~ソニー初のUltrabookの完成度は? |
昨年(2011年)秋以降、PC業界のトレンドの1つとして注目されている製品が、Ultrabookである。Ultrabookは、Intelがコンセプトを提唱した薄型ノートPCであり、昨年秋に第1世代の製品が登場した。第1世代Ultrabookを発売したメーカーは、海外メーカーが中心であったが、2012年夏モデルとして、早くも第2世代Ultrabookが登場。第2世代Ultrabookでは、富士通やソニー、NECなど、新たにUltrabook市場に参入する国内メーカーが増え、さらなる盛り上がりを見せている。
ここでは、ソニー初のUltrabook「VAIO T」シリーズを試用する機会を得たので、早速、レビューしていきたい。VAIO Tシリーズは、13.3型液晶モデルと11.6型液晶モデルの2つのラインナップがあり、それぞれスペックが固定されている店頭モデルとスペックのカスタマイズが可能なVAIOオーナーメードモデルが用意されている。
ソニーのVAIOシリーズといえば、マグネシウム合金をいち早く採用したVAIO 505をはじめ、最近ではVAIO ZやVAIO Sなど、モバイルノートPCの名機を多数輩出しているブランドであり、Ultrabookへの参入が望まれていた。VAIO Tシリーズは、ソニー初のUltrabookであり、その出来が気になるところだ。今回は、13.3型液晶搭載の店頭モデル「SVT13119FJS」と11.6型液晶搭載の店頭モデル「SVT11119FJS」を試用した。なお、今回試用したのは試作機であり、製品版とは細部や性能などが異なる可能性がある。
●メモリを8GBまで増設可能まずは、外観から見ていこう。VAIO Tシリーズは、天面にヘアライン加工が施されたアルミニウム合金が採用されており、高い質感を演出している。ボディカラーはシルバーのみで、VAIOオーナーメードモデルでも他の色の選択はできない。フルフラットで薄いボディも魅力である。ボディデザインは、13.3型液晶モデルも11.6型液晶モデルも基本的に同じで、側面が斜めに切り落とされており、シャープな印象を受ける。
13.3型液晶モデルのサイズは、323×226×17.8mm(幅×奥行き×高さ)で、11.6型液晶モデルのサイズは、297×214.5×17.8mm(幅×奥行き×高さ)となっている。重量は、13.3型液晶モデルが約1.6kg、11.6型液晶モデルが約1.42kgであり、Ultrabookとしてはやや重いのが残念だ。Ultrabookでは、バッテリの取り外しやメモリの増設などができない製品が多いが、VAIO Tシリーズは、バッテリとSO-DIMMスロットなどのカバーを取り外すことができるようになっていることが特筆できる。店頭モデルの標準搭載メモリは4GBだが、SO-DIMMスロットが1基空いており、最大8GBまで増設が可能だ。
VAIO T 13.3型モデルの背面。バッテリとその上のカバーを外したところ。Ultrabookとしては珍しく、HDDやSO-DIMMスロットにアクセスできるほか、バッテリも着脱できる | VAIO T 11.6型モデルの背面。バッテリは3本のネジで固定されている | VAIO T 11.6型モデルの背面。バッテリとその上のカバーを外したところ。内部の設計は13.3型モデルとほぼ共通だ |
試用機の13.3型モデルの重量は実測で1,535gと、公称より軽かった | 試用機の11.6型モデルの重量は実測で1,388gと、こちらも公称より軽かった |
●HDDと高速処理用SSDを搭載
それでは、PCとしての基本スペックを見ていこう。店頭販売されている13.3型液晶モデルと11.6型液晶モデルの基本的なハードウェアスペックは同一で、CPUとしてCore i5-3317U(1.7GHz)を搭載し、メモリは標準で4GB搭載する。Core i5-3317Uは、開発コードネームIvy Bridgeこと、第3世代Core iシリーズであり、第2世代Core iシリーズに比べて、内蔵GPU性能が大きく向上している。
ストレージとして、500GBのHDDとキャッシュ用の32GB SSDを搭載する。SSDは、HDDの高速化のために使われ、単体のドライブとして認識されているわけではない。Intelが開発した、SSDをキャッシュ的に用いてOSやアプリの起動などを高速化する技術を、Intel Smart Response Technology(Intel SRT)と呼ぶが、VAIO TシリーズもIntel SRTをサポートしている。
前述したように、Ultrabookの多くは、メモリスロットが用意されておらず、メモリが4GB固定となっているのだが、VAIO Tシリーズは8GBまで増設できることが魅力だ。最大メモリが4GBではちょっと不満があるとい人もいるだろうが、8GBに増設すれば、一般的な用途では十分であろう。第2世代Ultrabookとして、標準的なスペックを備えているといえる。
液晶は光沢タイプで、解像度は13.3型、11.6型ともに1,366×768ドットである。標準的な解像度ではあるが、1,600×900ドットや1,920×1,080ドットといった、より高解像度の液晶を搭載したUltrabookも登場しているので、13.3型液晶搭載のVAIOオーナーメードモデルでは、高解像度液晶の選択肢もほしかったところだ。また、11.6型液晶モデルの場合、いわゆる額縁部分が広めであり、外観的に少し古い印象を受ける。液晶上部には、約131万画素のWebカメラ「Exmor for PC」が搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる。
13.3型モデルの液晶。解像度は1,366×768ドット。光沢タイプの液晶で、表示品位は標準的だ | 11.6型モデルの液晶。解像度は13.3型モデルと同じ1,366×768ドット。こちらも光沢タイプの液晶だ |
11.6型液晶モデルは、液晶の周りの額縁部分がやや広い | 液晶上部には、約131万画素Webカメラ「Exmor for PC」が搭載されている |
●操作性に優れた大型タッチパッドを搭載
キーボードはアイソレーションタイプの全87キーで、配列は標準的だ。ただし、13.3型液晶モデルと11.6型液晶モデルでは、キーピッチやキートップのサイズは異なる。13.3型液晶モデルは、ボディのサイズに比較的余裕があるため、キーピッチは縦横とも約19mmで、右側のキーもピッチは変わらない。キートップのサイズは15×15mm(幅×奥行き)で、正方形である。
それに対し、11.6型液晶モデルは、キーピッチが横約18.43mm、縦約16mmで、横キーピッチは13.3型液晶とほとんど変わらないが、縦方向が3mm狭くなっており、上下がやや窮屈な印象を受ける。さらに、「\」キーや「ろ」キーなど、右側の一部のキーのピッチが狭くなっている。キートップのサイズは15×13mm(同)で、やや横長の長方形となっている。
また、13.3型液晶モデルは、カーソルキーが一段下がっているのに対し、11.6型液晶モデルでは、カーソルキーとスペースキーなどは横一列にそろっている。キーストロークは13.3型液晶モデル、11.6型液晶モデルともに約1.2mmであり、キータッチは良好だ。キーボードの右上には、ASSISTボタンやWEBボタン、VAIOボタンが用意されており、ワンタッチで各機能を呼び出すことが可能だ、
また、液晶を開くと、本体後部が持ち上がる設計になっており、キーボードに適度な傾斜がつき、タイピングがしやすくなる。
ポインティングデバイスとしては、タッチパッドを搭載。クリックボタンとパッドが一体化した、Ultrabookでは多いタイプのタッチパッドだが、パッドのサイズが99×56mm(同)と大きく、操作性は優秀だ。
13.3型液晶モデル(左)と11.6型液晶モデル(右)のキーボード比較。13.3型液晶モデルのキーボードは、カーソルキーが一段下に配置されている | キーボード右上には、ASSISTボタンやWEBボタン、VAIOボタンが用意されている | 液晶を開くと、後部がやや持ち上がり、キーボードに傾斜がつく |
13.3型液晶モデルのタッチパッド部。タッチパッドのサイズは、99×56mmと、かなり大きい。Ultrabookでは一般的な、パッドとクリックボタンが一体化したタイプだ | 11.6型液晶モデルのタッチパッド部。タッチパッドのサイズは、99×56mmで、13.3型液晶モデルと同じだ |
●有線LANやミニD-Sub15ピンを搭載するなど、インターフェイスは充実
インターフェイスとしては、USB 3.0とUSB 2.0、HDMI出力を備えるほか、有線LANとミニD-Sub15ピンも用意されている。有線LANやミニD-Sub15ピンは、コネクタの厚みが大きく、薄さを重視するUltrabookでは省略されていることが多い。しかし、オフィスで使う場合など、有線LANへの接続が必要になることも多く、標準で有線LANをサポートしているVAIO Tシリーズは便利。ミニD-Sub15ピンの搭載も、プロジェクターに接続してプレゼンを行なう場合などに有利だ。
メモリカードスロットは、SDカードとメモリースティックデュオに対応している。VAIO Tシリーズは、有線LANとミニD-Sub15ピンを搭載しているため、家庭で使うことはもちろん、オフィスなどで業務で使うにも向いているといえる。
ワイヤレス機能としては、IEEE 802.11b/g/n対応無線LAN機能とBluetooth 4.0+HSをサポートしており、WiMAXには非対応である。
13.3型液晶モデルの左側面。USB 2.0とUSB 3.0が用意されている | 13.3型液晶モデルと11.6型液晶モデルの左側面。コネクタの配置も同じだ |
13.3型液晶モデルの右側面。メモリカードスロットとHDMI出力、ミニD-Sub15ピン、有線LANが用意されている | 13.3型液晶モデルと11.6型液晶モデルの右側面 |
●バッテリ駆動時間は実測で約6時間
Ultrabookは、バッテリが着脱できない設計になっているものが多いが、VAIO Tシリーズでは、バッテリが着脱できるようになっている。ただし、オプションとして、バッテリが単体販売されているわけではないので、現時点ではユーザーによるバッテリの交換はできないと考えたほうがよい。バッテリは、11.1V/4,500mAhという仕様で、公称バッテリ駆動時間は約6.5時間である(13.3型液晶モデルも11.6型液晶モデルも同じ)。
実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、13.3型液晶モデルは6時間14分、11.6型液晶モデルは5時間59分であった(電源プランは「バランス」、液晶輝度は「中」)。第2世代Ultrabookでは、8~9時間程度のバッテリ駆動時間を実現した製品も登場しているが、実使用に近い環境で約6時間持てば、一応合格といえる。ACアダプタのサイズ、重量はUltrabookとしては標準的である。
VAIO Tシリーズのバッテリ。バッテリは13.3型液晶モデルも11.6型液晶モデルも共通である。バッテリと背面カバーが一体化することで、薄型化を実現 | バッテリの裏面。中央部が薄くなっている |
バッテリは、11.1V/4,050mAhという仕様である | バッテリとCDケース(右)のサイズ比較 |
VAIO TシリーズのACアダプタ。13.3型液晶モデルも11.6型液晶モデルも同じACアダプタである | CDケース(左)とACアダプタのサイズ比較 | ACアダプタの重量は、ケーブル込みで204gであった |
●HDD+SSDで快適な動作を実現
参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「PCMark Vantage」、「PCMark 7」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」だ。
比較用として、富士通「LIFEBOOK UH75/H」、日本HP「HP ENVY14-3000 SPECTRE」、日本エイサー「Aspire S3-951-F34C」、NEC「LaVie L LL750/HS」の値も掲載した。LIFEBOOK UH75/Hは、VAIO Tシリーズと同じCore i5-3317Uを搭載する第2世代Ultrabookであり、HP ENVY14-3000 SPECTREとAspire S3-951-F34Cは、第2世代の超低電圧版Core iを搭載するUltrabookで、LaVie L LL750/HSは第3世代の通常電圧版Core iを搭載するA4サイズノートPCだ。
【表】VAIO Tシリーズベンチマーク結果VAIO T SVT13119FJS | VAIO T SVT11119FJS | LIFEBOOK UH75/H | HP ENVY14-3000 SPECTRE | Aspire S3-951-F34C | LaVie L LL750/HS | |
CPU | Core i5-3317U(1.70GHz) | Core i5-3317U (1.70GHz) | Core i5-3317U (1.70GHz) | Core i7-2677M (1.80GHz) | Core i3-2367M (1.40GHz) | Core i7-3610QM (2.30GHz) |
ビデオチップ | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 4000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 3000 | Intel HD Graphics 4000 |
PCMark05 | ||||||
PCMarks | N/A | N/A | 6993 | N/A | N/A | N/A |
CPU Score | 7937 | 7817 | 7658 | 8032 | 4146 | 11541 |
Memory Score | 5940 | 5958 | 6463 | 5761 | 3748 | 9076 |
Graphics Score | 4007 | 4015 | 4807 | 4134 | 3147 | 7112 |
HDD Score | 12710 | 13470 | 12899 | 31003 | 4902 | 5910 |
PCMark Vantage 64bit | ||||||
PCMark Score | 8270 | 8058 | 9300 | 10428 | 3895 | 8953 |
Memories Score | 5156 | 5014 | 6776 | 5722 | 2625 | 5432 |
TV and Movie Score | 3844 | 3806 | 4300 | 4355 | 2804 | 6275 |
Gaming Score | 6975 | 6508 | 7224 | 7614 | 3086 | 7028 |
Music Score | 10643 | 9255 | 10739 | 12181 | 3980 | 7884 |
Communications Score | 9643 | 9135 | 9438 | 11523 | 3536 | 11311 |
Productivity Score | 10298 | 9567 | 9147 | 11867 | 3153 | 5434 |
HDD Score | 18159 | 14806 | 21564 | 23829 | 3234 | 4190 |
PCMark Vantage 32bit | ||||||
PCMark Score | 7961 | 7466 | 8811 | 9625 | 3687 | 8531 |
Memories Score | 4954 | 4681 | 6773 | 5404 | 2516 | 5199 |
TV and Movie Score | 3776 | 3373 | 4328 | 4348 | 2784 | 6201 |
Gaming Score | 6341 | 6178 | 6041 | 6240 | 2658 | 6412 |
Music Score | 9305 | 9290 | 9775 | 11849 | 3736 | 7345 |
Communications Score | 9173 | 8898 | 9452 | 10924 | 3421 | 11126 |
Productivity Score | 9887 | 8759 | 8295 | 10684 | 2898 | 5057 |
HDD Score | 18091 | 14556 | 22010 | 23897 | 3317 | 4178 |
PCMark 7 | ||||||
PCMark score | 3294 | 3246 | 3119 | 3431 | 1552 | 2876 |
Lightweight score | 3193 | 3125 | 2061 | 3560 | 1261 | 2013 |
Productivity score | 2963 | 2889 | 1672 | 2878 | 813 | 1633 |
Creativity score | 5095 | 5105 | 5912 | 6276 | 3156 | 4843 |
Entertainment score | 2698 | 2617 | 3020 | 2500 | 1650 | 3043 |
Computation score | 8866 | 8893 | 15749 | 8773 | 6088 | 12435 |
System storage score | 3944 | 3946 | 2018 | 4310 | 1377 | 1528 |
3DMark03(1,024×768ドット32ビットカラー) | ||||||
3DMarks | 7929 | 7851 | 9565 | 7834 | 6983 | 14651 |
CPU Score | 1468 | 1475 | 1544 | 1600 | 872 | 2290 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||||||
HIGH | 3699 | 3663 | 3685 | 3910 | 2624 | 5704 |
LOW | 5685 | 5639 | 5688 | 6378 | 4094 | 7609 |
CPUの基本的な処理能力を計測するPCMark05のCPU Scoreは、13.3型液晶モデルが7937、11.6型液晶モデルが7817であり、同じCPUを搭載するLIFEBOOK UH75/Hに比べてやや高くなっている。ただし、描画性能を計測するGraphics Scoreは、13.3型液晶モデルが4007、11.6型液晶モデルが4015であり、LIFEBOOK UH75/Hのほうが2割ほど高い。ストレージ性能を計測するHDD Scoreは、13.3型液晶モデルが12710、11.6型液晶モデルが13470であり、同じHDDとSSDのハイブリッド構成を採用したLIFEBOOK UH75/Hとほぼ同等のスコアとなっており、純粋なSSDを搭載したHP ENVY14-3000 SPECTREには及ばないが、HDD搭載のAspire S3-951-F34CやLaVie L LL750/HSの2倍以上である。アプリケーションの起動なども高速であり、Intel SRTの効果は十分出ているといえる。
また、高速復帰機能「Rapid Wake + Eco」機能を搭載していることも特徴だ。Rapid Wake+Ecoは、ハイブリッドスリープと似た動作をするが、ハイブリッドスリープではスリープから一定時間後、作業状態をストレージに書き込むが、Rapid Wake+Ecoでは、スリープに移行する際に必ず作業状態をストレージに書き込むため、例えば、スリープ中にバッテリを間違えて外してしまったりしても、作業状態が消えてしまうことはなく、より安心して利用できる。復帰時は、通常のスリープからの復帰と同じく2秒かからずに復帰する(メモリの内容が消えていない場合)。
●Ultrabookとしては過不足のない製品VAIO Tシリーズは、第2世代Ultrabookとして標準的なスペックを備えた製品であり、質感やデザインも悪くない。全体的な作りや使い勝手も良好であり、有線LANやミニD-Sub15ピンを搭載しているほか、Microsoft Office Home and Business 2010もプリインストールされているので、ビジネスユーザーにもおすすめだ。
しかし、ソニーが初めて投入するUltrabookということで、筆者はかなり期待していたのだが、そういう意味ではあまりVAIOらしさが感じられなかったのが残念だ。特にNECの「LaVie Z」が発表された今となっては、もう少し尖った、ソニーならではのマシンを出してほしかったと感じる。来年登場予定のHaswellベースのUltrabookではボディも大きく変わることが予想されるので、今後に期待したい。
(2012年 7月 27日)
[Text by 石井 英男]