大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

分社化して1カ月半を経過したHP Inc.の現状は?

〜アジアパシフィック&ジャパン担当のオリソンバイスプレジデントに聞く

HP Inc. アジアパシフィック&ジャパン パーソナルシステムズビジネスでバイスプレジデント&ゼネラルマネジャーを務めるアネリーズ・オリソン氏

 米Hewlett Packardが、2015年11月1日付けで、エンタープライズ事業を中心とするHewlett Packard Enterpriseと、PCとプリンティング事業を展開するHP Inc.の2社に分社してから1カ月半を経過した。日本においては、それに先行する形で、2015年8月1日に分社化し、PCとプリンティング事業は、日本HPとして事業をスタートしている。このほど、来日したHP Inc. アジアパシフィック&ジャパン パーソナルシステムズビジネスのアネリーズ・オリソンバイスプレジデント& ゼネラルマネジャーに、分社の狙いや、分社後のHP Inc.の取り組みなどについて直撃した。

戦略そのものには変化がない

――HP Inc.となったことで、何が変わり、何が変わらないのでしょうか。

オリソン 分社化して、1カ月半を経過したところですが、まず、変わっていないところを挙げるとすれば、それは「戦略そのもの」ということになります。

 かつてのパーソナルシステムズでは、2in1を始めとするコアPCや、新たなタブレットの提案といった領域だけでなく、モビリティ、新興国向けPC、アクセサリ、ディスプレイなどを展開してきました。その実績を元に、今年(2015年)10月までの期間は、分社化に向けた準備を行ない、数多くの議論を繰り返してきました。その中で統一していたのは、戦略は変えないということ。それを元に外部の方々とコミュニケーションを図ってきました。

 HP Inc.では、パーソナルシステムズ時代からのメンバーがそのまま残っていますし、特に、アジアパシフィック&ジャパンでは、プレジデントに就任したリチャード(=アジアパシフィック&ジャパンのリチャード・ベイリープレジデント)以外は、ほとんど変更がありません。私も、Hewlett Packardには長年勤務しており、アジアパシフィックでの仕事を5年やっています。また、日本HPの社長である岡さん(=岡隆史社長)を始め、中国のカントリーゼネラルマネージャー、マーケティング・サプライチェーンのリーダーも、従来と同じ体制です。

 そして、ODMとの関係や、部品メーカーとのパートナーシップ、日本の生産拠点の活用などについても、従来からのままです。10年以上前から取り組んでいる環境に配慮したサプライチェーンも継続的に行なっていきます。安定した体制の中で、新たな会社へと移行することができました。

 11月1日の新会社のスタートは非常にスムーズでしたし、これからの道のりについて、とてもワクワクしています。

 何が変化したのかというと、これまでに比べて自由度が高まるという点です。どこに投資するのか、どの分野を成長させるのかという決断が、より速くできるようになったことに加えて、PC事業とプリンティング事業に、よりフォーカスできる体制が整ったと言えます。

日本市場の重要性には変化なし

――日本市場の位置付けは変わりますか?

オリソン HP Inc.にとって、アジアパシフィック&ジャパンという市場が、成長エンジンであることは間違いありません。もちろん、アジアパシフィック市場全体における経済成長という観点ではいくつかの課題があったり、それぞれの国が持つ特性というものがあったりします。HP Inc.では、市場の成長性や当社のマーケットシェアなどを背景に市場を分析し、TAM(Total Addressable Market)の観点からも、それぞれの市場にどれぐらいのポテンシャルがあるのかといった分析を行ない、市場に合わせた展開を行なっています。

 日本の場合には、サービスがとても重視されている市場であり、そこに対する期待感も高い。今後、我々の体制をそこに合わせていく必要があります。分社化によって、サービスポートフォリオを充実させていくことができると考えていますし、ここでは、日本のチャネルパートナーやシステムインテグレーターとの協業が重要になると考えています。さらに、エンタープライズビジネスを担っているHewlett Packard Enterpriseと、日本においてこのビジネスを展開している日本Hewlett Packardとは、サービスポートフォリオを充実させるという点でも重要なパートナーとなります。Hewlett Packard Enterpriseや日本Hewlett Packard、日本のパートナーとの協業を通じて、サービスをパッケージ化して提供するといった取り組みも増えていくことになるでしょう。

 一方、中国、インドは、市場規模が大きいという点で、アジアパシフィックのビジネスにおいて重要な市場になります。HP Inc.では、“ヒートマップ”という手法を用いて、マーケットデータを元に、価格帯やスクリーンサイズ、フォームファクタなどから分類し、それぞれの市場における可能性を導き出すことで、市場で求められている領域の製品を投入しています。東南アジアや中国では、機能が少なく、低価格の製品が売れる傾向がありますから、その領域の製品ランイアップを強化することになります。

 実は、コマーシャル向けPCをデザインする際には、日本市場とオーストラリア市場を念頭に置いています。今回、日本で発表した「HP Elite x2 1012G1」も、日本のユーザーの声を反映した製品です。日本では、オフィスの中で使用するだけでなく、電車での移動もあり、そこでも利用することが多い。そうした利用環境に向けて、軽量で、薄型で、優れたデザインを持ち、さらに、高いセキュリティを実現した製品を投入しました。

 昨今では日本において、情報漏えいの問題が注目されていますが、HP Elite x2 1012G1は、企業の知的財産を保護し、個人の情報漏洩を防止するための機能も搭載しています。そして、これは生産性を高めることにも繋がっています。保険の営業担当者がいちいちオフィスに戻らなくても、セキュアな環境で個人情報を取り扱えるといった使い方が可能になるからです。

 加えて、日本のユーザーの声を聞くと、プラチナバンドをサポートして欲しいという声も多く、接続性を重視することにも力を注ぎました。NTTドコモ、KDDIとの提携により、3G、4G、LTEをサポートすることで、Wi-FiやWiGig以外にも対応できるようにしたのはそのためです。

 日本の市場は、アジアの中では最大の市場となります。今後も、日本のユーザーからの声を数多く聞き、それを反映することで、必要なソリューションを提供していきたいと考えています。

分社化によるデメリットはないのか?

――一方で、分社したことによるデメリットを指摘する声もあります。企業ユーザーにとっては、サーバーとPCをワンストップでは購入できなくなること、あるいは、開発、生産面において、部品調達におけるボリュームメリットを活かせなくなるといった指摘もありますが。

オリソン 分社化したことで、Hewlett Packard Enterpriseの会長兼CEOであるメグ・ホイットマンと、HP Inc.の社長兼CEOであるディオン・ワイズラーの2人のCEOが存在することになりますが、メグ・ホイットマンはHP Inc.社の会長も兼務します。2人は長い時間を費やして、分社した後の可能性について議論をしてきました。共通の認識は、HP Inc.にとっての最大のパートナーは、Hewlett Packard Enterpriseであることに変わりはないということです。

 Hewlett Packard Enterpriseには、HP Inc.と連携するためのマネージャーを配置し、HP Inc.にも、Hewlett Packard Enterpriseと連携するためのマネージャーを配置。お互いに緊密な連携が取れるようにしています。また、ファイナンシャルサービスを提供するHPファイナンシャルサービス(HPFS)においても、HP Inc.向けの専任担当者を配置しています。こうしたことにより、企業ユーザーに対しても、SLAを維持しながら、これまでと同様の関係を維持できるようにしています。

 8月からは運用上の分社化を進めており、7月までは1つの請求書で発注していた場合には、どう分けていくのかといったことも話をしてきました。その中で、得られたものを仕組みにフィードバックしています。また、調達に関しても、IntelやMicrosoftと話し合いを行ない、どんなルールで、どう連携していくのかといったことについても決めています。

 Hewlett Packard Enterpriseは、サーバーやネットワーキング、サービスにおいてナンバーワンの企業であり、HP Inc.はビジネスPC、インクジェットプリンタ、レーザープリンタ、デジタル印刷機、ラージフォーマットプリンタといった世界ナンバーワンシェアを持っています。もともと同じ会社である2社には、緊密なパートナーシップ関係を築くことという点に長けており、そこにDNAがあります。

――分社化後、パートナー各社からの反応はどうですか?

オリソン 既に何度もパートナー向けの説明会を開催しています。2社合同で開催したこともありますし、個別に実施したこともあります。最初は質問が多かったのですが、パートナーファーストの戦略が継続されることが理解されるに従って、質問の数は減少してきましたし、さらに、航空会社で言うような会社を超えた横のアライアンス関係を保ちながら、HP Inc.とHewlett Packard Enterpriseが一緒になって、パートナーシップを継続することに対する理解も深まっていったと言えます。

 HP Inc.とHewlett Packard Enterpriseの両方の製品を取り扱うパートナーも少なくありません。我々にとって、常にパートナーの声を聞くことは大変重要なことです。日本やインド、中国においても、その姿勢はこれからも変えません。HP Inc.は、常にベストなパートナーになることを目指しています。

(大河原 克行)