■元麻布春男の週刊PCホットライン■
10月に発売されたWindows 7 |
早いもので、間もなく2009年が暮れ、2010年が始まろうとしている。PC業界的に見ると、2009年はOSの年だった。毎年、新しい製品が登場するCPUやGPUと違って、新しいOSが頻繁に登場することはない。秋にMac OS X Snow Leopard(10.6)とWindows 7が相次いでリリースされた2009年は、間違いなく珍しい年であり、OSの年だったと呼んで間違いないだろう。
特にWindows 7は、不評だったWinodws Vistaを置き換えるものとして、ユーザーのみならずPC業界からの期待が高かった。それが順調なスタートを切り、今もおおむね好評を博しているのは、喜ばしいことだ。2009年を代表する製品は、Windows 7に違いない。
その一方で、Windows 7を除くと、特筆するべき製品が2009年には見当たらない。筆者は2008年の製品としてSSDとネットブックを選んだ。この2つは2009年も順調なセールスを記録したようだが、2008年ほどの話題性には乏しかった。SSDは時に商品供給が間に合わなかった(今でも一部に不足が見られる)し、ネットブックは同じIntelが発表したCULVノート機とつぶし合いをした印象がある。CULVは、その無味乾燥な名称で損をしているせいか、ネットブックほど市場的な広がりを持てずにいるようだ。
ネットブックにしてもCULVにしても、低価格帯に新しい市場を創出したという点での貢献は大きい。リーマンショック以降の不況期にあって、ネットブックがなければ、市場はどうなっていただろうとも思う。その意味で、ネットブックの果たした役割は本当に大きかった。
しかし同時に、ネットブックにはさまざまな副作用があったとも思う。1つはPCの低価格化で、今やPCの価格は10万円以下が当たり前になった。新機能を実装しにくいOSの更新期と重なったこともあり、ハイエンドがパッとしなかったのも2009年の特徴であり、余計に低価格PCが目立った。ハイエンド向けの製品としては、Radeon HD 5000番台シリーズのGPUが目立つ存在だったが、供給の問題もあって、市場にインパクトを与えるほどではなかったと思う。
また、基本的に時間の経過と共に性能が向上することが常識だったPCの世界で、ローエンドとはいえネットブックが普及したことは、この常識を覆すこととなった。もちろん、メインストリームやハイエンドは、少しずつではあってもクロックが引き上げられたり、新しいマイクロアーキテクチャが投入されるなどして性能は向上しているから、ローエンドとハイエンドの性能差は従来よりも広がったことになる。社会で何かと「格差」が話題になる昨今、PCの世界でも格差が広がりつつあるのかもしれない。
●Windows 7が拓いたセンサーとの連携それはそうと、間もなく迎える2010年だが、いったいどのような年になるのだろう。OSはメジャーアップデートが出たばかりなので、大きな動きはないハズだ。また、Intelはプロセスをアップデートする年(45nmから32nmへ)であり、マイクロアーキテクチャの大きな変更は予定されていない。AMDの次の大きな変化は、2011年に予定されている。というわけで、プロセッサ方面も比較的静かな年になると思われる。
逆に言えば、こういう年は、システムベンダが何かにジックリと取り組むのに適している。OSやプロセッサに頼るのではない、何か新しいことをシステムとして導入するべきタイミングだ。
ではどんなネタが考えられるのか。最も可能性が高そうなのは、Windows 7で実装されたセンサーAPIの活用だ。物理現象あるいは物理的な作用を検知し、計測するセンサーは、今までもPCで使われてきた。HDDの衝撃を回避するモーションセンサー、周囲の明るさを検知して自動的に画面のバックライトを調節する環境光センサー、さらにはUSBポートに接続するGPSユニットなどは、PCで使われてきたセンサーの一例だ。
これらのセンサーは、それぞれのデバイスをサポートするドライバ、それに対応したアプリケーションとセットで、垂直統合されたソリューションとしてPCのハードウェアに組み込まれており、1つの機能を実現している。したがって、これらのセンサーを他のアプリケーションが利用することが難しかった。逆に1つのアプリケーションが、複数のセンサーを利用することも容易ではない。センサーAPIの登場で、複数のセンサーの組合せや、1つのセンサーを複数のアプリケーションが共有することが可能になるのだが、それがどのような成果を生み出すのか、注目される。
12月に発売されたアイ・オー・データ機器の「SENSOR-HM/ECO」は、このセンサーAPIに対応した人感センサーだ。赤外線の反射を利用してPCの前(正確にはセンサーの前)にユーザーがいるかどうかを検知し、ユーザーがいない場合はPCを省電力制御モードへ移行させることで省エネルギーを実現するアプリケーションが添付される。
しかし注目すべきは、このSENSOR-HM/ECOにサンプルアプリケーションのソースコードが添付されており、センサーAPIに関する一種の学習キットとして使えるようになっていることだ。本製品の開発にはマイクロソフトも協力しており、センサーAPIの普及を図るとともに、センサーをPCに統合するアイデアについて、広くアイデアを求めようという姿勢がうかがえる。2010年に期待したい技術の1つであることは間違いない。
●HDDの大容量化とOSの64bit化このセンサーAPI以上に「アキバ的」な話題となるのは、2TBの壁かもしれない。ついにHDDの容量が2TBに到達したのは、2009年の話題であったが、ここで言う2TBは業界で慣習として使われている10進法での丸められた表記。16進法で表記すると、1.8TB程度に過ぎない。言い換えれば、市販の2TBのHDDは、まだ2TBの壁に到達していないわけだが、2010年には記録密度の向上により2TBの壁に到達する可能性がある。
2TBの壁というのは、512bytesセクターを前提にした時の32bit表現の上限を意味する。一般的な32bitのWindows環境で最も問題になるのが、MBR方式のパーティションテーブルが32bit LBAしかサポートしておらず、2TBを越えるディスクを扱えないことだ。これを解決する方法としては、MBR方式のパーティションテーブルをやめるか、セクターサイズを大きくするか、あるいは両方を実現するしかない。
MBR方式以外のパーティションテーブルとしては、GUID(Globally Unique Identifier)パーティションテーブル(GPT)があり、IA-64(Itanium)やIntel MacといったEFIをファームウェアとして採用するシステムで、起動ディスクを含むディスクの管理に使われている。おそらくx86ベースのPCもこの方向で進むのではないかと思われるが、64bit版のOS(Windows Vista SP1以降)しか起動できないのが難点だ。マイクロソフトの「セクタ サイズが大きいハード ディスク ドライブに対する Windows Vista のサポート」というサポート情報では、Windows 7については言及されていないが、おそらく32bit版には同様な制限があるものと思われる。
セクターサイズの拡大は、HDDのローレベルフォーマットの効率を高めるという点でも、ディスク業界の悲願であった。しかし、今まで何度もセクターサイズ拡張の議論が出たにもかかわらず、実現しなかったのは、これまでHDDのセクターサイズが変更されたことはなく、ほとんどすべてのアプリケーションがセクターサイズを512bytesだと考えているからだ。
512bytesセクターと4Kbytesセクターの効率の違い(Storage Developer Conference 2008、Fujitsu Computer Products of America、Mike Fitzpatrick氏のプレゼンテーションより) |
先日、秋葉原でAdvanced Format Technologyを採用したHDDが販売されたというニュースがあった。このドライブは、物理セクターサイズは4Kbytesに拡張するものの、ホストに対しては論理セクターサイズとして512bytesを返すもので、エミュレーションドライブと呼ばれる。MicrosoftはWindows Vistaでこの種のドライブのサポートを行なったが、Windows XP以前のドライブではパフォーマンスの問題が生じる可能性があることを認めている。Western Digitalが配布しているユーティリティは、この文書で言う「パーティションと物理セクタの配置の不整合」を回避するものだろう。
話を2TBに戻すが、このAdvanced Format Technologyを採用したドライブも、エミュレーションを行なっている限り、2TBの壁を越えることはできない。4Kbytesセクターをそのまま扱えるようにならなければならないわけだが、それはまだ先のことで、2010年におとずれようとしている2TB問題の解決には間に合わないのではないかと思う。
今、Windows 7になって、ようやく64bit OSへの移行が始まろうとしている。間違いなくその原動力の1つは、メモリが安価になり誰でも4GB以上積めてしまうことだ。2TBを越える容量のHDDが登場することも、OSの64bit化を促進するに違いない。そして、こうした必然性をともなって、Windows XPからWindows 7への移行が進むのだろう。