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日本ヒューレット・パッカード「HP Pavilion x2 10」

~着脱式世界最軽量への挑戦

HP Pavilion x2 10

 日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)は、キーボードを付けた状態で930gと世界最軽量を実現したデタッチャブル型(着脱式)2-in-1 PC「HP Pavilion x2 10」(以下Pavilion x2 10)を11月中旬に発売する。今回製品発売に先立って試作機をお借りできたので、試用レポートをお届けする。

 販売ルートは直販と量販店の2種類で、選択可能な構成が異なる。直販モデルはOfficeなしで、税別価格は45,800円。量販店モデルはOffice Home and Business 2013が付属し、価格はオープンプライス、税別店頭予想価格は6万円前後の見込みとなっている。

“意外”にも世界最軽量が日本HPから

 日本HPのモバイルPCの重量……と言えば多くの人は1.4kg前後の製品を思い浮かべるのではないだろうか。モバイルPCの重量の決定要件は材質や筐体設計だけではない。開発の段階において、製造コストや堅牢性、製品の対象となる価格帯など、さまざまな要素が考慮され、それらが絡み合って初めて決定されるものである。

 つまり、モバイルにおいて1.4kg台のノートPCが多いのは、市場が求められるさまざまなニーズが総合的に考慮されて決定されたものである。もちろん、パナソニックの「Let'snote RZ4」のように価格を度外視すれば堅牢性と軽量性を両立できるし、コスト重視で軽量に作ろうとすればネットブックに近い1.4kg台の製品が完成するわけだ。

 日本HPの製品は、基本的に後者、つまりコストを重視した作りである。Hewlett-Packard(HP)はグローバル企業であり、全世界に製品を大量に提供する大企業である。モバイルの重量を重視する市場は日本ぐらいであり、その中でもコスト度外視で重量を重視するユーザーはごく僅かである。グローバル展開するHPから見ればニッチな市場であり、わざわざそれに向けて製品を開発しないのは致し方ないところだ。

 しかし今回のPavilion x2 10は、“デタッチャブルの2-in-1”という条件が付くものの、「世界最軽量」を実現した製品である。こう言っては失礼なのだが、世界最軽量の製品がHPから発売されるのは、正直“意外”と言うほかない。

 この軽量性は、本来デタッチャブルで必要とされるスタンドやヒンジ機構を、iPadのSmart Coverと同じ発想でカバーを折り曲げてスタンドにし、さらにキーボード側からインターフェイスやHDD、バッテリなどを省くなど機能を“最小限化”したことで実現できたもの。「それをやったらどこのメーカーだって実現できそうだ」と言われればそうだが、全世界でHPだけがこの構成に挑戦したのは間違いない。

おしゃれな外観とサクッと使えるスタンド

 それでは実機を見ていこう。今回お借りしたのは量販店向けのモデル。パッケージに入っていたのは本体とカバー付きキーボード、ACアダプタなど必要最低限なものに加え、Office Home and Business 2013簡易のセットアップ手順書、パンフレット、製品仕様に関する注意、そしてマイナビが編集したガイドブック「速効! HPパソコンナビ 特別編」など。簡易版とは言え、ガイドブックが付属するのは初心者には心強いだろう。

 日本HPは、国内向けに出荷するPCに付属するACアダプタに関して、3ピンのプラグから2ピンに順次変えつつあるが、本製品もその方針に則り、2ピンとなっている。出力側の端子はMicro USBで、5V/3A。ちなみに一般的なMicro USBではあるのだが、このACアダプタでほかのスマートフォンなどを充電することはできなかった。おそらく何か認証による保護機構が入っていると思われる。

 今回届いたのはキーボードカバーが「ティールブルー」色のモデルで、淡い青緑となっている。海外では“ティファニー・ブルー”とも呼ばれ、アクセサリブランド名門「Tiffany」のブランドカラーに近い。実際、Tiffanyの箱を比較してみたところ、本機のほうがやや薄い印象だがほぼ同じで、高級感のあるカラーリングだ。カフェなどで立てて使うのなら、結構女性の目を引くのではないだろうか。

 タブレット本体は、11型の「Pavilion 11 x2」と大差なく、横持ちが前提のデザインとなっており、背面の上部と左右が緩やかな弧を描くデザイン。Micro USB兼DC入力、USB 3.0、HDMI出力、microSDカードスロット、Windowsボタン、音量調節ボタンなど、インターフェイスはほぼ右側面に集中。左側面にはステレオミニジャックを備えている。

 大きな違いはスピーカーで、Pavilion 11 x2は下部に小さなスリッドを2基備える程度だけだったものが、本機は正面左右に堂々と構えており、デザインとしてはNVIDIAの「Tegra Note 7」をベースとした「HP Slate7 Extreme」に近い。

 キーボードドック側にインターフェイスを備えていないため、キーボードとの接続は9ピンの接点が露出したタイプとなっている。キーボードとは磁石でくっつく。磁力はあまり強くないため、タブレット側を持ってキーボードをぶら下げても問題ないが、その逆は落ちる可能性があるため注意したい。

HP Pavilion x2 10
付属品など
付属のACアダプタは5V/3A出力のMicro USBタイプ
今回届いたのはキーボードカバーがティールブルーの量販店モデル
本体はそこそこの厚みがある
右側面にインターフェイスやボタン類が集中している
左側面は音声入出力用のミニジャックのみ
底面にキーボード接続用端子が見える
スピーカーの穴は左右全体に開いている
本体背面は大きなHPのロゴが入っている

 カバーを三角形に折り曲げることで、本体を支えるスタンドとなる。iPadのSmart Coverと異なるのは、カバー自体に磁石が仕組まれており、これを本体背面にくっつけることで支える点。本体背面には2カ所磁石にくっつく部分があり(正確には閉じた時にカバーを固定するため3カ所ある)、これによって高さを2段階で調節する。

 この機構はヒンジ部を省略できるほか、キーボード側を重くしなくても本体を支えられるメリットがあり、これによってキーボード着脱時930gの軽量性を実現したのである。ちなみにキーボード側の重量は実測322g、タブレット側は実測606gだった。

キーボード側の重量は実測322g
本体の重量は実測606g
未使用時はキーボードをスタンド側に立てておける

 このスタンドのデメリットは、設置の際にキーボードから後ろにスタンド分のスペースを確保しなければならず、見た目以上に奥行きを取ってしまう点。ただこれは日本HPが特に謳わなかったのだが、未使用時はキーボードをスタンド側に倒して、手前のスペースを利用できる。これはクラムシェルにはできない形であり、サクッと収納して手前のスペースを使う事務机の上では威力を発揮する。使用時はクラムシェル以上を専有するが、未使用時はクラムシェルよりコンパクト。これは意外であった。

 背面の端が弧になっているため、カバーは中央しか覆わなく、この状態で持ち歩くと“ファイルからはみ出た書類”みたいな感じとなってしまうのだが、これはこれで今までにないデザインで面白い。唯一、カバーからはみ出るIntel Insideのロゴが気になるところだが。

カバー部を折り曲げてスタンドとして使う
2段階の高さ調節が可能
収納時、本体がカバーからはみ出てしまう

使い勝手を見る

 まず手にして気になったのは、930gという数字ほど軽くはないというところ。確かに1kgは切っているのだが、内部がぎっしり詰まっている印象だ。もっとも、カバンに入れて背負う分には、確実に1kg超のノートとの違いを体感でき、そういった意味では持ち運びは苦にならないと思われる。

 本体は緩やかに弧を描いているため手に持ちやすい。排熱には結構余裕があるらしく、PCMarkなど高負荷なベンチマークを走らせても気になるような熱さになることはなかった。

 さて、気になるキーボードだが、さすが底面に鉄板などが入っているわけではない上、足が付いているので、タイプしているとかなりたわむ印象である。こればかりは軽量性とトレードオフなので、致し方ないところだ。とは言え集中してタイピングしている分には、たわみが気になることはなかった。

 キー配列はHPの一般的な11型前後のクラスと同じだが、半角/全角、Backspace、Enterなど、少し細くなっているものもある。ただ配列が変則的ではないため、これも気になるほどではなかった。

キーボードは薄く、タイピング時にややたわむ
キーボード底面にも足が付いている
本体接続用のピンは9ピンのみ
カバーはキーボード全体をも覆わない。このまま置くとちょっと不格好ではある

 タッチパッドはボタン一体型のタイプ。表面の滑りは良く、長時間利用で疲れることはない。そもそもタッチパネルになっているため使う機会も少ないのだが、ノートPCのように操作する際にストレスがないのはありがたい。

 液晶はIPSパネルを採用しているため、上下/左右は少し暗くなるものの、色の変化は少なく視野角は広い。色味が正しく発色も鮮やかで、輝度も十分といった印象。ただし光沢パネルのため、オフィスでは映り込みが激しいのは気になる。

 スピーカーの音は低音は期待できないが、このクラスとしては十分であり、YouTubeやストリーミングの音楽を楽しむのにあたって、特に不満を感じることはない。どうしても気になるのであれば、Bluetoothスピーカーを使えば良い。

キーボードの配列
カーソルキーはHPらしく、上下が狭い
BackspaceやEnterキーなどは一部細くなっている
半角/全角キーも細くなっていることが分かる
主要キーのキーピッチは約17.5mmで、十分にタッチタイプできる
タッチパッドはボタン一体型タイプ
タッチパッドの幅は約94mm、奥行きは約54mmと十分な操作スペースを確保している

予測通りの性能だが、バッテリはかなり優秀

 最後にベンチマークの結果を掲載してまとめとしたい。使用したベンチマークは「PCMark 7」、「ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3」、「SiSoftware Sandra」の3種類。

 比較用として、Pentium N3510を搭載した11.6型デタッチャブル「HP Pavilion 11-h004TU x2」、および法人向けの10型タブレット「HP ElitePad G1000」の結果を掲載する。


Pavilion x2 10Pavilion 11 x2HP ElitePad G1000
CPUAtom 3740DPentium N3510Atom Z3795
メモリ2GB4GB4GB
ストレージ32GB eMMC128GB SSD128GB eMMC
OSWindows 8.1Windows 8Windows 8.1
PCMark 7
Score242529922507
Lightweight128918641272
Productivity9411180955
Entertainment167620941750
Creative447346004393
Computation604360647302
System storage354849383047
RAW system storage score12293422800
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low424440724435
High281025373069
Sisoftware Sandra
Dhrystone19.68GIPS23.5GIPS26.08GIPS
Whetstone9.25GFLOPS12.77GFLOPS18GFLOPS
Graphics Rendering Float45Mpixel/sec43.16 Mpixel/sec45Mpixel/sec
Graphics Rendering Double8.49Mpixel/sec8.07 Mpixel/sec8.48Mpixel/sec

 結果としては予測通りで、CPU演算性能に関してはOSが64bitのElitePad G100や、クロックが高いPavilion 11 x2の方が高速、GPUに関してはクロックが低いPavilion 11 x2よりも高い本機の方が速いという結果。ストレージに関しては、やはりSATAインターフェイスのSSDを持つPavilion 11 x2が有利だ。

 正直、どんぐりの背比べをしてもと言った感じだが、それだけ実際の利用でも大差を感じないはずである。

 ただバッテリの駆動時間については、上記のいずれの機種よりも高い。BBenchを利用し、Web巡回オン、キーストロークをオンに設定し、輝度を室内でも見やすい50%程度に設定した状態では、なんと13.4時間駆動した。筆者がテストした製品の中でダントツで、これならば、頻繁に使用してもほぼ1日~2日は充電せずに使えそうだ。

今までになかった形を

 本機は確かにデタッチャブルの2-in-1である。しかしその実態はタブレットに限りなく近い形状である。もっと言ってしまえば、本来Bluetoothで接続できるカバースタンド付きキーボードに、端子を付けて本体とデタッチャブルにしただけだ。発想は極めてシンプルであるが、どのメーカーもチャレンジしなかった。そこに敢えて挑戦し、新しいフォームファクタを生み出そうとするHPの前向きな姿勢は評価したい。

 特に、いつでも参照できるサブマシンを机の上で使いたい、でもあまりスペースがないといったユーザーには、“縦に閉じて収納”する方法をおすすめしておきたい。クラムシェルより省スペースで収納でき、すぐに利用可能な状態になるからだ。クラムシェルでも同様の機構を取り入れて欲しいぐらい便利である。

 HPは深度センサーやタッチマットを備えた一体型PC「Sprout」を先日発表するなど、最近はこうした他社にはない新しいフォームファクタに注力しているようだ。今後の登場する新製品に期待したいところである。

(劉 尭)