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IntelとAMDの和解に見るAMDの今後



 日本時間の11月13日、AMDとIntelの2社は、両社間で係争中であった独占禁止法に関する訴訟と、特許のクロスライセンス紛争を含む、「すべての未解決の法的紛争」を終了させる包括的な合意を締結したと発表した。これにより、我が国で争われていた独禁法違反訴訟2件も取り下げられることになる。

 両社が共同で出したプレスリリースによると、合意の要点は次の4点だ。

・AMDとIntelは今後5年間を期間とするクロスライセンス契約を締結する
・相互にライセンスに関する契約違反の主張をすべて取り下げる
・IntelはAMDに対し12億5,000万ドルを支払う
・Intelは「一連の営業上の活動に関する取り決めに従う(AMDのプレスリリース)」、「商行為に関する規定を遵守する(インテルのプレスリリースの表現)」

 この4点を受けて、AMDはすべての係属中の訴えを取り下げ、世界中の規制当局に対する申告も取り下げるという。

 今回の合意でAMDが手にしたのは、5年間のクロスライセンスと12億5,000万ドルの現金であり、Intelが得たものは、5年間のクロスライセンスとAMDとの係争による潜在的なリスクからの解放ということになる。AMDは、Intelが違法行為を行なったと認めさせることができなかった代わりに、商行為に関する規定の遵守に関する言質と、12億5,000万ドルを受け取った、と見ることも可能だ。

 もっとも、EUのように、係争がAMDの手を離れてしまったものについては、今後も係争は続くのだろうが、Intelが法的リスクを大幅に軽減させたことは間違いない。さらにIntelは、ワシントンDCの法律事務所WilmerHaleに所属していた弁護士であるDouglas Melamed氏を副社長として招聘し、同社の法務担当責任者に任命した。氏は反トラスト法の専門家であり、Intelの本社があるカリフォルニア州サンタクララにオフィスを持つほか、ワシントンDCにもオフィスを構えるという。独禁法対策を強化したことは間違いないだろう。

【図1】2009年9月期におけるAMDの財務プロファイル。2012年と2015年に社債の償還が予定されている

 一方、AMDが受け取った12億5,000万ドルは、AMDにとって決して小さなものではない。アブダビ資本の注入と製造部門の分離および売却により、手元の流動資金は確保できたものの、2012年に償還期日がくる社債と転換社債、2015年に償還期日がくる転換社債による負債の合計は36億7,100万ドルに達する(図1)。上記の手元流動資金を差し引いても21億3,500万ドルに上る負債から、受け取る12億5,000万ドルを差し引けば、残る負債は8億8,500万ドルにまで減少する。要するに純負債額の6割近くを賄える計算だ。もし今回の和解がなく、係争が長期化すれば、AMDは償還のための原資をあと2年あまりで、どこかからひねり出さねばならなかった。

 現時点では締結されたクロスライセンスの内容が分からないが、この合意によりAMDがGLOBALFOUNDRIESに対する出資をさらに減らすことが可能になれば、AMDの実質的な負担は軽減されるし、現在も持つ出資分をATICに追加で売却できれば、それを原資に負債を償還することもできるだろう。クロスライセンスの期限が来る5年後までに、GLOBALFOUNDRIESが主体者となって、Intelとのライセンス契約ができれば、AMDの負担はさらに減るが、それをIntelが認めるかどうかは分からない。

 負債の償還に向けてAMDがなすべきことは、優秀な製品を開発し、それを売ることであることは言うまでもない。それには優れたアーキテクチャと優れた製造技術の両方が欠かせないのがプロセッサビジネスだ。

【図2】AMDが開発を進める2種類のプロセッサコア(マイクロアーキテクチャ)。Bulldozerコアはサーバー向けのInterlagosおよびValencia、ハイエンドデスクトップ向けのZambezi各プロセッサとして、BobcatコアはネットブックおよびウルトラシンノートPC向けのOntarioプロセッサとして、2011年の実用化を目指す

 この和解に先立つ11月12日、AMDは恒例のAnalyst Dayを開催し、同社の製品計画について明らかにした。そこでAMDは、新しいマイクロアーキテクチャに基づく2種類のコア、ハイエンド向けのBulldozerと、Atom対抗のBobcatについて明らかにした(図2)。が、いずれも登場は2011年になる見込みだ。しかも、前者は32nm SOI+High-Kメタルゲート、後者は28nmバルクシリコン+High-Kメタルゲートという、AMD/GLOBALFOUNDRIESにとって新しい製造技術を用いる。

【図3】GLOBALFOUNDRIESのプロセスロードマップ。2種類の28nmプロセス(バルクシリコン)は、元々は32nmプロセスとして開発が進められていたもの。昨年秋の時点より1年遅れることもあって、28nmまで微細化しようというわけだが、危険な兆候ともいえる

 マイクロアーキテクチャと製造技術の両方を同時に更新することはリスクをはらみ、スケジュールが遅延しがちだ。製造部門の分社というのっぴきならない事情もあり、製造技術側のスケジュールは昨年秋のAnalyst Day時点に比べ、SOIで半年、バルクは1年遅れている(図3)。AMDはマイクロアーキテクチャの設計については順調だとしているものの、製造技術の準備ができていなければ製品投入することはできない。

 こうしたトラブルを最小限にするために、Intelは両者を交互に更新するTick-Tock戦略をとっているわけだが、今のAMDにその余裕はない。製造部門を分社することでR&Dや設備投資の負担を減らすことができても、マイクロプロセッサのようなハイエンドプロセス技術を必要とする製品を製造できる工場は限られる。ほかに作れる工場がない以上、AMDとGLOBALFOUNDRIESが一蓮托生の関係にあることに変わりはないのだ。

【図4】AMDのバランスシート。AMD側は単期黒字にこぎ着けたが、GLOBALFOUNDRIESは赤字に苦しむ。両社で50億ドルを越える長期負債を抱える

 では、その運命共同体であるGLOBALFOUNDRIESはどうだろう。AMDは、2009年第3四半期において3,500万ドルの単期黒字を実現したと発表した。しかし、Analyst Dayで発表された数字を見ると、相変わらず製造部門(GLOBALFOUNDRIES)は赤字のままで、開発と製造を1社で行なっていた旧AMDの枠組みでは相変わらず赤字であったことが分かる(図4)。またAMDの36億7,100万ドルに及ぶ長期負債のほかに、GLOBALFOUNDRIESサイドに20億2,900万ドルの長期負債があることも読み取れる。GLOBALFOUNDRIESにはアブダビ資本がついており、この負債は織り込み済みだろうから、当面の間は危機に陥ることはないだろうが、どんな資本がついていようと延々と赤字の事業を続けていくことはできない。あらゆる意味で、2011年の新製品は絶対に失敗できないものになるだろう。

 AMD/GLOBALFOUNDRIESに出資するアブダビ資本のATICは、AMDの製造パートナーでもあったファウンダリ大手のChartered Semiconductorをも傘下に収めた。AMDからの生産委託量が伸びなかったこと、折からの不況等で、Charteredの稼働率はかなり低下していたと思われるのに加え、GLOBALFOUNDRIESもドレスデンにあるFab 1のうち、旧Fab 38(以前のFab 30)部分の稼働、さらに米本土ニューヨーク州にFab 2(旧称Fab 4x)の開設を予定しており、相当なオーバーキャパシティであることは間違いない。一気に供給力を高め、トップグループの仲間入りを果たすという戦略だと思われるが、リスクも小さくない。どのくらいでGLOBALFOUNDRIESが独り立ちできる(単期黒字にこぎ着ける)のか、次の焦点はそこになるだろう。

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