日本エイサー「Aspire S3-951-F34C」
~8万円を切る価格のUltrabook



Aspire S3

発売中
価格:オープンプライス



 日本エイサーから登場した「Aspire S3シリーズ」は、同社初のUltrabookである。Ultrabookは、Intelが新たに提唱した薄型軽量ノートPCのフォームファクターであり、2011年の年末商戦に向けて各社から第1弾の製品が発表され、話題となっている。従来のノートPCよりも薄くて軽いことが魅力で、厚さは21mm以下と規定されている。

 Aspire S3シリーズには、搭載CPUやストレージが異なる2つのモデルが用意されているが、ここでは、下位モデルの「Aspire S3-951-F34C」を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。このモデルに関しては現在発売中で、実売価格は65,000円~82,000円前後だ。

●最厚部17.5mmのスリムボディ

 Aspire S3のボディの材質は、アルミニウム合金とマグネシウム合金であり、天板はヘアライン加工されており、質感も高い。本体サイズは、323×218.5×13.1~17.5mm(幅×奥行き×高さ)で、下位モデルのAspire S3-951-F34Cの重量は約1.35kgである(SSD搭載の上位モデルの重量は約1.33kg)。13.3型液晶搭載のUltrabookとしては、サイズ、重量ともに標準的だが、従来は厚さ30mm程度のノートPCでも、スリムノートなどと呼ばれていたことを考えると、やはりUltrabookの薄さは際立っている。背面もフラットで、カバンなどへの出し入れもスムーズだ。

Aspire S3の上面。天板はアルミニウム合金製で、ヘアライン加工が施されている「DOS/V POWER REPORT」誌とAspire S3とのサイズ比較。Aspire S3の方が奥行きで9.5mm、横幅で46mmほど大きいAspire S3の背面。背面もフラットだが、奥の左側だけ材質が異なっている

●超低電圧版Core i3とHDDを搭載し、低価格を実現

 Aspire S3-951-F34Cは、CPUとして超低電圧版のCore i3-2367M(1.40GHz)を搭載する。現行のUltrabookは、基本的に超低電圧版Core iシリーズを搭載しているが、Core i3-2367Mは、その中では下位に位置する。

 ちなみに、Aspire S3シリーズの上位モデルであるAspire S3-951-F74Uは、CPUとしてCore i7-2637M(1.70GHz)を搭載する。Core i3は、Core i5やCore i7に搭載されているTurbo Boostテクノロジーをサポートしておらず、動作クロックが負荷に応じて向上することはない。しかし、Hyper-Threadingテクノロジーは搭載しており、最大4スレッドの同時実行が可能であり、HD動画のエンコードなど、特にCPUに負荷が高い作業をさせる場合を除けば、Core i5やCore i7との体感的な性能差はそれほど大きくはない。

 メモリは4GBで増設はできないが、このあたりも現在発表されている第1世代のUltrabookでは、基本的に横並びの仕様である。ストレージとしては、320GBのHDDを搭載していることが特徴だ。

 他社のUltrabook(Aspire S3の上位モデルも含む)は、性能を重視してSSDを搭載した製品がほとんどだが、Aspire S3-951-F34Cは、容量と価格を重視してHDDを搭載している。そのため、SSD搭載モデルに比べると、アプリケーションの起動などの操作感はやや重いが、一般的なHDD搭載モバイルノートPCと比べると遜色はなく、十分に実用的なパフォーマンスだ。Ultrabookの中には、64GBや128GBのSSDを搭載している製品もあるが、画像や動画などのファイルサイズの大きなデータを多数保存するには容量が足りなくなりがちだ。容量重視の人には、HDDを搭載した本製品が向いている。

 液晶は13.3型で、解像度は1,366×768ドットである。液晶のサイズと解像度についても、Ultrabookとしては標準的な仕様である。光沢タイプの液晶で、輝度はかなり高いが、外光の映り込みがやや気になることがある。液晶上部には、130万画素Webカメラが搭載されており、ビデオチャットなどに利用できる。

 キーボードはアイソレーションタイプの全88キーを採用している。中央部のキーピッチは約19mmで、キーストロークもUltrabookの中では深いほうで、キータッチは良好だ。ただし、右側の「む」キーとEnterキーや、「ろ」キーと右シフトキーなどの間隔が非常に狭く、ほとんどくっついてしまっていることが気になった。また、「\」キーやカーソルキーもかなり小さく、右側は全体的に窮屈な印象を受ける。

 ポインティングデバイスとしては、タッチパッドを搭載する。MacBook Airなどと同じく、パッドとボタンが一体化したタイプで、見た目がすっきりしていて美しいが、個人的には、従来のようなパッドとボタンが分かれたタイプの方が使いやすいと感じた。クリック時にパッドの下側(通常ならクリックボタンがある位置)を押そうとせずに、そのままの場所でパッドをタップするようにした方が操作しやすい。このあたりは個人差や慣れの問題もありそうなので、実際に店頭で実機を触って確認することをお勧めする。

液晶は13.3型で、解像度は1,366×768ドット。光沢タイプの液晶で、輝度は高いが、外光はやや映り込みやすい液晶上部に130万画素Webカメラを搭載している
キーボードはアイソレーションタイプの全88キーを採用。キーピッチは約19mmで、ストロークも十分ある配列は標準的だが、「む」キーとEnterキーの間や、「ろ」キーと右シフトキーの間がくっついているなど、右側が窮屈な印象を受ける。また、カーソルキーが小さいのも気になるポインティングデバイスとして、タッチパッドを採用。MacBook Airなどと同じく、パッドとボタンが一体化しているタイプだ

●必要最低限のインターフェイスを搭載

 インターフェイスとしては、USB 2.0×2とHDMI出力、マイク/ヘッドフォン端子、SDメモリーカードスロットを備えている。インターフェイスは必要最低限ともいえ、USB 3.0をサポートしていないのは残念だ。また、SDメモリーカードスロットにSDメモリーカードを挿入しても、カードの半分くらいが本体からはみ出してしまうことも気になった。SDメモリーカードを本体に挿したまま持ち歩くのはやめた方がいいだろう。

 サウンドにもこだわっており、背面手前側にステレオスピーカーが搭載されているほか、ドルビーホームシアターV4に対応する。他のUltrabookと同様、バッテリの着脱はできない仕様になっており、公称バッテリ駆動時間は約6時間(SSD搭載の上位モデルは約7時間)である。実際に、バッテリベンチマークソフトの「BBench」(海人氏作)を利用し、1分ごとに無線LAN経由でのWebアクセス、10秒ごとにキー入力を行なう設定でバッテリ駆動時間を計測したところ、5時間5分という結果になった。無線LAN常時オンで5時間持てば、及第点をつけられる。ACアダプタのサイズはこのクラスのマシンとしては標準的だが、ACプラグが3ピンのミッキータイプとなっている。

左側面には、マイク/ヘッドフォン端子が用意されている右側面には、SDメモリーカードスロットが用意されている後面には、USB 2.0×2とHDMI出力が用意されている
後面のインターフェイス部分のアップSDメモリーカードスロットのフタはダミーカード方式なので、紛失する恐れがあるSDメモリーカードをスロットに挿入した状態。半分くらいはみ出してしまう
背面手前左右にステレオスピーカーを搭載している高音質化技術の「ドルビーホームシアターV4」に対応ACアダプタのサイズはこのクラスのマシンとしては標準的だが、ACプラグが3ピンのミッキータイプとなっている

●フラッシュメモリ搭載で休止状態から高速に復帰

 Aspire S3シリーズには、「Acer Instant On」と「Acer Instant Connect」と呼ばれる独自機能が搭載されている。Acer Instant Onは、スリープや休止状態から高速に復帰する機能であり、スリープからなら最短約1.5秒、休止状態からでも最短約6秒で復帰することが可能だという。一般的なHDD搭載ノートPCでは、スリープからの復帰に2秒、休止状態からの復帰は25秒かかるとされており、特に休止状態からの復帰が速い。その秘密は、メインメモリの情報を保持する専用フラッシュメモリを搭載しているからだ。

スリープから休止状態(ディープスリープ)状態に移行するまでの時間を120分と480分から選択できる

 実際に復帰時間を計測したところ、スリープからは約1.5秒、休止状態からは約7.5秒で復帰した。また、スリープ状態で一定時間が経過すると自動的に休止状態に移行し、バッテリの消耗を抑える仕組みになっているが、その移行時間は専用ユーティリティによって、120分と480分から選択できる。休止状態での消費電力は非常に小さく、約50日間もバッテリが持つ。数十分から数時間の中断なら、ほぼ一瞬で元の状態に復帰でき、数日おいても10秒未満で元の状態に戻って続きをできるのは便利だ。

 Acer Instant Connectは、スリープや休止状態からの復帰時に、無線LANアクセスポイントに素早く再接続する機能だ。通常は、付近にあるすべてのアクセスポイントをスキャンしてから再接続を行なうが、Acer Instant Connectでは、以前接続していたアクセスポイントを記憶しておき、復帰後そのアクセスポイントが見つかった時点で即接続するため、接続までの時間が約2.5秒(通常は約10秒かかる)に短縮される。


●CULVノートやAMD A6-3400M搭載ノートを上回る性能を実現

 参考のためにベンチマークテストを行なってみた。利用したベンチマークプログラムは「PCMark05」、「PCMark Vantage」、「PCMark 7」、「3DMark03」、「FINAL FANTASY XI Official Benchmark」、「ストリーム出力テスト for 地デジ」、「CrystalDiskMark」で、比較用としてソニー「VAIO Y(YA)」、ASUSTeK Computer「K53TA」、レノボ・ジャパン「IdeaPad Y570」、NEC「LaVie S LS550/ES」の値も掲載した。

【表】ベンチマーク結果

Aspires S3-951-F34CVAIO Y(YA)K53TAIdeaPad Y570LaVie S LS550/ES
CPUCore i3-2367M
(1.40GHz)
Core i3-380UM
(1.33GHz)
AMD A6-3400M
(1.4GHz)
Core i7-2630QM
(2.0GHz)
Core i5-2410M
(2.30GHz)
ビデオチップIntel HD Graphics 3000Intel HD GraphicsRadeon HD 6720G2GeForce GT 555MIntel HD Graphics 3000
PCMark05
PCMarksN/AN/AN/AN/AN/A
CPU Score41463586461292687709
Memory Score37483465339489648588
Graphics Score31471572414281574580
HDD Score490252514627176445616
PCMark Vantage 64bit
PCMark Score38953219359198865736
Memories Score26252045278953374088
TV and Movie Score28042331268454954271
Gaming Score308620933733101144409
Music Score398035293585104636394
Communications Score35362829343581296305
Productivity Score31532907204181253117
HDD Score32343063263599643669
PCMark Vantage 32bit
PCMark Score3687未計測322692845317
Memories Score2516未計測263051863902
TV and Movie Score2784未計測261954424297
Gaming Score2658未計測309989584121
Music Score3736未計測330495455884
Communications Score3421未計測304774696218
Productivity Score2898未計測169374272901
HDD Score3317未計測262799483662
PCMark 7
PCMark score1552未計測1367未計測未計測
Lightweight score1261未計測1207未計測未計測
Productivity score813未計測832未計測未計測
Creativity score3156未計測1692未計測未計測
Entertainment score1650未計測1450未計測未計測
Computation score6088未計測1532未計測未計測
System storage score1377未計測1433未計測未計測
3DMark03
1024×768ドット32ビットカラー(3Dmarks)6983280213839235719325
CPU Score872613101019881533
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3
HIGH26241317368377063586
LOW40941910550187915273
ストリーム出力テスト for 地デジ
DP99.9777.780.2799.97100
HP10099.9710099.97100
SP/LP99.9710010010099.97
LLP100100100100100
DP(CPU負荷)282935814
HP(CPU負荷)14132288
SP/LP(CPU負荷)981675
LLP(CPU負荷)961364
CrystalDiskMark 2.2
シーケンシャルリード80.34MB/sec88.75MB/sec72.09MB/sec90.73MB/sec88.69MB/sec
シーケンシャルライト78.84MB/sec87.92MB/sec67.78MB/sec86.12MB/sec89.30MB/sec
512Kランダムリード34.09MB/sec35.09MB/sec27.48MB/sec36.70MB/sec35.77MB/sec
512Kランダムライト28.75MB/sec43.82MB/sec32.52MB/sec49.21MB/sec55.99MB/sec
4Kランダムリード0.448MB/sec0.443MB/sec0.360MB/sec0.504MB/sec0.456MB/sec
4Kランダムライト1.027MB/sec1.500MB/sec1.048MB/sec1.320MB/sec0.847MB/sec
BBench
Sバッテリ(標準バッテリ)5時間5分5時間14分5時間11分5時間34分2時間10分
Lバッテリなし未計測なしなしなし

 Aspire S3-951-F34Cは、超低電圧版のCore i3を搭載しているため、さすがに通常電圧版のCore i5やCore i7を搭載したスタンダードノートPCに比べるとCPU Scoreなどは低いが、超低電圧版CPUを搭載したCULVノートや、AMD A6-3400Mを搭載したノートPCとは互角以上の性能である。インターネットの利用や文書作成といった一般的な作業には十分なパフォーマンスを持っているといえる。

●コストパフォーマンスの高さが魅力

 Aspire S3-951-F34Cは、Core i3とHDDを搭載することで、他のUltrabookよりも安い価格を実現しており、安いところでは6万円台で売られているところもある。Acer Instant OnとAcer Instant Connectにより、スリープや休止状態からでも素早く復帰し、無線LANへの再接続が可能なので、モバイル利用時の使い勝手も優れている。キー配置にはやや不満があるものの、総合的にはよくまとまっており、薄くて軽いモバイルノートが欲しいが、あまり予算はかけられないという人にお勧めしたい。

バックナンバー

(2011年 11月 24日)

[Text by 石井 英男]