■山口真弘の電子辞書最前線■
手書き子画面の搭載やメイン画面のタッチ化、カラー液晶の採用など、ハード面で恐竜的な進化を遂げつつある昨今の電子辞書。その結果として、見た目は小型のPCと言っても差し支えないほど体積や重量の増加を招いているのが現状だ。
今回シャープから発売された電子辞書「PW-AM700」は、こうした普及タイプの電子辞書に比べてひとまわり小さい筐体を持ち、タッチ操作にも対応しないシンプルな造りの製品だ。搭載コンテンツ数は30と必要最小限に絞られており、電子辞書として「原点回帰」を狙ったモデルであると言える。
こうしたコンパクトタイプの電子辞書は、各社ともにラインナップしている(本連載で扱った中ではセイコーインスツルのSR-G7000Mが該当する)が、機能的にはどうしても普及タイプの製品に見劣りすることもあってか、実売ベースでそれほど台数が出ているという話は聞かない。シャープも2003年に発売された「PW-M800」以降、コンパクトタイプについては長らくモデルチェンジがない状態にあった。
今回の「PW-AM700」は、従来のコンパクトタイプの電子辞書と近い外見は持つものの、音声対応など上位の普及モデルの機能を取り入れており、機能の棚卸しを図った結果として既存のコンパクトモデルに近くなった、という印象の製品だ。さっそくその詳細を見ていくことにしよう。
●普及モデルをそのまま縮小した筐体。タッチ操作には非対応まずは外観から見ていこう。本製品を手にした第一印象は「とにかく小さい」ということ。面積は約128×83.5mmと小型電卓サイズで、普及モデルの電子辞書と比較するとタテヨコともに20mmほど小さい。キーボード手前に手書きパッドがないこともあり、特に奥行きの短さは顕著に感じられる。
厚みも15.1mmと薄く、電源となる単4電池×2本は容積のあるヒンジ部分を使ってどうにか収納スペースを確保しているほどだ。重量も約172gと、普及モデルのおよそ5~6割。携帯電話よりもちょっと重いといった程度で、ワイシャツの胸ポケットに入れてもそれほど違和感はない。
画面サイズは4.5型、480×240ドットのモノクロ液晶が採用されている。コンパクトモデルの従来製品である「PW-M800」が320×120ドットだったことを考えると、かなりの高精細化である。ただしバックライトは搭載していないため、暗いところでの視認性は普及タイプの製品に比べると劣る。照明を落としてプレゼンを行なっている会議室などで使うのは厳しいだろう。
製品本体。筐体色はライトシルバーのほか、カシスレッドもラインナップする | 上蓋を閉じたところ。突起もなくスマートなデザイン | ワイシャツの胸ポケットにもスッポリと収まる |
左側面。USBコネクタやmicroSDスロットを持たないためスッキリしている | 右側面。イヤフォン端子とストラップホールを備える | 重さは約172g。同社のモノクロモデル「PW-AT790」(約323g)に比べると半分強しかない |
キーボードはQWERTY配列。キーピッチは約12mmと普及モデルに比べて小さいが、本体サイズが小さいことを考えると健闘していると言えるだろう。ただしメンブレン式のぐらぐらするタイプのキーなので、打鍵感はあまりよくはない。このあたりは同社の電子辞書、さらには同社から先日発表されたインターネットツール「NetWalker」にも言えることなのだが、キーボードの打鍵感の向上は今後の課題であると思う。
従来のコンパクトモデルになかった機能として、音声出力機能に対応していることが挙げられる。コンテンツとして搭載しているのはジーニアス英和辞典による英単語10万語のネイティブ音声で、キーボード左手前のスピーカーもしくはイヤフォンからの出力が可能になっている。ただしmicroSDやUSBといった拡張機能を持たないこともあり、外部のMP3データを読み込んでの再生には対応しない。
電源は単4電池×2本。eneloopにも対応する。電池寿命は乾電池利用時で約120時間と十分だ。タッチ操作には非対応なので、スタイラスは付属しない。
●30コンテンツを搭載。ラインナップは社会人向け
続いてコンテンツとメニュー画面について見ていこう。
コンテンツ数は30。広辞苑第六版やブリタニカ、旅行会話コンテンツなど、全体的には生活総合モデルの位置付けだが、コンパクトモデルの従来製品である「PW-M800」に比べると英語コンテンツが大幅に減っており、そのぶん「経営用語辞典」「株式用語辞典」などのビジネス系コンテンツが増加している。このことからも、社会人が持ち歩くことを前提とした製品であることが窺える。このほか、手紙文作成のコンテンツも省略されている。
メニュー画面についてはおなじみの横向きタブ配置が採用されている。液晶の天地サイズが小さいこともありやや窮屈な感もあるが、コンテンツそのものの搭載数が少ないため、良くも悪くもあまり気にならない。ただしコンテンツ本文を表示する際には、表示行数が少ないため、どうしてもスクロール量が多くなりがちだ。普及モデルの電子辞書に慣れていると多少面倒さを感じるかもしれない。
ファンクションキーは1列。広辞苑やブリタニカはワンタッチで呼び出せるようになっているが、英和/和英や旅行会話のコンテンツについては一覧が呼び出されるようになっている。つまり大分類-中分類-小分類という枠で見た時、ファンクションキーで中分類が呼び出されることもあれば、小分類が呼び出されることもあるわけである。最近の電子辞書にはこうした割り当てがよく見られるが、ユーザビリティの観点からはあまりよろしくないと個人的に感じる。
メニュー画面はおなじみの横向きタブ切替式。ただし天地が240ドットしかないため、表示行数は少なめ | 旅行会話を除く英語コンテンツは実質2つと少ない |
ビジネス向けコンテンツは充実している | 旅行会話系コンテンツもかなりのボリュームがある |
その他の機能としては、普及モデルと同様、一括検索やW検索といった機能が用意されている。ただし搭載コンテンツ数が多くないため、一括検索機能を行なっても、ひっかかるコンテンツは広辞苑のみ、といった場合が少なくない。
なお、前述のようにmicroSDやUSBといった拡張機能を持たないため、コンテンツの追加には対応しない。個人的には搭載コンテンツ数が少ないモデルこそコンテンツ追加の仕組みを用意してほしいと思うが、本体メモリやハードウェアの制限を考慮すると難しいのかもしれない。
一括検索も利用できるが、そもそもの搭載コンテンツ数が少ないことから、結果的に単独のコンテンツでの検索結果とかわらないこともある | W検索にも対応。液晶画面の天地サイズが狭いため、上下並べての表示はやや苦しい | 設定画面。単語帳やしおりといったおなじみの機能はしっかり搭載されている |
●動作の軽快さは魅力。My辞書機能が省かれているのは残念
普及タイプの電子辞書と違い、あまり「これ」といった差別化要因を持たない本製品だが、動作の軽快さについては特筆しておいてよいだろう。カラー液晶モデルで稀に感じるもっさり感はまったくなく、普及タイプのモノクロモデルと比べても高速だ。さすがに文字サイズを最小にして長文をスクロールすると追いついてこない場合もあるが、操作のストレスを感じやすい人にはひとつのメリットになるだろう。
個人的にやや気になったのは、定番といえるMy辞書機能が省かれていることだ。お気に入りのコンテンツをワンタッチで呼び出せるMy辞書機能は、電子辞書を使い込めば使い込むほど利用頻度が高くなる機能の1つだと個人的には思っている。もともとの搭載コンテンツ数が少ないため利用頻度が低いと判断されたのかもしれないが、個人的には少々惜しい気がする。
また、文字サイズは5段階で可変するのだが、見出しについては3段階程度しか可変しない。これは同社の従来モデルでもほぼ同じ仕様なのだが、本製品はタテ方向の液晶の解像度が低いため、画面のスペースを無駄遣いしている印象を受けやすい。ドットサイズの制限もあるかもしれないが、もうすこし天地を有効活用できるとさらによかっただろう。
本文の文字サイズは5段階で調整可能。見出し部分は文字サイズを変えてもそのままという場合が目立つ |
●可搬性を重視した使い方が可能
従来のコンパクトモデルと同等の筐体を持つ本製品ではあるが、音声出力に対応していることからも分かるように、機能面ではむしろ普及タイプの電子辞書に近い。タッチパネルやMP3プレーヤー機能など昨今の電子辞書のトレンドには対応せず、またコンテンツ数では大きな開きはあるものの、可搬性を重視して本製品をチョイスするという選択肢は十分にありだろう。
特に、日頃から電子辞書を持ち歩いているが、実際には外出先で使う機会はほとんどない、でも持ち物から完全に外してしまうのが不安だという人は、本製品にリプレースして荷物を軽量化する価値はあると感じる。もちろん必要なコンテンツが含まれていることが前提になるので、事前にチェックしておくべきなのは言うまでもない。
競合としては、カシオのコンパクトモデルXD-Pシリーズや、やや性質が異なるがキヤノンのwordtank M600あたりになるだろうか。コンパクトモデルの製品は各社とも、音声対応やバックライト、MP3プレーヤー機能の有無など、機能の取捨選択の方向性が大きく異なるので、普及タイプの電子辞書以上によく調べて購入することをおすすめしたい。
製品名 PW-AM700 | |
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メーカー希望小売価格 | オープン(実売19,800円前後) |
ディスプレイ | 4.5型モノクロ |
ドット数 | 480×240ドット |
電源 | 単4電池×2 |
使用時間 | 約120時間 |
拡張機能 | なし |
本体サイズ(突起部含む) | 128×83.5×15.1mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約172g(電池含む) |
収録コンテンツ数 | 30(コンテンツ一覧はこちら) |