~Core i7搭載で世界最小ボディを実現したモバイルノート |
パナソニックが発表した「Let'snote」シリーズ春モデルの中で最もサイズが小さいのが、10.4型液晶を搭載した「Let'snote R9」である。Let'snote R9は、ボディは前モデルのLet'snote R8とほとんど同じだが、CPUに最新のCore i7を搭載し、パフォーマンスが大きく向上したことがウリだ。Let'snote R9は、Core i7搭載ノートPCとして現時点で世界最小を実現しており、携帯性を重視する人には、非常に魅力的な製品である。今回は、Let'snote R9を試用する機会を得たので、早速レビューしたい。
なお、今回試用したのは試作機であるため、製品版とは細部やパフォーマンスが異なる可能性がある。
●Let'snoteシリーズで唯一Core i7を搭載今回発表されたLet'snote春モデルでは、CPUがCore 2シリーズからCore iシリーズへと変更されているが、Let'snote R9以外の製品は、通常電圧版のCore i5-520Mが搭載されているのに対し、Let'snote R9は唯一、超低電圧版のCore i7-620UMが搭載されている。
シリーズ名が上位であり、プロセッサ・ナンバーも後者のほうが大きいため、Let'snote R9のほうがパフォーマンスが高いと思う人もいそうだが、Core i5-520Mのクロックが2.40GHzであるのに対し、Core i7-620UMのクロックはその半分以下の1.06GHzであり、コアの数も2つ(Hyper-Threadingテクノロジー対応なので同時に実行できるスレッドは4)で変わらないため、CPUパフォーマンスはCore i5-520Mの方が高い。これはIntelのモバイル系Coreシリーズに対するブランディングの問題で、シリーズ名での判断が難しい製品体系だ。ただし、自動オーバークロック機能のTurbo Boostテクノロジーによるクロック向上率はCore i7-620UMのほうが大きく、最大2.13GHz(定格の2倍)までクロックが向上するのに対し、Core i5-520Mでは最大2.93GHz(定格の約1.22倍)までしかクロックが向上しない。また、L3キャッシュ容量はCore i7-620UMが4MBなのに対し、Core i5-520Mは3MBである。
前モデルのLet'snote R8は、CPUとしてCore 2 Duo SU9600(1.60GHz)を搭載していたが、Core 2 Duo SU9600のTDPは10Wであるのに対し、Core i7-620UMのTDPは18Wと1.8倍に増加しているため(Core i7-620UMはGPUやメモリコントローラといった、従来ノースブリッジが担当していた機能も内蔵しているが)、同じボディに収めるのは大変だったという。Let'snote R9では、CPU冷却ファンをR8に比べて大型化し、基板側に移動させることで(従来はベースユニット側にファンが搭載されていた)、約3倍の風量を実現したとのことだ。
チップセットとして、vPro対応のIntel QM57 Expressを搭載。メモリは標準で2GB実装しており、DDR3 SO-DIMMスロットを1基備えているため、最大4GBまで増設が可能だ。HDDの容量は250GBである。なお、直販サイトのマイレッツ倶楽部では、CPUがワンランク上のCore i7-640UM(1.20GHz)になり、500GB HDDまたは128GB SSDを搭載、Bluetoothが追加されたハイスペックモデルやプレミアムエディションの購入が可能だ。本体サイズは前モデルと同じ229×187×29.4~42.5mm(幅×奥行き×高さ)で、重量も前モデルと同じ約0.93kgだ。
店頭モデルのOSは、Windows 7 Professional 32bit版だが、「ハードディスクリカバリ機能」を利用することで、32bit版と64bit版を選択することが可能だ。
Let'snote R9の上面。ボディのデザインは、Let'snote R8と同じだ | 「DOS/V POWER REPORT」誌とのサイズ比較。R9のほうが二回りほど小さい |
Let'snote R9の底面。中央にあるのはメモリスロットのカバー | メモリスロットとして、DDR3 SO-DIMMスロットが1基用意されており、最大4GBまで増設が可能だ |
●10.4型ノングレア液晶を搭載
液晶ディスプレイとして、10.4型液晶を搭載する。今では少数派となった4:3アスペクトの液晶で、解像度は1,024×768ドットである。他のLet'snoteシリーズと同じく、ノングレアタイプの液晶を採用しているため、コントラストや発色の鮮やかさの点では光沢タイプ(グレア)液晶に見劣りするが、外光の映り込みが少なく、長時間使っても目の疲れが少ない。仕事で使うのに適した仕様といえるだろう。
Let'snote R9は、Let'snoteシリーズの中で最もボディが小さいため、キーボードは多少窮屈だ。主要キーの横方向のキーピッチは17mmだが、縦方向のキーピッチは14.3mmしかなく、キートップが横長の長方形となっている。また、「む」や「け」など右側の一部のキーピッチが狭くなっているほか、「半角/全角」が最上段に配置されている。慣れれば、タッチタイピングが可能ではあるが、慣れるまで違和感を感じる人もいそうだ。ポインティングデバイスとして、Let'snoteシリーズではお馴染みの円形ホイールパッドが搭載されている。ホイールパッドは連続的なスクロール操作が可能なことが特徴であり、操作性も良好だ。
●インターフェースは従来機種通り
インターフェイスも、前モデルのLet'snote R8と基本的に同じだ。USB 2.0ポート×2とミニD-Sub15ピン、Gigabit Ethernetなどを備えている。ポートの配置も同じなので、これまでRシリーズを使ってきた人も、そのまま移行できる。左側にもUSB 2.0ポートがあればより嬉しいが、ボディサイズが小さい本機ではなかなか難しいのだろう。カードスロットとして、PCカードスロットとSDメモリーカードスロットを備えている。SDメモリーカードスロットは、本体正面に用意されている。
ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11a/b/g/n対応無線LANを搭載。S9/N9/F9とは異なり、WiMAXを搭載していないのは残念だが、こちらもアンテナの実装に対してボディサイズに制限があるためだと思われる。店頭モデルはBluetooth非搭載だが、前述したようにマイレッツ倶楽部限定モデルではBluetoothにも対応する。正面右側には、ワイヤレススイッチが用意されており、ワイヤレス機能の有効/無効を素早く切り替えられるので便利だ。
左側面には、ミニD-Sub15ピンとPCカードスロットが用意されている | 右側面には、USB 2.0×2とGigabit Ethernetが用意されている |
正面には、SDメモリーカードスロットとオーディオ出力、マイク入力、ワイヤレススイッチが用意されている | 正面右側にワイヤレススイッチが用意されており、ワイヤレス機能の有効/無効を素早く切り替えられる |
●最新の3,100mAh高容量セルを採用し、駆動時間7.5時間を実現
Let'snote R9では、バッテリパックに使われているリチウムイオン電池が、従来のLet'snote R9で使われていた2,900mAhセルから、最新の3,100mAhセルに変更されており、バッテリ容量が7%ほど増加している。CPUがCore 2 Duo SU9600からCore i7-620UMに変更されたことで、公称バッテリ駆動時間は約8時間から約7.5時間へと30分ほど短くなっているが、パフォーマンスの向上を考えると十分納得できる範囲だ。ACアダプタは従来と同じく、非常にコンパクトであり、ACコード込みでの重量も約215gと軽いので、携帯性は優秀だ。
バッテリパックは、7.2V/6,200mAhの4セル仕様で、最新の3,100mAhの高容量リチウムイオン電池を採用 | CDケース(左)とバッテリのサイズ比較 |
ACアダプタはコンパクトで軽く、携帯性は優秀だ | CDケース(左)とACアダプタのサイズ比較 |
●クラストップのパフォーマンスと十分な駆動時間を実現
参考のためにベンチマークを計測してみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較対照用にパナソニック「Let'snote F9」、レノボ「ThinkPad T400s Windows 7モデル」、エプソンダイレクト「Endeavor NA501E」、NEC「LaVie M」の値も掲載した。
PCMark05の総合スコアの値は3872で、Core 2 Duo SU9400を搭載したEndeavor NA501Eよりも14%ほど高い。前モデルのLet'snote R8のベンチ結果はなかったので、直接の比較はできないが、Endeavor NA501EのCPUをワンランク上にすれば、Let'snote R8のスペックとほぼ同じになる。CPU Scoreは4520であり、Core 2 Duo SU9400を搭載したEndeavor NA501Eよりも24%ほど高い。クロック差を考慮に入れても、やはりLet'snote R8よりLet'snote R9のほうがパフォーマンスが向上しているといえるだろう。さすがに通常電圧版のCore 2 Duo搭載機のスコアには及ばないが、1kg未満のモバイルノートPCの中では、トップクラスのパフォーマンスを持っているといえる。
また、BBenchによるバッテリ駆動時間のベンチマーク結果(無線LAN常時ON、バックライト輝度中)は6時間2分となり、こちらも優秀な結果である。
Let'snote R9 | Let'snote F9 | ThinkPad T400s Windows 7モデル | Endeavor NA501E | LaVie M | |
---|---|---|---|---|---|
CPU | Core i7-620UM(1.06GHz) | Core i5-520M(2.40GHz) | Core 2 Duo SP9400(2.4GHz) | Core 2 Duo SU9400(1.40GHz) | Core 2 Duo SU2300(1.2GHz) |
ビデオチップ | Core i7-620UM内蔵コア | Core i5-520M内蔵コア | Intel GS45内蔵コア | Intel GS45内蔵コア | Intel GS45内蔵コア |
PCMark05 | |||||
PCMarks | 3872 | 5424 | 4480 | 3404 | 2826 |
CPU Score | 4520 | 7000 | 6092 | 3632 | 2966 |
Memory Score | 4561 | 5702 | 5276 | 3657 | 3066 |
Graphics Score | 1777 | 2372 | 2057 | 1495 | 1397 |
HDD Score | 4760 | 4792 | 4471 | 5712 | 4948 |
3DMark03 | |||||
1,024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks) | 2918 | 3515 | 2493 | 2114 | 2048 |
CPU Score | 773 | 1101 | 980 | 655 | 495 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | |||||
HIGH | 1628 | 2422 | 2487 | 1800 | 1995 |
LOW | 2425 | 3801 | 3868 | 2615 | 1367 |
ストリーム出力テスト for 地デジ | |||||
DP | 100 | 99.97 | 99.93 | 90.07 | 76.43 |
HP | 99.97 | 100 | 99.93 | 99.97 | 99.97 |
SP/LP | 100 | 99.97 | 99.97 | 100 | 99.97 |
LLP | 99.97 | 100 | 99.97 | 99.97 | 99.97 |
DP(CPU負荷) | 26 | 30 | 48 | 64 | 68 |
HP(CPU負荷) | 13 | 13 | 19 | 35 | 42 |
SP/LP(CPU負荷) | 8 | 8 | 10 | 23 | 28 |
LLP(CPU負荷) | 6 | 6 | 7 | 18 | 22 |
CrystalDiskMark 2.2 | |||||
シーケンシャルリード | 82.79MB/s | 66.45MB/s | 47.04MB/s | 99.69MB/s | 60.31MB/s |
シーケンシャルライト | 82.63MB/s | 66.11MB/s | 48.16MB/s | 95.33MB/s | 66.25MB/s |
512Kランダムリード | 33.17MB/s | 30.99MB/s | 26.89MB/s | 39.21MB/s | 27.50MB/s |
512Kランダムライト | 36.76MB/s | 33.03MB/s | 30.03MB/s | 57.91MB/s | 31.19MB/s |
4Kランダムリード | 0.456MB/s | 0.467MB/s | 0.450MB/s | 0.538MB/s | 0.369MB/s |
4Kランダムライト | 1.213MB/s | 1.229MB/s | 1.049MB/s | 1.054MB/s | 0.984MB/s |
BBench | |||||
Sバッテリ | なし | なし | なし | なし | なし |
Lバッテリ(標準バッテリ) | 6時間2分 | 7時間24分 | 4時間18分 | 2時間31分 | 3時間39分 |
Xバッテリ | なし | なし | なし | なし | 7時間26分 |
●コンパクトかつ実用的な性能を持つモバイルPCが欲しい人にお勧め
Let'snote R9は、A4サイズよりも二回りほど小さなサイズで、重さ約0.93kgという高い携帯性と、Windows 7を快適に動かせるパフォーマンスを両立していることが魅力だ。単にサイズや重量の点では、Atom Z搭載機にはもっと小さく軽い製品もあるが、やはりAtom Z搭載機では、少し重い作業をさせるとパフォーマンスに不満を感じることが多い。軽くて小さいマシンが欲しいが、パフォーマンスも犠牲にしたくないという人には、特にお勧めしたい製品だ。
なお、Let'snote R9の店頭予想価格は18万円前後とされており、前モデルのLet'snote R8と同じである。Atom Z搭載機やCULVノートPCに比べれば価格は高いが、Let'snoteシリーズには、100kgf加圧振動試験や76cm落下試験をクリアし、キーボード全面防滴も実現するといった、低価格なモバイルPCや超小型モバイルPCにはない、頑丈さというメリットがある。モバイルPCを仕事の道具としてヘビーに持ち運く人にとって、何よりも強い味方となるだろう。
(2010年 1月 28日)
[Text by 石井 英男]