井上繁樹の最新通信機器事情
バッファロー「WZR-S1750DHP」
~11ac対応で最大1.3Gpbs、iPhone写真バックアップ機能とVPNサーバー搭載
(2015/10/28 06:00)
バッファローの「WZR-S1750DHP」は、IEEE 802.11acに対応した無線LANルーターだ。接続速度については最速というわけではないが、iPhoneに保存した写真や動画をバックアップできるユニークな機能を搭載しており、「パパの愛情ルーター」という愛称が付けられている。
概要
WZR-S1750DHPはIEEE 802.11acに対応した無線LANルーターだ。5GHz帯と2.4GHz帯の両方に対応し、11ac使用時の最大接続速度は1.3Gbpsで、11n使用時の最大接続速度は最大450Mbpsとなっている。有線LAN部分は全て1Gbps対応で、WANポートが1つ、LANポートが4つの標準的構成だ。
本体の大きさは34×183×212mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約600g。電源はACアダプタを使用する。同梱のスタンドを装着することで縦置きと横置きができるほか、別売のネジを使うことで壁掛けも可能だ。消費電力は18.2W。
USB 2.0ポートを2つ搭載していて、うち1つに32GBのUSBメモリが装着済み。このUSBメモリはiPhoneの画像と動画のバックアップ機能「写sync」で利用可能だ。もちろん、LAN内でのファイル共有や、メディアサーバー機能の保存領域としても活用できる。プリントサーバー機能を搭載しているので、USBマスストレージクラスに対応したプリンターや複合機を接続しての利用も可能だ。
動作モードは無線LANルーター(RT)、無線LANブリッジ(BR)、そして無線LAN中継機(WB)の3種類。バッファローの一部無線LAN中継機との接続時は、中継機との電波強度の確認ができるほか、通信の安定のため速度を自動調節する機能「Smart ExRate」の設定ができる。また、PPTPサーバー機能を搭載しており、出先から自宅LANにアクセスするといった用途に活用できる。
セキュリティ系の機能としては、有害サイトへのアクセスを遮断する「i-フィルター(有料)」「Norton ConnectSafe」に対応する。また、インターネットへの接続を機器ごとに週単位でスケジュール設定できる。そのほかファイアウォールやパケットフィルタ、MACアドレスによる無線LAN機器のアクセス制限ができる。
スマートフォンでも困らない管理画面
管理画面はバッファロー製ルーターではすっかりお馴染みの、PC/スマートフォン両対応のグラフィカルなもの。使用頻度の高い機能と状態表示がコンパクトにまとめられている。表示が省略されている細かな機能は、左側サイドバーに機能が一覧表示される詳細設定モードに切り替わる。
PCなしで不便なく使えるのはメリットだが、ゲストアクセス機能のオン/オフくらいならまだしも、無線LANの暗号化キー変更もできるとなると心配になる人もいるだろう。そんな場合は管理画面へのアクセスを、有線LAN経由のみに制限するのがおすすめだ。管理画面へのアクセス制限は「管理」の中にある「システム設定」で変更できる。
写sync機能とその速度
写syncは、WZR-S1750DHPに接続されたUSBメモリに、iPhoneの画像ファイルをバックアップする機能だ。iPhone側にプレビュー画像が残るので、バックアップが済んだ画像や動画を消すことで、iPhoneの保存容量を節約できる。参考までに使用容量の実測値を書いておくと、10.5GB分の「写真とカメラ」をバックアップした場合、写syncの使用容量は118MBだった。100分の1以下ということで、大幅な容量節約ができていることになる。
写syncを使用する際は、専用アプリをiPhoneにインストールして、WZR-S1750DHPの写sync機能がオンにする必要がある。同期はWi-Fi使用時はもちろんのこと、モバイル回線使用時でもできる。つまり、電波の届く場所であれば、旅先でも保存容量不足を解消できる。もちろん、ほかの多くの同期系アプリ同様、通信容量節約のためWi-Fi時のみ同期するよう設定可能だ。
写syncの速度についてだが、iPhone 5に保存した3,000点の画像(一部動画含む)の同期に4時間5分53秒かかった(ストップウォッチ計測)ことから、1時間あたり約732点程度、100点の同期におよそ8分12秒前後といったところ。画像と動画の割合やiPhoneの違いによる画素数の違い、接続環境によって速度は大きく変わるが以上参考までに。
AppleのiCloud、GoogleのGoogleフォト、MicrosoftのOneDrive、Dropbox、そのほかクラウド系の同期・バックアップサービスはいくつもある。そんな中敢えて写syncを使うメリットを挙げるとすると、やはりバックアップしたファイルが手元のUSBメモリに保存されることだろうか。クラウド系のサービスと比べて二重化が速く簡単にできるし、USB端子を搭載したPCを始めとした機器間移動も簡単だ。
なお、写syncのアカウントについてだが、登録できるのは1台のルーターに対して1つまでとなっているので、家族など複数人で使う場合は、アカウント情報を共有しておく必要がある。
ベンチマーク
測定には2台のPCを使った。1台は1Gbpsの有線LANでWZR-S1750DHPに繋ぎ、もう1台を(1)1Gbps有線LAN、(2)11ac-1.3Gbps、(3)11n-450Mbpsの3種類の形態で繋いで、それぞれの速度をiperf 3.0.11(以下「iperf3」)とCrystalDiskMark 5.0.2(以下「CDM」)で測定した。
iperf3による測定では常時有線LANに繋いだ側のPCを「サーバー」、もう一方のPCを「クライアント」として使用した。CDMによる測定ではサーバーに作成したRAMDISKをネットワークドライブとしてマウントして速度測定に使用した。
使用したPCはどちらもCPUがCore i5、メモリ8GB、SSDを搭載。OSはクライアント側はWindows 10、サーバー側はiperf3測定時はUbuntu 15.10、CDM測定時はWindows 8.1。クライアントに搭載した無線LAN子機はASUS PCE-AC68だ。
【表1】iperf3による速度測定結果(Mbps) | |||
---|---|---|---|
1000Base-T | 11ac-1.3Gbps | 11n-450Mbps | |
送信 | 942 | 463 | 258 |
受信 | 950 | 441 | 222 |
iperf3の結果
$ iperf3 -c 192.168.11.11Connecting to host 192.168.11.11, port 5201
[ 4] local 192.168.11.10 port 53405 connected to 192.168.11.11 port 5201
[ ID] Interval Transfer Bandwidth
[ 4] 0.00-1.00 sec 57.1 MBytes 479 Mbits/sec
[ 4] 1.00-2.00 sec 57.9 MBytes 485 Mbits/sec
[ 4] 2.00-3.00 sec 54.0 MBytes 452 Mbits/sec
[ 4] 3.00-4.00 sec 53.1 MBytes 446 Mbits/sec
[ 4] 4.00-5.00 sec 58.9 MBytes 494 Mbits/sec
[ 4] 5.00-6.00 sec 54.8 MBytes 460 Mbits/sec
[ 4] 6.00-7.00 sec 52.2 MBytes 438 Mbits/sec
[ 4] 7.00-8.00 sec 54.8 MBytes 459 Mbits/sec
[ 4] 8.00-9.00 sec 54.9 MBytes 461 Mbits/sec
[ 4] 9.00-10.00 sec 54.8 MBytes 459 Mbits/sec
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
[ ID] Interval Transfer Bandwidth
[ 4] 0.00-10.00 sec 552 MBytes 463 Mbits/sec sender
[ 4] 0.00-10.00 sec 552 MBytes 463 Mbits/sec receiver
iperf Done.
iperf3による測定結果は表1のとおりで、1Gbps有線LAN時は送信900Mbps半ば、11ac-1.3Gbps時は送信400Mbps半ば、11n-450Mbps時は送信200Mbps前半から半ばだった。
【表2】RAMDISKを使ったCDM結果(Mbps) | |||
---|---|---|---|
1000Base-T | 11ac-1.3Gbps | 11n-450Mbps | |
リード | 733.6 | 744.4 | 307.2 |
ライト | 988.6 | 208.2 | 326.5 |
CDMによる測定結果は表2の通りで、読み込みは1Gbps有線LANと11ac-1.3Gbpsが700Mbps前半で、11n-450Mbpsは約310Mbps、書き込みは1Gbps有線LANが、約987Mbps、11ac-1.3Gbpsが約208Mbps、11n-450Mbpsが約327Mbpsだった。
1Gbps有線LAN時は読み込み約734Mbps、書き込み約987Mbps、11ac-1.3Gbps時は読み込み約744Mbps、書き込み約208Mbps、11n-450Mbps時は読み込み約307Mbps、書き込み約327Mbpsだった。
【表3】同梱USBメモリを使ったNAS機能のCDM結果(Mbps) | |||
---|---|---|---|
1000Base-T | 11ac-1.3Gbps | 11n-450Mbps | |
リード | 456.9 | 197.1 | 204.1 |
ライト | 92.6 | 117.0 | 100.5 |
同梱USBメモリを使ったNAS機能のCDMによる測定結果は表3の通りで、読み込みは1Gbps有線LANについては約460Mbpsで、ほかは200Mbps前後、書き込みについては100Mbps前後だった。
まとめと感想
WZR-S1750DHPは、速度については現在最速といかないまでも、十分に高速な部類に入る無線LANルーター製品だ。iPhoneユーザーであればiCloudに追加料金を払うことなく写真と動画のバックアップができる「写sync」は重宝するだろう。また、写syncのような、ほぼ家庭向けの機能を搭載する一方で、VPN(PPTP)サーバーのようなビジネスで使うことも多い機能を搭載しているのは面白いところである。
ちなみに、バッファローは以前型番に「S」が無い「WZR-1750DHP」を発売しているが(以前本連載でも紹介した)、そちらは2つあるUSBポートのうち上側がUSB 3.0対応となっている。また、「写sync」機能には対応していない。写sync機能の対応は現在のところWZR-S1750DHPのみとなっており、バッファロー製品の中でも特徴のある製品に仕上がっている。