■井上繁樹の最新通信機器事情■
9月発売されたアイ・オー・データ機器「WN-AG300EA-S」は、有線LAN機器の無線化を目的にした製品だ。有線LANルーターと接続機器をまとめて無線化したり、2.4GHz帯専用の無線LANルーターにつないで5GHz帯を使った経路を追加したりといった用途に使える。家電を意識してか、箱から出したらケーブル類をつなぐだけのお手軽仕様なのが特長だ。
●有線LAN機器を手軽に無線化アイ・オー・データ機器「WN-AG300EA-S」はペアリング済みの無線LAN親機(アクセスポイント)と子機(コンバーター)がセットになったパッケージだ。親機側が有線LANルーターを無線化し、子機側がそれまで有線LANルーターにつないでいたTVやレコーダー、ゲーム機、PCなどを無線化する。
親機と子機はハードウェア的には同じもので、スイッチを切り替えることで役割が切り替わる。子機(兼親機)は増設可能(4台以下での利用を推奨)で「WN-AG300EA」として単品でも販売されている。同様の製品として以前紹介したバッファロー「WLAE-AG300N/V2」がある。
無線LAN部分はIEEE 802.11a/b/g/n対応で、混雑しがちな2.4GHz帯だけでなく、5GHz帯も使える。有線LAN部分は100Mbps対応で2ポート搭載しており、LAN Hubを使えばポートの増設も可能だ(4ポート以下での利用を推奨)。大きさは70×117×28mm(幅×奥行き×高さ)で重量は100g。ちょうどPC用のマウスに近い大きさと重量だ。マニュアルは同梱している取扱説明書とは別により詳細なものが公式サイトで公開されている。
単にLANケーブルを無線LANに置き換えるだけでなく、無線LAN親機をアクセスポイントとしても利用できるので、有線LANルーターを無線化する手段としても使える。ただし、SSIDが1つで2.4GHz帯と5GHz帯の同時利用や複数の暗号化方式の同時利用はできない。また、ブロードバンド無線LANルーターのように機能豊富というわけではないので、本格的に使うには物足りないかもしれない。
●設定要らずだがパスワードは忘れずに「WN-AG300EA-S」の設定作業は実質LANケーブルとACアダプタをつなぐだけで完了する。電源スイッチは無いので単にケーブル類をつなぐだけでよい。ポイントは、親機をルーターにつないで、子機にルーターにつないでいた有線LAN機器をつなぐこと。慣れた人であれば15分もかからないだろう。
親機と子機は5GHz帯の11n(非倍速モード)を使って接続するよう初期設定されている。さらに、親機と子機はIPアドレスとしてそれぞれ「192.168.0.201」と「192.168.0.202」を固定で使うよう初期設定されている。そのため、IPアドレスの重複など不都合が起きる場合はあらかじめ管理画面で設定を変更しておく必要がある。
それから、接続するLANのIPアドレスが「192.168.1.~」や「192.168.11.~」など第4セグメント以外が異なる場合は、管理画面を開くとき一手間必要になるので、LANで使われているものに変更した方がよいだろう。変更しない場合は管理画面を開く度にPCのIPアドレスの方を「192.168.0.~」に設定しなおす必要がある(要PC再起動)。
管理画面は親機子機それぞれのIPアドレスを使えばブラウザで開ける。初期設定ではパスワードは登録されていないので、最初に管理画面を開いたときに登録しておくとよいだろう。なお、マニュアルではセキュリティ上の理由で無線LAN経由での管理画面の操作を推奨していない。
管理画面でできるのは、パスワードの設定、IPアドレスの設定、セキュリティを含む無線LANの設定、省電力設定、ファームウェアの更新など。省電力設定では送信出力を抑えたり、接続している機器の電源ON/OFFに合わせて子機を省電力モードに移行するよう設定できる。
管理画面のデザインについてだが、枠の色を親機は水色で子機は緑という具合に変えてあり、ぱっと見でどちらを操作しているのか分かりやすくなっている。非常にコンパクトにできているので解像度の低い端末でも使いやすい。それでいてボタン類は大きめなので、タッチパネルでの操作も比較的楽だ。
ベンチマーク測定には「CrystalDiskMark 3.0.1」を使用した。測定には共有フォルダをネットワークドライブとして登録したものを使用した。測定先のPCはWindows Vista SP2(64bit版)、測定元のPCはWindows 7 Home Premium SP1(32bit版)。WN-AG300EA-Sは測定先のPCとルーターの間に設置した。参考データの測定にはExt4形式のHDDにインストールしたUbuntu 11.04マシンを使用した。テスト環境は近隣にIEEE 802.11b/g/nユーザーの多いワンルームマンションの1室。無線LANのセキュリティ機能はいずれもWPA2-PSK(AES)を使用した。
ベンチマーク結果についてだが、2.4GHz帯の11nを倍速モードで使った場合で読み込み約86Mbps、書き込み約88Mbpsだった。また、5GHz帯の11nを倍速モードで使った場合で読み込み約88Mbps、書き込み約90Mbpsだった。倍速モードと通常モードの速度差は3Mbps前後で、通常モードと倍速モードで速度差が逆転しているケースもあり、誤差の範囲と言ってよいだろう。というわけで、よっぽど電波状況が悪い場合でもない限りデフォルト設定を変更してまで倍速モードを使う必要は無いようだ。
Windows共有フォルダ(NTFS)の場合 | |||
周波数帯 | 接続規格 | 読み込み | 書き込み |
2.4GHz | 11n | 84.47 | 84.92 |
11n x2 | 86.18 | 87.77 | |
5GHz | 11n | 84.78 | 91.37 |
11n x2 | 87.9 | 90.31 | |
Linux共有フォルダ(Ext4)の場合 | |||
周波数帯 | 接続規格 | 読み込み | 書き込み |
2.4GHz | 11n | 66.78 | 92.69 |
11n x2 | 68.07 | 93.47 | |
5GHz | 11n | 79.12 | 97.42 |
11n x2 | 73.57 | 96.22 |
11n倍速モード(2.4GHz帯)ベンチマーク結果 | 11n倍速モード(5GHz帯)ベンチマーク結果 |
PS3のインターネット接続テストの結果(参考)。左が有線LAN経由、右がWN-AG300EA-S経由の結果。回線はフレッツ光ネクスト。条件が良ければ有線LANに近い速度が出るようだ |
結果からわかる通り100Mbps上限の製品としてはまずまずの速度が出ている。25Mbps程度必要なHD動画の視聴や、インターネット接続用としては十分な性能だと言える。
●まとめと感想WN-AG300EA-Sは有線LAN機器を簡単に無線化できる製品だ。セットアップはケーブル類の接続だけで済むなど、とにかく簡単に使えるように配慮されている。そのせいか添付の取り扱い説明書では管理画面の開き方も省略しているくらいだ(公式サイトのマニュアルで解説している)。
親機は無線LANアクセスポイントとしても使えるので、有線LANルーターの無線化目的でも使える。ただし、無線LANアクセスポイントとしては機能的にシンプルでSSIDも1つだ。USB接続HDDのNAS化機能やDLNAサーバーを始めとしたサーバー系の機能まで搭載した多機能な製品ではないことに注意したい。
価格を考えると、より安価に無線化できるPC向きではないが、無線化するにはそれこそ買い替えが必要な有線LAN機器にとっては数少ない無線化手段だ。PCでも何台かまとめて無線化するのであれば、まとめた分だけ無線LAN環境の面倒を見なくてよくなるメリットはある。
(2011年 10月 4日)