大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
NEC、世界最大規模の海底光ケーブル生産拠点を公開
(2015/7/10 06:00)
NECは、光海底ケーブルシステムの生産拠点である福岡県北九州市のOCC海底システム事業所を公開。さらに、日米間を結び海底光ケーブル敷設プロジェクトであるFASTER向けに、2015年6月から着岸し、光ケーブルを積み込んでいる敷設船「Rene Descartes」の内部の様子も公開した。
現在、国際通信の99%を支えているのが光海底ケーブルシステムであり、NECは、地球5周半に当たる延べ22万kmを超える光海底ケーブルの敷設実績を持つ。市場シェアは、米国のTE Subcomの34%に次いで第2位。NECは、30%のシェアを誇る。
OCCは、1935年に設立。OCCには、Ocean Cable & Communicationの意味があり、今年80周年を迎えた。資本金22億5,000万円のうち、NECが75%を出資。残りを住友電工が出資している。
現在、世界3大海底ケーブルメーカーの1社として展開する海底線事業が同社売上高の68%、ワイヤレス通信機器向けの同軸ケーブルによる陸上線事業が25%、海底/陸上ケーブルの特徴を活かし、海底地震観測システムや海洋資源探査などのシステム提案などによるケーブルシステム事業が7%となっている。
「陸上光ケーブルでは、光ファイバー心線をステンレス管に挿入したM-PAC(Metal Pipe Armored Cable)が特徴であり、細さと強さ、優れた水密性などが特徴」(OCCの都丸悦孝社長)としている。
1995年には、北九州市に海底システム事業所を竣工。東西300m、南北600m、東京ドーム4個分に当たる86,000平方mの敷地面積を持ち、年間20,000~25,000kmの海底ケーブルを生産。世界最大規模を誇るという。
「北九州は、アジア市場への供給に優位な立地であること、豊富な貯線設備を持ち、2船同時に船積ができる体制を世界で唯一備えている」(OCC 海底システム事業所・鈴木亮介所長)としたほか、「海底ケーブルは、それぞれの海底に最適なケーブルを生産するため、作りだめはしない。敷設するのとは逆の流れで生産を行ない、SAT(System Assemby and Test)に入れて、T-T(Tail to Tail)接続後、システム試験を行ない、敷設船に積み込むことになる」という。
OCCが開発する海底ケーブルは、独自の三分割鉄個片構造を採用している。
「他社が鋼を複雑な組み合わせで抗張力層を作るのに対して、120度の角度で組み合わせた三分割鉄個片構造によるシンプルで、堅牢な構造を実現しているのがOCCの海底ケーブルの特徴。また工程数が少ないため、溶接などに伴う熱影響を抑制し、部材が少ないことから、高速/省工程での生産が可能になっている。また、ファイバーを格納するスペースに余裕があるため、大口径ファイバーに適した設計が可能で、大容量化の要望にも対応できる」(OCC 海底システム事業所・鈴木亮介所長)という。
三分割鉄個片構造は、「同じ張力のまま長い距離の鉄個片を作り上げることは、競合他社にはできないもの」(OCCの都丸社長)とした。
2014年度に5つの大型プロジェクトを受注したNEC
NECは、2014年だけで、5つの海底ケーブルシステムプロジェクトにおいて、契約および調印をしている。
FASTERは、米国西海岸と日本を結ぶ、総延長約9,000kmのプロジェクトで、伝送容量は最大60Tbpsとなり、日米間の海底ケーブルで、毎秒100Gbitを実現する最新光波長多重伝送方式を初めて採用。NECにとっても、日米間を結ぶプロジェクトを単独で受注したのは初めてのことになる。KDDI、Google、中国移動、中国電信、Singtel、Globa Transitの6社が実施したプロジェクトで、2015年6月15日に三重県志摩にケーブルの陸揚げを行なった。陸揚げしたケーブルは、今回、敷設船「Rene Descartes」に搭載して、敷設する約8,000kmのケーブルと接続することになる。
なお、「Rene Descartes」はケーブル敷設船として世界第2位の規模だが、8,000km以上のケーブルを一度に搭載して敷設するのは世界でも初めてであり、関係者はギネス記録の申請を行なうことを検討しているという。
SEA-ME-WE-5は、シンガポールとフランスを結ぶ総延長2万kmの敷設プロジェクトで、アルカテルルーセントとの共同契約。NECは、シンガポールからスリランカまでのルートの敷設を担当した。最大で24Tbpsの伝送容量を持つ。NECとしては、シンガポールから西へのケーブル敷設に初めて携わった。
SEA-US(Southeast Asia-United States)は、フィリピン、インドネシア、グアム、ハワイ、米国本土を結ぶプロジェクトで、総延長は15,000km。20Tbpsの伝送容量を持ち、東南アジアと米国本土を直接結ぶ光海底ケーブルとしては最大の通信容量を持つ。
SACS(South Atlantic Cable System)は、アンゴラとブラジルを結ぶ、総延長6,200kmのプロジェクトで、最大40Tbpsの伝送容量を持つ。アフリカ大陸と南米大陸を結ぶ南太平洋を横断する世界初の光海底ケーブルシステムで、NECにとっても大西洋で初めて手がけるプロジェクトとなった。
AAE-1(Asia Africa Europe-1)は、アジアから欧州までを敷設するプロジェクトで、これをタイから香港まで延長接続。その部分をNECが受注し、総延長2,900kmのプロジェクト。最大34Tbpsの伝送容量を実現している。
10月にも生産ラインを増強し、月産2,000km体制に
NECが、これだけ多くのプロジェクト契約を獲得している背景には、いくつかの理由がある。
1つは、海底中継器および海底ケーブルの設計、製造技術を有し、25年間という長期間に渡る信頼性を保持しながら、大陸横断の伝送を可能としていること。また、最適なルート決定とケーブル障害を防ぐケーブル埋設技術を持っていることの同社の特徴だ。
さらに、国際間を繋ぐ大規模ネットワーク構築が可能なインテグレーション力、各国で異なる法令や許認可、慣習などの状況を知り尽くした上で実行するプロジェクトマネジメント力などがある。
そして、新たなプロジェクトがNECが得意とするアジア地域に集中していることも、同社のプロジェクト受注が増加している理由の1つだといえよう。
海洋システム事業所では、昨年7月時点では、月1,000kmの生産量であったが、昨年8月以降は月1,500kmの生産量に拡大。今後は月2,000kmの生産量にまで拡大することも視野に入れているという。
「月産1,500kmまでの増産は、24時間の生産体制、約1割の人員増、生産の効率化によって実現したが、月産2,000kmに向けては、生産ラインを増設して対応していくことになる。2015年10月から新たなラインを稼働させたい」(OCC・都丸社長)とした。
同社では、1964年に、太平洋横断海底ケーブル(TPC-1)用装置をAT&Tへ納入したことから海洋システム事業を開始。1985年からは光ファイバーを活用した海底ケーブル敷設工事を開始。1994年以降は、光直接増幅と波長多重技術による大容量伝送時代に対応した形で事業を推進している。
NEC 海洋システム事業部長代理の緒方孝昭氏は、「国際通信回線の回線需要は、過去5年間で4、5倍に増加している。2008年までの10年間は10Gbitの技術で推移していたが、2010年からは40Gbitへと進展。今では、100Gbitの技術が使われている。今後はポスト100Gbitとして、400Gbitに向けた動きがはじまることになる」とした。
2014年度は、ここ数年の中で、数多くの海底ケーブル敷設プロジェクトが開始され、市場自体も拡大したが、これは、100Gbitの登場を待って、海底ケーブル敷設プロジェクトが動き出したとも言えそうだ。
海底ケーブルシステムは、海底ケーブルと光中継器、光分岐装置、給電装置、光端局装置、SDH装置によって構成される。
海底ケーブルや光中継器は、システム寿命として25年という長期間が求められており、さらに、最大水深8,000mに設置できる800kg/平方cmの高耐水圧性、6tの張力にも耐える高耐張力性が求められる。
伝送容量は、1波長あたり100Gbitを100波長、さらにこれを8つ組み合わせることで、80Tbpsを実現できるという。
「80Tbpsとは、12億4,000万の電話回線が同時に使える規模、4.7GBのDVDの場合、約2,100枚のデータを1秒間に送信することができる」という。
海底観測ソリューションにも強み
一方、NECでは、海底ケーブル式観測システムソリューションにも強みを発揮する。
これは海底通信機器の高信頼性技術を駆使したもので、海底ケーブルの中に海底地震計や津波計などを搭載するインライン式で提供。観測に使われる装置には、津波計センサーを搭載。さらに、地震計センサーとして、加速度型、速度型、傾斜計を搭載している。
NECでは、気象庁や東京大学地震研究所、防災科学技術研究所、海洋研究開発機構を通じて、太平洋側に大規模地震、津波システムを構築している。
「海底ケーブル式観測ソリューションは、32年間の実績があるが、これまでに無故障稼働の実績を持つとともに、2011年には台湾向けに海外初納入を果たした」という。