■平澤寿康の周辺機器レビュー■
Kingston「HyperX SSD」シリーズ |
米国の高品質メモリメーカーとしておなじみのKingstonは、メモリモジュールだけでなく、SSDも広く扱っている。今回取り上げる「HyperX SSD」シリーズは、同社初となるSATA 6Gbps対応のSSDシリーズだ。発売から少々時間が経過しているが、Kingstonは今後日本市場でのSSD製品の販売活動を強化すると表明しており、これまで以上に広く市場で目にする機会が増えると思われるため、取り上げることにした。
●Xロゴとブルーのラインが目をひく
Kingston製のSSDといえば、東芝製SSDコントローラを採用したモデルが多いというイメージがある。ただ、これまでSATA 6Gbps対応のSSDは投入されておらず、今回取り上げる「HyperX SSD」シリーズが初のSATA 6Gbps対応SSDとなる。コンシューマ向けのKingston製SSDとしてハイエンドに位置付けられており、ハイエンドユーザーやゲーミングユーザーなどをターゲットとしており、容量120GBと240GBの2モデルが用意されている。
SSDとしての仕様は、他の製品と大きく異ならない。サイズは厚さ9.5mmの2.5インチHDDと同等。ハイエンドユーザーやゲーミングユーザーをターゲットとしていることもあってか、上部の「HyperX」のロゴと、X型に切り取られた天板とブルーのラインがかなり目をひくデザインを採用している点がおもしろい。接続インターフェイスはSATA 6Gbpsで、SATA仕様の2.5インチHDDと同等の感覚で利用できる。ノートPCのHDD換装用途はもちろん、デスクトップPCでの利用も全く問題がない。
アクセス速度はシーケンシャルリード最大550MB/sec、シーケンシャルライト最大510MB/sec。4Kランダムアクセス速度は、120GBモデルがリード最大95,000IOPS、ライト最大70,000IOPS、240GBモデルがリード最大95,000IOPS、ライト最大60,000IOPSとされている。SATA 6Gbps対応SSDとしては、比較的高速な部類に入る。
製品パッケージは、SSD単体ドライブのみのパッケージに加え、「バンドルキット」と呼ばれるパッケージが用意されている。バンドルキットには、SSDに加えて、3.5インチベイに取り付けるためのマウンタや、2.5インチドライブに対応する外付けHDDケース、SATAケーブル、HDDやSSDを取り付ける場合に利用できるペン型の精密ドライバー、HDDクローンツールなどが付属している。HDDケースの接続インターフェイスはUSB 2.0のため、SSDを取り付けて利用するというよりは、ノートPCのHDDをSSDに換装した後で、取り出したHDDを外付けドライブとして利用するためのものと考えた方がいい。それでも、別途外付けケースを用意する手間が省ける点は嬉しい。ノートPCのHDD換装用途で購入する場合には、このバンドルキットがおすすめだ。
●SandForce製コントローラを採用
では、内部基板の構造を見ていこう。
ケースは、裏面の4本のネジで固定されており、このネジを外せば基板を取り出せる。ただし、4本のネジのうち1本は封印シールで封印されており、分解すると保証を受けられなくなるので要注意だ。また、このネジはネジ穴中央部に突起があるため、容易に開けられないようになっている。
採用されているSSDコントローラは、SandForce製の「SF-2281VB1-SDC」。SATA 6Gbps対応SSDの中でも人気の高い、OCZ製「Vertex 3」シリーズで採用されていることでもおなじみのコントローラだ。チップ内にキャッシュメモリが内蔵されているため、基板にはキャッシュ用のDRAMチップは搭載されていない。
NANDフラッシュメモリチップは、120GBモデル、240GBモデルとも、製造プロセス25nmのIntel製MLCタイプNANDフラッシュメモリチップが基板表裏に8個ずつ、計16個搭載されている。採用されているチップは、120GBモデルが容量64Gbit(8GB)の「29F64G08ACME2」、240GBモデルが容量128Gbit(16GB)の「29F16B08CCME2」であった。
●ランダムアクセス速度に優れる
では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1b、HD Tune Pro 4.60、Iometer 2008.06.28の3種類を利用した。また、120GBモデルと240GBモデルの2製品でテストを行なった。テスト環境は下に示す通りだ。比較用として、Micron製のRealSSD C400(Crucial m4 SSD)256GBモデルの結果を掲載しているが、今回はCPUやマザーボード、OSなど、従来と異なる環境でのテストとなっているため、あくまでも参考値として見てもらいたい。
・テスト環境
CPU:Core i3-2100
マザーボード:ASUS P8Z68-M PRO
メモリ:PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2
グラフィックカード:CPU内蔵(Intel HD Graphics 2000)
HDD:Seagate ST31000340AS(OS導入用)
OS:Windows 7 Professional SP1 64bit
CrystalDiskMarkの結果を見ると、シーケンシャルリード速度は120GBモデル、240GBモデルともに500MB/secをわずかに下回る速度となっている。それに対しシーケンシャルアクセス速度は120GBモデルが170MB/secをわずかに下回る速度だったのに対し、240GBモデルは300MB/secを上回る速度が発揮されている。とはいえ、シーケンシャルリード・ライトとも公称値には届いていない。
120GBモデル、1,000MB結果 | 120GBモデル、4,000MB結果 |
240GBモデル、1,000MB結果 | 240GBモデル、4,000MB結果 |
SandForce製コントローラは、データを圧縮して転送する機能が盛り込まれており、公称の最高速度は、この圧縮機能が最大限に活かされる状況で発揮される。そこで、通常ランダムのデータとなっているテストデータを「0fill」(中身を0で満たしたテストデータ)に設定してテストを行なってみると、120GBモデル、240GBモデルともにシーケンシャルリードが約490MB/sec、シーケンシャルライトが約490MB/secと、公称値にかなり近付いた速度が計測された。通常利用時には0fill設定時のような全く同じ情報で埋めつくされたデータを利用する機会は少ないため、実際の利用時には、ランダムデータ設定時と0fill設定時のテスト結果の中間程度の速度が発揮されると考えていい。
120GBモデル、0fill、1,000MB結果 | 120GBモデル、0fill、4,000MB結果 |
240GBモデル、0fill、1,000MB結果 | 240GBモデル、0fill、4,000MB結果 |
ランダムアクセス速度に関しても、120GBモデルより240GBモデルの方が速度に優れる点や、テストデータを0fillに設定を変更すると速度が向上するなど、シーケンシャルアクセス時と似た傾向が見られる。
SandForce製コントローラの仕様上、実際の利用時の速度が公称値の速度より若干遅くなるのは少々残念な気もする。しかし速度的には十分に高速であり、実際に利用する場合に速度が遅いと感じることは全くないと考えていい。
HD Tune Pro 4.60の結果も、CrystalDiskMarkの標準設定の結果に近い。ただ、シーケンシャルリードは120GBモデル、240GBモデルとも500MB/secを上回っており、利用条件によっては500MB/secを超える速度が発揮される場面もある。
IOmeterの結果を見ると、RealSSD C400よりもかなりランダムアクセス性能に優れることがわかる。これだけランダムアクセス性能に優れるなら、実際に利用する場合の体感の快適度もかなり優れると考えていいだろう。高速なSSDでは、シーケンシャルアクセス速度に注目が集まる場合が多いものの、実際の利用を考えると、シーケンシャルアクセス速度だけでなくランダムアクセス速度も重要なポイントで、HyperX SSDシリーズはかなり実用性に優れるSSDと言っていいだろう。
Iometer 2008.06.28 Windows 7 Professional 64bit | Kingston HyperX SSD 120GB | Kingston HyperX SSD 240GB | RealSSD C400 | ||||
Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | ||
File Server Access Pattern | Read IOPS | 3078.36 | 8321.41 | 3151.02 | 13345.44 | 2463.69 | 5180.36 |
Write IOPS | 771.49 | 2078.5 | 786.68 | 3342.93 | 616.25 | 1296.64 | |
Read MB/sec | 33.28 | 89.89 | 34.09 | 144.43 | 26.66 | 55.99 | |
Write MB/sec | 8.34 | 22.43 | 8.49 | 36.15 | 6.67 | 14 | |
Average Read Response Time | 0.26 | 3.13 | 0.256 | 1.95 | 0.37 | 5.2 | |
Average Write Response Time | 0.25 | 2.85 | 0.24 | 1.8 | 0.12 | 3.89 | |
Maximum Read Response Time | 44.15 | 53.75 | 36.93 | 54.31 | 9.89 | 34.34 | |
Maximum Write Response Time | 34.79 | 51.6 | 7.65 | 49.08 | 2.22 | 23.87 |
ところで、今回は120GBモデル、240GBモデルとも2台ずつ試用できたため、双方を2台ずつ取り付け、RAID 0環境を構築した状態でも速度を計測してみた。テスト環境は先ほどと同じで、2台をSATA 6Gbpsポートに接続し、チップセットが提供するRAID機能を利用してRAID 0環境を構築しテストを行なっている。
結果を見ると、120GBモデルでシーケンシャルリードが900MB/sec前後、240GBGBモデルでは950MB/secほどを記録した。ただ、やはり単体時同様、CrystalDiskMarkの標準設定の計測では、シーケンシャルライトは120GBモデルで290MB/secほど、240GBモデルで470MB/sec前後であった。
120GBモデル、1,000MB結果 | 120GBモデル、4,000MB結果 |
240GBモデル、1,000MB結果 | 120GBモデル、4,000MB結果 |
そこで、単体時同様、テストデータを「0fill」に設定して再度計測してみたところ、120GBモデルではリードが990MB/sec前後、ライトが900MB/sec前後に向上。同様に、240GBモデルではリードが1,030MB/sec前後と1,000MB/sec越えを記録するとともに、ライトも930MB/secほどに向上した。通常使用時には、0fill設定時の速度が発揮される場面はかなり少ないと思われるが、それでもデータ圧縮が効けばかなりの速度が発揮されるはずだ。
120GBモデル、0fill、1,000MB結果 | 120GBモデル、0fill、4,000MB結果 |
240GBモデル、0fill、1,000MB結果 | 240GBモデル、0fill、4,000MB結果 |
HyperX SSDシリーズは、8月上旬より販売が開始されている。また、冒頭でも紹介したように、Kingstonは日本市場でのSSD製品の販売活動を強化すると表明しており、今後HyperXシリーズにとどまらず、さまざまなSSD製品を投入していくことになると思われる。HyperXシリーズのように、性能に優れる製品が多数投入されれば、KingstonはSSDの有力な勢力としてこれまで以上に台頭してくるはずだ。そういった意味でも、今後とも魅力的なSSD製品の投入を期待したい。
(2011年 9月 22日)