそのすべてだ。計6コンテンツとされているが、シリーズごとにまとめると3つということになる。これにベーシックな英和/和英辞典、国語辞典、英会話集などを追加した計18コンテンツが、本製品に搭載されている全コンテンツだ。

TOEIC関連コンテンツはすべて「学習」というタブにまとめられている。TOEIC向けをアピールしている割には、メニュー画面での扱いはあまり大きくない「1日1分レッスン! 新TOEIC TEST 千本ノック」シリーズ。千本ノックというタイトルから誤解しがちだが、収録されている問題数は3冊あわせて500問弱。とはいえボリュームはそこそこある
「1日1分レッスン! 新TOEIC TEST英単語、これだけ」シリーズ。2冊に700問弱の問題を収録している「TOEIC TEST語彙文法問題」。470レベル/600レベル/730レベルの3段階に分かれている

 気を付けたいのは、これらTOEIC関連コンテンツは、出題形式が必ずしもTOEICの各パートそのままのフォーマットではない、ということだ。本製品に搭載されているのはTOEIC受験のための基礎知識を養うコンテンツであり、例えばTOEICのリスニングでおなじみの写真描写問題(手元の写真を見ながら英文ナレーションを耳で聴き、選択肢から回答を選ぶ問題)そのままのフォーマットで出題されるわけではない。

 パートによっては本番と酷似した出題形式の場合もなくはないが、むしろそうした模擬問題よりも、その前段階である基礎知識を習得するための一問一答形式が主だ。もっとも、こうした出題形式は競合であるシャープPW-AC20も同じなので、製品を比較検討する上では大きな差はない。シャープ製品には「チャンツ」という、音楽のリズムに合わせて発音と意味をくりかえし聴くという学習方法が搭載されているのが、本製品では用意されていないのが、相違点ということになるだろう。

こちらは本製品ではなくシャープのクラムシェルタイプのモデルに搭載されている模擬問題アプリ「新TOEICテスト完全攻略」。本番に近いフォーマットで出題される

 なお、本番さながらの模擬問題を求めるのであれば、シャープPW-A9200など一部のモデルに搭載されている「新TOEICテスト完全攻略」などのアプリを用いる方法もある。同じTOEIC対策の製品であっても、用途と目的次第ではこのように違う選択肢もあることは、購入前に知っておいたほうがよさそうだ。


●問題集は一問一答形式。キー配置は一癖あり

 続いて操作性についても見ていこう。本製品に搭載されている問題集のほとんどは、画面に表示される問題と選択肢を見て、回答を選んでいく方式だ。操作に使うキーは、本体中央の訳・決定キーと、選択肢を選ぶ際に使うA~Dや1~4といったキーになる。本製品はタッチ操作には対応しないので、これらの選択肢はキーボードから入力を行なう。

 これら操作は基本的に片手で行なえるようになっているが、本体がやや大柄なので、手の小さい人は両手で操作せざるを得ない場合があるかもしれない。また右手で持つと、とくに数字の1~3を押す際に指が届きにくい。このあたりは、競合にあたるシャープのPW-AC20のほうが本体がコンパクトで操作しやすいので、購入前に店頭で実際に触って見ることをおすすめする。

ほとんどのコンテンツは、選択肢A~Dから正解を選んで回答する方式。答え合わせはすぐに行なわれ、終わると次の問題に進むこちらはTOEICのパート6の出題形式に準じた長文問題。画面が小さいためやや回答しづらいのは仕方がないところだろう
発音を聞き分けるための特訓コンテンツ「英語発音クリニック」も用意されている達成率はグラフで表示され、学習のモチベーションとして役立つ
画面下に「ジャンプ選択」など4つのファンクションキーがある。これらを選択肢A~Dの回答に割り当てていれば、もう少し直感的に操作できたかもしれない

 ところでやや解せないのは、選択肢を選ぶ際に使用するキーの配置だ。というのも、アルファベットのA~Dから選ぶ場合、QWERTYキーボードの不規則な並びの中からA~Dをそれぞれ探して押さなくてはいけないからだ。横一列に並んでいればいいのだが、そうではないことから、回答のたびにいちいちキーボードを目で追う必要がある。これはかなり煩わしい。

 実はこれは、前述のシャープのPW-AC20でも同じ問題を抱えている。TOEICの学習に特化しているというコンセプトからすると、選択肢を選ぶためだけに専用キーを用意してもいいレベルだと思うのだが、残念ながらそのようにはなっていない。最低限でもQWERTYキーボードで選択肢を選ぶためのキーにだけ色をつけるくらいの工夫はあってよさそうに思う(本製品のキーは着色の難しいゴムタイプなので、あくまでも例えば、の話だ)。

英語でシチュエーションを選び、それに合った日本語を読み上げてくれる「旅の指さし会話帳 JPN」。「たべたいです」と日本語で読み上げてくれるが、本製品のコンセプトとはややずれているように感じられる

 もう1つ、コンテンツのラインナップで不思議なのが、英語版の会話帳を搭載していることだ。日本語で検索して英語の会話を呼び出すのとは異なり、英語で検索して日本語の会話を呼び出すという、純然たるネイティブ向けのコンテンツである。同じ所有者が使うことが考えにくい電子辞書で、ターゲットユーザーがまったく異なるコンテンツが唐突に入ってくる理由が、筆者にはいまいち理解できない。

 ちなみに同じシリーズの中国語モデル「A503」や韓国語モデル「A504」にも、同様のネイティブ向けコンテンツが含まれている。海外からの旅行者にも製品を販売したいという思惑の表れかもしれないが、このあたりは、どうにも理解の範疇を超えている。しかも100個以上あるコンテンツのうちの1つならまだしも、全部で18個しかないコンテンツの1つときている。これを載せるならほかのコンテンツを載せてほしいというのが、本製品を手に取るユーザーの思うところではないだろうか。


●隙間時間を活用できる「電子問題集」。バリエーションの拡充に期待

 以上、シャープPW-AC20との比較が中心になってしまったが、TOEIC学習用のコンパクトモデルというコンセプトからして、比較になるのは必然だろう。ちなみにTOEIC以外のコンテンツに目を向けると、シャープPW-AC20の広辞苑に対して本製品は明解国語辞典のみ、また本製品には旅行会話集(アメリカ)があるがシャープPW-AC20にはないといった違いがある。せっかく電子辞書を買うのだからということで、このあたりが気になる人もいるだろう。

国語系コンテンツとして明鏡国語辞典、新漢語林を搭載する英会話系のコンテンツを複数搭載する。海外旅行用という位置づけ「旅の指さし会話帳 アメリカ」。シチュエーションから最適な会話文を選び、その英訳を表示する。発音も行なえる
履歴はコンテンツごとではなく一括で保存される。個人的にはキヤノン電子辞書が使いやすいと感じる箇所の1つだ設定できる項目はあまり多くない。輝度は最低にしてもかなり明るめ

 あと、製品選びに意外に影響を与えるかもしれないのが、ボディカラーだ。シャープPW-AC20がパステル系のブルー、シルバー、ピンクをラインナップしているのに対し、本製品はブラック1色だ。電子辞書でもっとも大事なのはコンテンツとはいえ、かなりユーザーの好みが分かれそうなところではある。同社はいまのところこのシリーズではカラーバリエーション展開をせず、旅行/英語/中国語/韓国語それぞれの製品で1種類ずつしか本体カラーが用意されていないが、これらがユーザーの嗜好にマッチするかも気になるところではある。

 ともあれ、従来の電子辞書とは異なる、こうした「電子問題集」というコンセプトの製品が増えてきたのは、こうしたデバイスの新たな可能性を示していると言える。なかでもキヤノンは本製品の発売と前後して従来のクラムシェル型のモデルを終息させており、このコンパクトタイプのモデルが、同社電子辞書のラインナップの中核に据えられる形になっている。こうしたラインナップの変遷も含めて、今後の進化を興味深く見守っていきたい。

【表】主な仕様
製品名wordtank A502
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ2.8型カラー
電源単4電池×2、USBバスパワー
使用時間約80時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)81×131×20mm(幅×奥行き×高さ)
重量約125g(電池含む)
収録コンテンツ数18(コンテンツ一覧はこちら)