●ネットブックが与えた大きな影響
12月25日、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、2008年度11月分のPC国内出荷実績を発表した。 それによると2008年11月の国内PC出荷台数は64万2千台で、前年同月比93.3%。景況が悪化していることを考えると、製品ジャンルとしてはなかなか健闘している数字ではないかと思う。 ただし詳細を見ていくと違う姿も見えてくる。ハッキリしていることの1つはデスクトップPCの退潮に歯止めがかからないこと。11月の出荷台数は前年同月比75.7%で、24.3%のマイナス。オールインワンの液晶一体型、セパレート型のいずれも悪い。 これに対しノートPCは、前年同月比で103%とプラスを記録。全体に占める割合も71.1%と、7割を超えた。ちょうど海外からもPCの世界市場に占めるノートPCの割合がついにデスクトップPCを上回ったというニュースが飛び込んできた。すでに先進国ではノートPCがデスクトップPCを上回っていたものの、新興国を含めた全体市場でノートPCがデスクトップPCを上回ったのは、今回の調査が初めてなのだという。 こうしたノートPC躍進に大きな影響を与えているのは、もちろんネットブックに代表される低価格ミニノートPCだ。JEITAの統計によると2008年11月期における「A4型・その他」のノートPCが前年並み(100%)であるのに対し、モバイルノートPCは114.9%となっている。そして台数ベースでこれだけ伸びているにもかかわらず、出荷金額は前年同月比で77.7%と、23.3%も低くなっているのだ。つまり、確かにモバイルノートPCは売れているが、その単価は確実に下がっていることになる。 実はこのJEITAの統計には、ネットブックを売りまくっているASUSTeKやAcerは参加していない(もし参加していれば、さらに強烈な統計になったことだろうが)。参加しているのは、アップル、NEC、オンキヨー、シャープ、セイコーエプソン、ソニー、東芝、パナソニック、日立製作所、富士通、三菱電機インフォメーションテクノロジー、ユニットコム、レノボ・ジャパンの13社で、このうちネットブックを手がけていて11月期にその出荷が間に合っていそうな会社は、東芝とNECを始め数社だけだ。いずれも、ネットブックの出荷が含まれるにしても、それほど出荷比率が高いとは思えない。 この統計から分かるのは、ネットブックの影響で、ネットブック以外のモバイルノートPCも価格低下が進んだ、ということだ。インターネットの価格比較サイトを調べると、NECのLaVie J、東芝のdynabook SS、パナソニックのLet'snote RおよびT、富士通のLOOX R、レノボのThinkPad X200など、代表的なモバイルノートPCが、すべて12万円~14万円程度から購入できることが分かる。ちょっと前のモデルなら、10万円を切るものも珍しくない。ほんの1年ほど前なら、これらのノートPCには20万円弱の値札がついていることが多かった。ネットブックという競合が現れたことで、従来型のモバイルノートPCも、値下げを余儀なくされたわけだ。 今のところ各PCベンダとも、ネットブックの出現により上位のノートPCの市場(台数ベース)が食われたということはない、と平静を装っている。確かに、ネットブックが呼び水となって量販店の集客が増え、ネットブックではなくA4型のノートPCを買って帰る、ということも少なくないようだ。が、A4型に比べてモバイルノートPCの出荷金額の落ち込みが大きいことを見れば、モバイルノートPCの平均単価が急落していることは間違いない。少なくとも5万円は下がったのではなかろうか。 現在、ネットブックの売れ筋は5万円前後(回線契約のバンドルがない場合)だ。これに対し、低価格化した従来型モバイルノートPCの価格は12~14万円前後で、その価格差はなお7万円~9万円ある。だが、従来型モバイルノートPCは、ほぼ同じ重量(1kg~1.5kg)で、大きく解像度の高い液晶パネル、長時間駆動が可能なバッテリ、高性能なデュアルコアプロセッサ、5GHz帯を含む高度な無線LAN機能を備える。20万円ならともかく、12万円なら出す気になるユーザーも(いくら不景気だからといっても)いておかしくない。2008年の最大のヒット商品はネットブックだと思っている筆者だが、ネットブックはそれ自身が1つの市場セグメントを作り出しただけでなく、従来型モバイルノートPCの価格破壊をも引き起こしたという点で、2008年で最大のインパクトを持つ製品だったと思っている。 ●今後が楽しみなSSD
このネットブックに次ぐヒット商品となったのが、NANDフラッシュメモリを用いたSSDだ。それ自身のスペックや性能という点ではあまり大きな違いのないネットブックに対して、SSDは製品のバリエーション、価格低下の速度の激しさ、性能向上の度合いなど、さまざまな点で今一番アツいデバイスだ。毎月のように新製品が発表され、店頭に並ぶ。おそらく、この1~2年で激変すると同時に、爆発的に普及するだろう。 ただし、こうしたデバイスとは、つきあう上で覚悟しておかねばならないことがある。それは商品の陳腐化がアッという間に進むということだ。下手をすると、せっかく買ったSSDが、ほんの数カ月後にはほとんど無価値になるくらい、急激に価格が低落したり、性能が向上したりすることも考えられる。それに耐えられない人は、まだ手を出さない方が良いデバイスだ。しかし、だからこそSSDはアツく、楽しいのである。自分が買った製品が半年後には二束三文になるほど、急激な進化が期待できるからこそ面白い。 年寄りのPCユーザー(筆者も立派なその1人だが)が集まると、やれ20MBのHDDを10万円出して買ったとか、160MBが24万円したとかいう、昔話が始まることがある。その昔、Bill Gates会長に金塊のように高いと言われたHDDも、またたく間に価格が下がったデバイスの1つだ。だからこそ昔話のネタになるのだ。 今、同じことを期待するとしたら、それはSSDしかない。将来、「いやー、32GBのSSDに10万円も出しちゃったよ」とか、「SSD内蔵のノートPCによく40万円も出したなぁ」とか語るためにも、暴落覚悟でSSDを買う必要がある。マニアというのはそういうものだろう。あとで大きな波となる機器の最初の波に載るのが楽しみなのだ。 それはともかくSSDも、ネットブック同様、他のセグメントの製品に大きなインパクトを与えた。それはHDD、特に2.5インチドライブだ。ほんの1年ほど前まで、2.5インチドライブというと、160GB~200GBで容量が頭打ちで、価格も1万円台半ばあたりで停滞していた。それがSSDが登場してきたタイミングに合わせるように、大きく動き始めた。容量はアッという間に500GBに達し、250GBのドライブが今や5,000円前後だ。SSDという手強い(手強すぎる?)ライバルの登場無しに、こうした変化が生じたかは疑わしい。 筆者がSSDにもう1つ期待しているのは、PCのフォームファクタに与えるインパクトだ。HDDの世界では、3.5インチ1インチ厚が標準になって久しい。が、一部の1.8インチドライブや内蔵カードタイプ、例外的な3.5インチドライブを除き、SSDの主流は圧倒的に2.5インチタイプだ。この感じだと3.5インチのSSDが主流になることはないのではないかという気がする。 となれば、将来的にPCの起動デバイスは2.5インチサイズとなり、どんなPCケースにも2.5インチ用のドライブベイが用意されることになる。光学ドライブが5インチサイズのままなのは、民生機との関係から不変だとして、将来のPCが3.5インチベイをどう処理するのか、3種類のベイが共存するのか、2.5インチベイと5インチベイの組合せが主流になるのか、注目している。個人的には、SSDの普及に連れて3.5インチベイを備えたPCが減少し、HDDの主流も2.5インチになる、といった流れを期待している。サイズが3.5インチから2.5インチになっても、大容量化とバイト単価に優れたHDDが簡単になくなりはしない、と筆者は考えているのだが、果たしてどうだろうか。それもこの1~2年で見えてくると思っている。
□JEITAの2008年度PC出荷統計 (2008年12月26日) [Reported by 元麻布春男]
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