■元麻布春男の週刊PCホットライン■
2010年もいよいよ終わりに近づき、今年のヒット商品を振り返るヒット商品番付が発表される季節となった。三井住友銀行グループのSMBCコンサルティングが発表した2010年のヒット商品番付では、東西ともに横綱が不在で、大関がスマートフォンと食べるラー油になっている。選評として、「話題は大きくヒットは小粒」とされているが、確かに大ヒット商品には乏しかった印象だ。
この番付では2011年の注目商品として、iPad、EV(電気自動車)、つや姫(山形県が開発した新品種の米)、GOPAN(人気のあまり予約の受付を中止した、米粒からパンを作る製パン機)にならんで3D市場が挙げられている。実は3Dについては、2010年のヒット商品番付でも前頭3枚目に3D映画が上げられており、2011年には2010年にヒットした3D映画がパッケージ化される、という期待値が込められているようだ。
だがしかし、果たしてそううまく行くのだろうか。2010年の3D映画ブームは、アバターで大盛り上がりし、アリス・イン・ワンダーランド、タイタンの戦いまでは比較的しっかりとした足取りだったが、その後がどうも怪しい。トイストーリー3は好調だったとはいえ、3Dでなくても楽しめる内容だった。そして、この4本以外の3Dタイトルをすらすらと言える人は、よぼどの3D映画マニアではないのかと思う。上のランキングにしても、今年の半ばで選んでいれば、3D映画はもっと上位にきただろう。ハリウッドが3D映画に投資しているとはいえ、製作には時間がかかる。次にアバター並みのヒット作が登場するのが何時になるのか、そしてそれがブーム以上のものを作り出せるほど連続するのかは、今のところ何とも言えない。
ただ、だから3Dはダメなのではなく、いつか映像コンテンツを見るオプションの1つとなるだろう。現在主流の2D映像のように、すべてが3D化することは、メガネ装着の有無にかかわらずないかもしれないが、3Dが特別なものでなくなる日はいずれくる。上述したようにハリウッドは多額の投資を3D映画に投入しているし、それを見るための環境、特に消費者が自宅で見るための装置のコストはどんどん安くなっていくと考えられるからだ。
●主流のない立体視方式
現在、一般消費者が3Dコンテンツを見るために使われている技術の主流は、フレームシーケンシャルと呼ばれる、左目用の画と右目用の画を交互に表示し、メガネに内蔵した液晶シャッターで該当しない側の目をマスクすることで3D効果を得る方式だ。家電メーカーが販売する大型液晶TVのほぼすべて、そしてPC用の3D立体視技術の1つであるNVIDIAの3D Visionが採用しているのが、このフレームシーケンシャル方式である。
フレームシーケンシャル方式の特徴は、左目と右目のクロストークが小さいことだ。したがって3D効果が確実で、立体視を得やすい。フレームレートが半分になってしまう問題に関しては、元のフレームレートをあらかじめ引き上げておく(TVでは240Hz、PCでも120Hz)ことで解決している。
問題は、この方式がコスト的に割高であることだ。液晶シャッター付きのメガネはコスト的に高価である上、画面表示と同期させるために、赤外線のトランスミッター等が必要になる。アクティブ方式のメガネは高価なだけでなく、重いという欠点や充電のわずらわしさも指摘される。ディスプレイについても、元のフレームレートを2倍(あるいは4倍)に引き上げておかねばならないため、通常のものより高価になる。PC用の液晶ディスプレイの場合、120Hzのリフレッシュレートは3D立体視以外にはほぼ用途がない上、今のところどうしても方式がTNに限られる。
こうした問題点と、コンテンツの少なさを考え合わせると、現時点で3D立体視技術の導入に慎重になるユーザーが多いのも不思議ではない。3D立体視にはちょっと興味があるけれど、それに何万円も追加コストを払うのは、と考えるユーザーは少なくないハズだ。
そう考える人にとって検討する価値があるもう1つの立体視技術が、偏光フィルムによる3D立体視である。原理的にはディスプレイに貼る偏光フィルムと、対応した偏光メガネを組み合わせて立体視するもので、パッシブ方式である(アクティブ素子を必要としない)ため、コストが低い。この方式には、解像度が半分になるという欠点があるが、メガネが軽いというメリットもある。
とはいえ、偏光フィルムによる3D立体視というと、クロストークが大きく3D効果が得られにくいとか、3D効果を得られるスイートスポットが狭くて、視聴中に頭を動かすことができない、といったネガティブイメージがつきまとう。実際、筆者も偏光フィルム方式はお手軽だけれど、効果の点では見劣りすると考えていた。
●よく調整された偏光3Dノート
富士通「LIFEBOOK AH570/5BM」 |
そんな偏見を改める機会となったのが、富士通の「LIFEBOOK AH570/5BM」だ。15.6型(1,366×768ドット)液晶を搭載したCore i5-560MベースのノートPCで、シングルチューナではあるものの三波チューナ内蔵で、Blu-rayドライブも標準装備する。デジタル放送の10倍録画やケータイ書き出しにも対応する。さらに人感センサー対応WebカメラにWebカメラによるジェスチャーコントロール機能など、全部入りというより、何でも入りと呼んだ方が良いようなノートPCである。これに3D立体視が加わって、価格は17万円~18万円(Microsoft Office 2010込み)という店頭価格だが、直販サイトにいけばOfficeなしで12万円前後で入手可能とリーズナブルだ。
このAH570/5BMに使われている3D立体視技術が偏光フィルム方式なのだが、これがなかなか侮れない。というより、偏光フィルムでもこれだけちゃんと3D効果が得られるのか、とこの方式を見直すきっかけになったほどだ。この偏光フィルム方式による3D立体視は、同社製デスクトップPCの夏モデルにも採用されていた。以前にそちらを見たときは、正直、上に述べた偏光フィルムのマイナス面を強く感じ、まぁフレームシーケンシャルより安いから仕方がないか、と思ったものである。
ところが、AH570/5BMでは、メガネをかけた瞬間、格段に高い3D効果を体感できた。解像度を考えればフレームシーケンシャルと同等とはいかないかもしれないが、3D効果そのものについては、ほとんど見劣りしない。ウィンドウ表示でも、3D効果が得られるといった、偏光フィルム方式ならではの利用も可能だ。わずか半年ほどで、これだけ進化するのかと感じずにはいられなかった。
天板は光沢仕上げ | 右側面。光学ドライブやUSB 2.0などが並ぶ | 左側面。Gigabit EthernetやミニD-Sub15ピン、HDMI、USB 3.0など |
本体前面にマルチカードリーダを搭載 | キーボードの配列 | TVチューナ付きのため、リモコンが付属する |
偏光式ディスプレイではメガネをかけることで3D立体視ができる |
ディスプレイに偏光フィルムを貼ることで、通常の利用、あるいは3DではないBlu-rayやDVDの視聴に何か影響があるのではないかと心配する人がいるかもしれないが、そうした副作用はほとんど感じられない。確かに3Dメガネをかけると、3Dコンテンツ以外の文字等は見にくくなる。ただ、これが不便なのは、Blu-ray 3D対応プレーヤーの設定をする時などで、メガネを外してしまえば済む話だ。
もちろん、コンテンツが質量ともに不足しているという課題は、そう簡単に解消するものではない。期待のBlu-ray 3Dのタイトルはなかなか充実してこないし、それ以外のフォーマットでは標準さえ確立していないのが現状だ。今のところ、YouTubeではアナグリフ(赤青メガネ)が最も広く使われているようだが、TVではサイドバイサイド方式が主流となっている。民生用のビデオカメラ、Blu-ray 3D以外で3Dコンテンツに対応したタイトルもサイドバイサイドが主流のようだ。だが、動画配信でどの方式が主流になるかなど、まだ手つかずの分野も少なくない。
本機にしても、3D放送やBlu-ray 3Dには対応しているものの、富士フィルムの3D方式には対応していない。一部のBlu-rayタイトルに収録されているサイドバイサイド方式のコンテンツの再生にも対応していないなど、惜しい部分も目立つ。ソフトウェアを追加することで、どんなフォーマットにも対応できるのがPCの良さであり、本機が対応していないフォーマットにもサードパーティ製のソフトウェアを追加することで対応可能だが、それらが追加出費に見合うものになるのかどうか、判断が難しいのが現状だ。それだけに、バンドルソフトの充実が望まれるところである。三波チューナー入りのノートPCを購入する予定があり、3D立体視にもちょっと興味があるというユーザーは、店頭で実売価格とともに、自分の目でその効果を確認すると良いだろう。付属の3Dコンテンツ「飛び出す熱帯魚!」 | PowerDVDのBlu-ray 3Dの設定画面 |