Hothotレビュー

日本エイサー「Aspire R7」

~イーゼルヒンジでコンバーチブルの新提案

Aspire R7
発売中

価格:オープンプライス

 日本エイサー株式会社は、“イーゼルヒンジ”と呼ばれる独自機構を採用した14型ノートPC「Aspire R7」を発売した。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は13万円前後だ。今回、量産モデルをおよそ2週間ほどお借りできたので、試用レポートをお届けしたい。

液晶の可動域を高めるイーゼルヒンジ搭載

 本製品の最大の特徴は、液晶の可動域を高める独自の「イーゼルヒンジ(Ezel Hinge)」の採用である。名前を聞くと複雑そうな機構だが、仕組みは単純で、液晶支持板の両端に2つのヒンジを設け、1つはキーボード側、もう1つは液晶中央背面で回転できるようになっている。

 これにより、一般のノートPCと同じクラムシェル形態に加え、液晶をより手前に近づけた形態、そして液晶をキーボード面から4度の傾斜をつけたタブレットのような形態、そしてキーボードとは逆の方向にディスプレイを見せる形態の4つに変形できる。

クラムシェル形態
液晶を手前に近づけた状態
タブレット形態。4度の角度がつけられている
液晶を裏返して相手に見せる状態

 15.6型ノートPCでは、液晶の大きさに付随してキーボードやパームレストも大型化し、11.6型モバイルなどと比較すると、どうしてもユーザーから液晶までの距離が遠くなる。そのためタッチ操作などを行なおうとすると腕を伸ばさなければならない距離が増え、これがストレスとなる。本機では利用スタイルに応じて、ユーザーから液晶までの距離を自由に調節できるため、ストレスが軽減される。

 特に、ソファに腰掛けて本機を膝においた時にタブレット形態で利用できるのは、楽だと思った。タブレット形態では4度とわずかな角度が付けられているが、これもしっくり来る角度で、よく練られた構造だ。

 キーボードと逆の方向にディスプレイを見せる形態では、内蔵の天地センサーによって自動的に表示が180度回転する。また、表示のみならずスピーカーも左右逆になるため、ビデオなどのステレオ音声で表示と矛盾するようなことにはならない。よく考えられた仕組みだ。

 また、イーゼルヒンジはこの4形態に限られず、どの角度、どの距離でも液晶を固定できる。例えば本機を机に置き立って利用する場合、イーゼルヒンジを首として伸ばして、液晶をより近い位置にくるタブレットとして利用することも可能だ。

 タブレット形態や、キーボードと逆の方向にディスプレイを見せる形態は、ディスプレイが360度回転する、いわゆる「ヨガ」タイプのノートでも実現されているが、キーボードが底面に回るため、見た目的にスタイリッシュではない。また、本機のように「ディスプレイだけをユーザーに近いところに置く」こともできない。イーゼルヒンジはヨガと比較するとヒンジ機構が大型化するため、薄型重視のUltrabookなどでは実現が難しいと思うが、15.6型クラスでそれほど薄型を気にする必要がないフォームファクタの場合、もっとも優れたコンバーチブル体験を提供できるのではないかと思う。

本機を机に置いたまま立って操作する場合、このようにディスプレイをちょっと持ち上げて操作しやすくできる

タッチパッドをキーボード奥に配置は意外とアリ

 先述の通り、本機はイーゼルヒンジを用いることで、ディスプレイをちょっと近づけた形態にできる。そこで本機はその形態でもキーボード入力ができるよう、キーボードを手前に、タッチパッドを奥にした、ちょっと変わった配置を採用している。

 一般的なクラムシェルノートは、タッチパッドが手前、キーボードが奥のため、それと比較すれば本機はまさに“変態”とも呼べる配置だが、使ってみればこれが意外と快適だ。クラムシェルの形態でタッチパッドを使っても、それほど違和感を覚えず、むしろタッチパッドが奥へ移動したことで、タイピング中に不意に手のひらがタッチパッドに触れカーソルが飛ぶといった現象を回避できるからだ。

 もちろん、従来のタッチパッドが手前にあるタイプでも、手のひらが触れても反応しないよう、ドライバで制御している製品もあるが、それでも対策は完璧とまではいかない。本製品はそもそもタイピング中に手のひらが当たらないため、心配や対策は無用である。

 逆にタッチパッド操作中にキーを押してしまいそうだが、キーはタッチパッドとは異なり物理スイッチのため反応がわかりやすい。また、キーが手前にあることを意識してしまうため、自然と手が避けるようになる。

 ThinkPadなどでお馴染みのスティックポインタとは異なり、タッチパッドはキーボードのホームポジションから一旦手を離してから操作する必要がある(親指で操作するならば話は別だが……)。そのため奥に移動しても手前に移動しても、結果は同じだ。それならば、普段手のひらが当たらない奥にタッチパッドを配置しても、それほど悪いアイディアではないと感じた。

 一方キーボードのキーは、ほぼフルピッチを確保。アイソレーションタイプのキーボードで、バックライト付きだ。難点を挙げるとすれば、英語キーボードのシャーシをそのまま流用しているため、一部キーが合体している点。例えば「ろ」と「右Shift」、「む」と「Enter」、「無変換」と「スペース」と「変換」だ。

 また、「Home」、「PageUp」、「PageDown」、「End」などが、「Enter」の右側にあるのもクセがあると言える。キーボードの端をとっかかりにEnterを押すユーザーにはつらいかもしれない。さらに、「る(。)」のキーの右上が押し込めない点も気になった。

 タッチパッドやキーボード以外にも、先述の通りタッチにも対応している。10点マルチタッチ対応で、専用のペンも付属している。お絵かきや手書き入力などでは威力を発揮するだろう。

タッチパッドが奥、キーボードが手前にある特殊な配列
タッチペンも付属する
キーボード配列
キーボードはホワイトバックライト付き
英語キーボードシャーシ流用のため、一部キーが“合体”している

インターフェイスはひと通り揃う

 機能面から紹介したが、デザイン面も見てみよう。本体は全体的にシルバーでまとめられ、金属感があるため、10万円台のノートPCとしては高級感のある部類に入る。イーゼルヒンジ部はヘアライン加工されており、天板とは材質が異なるためひときわ目立っているが、一体感がありデザインが損なわれていない。

 もちろんHDD搭載というのもあるが、厚みも最大で28.5mmあるためUltrabookではない。しかしながら15.6型としては薄型の部類に入り、側面から見ると非常にスタイリッシュだ。

 インターフェイスは、SDカードスロット、USB 3.0×2、USB 2.0、HDMI出力、専用VGA出力コネクタ(変換アダプタ付属)、IEEE 802.11a/b/g/n対応無線LAN、Bluetooth 4.0+HS、Crystal Eye HD Webカメラ、音声入出力などを装備。Ethernet端子がないため、付属のUSB Ethernetアダプタを利用して有線LANを接続する。ただしアダプタはホワイト色で、本体とデザインが統一されていないのが残念だ。

 電源や音量調節ボタンも、タブレット形態利用時で操作できるよう、本体右側面に備えられている。このあたりは使い勝手に配慮した感じだ。電源やHDDアクセスランプは本体手前側にある。

 排気口は本体後部にある。試用中はタッチパッドの右がわずかに暖かくなるぐらいで、全体的に熱くはならなかった。ファンは甲高い音だが比較的静かで、負荷をかけても気になるような騒音を発することはなかった。

 液晶は1,920×1,080ドット(フルHD)表示対応。方式は特に謳われていないが、視野角が広く、色味も鮮やかで。青っぽすぎたり黄色っぽすぎたりすることもなく、見ていて気持ちいい。光沢タイプのため、指紋がつきやすいのは気になった。もっとも、そのためにクリーニンググロスが添付されている。

製品パッケージ。イーゼルヒンジデザインコンセプトが描かれている
パッケージの内容
天板。イーゼルヒンジがアクセントとなっている
本体左側面のインターフェイス。USB 3.0、HDMI、専用VGA出力、音声出力が見える
右側には電源ボタンやボリューム調節ボタンUSB 2.0、SDカードスロット、DCプラグが見える
本体背面に2つの排気口が見える
本体前面にLEDインジケータを装備
本体底面。非常にスッキリしている
付属のVGAアダプタとEthernetアダプタ
SDカードスロットはダミーカードで保護される

約4.2時間のバッテリ駆動が可能

付属のACアダプタ

 付属のACアダプタは19V/65Wタイプ。液晶は15.6型と大きいがGPU非搭載のためそれほど大容量にはなっておらず、よく見かける汎用の65W以上のACアダプタでもプラグ形状と電極さえ合えば利用可能だ。付属品は結構小さいが、残念ながらACケーブルがいわゆる3ピンの「ミッキータイプ」のため太く、持ち運びに適していない。

 バッテリは内蔵されており、取り外しは不可。BBenchでテストしたところ、約4.2時間の駆動が可能だった。モバイルノートと比較するとかなり短いが、15.6型としては長い部類。帰宅後1~2時間程度の使用では、2~3日は充電せずに利用できるだろう。15.6型の大型タブレットとしての利用は十分に「アリ」だ。

1世代前のIvy Bridgeプラットフォームとしては平均的な性能

 最後に性能を見るために、PCMark 7、ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3、およびSisoftware SandraによるCPU/GPUテストを行なった。比較としてレノボの低価格ノート「ThinkPad X121e」、ユニットコムのモバイルノート「LesanceNB S3112/T」、そしてデルのコンバーチブルUltrabook「XPS 12」の結果を加えてある。


Aspire R7LesanceNB S3112/TThinkPad X121eXPS 12
CPUCore i5-3337UCore i3-3217UE-450Core i5-3317U
メモリ8GB4GB8GB4GB
ストレージ500GB HDDHDD 500GBHDD 320GBSSD 128GB
OSWindows 8Windows 8Windows 8 ProWindows 8
PCMark 7
Score2826156710834699
Lightweight1325154711073060
Productivity83810166412183
Creative5753441919199102
Entertainment2686130710543359
Computation1595711544226716097
System storage1604137413045146
ファイナルファンタジーXIオフィシャルベンチマーク3
Low6169488835276162
High3775323123344182
Sisoftware Sandra
Dhrystone49.64GIPS35GIPS7.44GIPS47.67GIPS
Whetstone31.39GFLOPS22.68GFLOPS6.12GFLOPS30.33GFLOPS
Graphics Rendering Float141.14Mpixel/sec125.71Mpixel/sec6.9Mpixel/sec133.51Mpixel/sec
Graphics Rendering Double41.67Mpixel/sec36Mpixel/sec1.31Mpixel/sec38.74Mpixel/sec

 低価格のThinkPad X121e、およびLesanceNB S3112/Tと比較すると総合性能は一線を画しており、高いスコアを示した。PCMark 7では一部スコアがLesanceNBとの比較で負けているが、これは解像度による違いだろう。

 本機はHDD採用のため、ストレージ性能ではXPS 12のSSDに太刀打ちできない。それに引っ張られてPCMark 7で大差をつけられた格好だ。しかしながらSandraの結果からもわかるよう、CPU性能についてはクロックの差の分上回っており、基礎性能は高いと見ることができる。

 残念なのは、本機はHaswell発売後に発表されたモデルであるにもかかわらず、1世代前のIvy Bridgeを搭載している点だ。おそらくイーゼルヒンジを含む機構の開発に時間が掛かったためだと思われるが、より低消費電力/高性能を実現できるHaswellをこのタイミングで搭載できなかったのは、他社の同時期の製品と比べる際のビハインドになることは間違いないだろう。

メインストリームノートを切り開くフォームファクタ

 6月の製品発表記者会見で、日本エイサーは今年(2013年)を「本気の年」として位置づけていたが、正直、英語キーボードのシャーシ流用と、1世代前のCPUプラットフォームでは、到底本気を感じられない。イーゼルヒンジが使い勝手をよく考慮して完成された機構なだけに、惜しまれる。

 イーゼルヒンジは、14~15.6型のメインストリームノートPCで、Windows 8のタッチインターフェイスの使い勝手を良くする、よく考えられた非常に優れた機構だ。そういった意味でも、今後の後継機の展開にも期待したいところである。

(劉 尭)