■元麻布春男の週刊PCホットライン■
超低電圧版(ULV)のプロセッサをベースに、コンシューマ向けにネットブックよりベターなPCを提供するというCULVプラットフォームのコンセプトは、ネットブックほどの大成功とは行かないまでも、一定の成功を収めた。
特にリーマン・ショック以降の不景気で法人需要が盛り上がらない中、堅調な個人需要を掘り起こす一助となったことは間違いない。従来、ULVプロセッサを用いたノートPCといえば、ビジネス色の強い製品が中心で、価格も15万円~20万円と高かった。CULVの登場により、ULVプロセッサを用いたノートPCの価格は5万円~8万円程度にまで引き下げられ、個人が気軽に買うことができるものに生まれ変わった。
もちろん数万円で買えるCULVノートが、かつてのビジネス向けモバイルPCと同じ機能を完備しているわけではない。最近のビジネスノートPCであれば備えているvProには対応していないし、物理的な堅牢という点でもCULVは見劣りする。軽量化という点でも、コストに制約のあるCULVノートに軽量で高価なパーツは使えないから、ちょっと重くなるのが常だ。
しかし、こうした点に目をつぶれば、あるいは気にならないのであれば、CULVは魅力的なプラットフォームだ。数年前なら15万円~20万円払わなければ手に入らなかったモバイルPCに近いものが、その半額以下で入手できる。
その魅力は、何もコンシューマにだけアピールするものではない。vProを導入するには対応した管理ソフトが不可欠だが、中小中堅企業にはまだ普及しているとは言い難い。CULVが高価なビジネスモバイルノートPCより重いといっても、その差はペットボトル1本分にも満たない。Consumer ULVの略であるCULVだが、これをビジネス向けに使いたいというユーザーだっているハズだ。
●ビジネス向けCULVの「Endeavor NA501E」そうした声を受けてか、ここにきてCULVを用いたビジネスノートPCが現れ始めた。ここで紹介するエプソンダイレクトのEndeavor NA501Eも、ビジネスユースを意識したCULVノートPCだ。
【表1】今回試用したNA501EのスペックOS | Windows 7 Home Premium 32bit |
CPU | Celeron 743 (シングルコア/1.3GHz/1MB/800MHz) |
チップセット | Intel GS45 Express |
グラフィックス | Intel GMA4500MHD(チップセット内蔵) |
メモリ | 1GB PC2-6400(最大4GB) |
ディスプレイ | 13.3型(1,366×768ドット) |
HDD | 160GB 2.5インチ SATA(Samsung HM160HI) |
外部ディスプレイ | ミニD-Sub15ピン |
Webカメラ | なし |
拡張スロット | なし |
メモリカードスロット | 3in1(SD/MMC/メモリースティック) |
LAN | Gigabit Ethernet |
無線LAN | IEEE 802.11b/g |
Bluetooth | なし |
バッテリ | リチウムイオンポリマー |
重量 | 1,457g |
ディスプレイサイズは、モバイルノートPCとしてはほぼ上限とも言える13.3型(1,366×768ドット)。動画や写真などの表示で見栄えがすることからCULV機の多くが採用するグレア(光沢)タイプではなく、あえてノングレアタイプを選択していることがビジネス向けを感じさせる。OSにWindows 7 Home PremiumとWindows 7 Professionalに加え、このダウングレード権を利用したWindows XP Professionalが用意されているのもビジネス向けを意識した部分だ。
その一方で、ビジネス向けということで省略されてしまったのがHDMI端子だ。プレゼンテーションを行なう場合など、HDMIを用いることはまずないことを考えれば、外部ディスプレイ接続はVGAだけで構わないという割り切りが成立するが、個人で利用したいというユーザーには残念な仕様と言えるかもしれない。
本機に用意されるCPUは、シングルコアのCeleron 743(1.3GHz/1MB L2キャッシュ)とデュアルコアのCore 2 Duo SU9400(1.3GHz/3MB L2キャッシュ)の2種類。後者を選択すると約2万円のアップとなる。チップセットはIntel GS45 Expressで、1GB、2GB、4GBのPC2-6400メモリ(DDR2-800)を組み合わせる。後述のように本機はユーザーによるメモリの増設が考慮されていないので、最初から必要なメモリ容量でオーダーしておくことが望ましい。
ストレージは、BTOメーカーだけに160GB~500GB(SATA HDD)あるいは64GB SSDから自由に選択できる。メモリと異なり、ストレージデバイスは底面から容易にアクセス可能だ。その他のオプションとしては、無線LANの選択(IEEE 802.11a/b/g/nもしくは802.11b/g)が可能だが、無線LANなしという構成は用意されていない。
今回試用したのは、Celeron 743、1GBメモリ、160GB SATA HDDにWindows 7 Home Premiumという、いわば本機の最小構成。無線LANもIEEE 802.11b/gを選択し、この構成での価格は57,750円(本稿執筆時点)となる。送料を加えても6万円を切ることが可能だ。国内ベンダーのCULV機としては、最も安価な部類に入るだろう。
本機を梱包から取り出してまず感じたのは、薄いということ。突起部を除く厚みは20.8mmで、筆者が所有する同じCULV機であるレノボの「IdeaPad U350」(最厚部24.9mm)に対し4mmほどの違いだが、天板に使われているアルミの触感や四隅のテーパー加工もあってか、感覚的に薄さを感じる。スペック的には、バッテリにリチウムイオンポリマーバッテリを採用していることが4mmの違いを生んでいるのだろう。重量も1,457g(実測値、うち204gがバッテリ)と、1.5kgを切っており、このクラスとしては軽量な部類に入る。付属のACアダプタも小型・軽量(234g)で、細かな配慮を感じる。
ヘアライン仕上げのアルミが使われたEndeavor NA501Eの天板 | 液晶を開いたところ。グレーの落ち着いたパームレストとほぼフルサイズのキーボードが現れる | 底面にあるのはバッテリベイ(右手前)とストレージデバイスベイ(左手前)のみで、簡単にメモリスロットにアクセスすることはできない |
ヒンジ側の方が丸みが強い筐体は、上述した通り天板にヘアライン加工されたアルミパネルが使われ、高級感がある。鏡面仕上げと異なり、指紋もそれほど目立たない。EPSONのロゴも控えめで、ビジネスに使って違和感のないデザインだ。
ラッチレスの液晶ディスプレイを開くと、パームレストとキーボードが現れる。落ち着いたグレーのパームレストは、特殊ペイント(ソフトレザーペイント)が施されており、ちょっと柔らかい感触。レザーに似た質感で、表面の微細な凹凸により、手のベタつきが軽減されるという。冬でも冷たさが軽減される感じだ。同じ塗装はタッチパッドにも施されている。なお、タッチパッドのボタンはシーソー式で1つのボタンの左側で左クリック、右側で右クリックとなる。
やや変則的なキーボード |
本機のI/O機能については、ビジネス向けということもあり、それほど多彩というわけではない。左側面に2ポート、右側面に1ポート用意されたUSB 2.0ポート、ヘッドフォンおよびマイク、ミニD-Sub15ピン(アナログRGB出力)、Gigabit Ethernet、3in1カードスロットというところだ。カードスロットは、SDカード、メモリースティック(Duoではない)とも、完全にスロット内にカードが収納できる長さとなっており、カードの一部が飛び出すことはない。
底面も、用意されるのはバッテリベイとストレージデバイスベイの2つだけでシンプル。言い換えれば、ユーザーが気軽にメモリを増設することはできないので注意が必要だ。ストレージデバイスベイは2本のネジを外すことでアクセス可能だが、マニュアルにはデバイスの交換について一切言及されていないから、あくまでも自己責任ということになる。
さて、動作させてみた印象だが、まず気づいたのは、液晶の視野角がかなり限られるということだ。ビジネス向けということで、動画を再生した場合の利便性にはウエイトが置かれていないのだろう。筆者も持ちだすPCについてはプライバシーフィルタでわざわざ視野角を制限しているほどだから、ビジネス向けならこれで良いのかもしれないが、内蔵ディスプレイでプレゼンテーションを行なう、という用途には向かない。またスピーカーも、ステレオではあるものの、中低音が不足気味で音質はそれほど良好とは言えない。
NA501E(上)とIdeaPad U350(下)。同じ13.3型液晶だけに、底面積はほぼ等しい | 左からIdeaPad U350、ThinkPad X200、そしてNA501EのACアダプタ。軽量なだけでなく小型化にも配慮されている |
本機のWindows Experience Index。CPUが最も低いスコアとなっている |
性能だが、今回試用したマシンに使われているCeleron 743は、Celeron 723の後継(Intelの発表時価格が同じ)であり、ニューモデルとして現在カタログに載っているPC(流通在庫等を除く)に使われるプロセッサの中では、Atomを除いて最も性能の低いものとなる。筆者はあえてこの構成(最低価格の構成)で借用したのだが、少しでも性能が欲しいというユーザーは、Core 2 Duoを選択すべきだろう。
さて、それを踏まえて表にまとめたベンチマークの結果をざっと見ていくが、Celeron 723を用いたIdeaPad U350に対しては、クロック分、キッチリと性能は上がっている。メモリはIdeaPad U350の方が高速なデバイスを使っているが、ベンチマーク上の差としては現れていない。
【表2】ベンチマーク結果
Endeavor NA501E | IdeaPad U350 | LaVie J LJ700/E | |
CPU | Celeron 743 1.3GHz (Penryn) | Celeron 723 1.2GHz (Penryn) | Pentium M ULV 753 1.20GHz (Dothan) |
チップセット | Intel GS45 | Intel GS40 | Intel 855GME |
メモリ | 1GB DDR2-800 | 4GB DDR3-1066 | 512MB DDR-266 |
OS | Winodws 7 Home Premium | Windows 7 Home Premium | Windows XP SP3 Professional |
CrystalMark 2004R3 | |||
Mark | 32664 | 30758 | 22978 |
ALU | 6436 | 6008 | 4509 |
FPU | 5660 | 5269 | 5516 |
MEM | 7171 | 7148 | 2945 |
HDD | 7984 | 7141 | 3240 |
GDI | 3573 | 3411 | 3242 |
D2D | 845 | 800 | 2255 |
OGL | 995 | 981 | 1271 |
PCMark05 v120 | |||
PCMark | 2002 | 1872 | 1153 |
CPU | 2151 | 1985 | 1891 |
Memory | 3113 | 2935 | 1723 |
Graphics | 1151 | 1011 | 380 |
HDD | 4269 | 4408 | 3084 |
3DMark03 | |||
3DMark | 1740 | 1519 | 90 |
CPU | 434 | 395 | N/A |
もう1つベンチマークテストに現れない差としては、動画再生機能の差が上げられる。IdeaPad U350のGS40と、NA501EのGS45では、微妙に動画再生支援機能に違いがあるのだが、今回、バッファローの外付けBlu-ray Discドライブ(BR-X1216U3)を接続してみたところ、IdeaPad U350では致命的に破綻して再生できないBlu-ray Discのコンテンツが、NA501Eではギリギリ再生可能なことを確認した。ただし、再生できるといっても、ちょっとしたイベント(バックグラウンドでのメール着信、ACアダプタの取り外しによる省電力ステートの変化)により、コマ落ちが発生する感じで、安定した再生というわけには行かないし、ビジネス向けのNA501Eにしてはどうでもいい違いかもしれないが、プラットフォームとしての差があることは間違いない。
今回もう1つ、比較用に約4年前のPCである「LaVie J LJ700/E」を用意した。Celeron 723と同じ動作クロックのDothanコアのPentium M ULV 753をベースにしたPCで、チップセットは855GME、メモリはDDR-266である。ULVのプロセッサというのは、クロックが上がって1.5GHzあたりに達すると、新しいマイクロアーキテクチャで元の1GHz前後に逆戻りするというパターンを繰り返している、という印象がある。要するにマイクロアーキテクチャの世代を超えてクロックが継続的に向上していない印象なのだが、マイクロアーキテクチャの向上により同じ動作クロックでも性能が上がっているのだろうか、ということが気になったわけだ。
今回行なったテストを見る限り、同じクロックでも新しいプロセッサの性能は向上しているが、その差は決して大きくない。新しいプロセッサだけが搭載する拡張命令を使ったアプリケーションを実行すれば、差はぐんと開くハズだが、そうでないアプリケーションを使う限り、マイクロアーキテクチャの差によるコアあたりの性能差はそれほど顕著ではない。クロックの向上が難しく、マイクロアーキテクチャの改良による性能向上がそれほど大きくない以上、コアの数を増やす方向に向かうのは必然であり、Celeron SU2300のような低価格デュアルコアプロセッサが、ULVの分野でも広まっていくだろう。
逆に、プロセッサコアより大きな差が生じているのは、メモリの帯域や統合グラフィックスといったプラットフォーム側の違いだ。DDR2-800とDDR3-1066の比較のように、1世代の違いではそれほど大きな差は見られないが、DDR-266のように4年前のメモリテクノロジとの比較であれば、利用可能な帯域の差はベンチマークテストでも明らかになる。
グラフィックスについて言えそうなのは、855GMEとGS45/40では、目指すところが違っている、ということである。PCMark05や3DMark03で、855GMEとG45/40で大きな差がついているのは、シェーダサポートの有無が理由だ。855GMEはシェーダをサポートしておらず、ほとんどのテストが実行できない。逆にCrystalMark 2004R3のグラフィックス関連テストが利用するレガシーなグラフィックスAPIは、855GMEとWindows XPの組合せが優位にある。これはGS45/40の性能が落ちているのではなく、フォーカスが違っているからだ。もちろんGS45/40もレガシーAPIをサポートしているが、もはやそこに多くのトランジスタを投入してはいない。新しいハードは新しいOSを前提に設計されるし、新しいOSは新しいハードの性能を引き出すべく開発される。そういう意味ではEndeavor NA501Eも、Windows XPよりWindows 7で使った方が良いPCに違いない。
いろいろと比較してきたが、Endeavor NA501Eは、ビジネス用ノートとして実用的な性能をもっていると評価できる。6万円を切る価格ながら、個人や企業内でのクライアントとして、十分に使える。XPがあることで、企業内の用途に対応できる点もポイントが高い。
個人で購入するのであれば、順当にWindows 7にしてよいと思う。予算的に余裕があれば、CPUをCore 2 Duo(プラス2万円)にすれば、性能的にも余裕があるので、さらに万全といえるだろう。