Hothotレビュー
ASUS「TAICHI31」
~デュアルディスプレイ搭載のUltrabook異端児
(2014/3/3 06:00)
ASUSから、天板表裏両面に13.3型ワイド液晶ディスプレイを搭載したUltrabook「TAICHI31」が発売となった。実売価格は99,800円前後だ。今回1台お借りできたので、試用レポートをお届けする。
Ivy BridgeベースのUltrabook
11.6型の「TAICHI」は、2012年12月に国内で発売された。その後台湾では13.3型モデルが2013年4月に発表され、同年5月には日本の法人向けに投入されていたが、そこから約10カ月、ようやく個人向けにも発売されたこととなる。
実態は2013年前半のモデルのため、CPUはIvy BridgeベースのCore i5-3317U(1.7GHz、ビデオ機能内蔵)と1世代前のものになっている。2014年モデルとしては仕様が古い印象は拭えず、新CPUに積極的なASUSらしからぬタイミングでの製品投入だが、現在に至るまでワールドワイドでも第4世代Coreプロセッサを搭載したTAICHIは登場していないので、シリーズ内では最新のモデルである。
エンドユーザーから見た場合、今のところIvy BridgeとHaswellの最大の違いはGPUの性能とバッテリ駆動時間程度であり、プロセスルールは同じ22nmだ。Intelが未だハイエンドのLGA2011プラットフォームでIvy Bridgeベースの新製品が投入されていることを考えると、一般的な用途において性能を懸念する必要はないだろう。
参考までに、「PCMark 7(1.4.0)」および「ファイナルファンタジーXI オフィシャルベンチマーク3」、「SiSoftware Sandra」によるベンチマーク結果を掲載する。比較用として、異なるアプローチのコンバーチブルノート「Aspire R7」、AMDのメインストリーム「Pavilion 15」、およびBay Trailでは上位になる「Pavilion 11x2」の結果を掲載する。
TAICHI31 | Aspire R7 | Pavilion 15(8670M優先) | Pavilion 11x2 | |
---|---|---|---|---|
CPU | Core i3-3317U | Core i5-3337U | A6-5200 | Pentium N3510 |
メモリ | 4GB | 8GB | 4GB | 4GB |
ストレージ | 128GB SSD | 500GB HDD | 1TB HDD | 128GB SSD |
OS | Windows 8 | Windows 8 | Windows 8.1 | Windows 8 |
PCMark 7 | ||||
Score | 3747 | 2826 | 1765 | 2992 |
Lightweight | 2576 | 1325 | 1358 | 1864 |
Productivity | 1672 | 838 | 964 | 1180 |
Entertainment | 2862 | 2686 | 1883 | 2094 |
Creative | 7908 | 5753 | 2762 | 4600 |
Computation | 11901 | 15957 | 3712 | 6064 |
System storage | 5095 | 1604 | 1475 | 4938 |
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3 | ||||
Low | 4825 | 6169 | 5258 | 4072 |
High | 3247 | 3775 | 3791 | 2537 |
SiSoftware Sandra | ||||
Dhrystone | 27GIPS | 49.64GIPS | 38.51GIPS | 23.5GIPS |
Whetstone | 21.49GFLOPS | 31.39GFLOPS | 22GFLOPS | 12.77GFLOPS |
Graphics Rendering Float | 172.24Mpixel/sec | 141.14Mpixel/sec | 262.08Mpixel/sec | 43.16 Mpixel/sec |
Graphics Rendering Double | 52.5Mpixel/sec | 41.67Mpixel/sec | 39.53Mpixel/sec | 8.07 Mpixel/sec |
以上の表から、Windowsにおける実際の操作感を数値で示すPCMark 7では最も高い性能を発揮していることが分かるだろう。PCMark 7自体がストレージの性能に大きく左右されるベンチマークのため、SSDを搭載している本製品はHDD搭載モデルと比較すると有利である。
PCMarkを抜きにしても、FFXIベンチやSandraで比較的バランスの取れたCPUとGPU性能を持っていることが分かる。ゲーミング用途を除き、普段使いで性能が不満になることはまずないだろう。
インテリジェントな両面ディスプレイ
続いて、本製品の最大の特徴である両面ディスプレイについて見ていく。クラムシェルとタブレット両方の使い勝手を実現するこのカラクリだが、仕組みは実に簡単で、背面のディスプレイをタッチ対応のセカンドディスプレイとして実装しているだけだ。
基本的にモードの切り替えは、キーボードの上で用意された専用のTAICHIボタンを押すと起動するソフト「TAICHI HOME」から行なうが、ハードウェアでもタブレットモードをロックするスイッチを本体右側面に備えており、液晶を閉じた時の挙動を選択できるようになっている。
具体的には、タブレットモードのロックを解除した場合、液晶を閉じるとタブレットモードに自動的に移行、再度開くと自動的にノートPCモードになる。よってサスペンドに入りたい場合はWindows上から操作をするか、本体側面の電源スイッチで行なうことになる。また、サスペンド時に本体を閉じたまま電源スイッチを入れると、タブレットモードで復帰する。
一方タブレットモードのロックをした場合、液晶を閉じるとそのままサスペンドに入るようになる。再度開くと自動的にノートPCモードで復帰。また、ロック時に電源スイッチを入れても、ASUSのロゴが数回点滅するだけで、タブレットモードで起動することはない。つまり背面の液晶は完全に無効にされるわけだ。
感心したのは、TAICHI HOME上からデュアルスクリーンモード、ミラーモードのいずれかに設定してから、サスペンド状態に入り、本体を開いてサスペンド復帰した時の挙動。この時背面の液晶は必ずオフになるのだ。つまり、例えばミラーモードで家族と写真の共有をしていて、その日はそのままサスペンドに入り、翌日外に持って行く際に電車の中でサスペンドから復帰してみたら、背面にも写真が映っていることを忘れて知らない他人に写真を見せてしまう……といった恥ずかしい思いをしないで済むのである。
タブレットとして使える利便性に加え、コンテンツを他人と簡単に共有することも目的とした、まさに表裏一体のディスプレイだが、プライバシーへの配慮も十分になされている点は、非常に好感が持てる。考えてみれば至極当然なことなのだが、これは明らかに開発した人間自身が製品を使ってみて導き出した最適解だったことがよく分かる。
ノートPCとタブレットのインターフェイス
本製品は基本的にクラムシェルなので、当然のことながらキーボードとタッチパッドが搭載されている。
キーボードのキーピッチは19.5mmで、十分に確保されている印象だ。またバックライトLEDも搭載しており、暗い環境を自動的に検知してバックライトをオンにする仕組みが搭載されている。右上から4番目にTAICHI専用キーが用意されている以外、キー配列は一般的でありクセがない。ストロークもこの薄さのモデルとしては十分で快適にタイピングできる。
タッチパッドは実測で幅約105mm、奥行き約71mmだった。13.3型のためかなり余裕がある印象だ。ポインタの移動そのものは快適だが、クリックボタンがパッド一体化なのは気になった。試用中、左ボタンを押したつもりでも右ボタンを押してしまい、右ボタンを押したつもりが左クリックになってしまう時か何度もあった。デザインはいいのだが、実用性の面では改善の余地があると言えるだろう。
また、タッチパッドでは2本指によるスクロールなどもサポートされているが、本製品においてデフォルトでスクロール方向がタッチスクリーンと逆なのは賛否両論あるだろう。確かにWindowsにおいて、タッチパッドで指を下に動かして画面を下にスクロールするというのが一般的だが、タブレットではちょうど逆の操作になるため、2つの利用形態を変える場合はかなり違和感を覚えてしまう。ドライバで設定はできるが、ASUSに一歩踏み込んでカスタマイズして欲しかったところだ。
ただ、本製品使っていてタッチパッドの設定よりむしろノートPC側のディスプレイがタッチできないことが気になった。タブレットモードからノートPCモードに移行した後でも、新しいUIではつい画面に指が伸びてしまい、「あっ、そう言えばこっちはタッチ使えなかった(笑)」というシーンが何度も発生した。たかがボタン1つ押すために、タッチパッドでフルHDの液晶を縦横無尽にカーソル移動するのが億劫なのが一因だ。Ultrabookの限られた薄さの中でデュアルタッチパネルなんというのは難しいとは思うが、次モデルではぜひ実現してもらいたいところである。
背面のタブレット側の操作は快適だった。強い光の下ではタッチパネルセンサーのラインが張り巡らされているのが分かるのは気になったが、反応もよく誤作動は少ない印象だ。ただし本体はそれなりに重さがあるため、片手で持って操作するよりも、膝や机の上に載せて使うスタイルになるだろう。
また、N-trigの技術によるペン入力をサポートするのも特徴の1つ。ただし今回試用したモデルはうまく認識されないことがあった。認識後もペンが反応する前に手に反応したりとパームリジェクションもうまく作動しなかった。試用モデルの個体の問題だろうか。実際、同様の技術はソニーの「VAIO Duo 13」などにも採用実績がある。
インターフェイスは限られるが、可搬性は高い
本体左側面には、奥からステレオミニジャック、USB 3.0、SDカードスロット、ボリューム調節ボタンを搭載。右側面はDC入力、USB 3.0、Micro HDMI出力、ディスプレイ出力(付属アダプタでミニD-Sub15ピンに変換)、電源スイッチ、タブレットモードロックスイッチを搭載している。音量調節スイッチはタブレット利用時に重宝する。
Ethernetポートは非搭載だが、USBのアダプタが付属しており、これを利用することで有線LANに接続できる。ミニD-Sub15ピンも変換経由での出力だが、それほど利用頻度は多くないだろう。むしろ、わざわざ用意していること自体評価できる。
本体は金属の質感が強く出ており、この時期パームレストに手を置くとひんやりする。液晶下部が排気口となっており、ベンチマークなどの動作中、騒音や熱が気になることはなかった。
液晶は表裏ともにIPS方式。視野角が広く色変位も少ないため見やすいが、同じ設定では背面側の輝度がやや低く感じられた。解像度は1,920×1,080ドット(フルHD)と広いが、13.3型というサイズもあり窮屈に感じることはないだろう。
特筆すべきはパワフルなスピーカー。本体が薄型ということもあり、実は当初あまり期待していなかったが、音楽や動画を再生してみて期待以上の音量と中低音の厚みに驚いた。製品情報ではBang & Olufsen ICEpowerによる独自のサウンド技術「SonicMaster」の搭載をアピールしているが、これによるものだろう。
付属のACアダプタは、iPad付属のものより一回り大きい程度で非常にコンパクト。ノートPCで多く使われている19Vタイプのため、合うジャックさえあれば汎用性は比較的高い。質感もよく、ジャック部は充電時にオレンジ、非充電時に緑に光るなど、芸も細かい。
このほか革の質感のインナーケースやクリーニングクロス、TAICHI専用の保証サービスカードなどが付属し、プレミアム感は高い。
重量は実測1,562gと、13.3型ノートとしてはまずまず、液晶が2枚入っていることを考えるとかなり頑張っており、“モバイル”の部類に入れても問題はないだろう。表面の採用ガラスは公表されていないが、片手で持ち上げてもたわむことはなく、剛性は高い。ただし指紋は付くため、精神衛生上付属のインナーケースに常時入れて持ち歩くことになりそうだ。
バッテリは交換できないタイプ。ノートPCモードで、視認性が十分確保できる液晶輝度を10%程度にし、BBenchでWeb巡回オン、キーストロークオンで計測したところ、バッテリ残り5%まで約6.5時間駆動した。タブレットモードでも計測したが、ほぼ同程度だった。ライトなモバイルには十分な駆動時間だろう。
TAICHIはズバリ対面で使え
約1週間ほどTAICHIを使ってみたが、まずは「自然な使い勝手」に感心した。タブレットとして使いたい時は電源を入れるだけ、ノートPCとして使いたい時は開くだけ。ダブルヒンジ式やスライド式、ヨガのような360度回転式、キーボード取り外し式といった機構でタブレットを実現する製品もあるが、これをPCという“機械”としてではなく、紙のノートや本に置き換えた場合、かなり不自然な動きである。機械に興味が無い人にこうした機構を見せて「タブレットにもできるよ」と自慢しても、「へぇ~」とか「お~」の一言で片付けられてしまう。
一方、TAICHIは機構的になんら特殊な機構はなく、液晶が2枚あるだけなので、機械のギミック好きな人間の目にはつまらなく映るかもしれない。しかし使い勝手はタブレットそのまま、ノートPCそのままで、それぞれに慣れた人はなんら思考を変えることなく自然に使えるのが、ほかの製品にはない特徴だ。
さらに、「裏にプラス1画面」という使い方はなかなか新しい。これまでノートPCは基本的に自分1人で見るものか、人に見せる時はそのまま渡すというスタイルだった。こういった使い方ではTAICHIが持つ2画面の特徴がなかなか活かされない。
というわけでこの1週間、家庭内でTAICHIの利用場所を考えてみたが、食卓が1番しっくり来た。食卓だったら2人いれば自ずと対面で座るからだ。「今日はここに行こう」、「Amazonでこれを買う?」と言ったシーンで、わざわざノートPCをひっくり返す必要も、もう1人にこちら側に来てもらう必要もない。デュアルスクリーンモードでは背面の液晶もタッチ操作できるので「これじゃなくてこっちがいいんじゃないの?」と示してもらうのも楽である。
TAICHIのデュアルスクリーンモードを活用した2人でプレイできるカードゲームなどが存在し、ノートPC側のディスプレイもタッチに対応すれば、もっと楽しめるだろう。この形態が普及すれば、新しいアプリの登場をも予感させられる製品である。