NECは、報道関係者を対象に、同社の海底ケーブルシステム事業について説明会を開催した。また海底ケーブルシステム用の海底中継装置の生産を行なっているNEC山梨の様子を公開した。 NECは、'68年(昭和43年)から海底ケーブルシステム事業を開始。これまでに約10万kmの敷設実績がある。また、中継器の第1号機を敷設して以来、これまでに1台の障害も発生していないという。 同社の海底ケーブルシステム事業への取り組みをまとめた。 ●水深8,000mにも中継器を設置 海底ケーブルシステムは、国や地域を結ぶ光ファイバーケーブル、それを約40kmから100km間隔で中継するための海底中継器、陸上部分の局舎に設置する端局、監視機器などで構成される。 光ケーブルは陸地部分は破損の可能性が高いため、平均1~3m部分に埋設。さらに、海底につながる部分では、1,500mの深さまで埋設するという。その後、海底にケーブルを這わせ、海溝部の深い部分にもケーブルを這わせるという。中継器は、最大で水深8,000mの海底に設置されることになり、ケーブルはさらに深い部分を這うことになり、ケーブルが海中を漂っている部分はほとんどないという。 日米間の海底ケーブルの場合、約8,000kmの距離となり、最低でも80~100台の中継器が必要になる。また、ケーブルは、オホーツクを経由するようなルートが最短となるため、航空路とほぼ同様のルートを通るという。ケーブルは、弛みを持たせたり、海溝の深い部分にも這わせるため、実際の距離プラス2%程度の長さになる。 ●国際回線の97%を占める海底光ケーブル
国際回線やブロードバンド通信の方法には、衛星通信もあるが、「衛星通信の伝搬速度が、通話に遅延を感じる約250msであるのに対して、光海底ケーブルはそれを感じさせない約50ms。また、システム寿命が衛星通信の15年に対して25年、伝送容量では、48,000チャンネルに対して、8,000万チャンネルと大きな差がある。'95年当時は、衛星通信と海底ケーブルの利用比率は50対50だったが、今は97%が海底ケーブルになっている」(NECブロードバンドネットワーク事業本部長・今井正道氏)という。 現在、主流で利用されているのが10GbpsのWDM方式。WDMとは、1本の光ファイバーのなかに複数の波長を通す技術で、最新技術では128波までの対応が可能。例えば、10Gbpsで、128波のWDM、8ファイバーペア(1つのケーブルの中に上り/下りをあわせて16本の光ファイバーが入る)で、10.24Terabpsの伝送容量を実現できる。これは、1ケーブルあたり、1秒間に272枚のDVD(4.7GB)の容量を送信できるほか、電話回線に当てはめると約1億6,000万回線の同時通話が可能になる。 今後は、192波への拡張が見込まれているほか、2010年から2011年頃には、40Gbpsの新たな技術の投入が見込まれている。 ●アジア太平洋地域では40%のシェア NECの海底ケーブルシステム事業は、フルターンキーベースのビジネスとなっている点が特徴だ。 システム設計から海底中継器や端局、給電装置の製造、インテグレーションのほか、ケーブルの調達、敷設工事の受託まで、プロジェクト全体を通じて事業を請け負う。 光ケーブルの製造に関しては、今年(2008年)7月に子会社化したOCCが担当。また、敷設工事は、NTTグループなどの船を所有する企業などと提携し、業務を遂行する。 1つのプロジェクトが6~8年となっており、アジア太平洋地域の海底ケーブルプロジェクトに絞り込んで受託している。
「この分野では、約20%のシェアを占め第3位。当社と、タイコ(Tyco)、アルカテル・ルーセントの3社で市場全体の95%を占める。大西洋が最も大きな市場となるが、そこに出ていくには、コスト面での競争力がない。高リスク案件を避け、安定的な事業成長の維持を図る考えで、アジア太平洋地域にフォーカスすることで、強みを生かす。この地域では40%のシェアを持ち、第1位」(NEC海洋システム事業部・原田治事業部長)という。 タイコ、アルカテル・ルーセントは、製造から敷設、保守までを自社で提供しているが、NECは、OCCを傘下にしたことで、ケーブル製造までをグループ内で対応できる体制を整えた段階。 「OCCをグループ化したことで、これまで複数のケーブル会社から調達していたものを一本化できた。納期、価格の調整といった点での手間がなくなり、安定的な調達を図れるようになった」(今井氏)とする一方、「敷設船を自前で所有するにはリスクが大きく、いまのところ、これを持つ方針はない」とした。 海底ケーブルシステム事業は、'99年~2001年のITバブル期に突出した需要を迎え、年間98億ドル(約1兆円)の市場規模にまで膨れ上がった。だが、バブル崩壊後の2002年には1億7,000万ドルと、100分の1近くに市場が激減。この分野からの撤退や事業縮小を余儀なくされる企業が相次いだ。NECも、その影響を受けた1社であり、事業撤退の検討も行なわれたほどだ。それを乗り越えて、事業を継続してきたことも、同社の体質を強くすることに繋がっている。 現在は、約21~25億ドルの市場規模で推移しており、旺盛なトラフィック増加への要求、インド洋、中近東、アフリカへの回線需要の増大が見込めるなど、着実に右肩あがりとなる成長を見込んでいる。 一方、同社の海底ケーブルシステム事業のノウハウを生かした事業として、海底地震観測システムがあり、この事業での実績も見逃せない。 地震計、津波計を接続した光海底ケーブルを敷設し、これにより、リアルタイムでの海底地震観測ができるようにするものだ。今年、気象庁に納入した御前崎沖海底地震観測システムでは、東海地震への観測体制強化の一環として設置されたもので、これにより、100kmの海域で地震や津波が発生した場合、地震では陸に達するまで20秒程度、津波では10数分程度、事前に捕捉することができ、緊急地震速報に利用することができるという。 同社では、すでに日本周辺海域に7つの海底地震観測システムを納入。今後、三陸沖や紀伊半島沖にも新たに海底地震観測システムの引き合いがあるという。 ●海底中継器の製造拠点となるNEC山梨 山梨県大月市にあるNEC山梨は、JR大月駅から車で約10分。中央高速道路の大月インターチェンジからすぐ見える場所にある。
そのユニークな形状から、目にした人も多いだろう。「大月市民からは、UFOのような形状の建物が高台にあるため、今でも空に飛び出しそうだと言われるが、作っているものは、逆に海底の一番深いところに設置されるもの」と、NEC山梨の水戸郁夫社長は笑う。 '86年(昭和61年)に、NEC直系のNEC大月工場として、通信機器の製造拠点で操業。'98年にはNECの100%出資子会社として、社名をNEC山梨(山梨日本電気)に変更。光通信用デバイス、海底ケーブルシステム用の光海底中継装置の生産を行なっている。 NECの中興の祖であり、C&Cの言葉を提唱した小林宏治氏の出身が大月市であることも、同拠点の設置に大きく影響。隣接する市の公園には、小林氏の胸像が置かれている。 NEC山梨の事業領域は、光海底中継器、分岐装置、地震計などの海洋システム事業、光トランシーバーやMRセンサーなどの光デバイス事業、さらに、信頼性評価や故障解析、RoHS指令などの成分分析受託といった製品分析事業となる。従業員数は205人。海洋事業には約25人が従事。さらに派遣社員を含めて約80人の体制となっている。 「コアコンピタンスは、25年の品質保証を実現する海底機器の高信頼性技術、超小型光電気ハイブリッド実装技術、世界に誇る光デバイス製造技術、そして、製品分析技術となる。NECが目指すNGNを実現するための装置の安定供給拠点としての役割を担う」と、NEC山梨の水戸郁夫社長は語る。 光デバイス製造技術では、高速光インターフェイス製品、家庭向け光通信向けのG-PONなどをはじめとするアクセス光インターフェイス、コンピュータ用高速光インターフェイスのほか、携帯電話やノートPC、デジタルカメラなどの開閉検出に利用する磁気抵抗センサー「MRセンサ」を生産。「MRセンサでは、月1,200万個を生産し、世界トップシェアを誇る」という。 また、超小型光電気ハイブリッド実装技術では、石英導波路、光半導体素子、LSIの集積化を行なうほか、製品分析技術では、NECグループの中核3拠点の1つとして、加工から分析までの一貫した製品故障解析技術と信頼性試験装置による試験を行なう。 一方、海洋システム事業では、光海底中継器や、特性を補正するための利得等化装置、海底分岐装置といった海底ケーブルシステム機器を生産。さらに、この技術を生かして海底地震計、海底津波計も生産している。 「海底中継装置では、水深8,000mでの耐圧性が求められる。高信頼度の生産設備によって、高気密、高耐水圧、高耐電圧性能を実現しているのがNEC山梨の特徴といえる」とする。 気密封止技術では、筐体内湿度を25年間で20%RH以下の性能を実現。また、水深8,000m(800気圧)の高水圧に耐えられる構造部品の製造や、15,000V以上の高耐電圧および高放熱構造の実現。これにより、フィールド障害ゼロを更新し続けているという。 海底機器の製造現場の様子を見てみよう。
□NEC山梨のホームページ (2008年12月8日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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