元麻布春男の週刊PCホットライン

8時間駆動が魅力なWiMAXルーター「AtermWM3500R」



 2008年はSSDとネットブックの年だった。2009年はSnow LeopardとWindows 7がリリースされたOSの年だった。では2010年はというと、なかなか難しい。以前取り上げたSMBCコンサルティングによる2010年のヒット番付でも、東西の横綱不在という有様で、スマートフォンが最上位の大関にランクされている程度だ。

 本当のヒット(商品とは言えないが)は、エコカー補助金とエコポイントで、かつて世界を席巻した日本の自動車と家電業界が、今や税金による優遇策なしには立ちゆかない状態になってしまったのかと暗い気分になった。かつての大蔵省護送船団を持ち出すまでもなく、国際競争力の低い業界ほど国による保護を求め、国による保護がさらに業界の競争力をそぐ。再販価格維持制度に守られた業界など、国際競争力を持ったことは1度もないのではないか、とも思う。

 そんな暗い2010年にあって、着実な進歩を感じたものの1つがWiMAXだ。2009年2月に試用サービスを開始した時点では、カバーエリアが不十分で、多くのユーザーからつながらない、接続が不安定だという苦情が寄せられた。実際、筆者の自宅も2009年2月時点では、あえなく圏外であった。

 しかし、その後もキャリアであるUQコミュニケーションズは基地局の整備を進め、全国の都道府県庁所在地をほぼ網羅するようになった。筆者の自宅は、2009年6月時点で近所に基地局が整備され、今ではコンスタントに10Mbpsを軽く超える通信速度を得られるようになっている。都内を持ち歩いていても、地表面(地下と高層ビルの上層階を除く)はほぼカバーされている感覚だ。先日、パソコンファームの取材で埼玉県三郷市に出かけたが、そこでもWiMAXは利用可能だった。

 こうした基地局の整備と並行して、機器(端末)の拡充も進んでいる。サービスイン直後は、WiMAX端末といえばUSBの外付けアダプタがメインだったが、今では最初からWiMAX対応の通信モジュールを内蔵するPCが増えてきている。特に2010年は、それがネットブックのような低価格帯にも波及した印象がある。

 WiMAXのPC内蔵化とともに、大きな人気となっているのがバッテリ駆動可能なルーター、いわゆるモバイルルーターだ。最も普及している2.4GHz帯の無線LANによるインターネットアクセスの共有を実現するモバイルルーターは、イーモバイルなど3G系のサービスを追いかけるように、WiMAXに対応した製品が登場し、好評を博している。UQも、WiMAXに対応したルーター(モバイルとは限らない)に、WiMAX Speed Wi-Fiという共通ブランドを冠し、キャンペーン等を展開中だ。

 内蔵モジュールやアダプタではなく、モバイルルーターを用いる利点は、WiMAXの1回線(1契約)を複数のデバイスで共有できるだけでなく、無線LAN以外のネットワークアクセスを持っていないデバイスが、たちまちモバイル通信デバイスとなる点にある。あえて3G通信機能を持たない、Wi-Fi版のiPadやiPod touchを購入し、モバイルルーターと一緒に持ち歩いているユーザーも少なくないハズだ。というか、筆者もその1人である。

 機器から通信機能を分離することのもう1つの利点は、通信機能とデータを完全に分離できる、ということだ。今年話題になったことの1つに、スマートフォンによるテザリングの可否があるが、スマートフォンでテザリングする場合、通信機能を家族に貸すということは難しい(メール等を全部家族に見られて構わない、というのであれば話は別だが)。モバイルルーターであれば、自分が使わない時は家族に持たせる、といったことが簡単にできる。学生さんやお小遣いの厳しいお父さんは、家族みんなで使えるから、ということで導入を目指すのもアリかもしれない。目指せ一家に1台モバイルルーターである。

●最新のAtermWM3500R
購入したAtermWM3500R

 そのモバイルルーターの中で、WiMAXに対応した最新モデルが、NECアクセステクニカの「AtermWM3500R」だ。前作、WM3300Rより小型化すると同時に、2.5時間だったバッテリ駆動時間を8時間に延ばすことに成功している。筆者も早速、オプションのクレードルと合わせて1台購入してみた。

 すでに店頭では、MVNOとの契約などを前提に、割安での販売が開始されている。が、筆者はThinkPadの内蔵WiMAXでの契約に追加する形での導入を考えたため、こうした割引を利用せず、19,800円での購入となった(WM3500R自体はオープンプライスの製品である)。追加の機器1台につき200円/月で既存の契約にWiMAX機器を追加していける(最大で計3台まで)のはUQ WiMAXの良いところだが、端末の割引販売を受けられないのは悔しくもある。

 さて、購入したAtermWM3500Rだが、NECアクセステクニカの前作、WM3300Rに比べればはるかに小さい。手元にあるNovatel WirelessのMiFi(Virgin Mobile向け、米国滞在中に利用する)に比べるとかなり大きいが、バッテリ駆動時間も通信速度も違うから文句は言えない。本体色は3色用意されているが、筆者は目立つ赤にしてみた。

 梱包から取り出して、早速サインアップを行なう。充電した後、電源を入れて1分間ほど待つと立ち上がってくる。MacBook Airを無線LANで接続して、サインアップを試みたのだがうまくいかない。ブラウザ上の表示がサインアップ中「情報を取得しています」から先に進めなくなってしまった。それでは、ということで端末をThinkPad X200sとIE8の組合せに変更するも、結果は同じ。

スピードテストの結果。オンラインサインアップに失敗した場所(中レベル)に設置した状態でのスピードテスト結果。サインアップさえできてしまえば、問題なく利用できる

 上述したように、筆者の自宅はWiMAXで10Mbpsを超える速度が得られる地域だが、設置のために置いていた場所は、本機の3段階あるアンテナランプが2本しか点灯しない(中レベル)。それでも内蔵WiMAXアダプタのサインアップは問題なく行なえた設置場所だったのだが、もしやということで、本機の設置場所を窓際にしてみたところ、あっさりとサインアップが完了してしまった。また、一度サインアップさえできてしまえば、サインアップできなかった場所に本機を設置して、問題なくWiMAXが利用できている。

 発売元のNECアクセステクニカは、「オンラインサインアップの途中で、ブラウザ画面が「サインアップ中」のまま切り替わらないことがある問題に対処した」というファームウェアVer 1.0.2をリリースしている。このファームであれば問題が生じないのかもしれないが、とりあえず最初のサインアップは十分な電波強度の得られる場所を選んだ方が良いようだ。なお、このファームウェアVer 1.0.2は、ファイルのダウンロードによるローカルアップデートのみで、オンラインバージョンアップの対象にはなっていない。また、設置場所を変えるなどしてサインアップができたユーザーは、バージョンアップする必要はないとされている。

 サインアップの終わったWM3500Rを実際に持ち出してみたが、基本的な使用感覚は内蔵モジュールやUSBのアダプタと同じ。都内であれば、地表面はほぼカバーされており、たいていのところで使える。ただ、サインアップでのトラブルでも感じたように、本機は若干受信感度が低いように思う。手元にあるIntel製の内蔵モジュールと、USBの外付けアダプタである「UD01SS」で、これまで感度の違いを意識したことはほとんどなかったのだが、WM3500Rでは明らかな違いを感じる。

 ただし、受信感度とバッテリ駆動時間にはトレードオフの関係もあるので、8時間のバッテリ駆動を実現するために、少し感度を抑える必要があったのだとしたら、それはやむを得ないとも思う。そう思うことを正当化できるほど、本機では本当に8時間のバッテリ駆動が可能だ。

 もちろん、ここで言う8時間は、ストリーミングのように、ずっと連続してデータを転送してのものではない。例えば、iPod touchを無線LANで接続して、Mobile Meのプッシュによるメール配信を受けつつ、時々ノートPCを開いて、こちらでもメールを受信したり、Webブラウザを利用したり、といった使い方だ。データを転送している時間より、待ち受けの時間の方がはるかに長いから、連続駆動8時間というより、連続待ち受け最大8時間といった方がふさわしいかもしれない。実際には、筆者はバッテリ寿命を延ばすロングライフ充電機能(バッテリ容量の70%程度で充電を停止することで、バッテリのライフサイクルを伸ばす機能)を有効にしてしまったし、LED自動消灯機能をオフにしているので、バッテリ駆動時間はおそらく6時間を切っているハズだが、それでも大きな不満は感じていない。

 筆者的には、6時間駆動できれば、出かける時に充電が完了した本機の電源を入れ、夕方帰宅するまで、ずっと電源を入れっぱなしでカバンに放り込んでおく、という運用ができる。その間、ルーターの電源を意識することなく使っていられる、というのは画期的なことだ。少なくとも通話を除けば、iPod touchがiPhoneと同じような感覚で使える。カバーエリアに関して、たとえ地表面においてもWiMAXがソフトバンクのそれを上回っているとは言えないのだろうが、ある場所(都内中心部飲食店内)でiPhoneが圏外になる中、筆者がiPod touch+WM3500Rで通信することが可能だった、という経験をしたことも事実である。仕事でなければ、iPod touchやノートPCの代わりにiPadを持ち歩いてもいいし、自由度が高くなったと実感する。

クイック設定画面のECO設定。満充電状態でも電池残量が低く表示される

 使っていて気になったことは、前述の感度の問題を除くと、バッテリ残量の表示が時としてアテにならないことくらいだろうか。充電が完了しクレードルから取り外した直後であるにもかかわらず、本体のバッテリランプが点滅したり(残量が10%未満であることを示す)、充電が完了した直後でもブラウザベースで利用可能な本機の設定画面(クイック設定Web画面)での電池残量表示が40%だったりと不安定だ。しかし、1度だけクレードルとの接触が悪く充電し損なった時を除いて、想定よりも早くバッテリが使えなくなった、ということはなかった。

 なお、この電池残量表示の問題は、NECアクセステクニカのホームページに用意されたWM3500Rのトラブルシューティングの項にも上げられている既知の問題であり、12月24日付けのファームウェアバージョンアップにて対応される予定だった。(12月28日時点で未公開)。このファームウェアバージョンアップでは、電池残量表示の問題のほか、ESS-IDステルス機能の実装、マルチSSIDによるネットワーク分離(AES対応のPCクライアントと、WEP対応のゲーム機器をネットワーク的に分離する)などの機能強化が図られた。

【お詫びと訂正】24日時点でファームウェアのアップデータが公開されましたが、今回のアップデートにはマルチSSIDの機能は含まれておりませんでした。お詫びして訂正させていただきます。

クレードル上にセットしたWM3500R クレードルの背面にはRJ-45ジャックも用意されている

 いずれにしても、筆者としてはこのAtermWM3500Rに十分満足している。自宅で利用することがないことを考えると、クレードルは要らなかったか、とも思うが、それほど高価なオプションでもない(実売価格2,980円)し、あって困るものでもない。カバーエリアに在住で、学校や勤務先もカバーエリアに含まれるのであれば、持っていると便利な1台であることは間違いない。