大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

【新春恒例企画】2015年は一年中が「X'mas Day」?

 2015年はどんな1年になるのだろうか。

 残念ながら、PC業界は、厳しい状況になるのは明らかだろう。

 4月のWindows XPのサポート終了と、消費増税前の駆け込み需要に沸いた2014年のPC業界は、2014年4月以降、企業向け、家庭向けともに徐々に需要が停滞。7月以降は前年割れの状況が続いている。2015年もこの流れは続きそうだ。期待されるのは今年後半といわれているWindows 10の登場。今や新OSの発売でPCが売れる時代ではなくなっているが、やはりWindows 10が、2015年の目玉になることには変わりがない。

 こうした2015年を、新春恒例企画となっている言葉遊びから1年を占ってみたい。

 2015年のキーワードは、「X'mas Day」。この言葉の中に、2015年のトレンドとなる要素が盛り込まれている。つまり、2015年は毎日がX'mas Dayというわけだ。

 念のために付け加えておくが、この原稿はクリスマス時期に、シャンパンなどを飲みながら執筆したものではない。新年を迎え、2015年を俯瞰してみた結果が、「X'mas Day」になったというわけだ。

 では、この言葉の中にどんなトレンドが含まれているのか。

 まず、「X'mas Day」の「X」だが、この記事では、あえて数字の「10」と読ませたい。

 そして、この10という数字が示すトレンドは、やはりWindows 10ということになる。

 Windows 10は、2015年後半にリリースが予定されている次期Windowsであり、既にテクニカルプレビュー版が公開されている。米国時間の1月21日には、コンシューマプレビュー版が配布され、Windows 10で実現されるマルチデバイス環境における「ワンユーザーインターフェイス」、「ワンユニバーサルAPI」、「ワンストア」のベールをいよいよ脱ぐことになりそうだ。さらに、4月29日に開催される開発者向けイベント「Build 2015」では、デベロッパープレビュー版が公開される見込みで、リリースに向けてラストスパートをかけることになる。

 米Microsoftのケビン・ターナーCOOは、最近になって、Windows 10の発売時期を「2015年秋」とコメントしており、クリスマス商戦前の市場投入が有力になってきた。

 だが、Windows 10によって、PC需要が一気に喚起されるとは考えにくいのは確かだ。復活したスタートメニューなど、ユーザーの声を反映したOSとして、どこまで評価を集めることができるかが注目される。

 その一方でWindows 10の投入時期は、いくつかの動きを捉えるのに重要なものになる。

 1つは、MicrosoftブランドのタブレットPC「Surface」の次期製品の投入時期だ。現行のSurface Pro 3の発売は7月。次期Surfaceもこの時期の発売が有力だが、Windows 10のリリースにあわせるとなると秋にずれ込む可能性もある。Appleのように、OSとハードウェアの発売時期を別にするのか、それともOEM各社がこれまでとってきたWindows搭載PCの発売のように、新OS発売と同じ時期の新ハードウェア発売にするのかは注目点である。

 そして、Windows 10のリリース文の中で触れられている「発表にあわせて、いくつかの新たなデバイスを投入する」とコメントしている点も気になる。どんなデバイスが計画されているのかが隠れた注目点だ。

 もう1つは国内投入時期が注目されているWindows Phoneへの影響である。Nokiaの買収やそれに伴うブランドの統一など、海外では着実に動きを進めているMicrosoftブランドのWindows Phoneは、国内では「市場投入に向けて準備を進めている」というこれまでのコメントには変わりがないが、社内からは「少しずつ歩みを進めているのは確かである」との声も聞かれる。だが、これまでの経緯を考えれば、あえてWindows 10投入前に、国内でWindows Phoneを投入するのは得策ではないのも確か。国内投入のきっかけがあるとすれば、Windows 10のリリース時期だといえるだろう。
 Windowsという観点でいえば、7月15日にサポート終了を迎えるWindows Server 2003も、2015年の大きなトピック。12月末時点で21万台のWindows Server 2003を搭載したx86サーバーが国内に残っているとされ、これから半年間は、リプレース需要が注目されることになる。

 続いて「X'mas Day」の「m」だ。

 「m」では、マイナンバー制度の導入を挙げたい。

 政府が進めるマイナンバー制度は、住民票を持つすべての国民に対して、番号を付与。行政手続きなどにも活用できる。同様に企業に対しても番号が付与され、これを活用した入札なども行なわれる。個人に対しては2015年10月からマイナンバーが付与されるとになり、2015年後半の大きな目玉だ。

 マイナンバーに関しては、個人情報を扱うという観点から、厳格な情報管理とルール適用のもとに運用を行なうことが求められており、これに伴う企業情報システムの改修が開始される。あらゆる企業に求められる対応とも言え、IT市場全体に波及する経済効果は3兆円規模に達するとの試算もある。まさに特需ともいえる追い風がIT業界に吹くことになる。

 IT業界では、マイナンバー制度に伴う情報システム改修とともに、2015年中に実施される「ストレスチェック義務化法」において、従業員50人以上の企業においては、年1回のストレスチェックが義務づけられており、システム改修の需要が発生するほか、2015年中に実施される「電子帳簿保存法(e-文書法)」の改正では、これまで3万円未満までしか認められていなかった領収書の電子保存が、3万円以上にまで対象が拡大。これに伴って、電子保存の促進による新システムの導入や、システム改修が開始されるといった需要も期待されている。

 この3つの動きがまさに特需を生むと見られており、これに、先に触れたWindows Server 2003のサポート終了に伴うリプレースが加わることになる。IT業界にとっては、好景気に沸く1年になる可能性が高い。

 一方、「m」という点では、「モバイル」いう意味もあり、ここではエンタープラズモバイルアプリケーションの活用や、モバイルデバイスにおける新製品の登場などが期待される。また、「m」では、マウスコンピューターが発売した「m-Stick」のような新たなフォームファクターを持った製品の登場にも期待したい。

 「X'mas Day」の「a」では、まもなく発売される「Apple Watch」が挙げられる。

 PCメーカーからスタートしたAppleは、その後、音楽プレーヤー、スマートフォン、タブレットなどへとビジネスを拡大し、それぞれでトップシェアを獲得してきたが、Apple Watchは時計市場への新たな挑戦とも言え、そして、同時にウェアラブルという新たなデバイスの広がりを牽引する製品としても期待されている。これがウェアラブル市場の広がりに大きな影響を及ぼすのは間違いないだろう。

 その点でも、2015年のウェアラブルデバイスは注目すべき市場と言える。スマートグラス、スマートウォッチなど、さまざまな製品が登場するのは間違いない。調査によると、2015年には全世界で1億台のウェアラブルデバイスが出荷されるとの予測もある。これらの製品が、我々の生活にどんな影響を及ぼすのか。楽しい1年になりそうだ。

 「X'mas Day」の「s」は、5月に予定されている「SIMロック解除の義務化」ということになろう。

 総務省は、2014年10月に、モバイル創生プランを発表。その中で、「もっと自由に、もっと身近で、もっと速く、もっと便利に」をキーワードに、モバイル利用環境の整備をさらに一歩進めることを宣言。もっと自由に選べるモバイルの推進として、「SIMロック解除に関するガイドライン」の改正案を発表。5月から「SIMロック解除」を義務化することを盛り込んだ。これにより、どのキャリアに移行しても、SIMカードを差し替えるだけで、端末をそのまま利用できるようになる。これまで各キャリアが頑なに拒んできたiPhoneにおいても、SIMロック解除も行なわれることになり、国内で3,800万台以上と言われるiPhoneユーザーが、今後数年に渡ってSIMフリー対象へと移行することになる。この動きがキャリア間のシェア競争や、MVNOの躍進にどう影響するのかが注目される最初の1年になるだろう。

 一方で、「s」では、インテルが2015年後半に投入する「Skylake」もあげられよう。14nmプロセスで生産されるBroadwellの次世代CPUに位置付けられるもので、無線充電やパスワードレス、ナチュラルユーザーインターフフェイスといった新たなプラットフォームの提案も同時に行なうだけに、PC環境を大きく進化させるものとしても期待されている。

 続いて、後半の「Day」に移りたい。

 「D」では、今年3月に予定されている「デジアナ変換サービスの終了」が挙げられる。

 デジアナ変換サービスとは、ケーブルTVの利用者を対象に、地上デジタル放送をアナログ方式に変換し、アナログTVでも地デジが見られるサービスである。総務省からの要請によって、地デジ移行時の混乱を避けるための受け皿的措置としてケーブルTV局が実施してきたもので、これが3月ですべて終了する。

 視聴しているTVに「デジアナ変換」の文字が表示されていれば、その対象となる。対策を施さないと、サービス終了後はテレビ視聴ができなくなる。

 試算によると、約500万世帯でデジアナ変換サービスを利用しているとみられ、これがTVやチューナー機能を搭載したレコーダー、セットトップボックスの需要の拡大に繋がると予想されているのだ。

 一方で、TV市場においては、3月から4K専門チャンネルが開設されるなど、4Kの販売促進に向けた動きが活発化しており、これがTVの販売単価上昇に寄与している。

 2011年7月の地デジ化以降、低迷を続けてきた国内テレビ市場においては、「底を打った」という声が関係者から聞かれており、「デジアナ変換サービスの終了」と、4K TVの需要促進によって、回復感にさらに加速をつくことになりそうだ。

 そして、「D」では、無人飛行機である「ドローン」も挙げておきたい。映像撮影だけでなく、物流用途への応用なども検討されており、ドローンへの注目度はますます高まる1年になりそうだ。

 「Day」の「a」は、2回目の登場だが、ここでは「Audio」の「a」としたい。

 オーディオ分野では、ハイレゾオーディオが注目の1年になる。

 CDのサンプリング周波数である44.1kHz、量子化ビット数16bitを超える情報量を持つハイレゾオーディオは、アーティストの息遣いやライブの空気感を再現する「原音に近い音質」を実現するのが特徴。この分野をリードするソニーは、2013年をハイレゾ元年、2014年をハイレゾ普及加速の年とし、2万円台のウォークマンにもハイレゾ対応機種を拡大。「ウォークマンの4台に1台をハイレゾにする」という計画達成に向けて取り組んでいる。また、パナソニックもハイレゾの広がりを背景に、2014年にはTechnicsブランドを復活。高級オーディオ分野に再参入した。2月には、いよいよ日本でもTechnicsブランドの製品を発売。今後はカーステレオやモバイルデバイスなどへのラインアップ拡大にも意欲をみせている。2015年はハイレゾオーディオをきっかけに、オーディオ市場にもスポットが当たる1年になりそうだ。

 そして、最後の「y」は、「円安」ということになる。

 多くの部品調達をドル建てで行ない、海外生産が中心となるPCにおいては、円安の動きは価格上昇の原因に繋がる。そうした動きは春モデルでは顕在化することになりそうだ。

 だが、その一方で、家電製品では、海外生産を行なっていた体制を国内生産へと回帰する動きが出始めており、これが2015年には具体化するだろう。

 国内生産への回帰は、付加価値製品の強化にも直結することになる。

 健康関連製品や理美容家電などにおいて、日本市場に最適化した製品の投入が見込まれるほか、少子高齢化の日本において、シニアを対象にした新たな家電製品の強化も期待できる。

 パナソニックは、Jコンセプトシリーズとして、シニア層の利用を意識した製品を投入。掃除機やエアコン、冷蔵庫に加えて、さまざまな製品へと、これを展開する姿勢をみせている。また、タイガー魔法瓶でも「GRAND X」シリーズとして、日本の市場に最適化した付加価値製品群の投入を加速している。

 実際、円安は、業績回復の追い風になっている電機大手が少なくない。景気回復にもつながる動きになるといえよう。

 だが、電機大手トップに共通しているのは、これ以上の円安傾向の加速懸念と、急激な為替変動への懸念だ。「円安に振れるにしても、円高に振れるにしても、急激な変動だけが企業に悪いインパクトを与える」(富士通・山本正己社長というのは各社トップに共通した意見だ。

 為替の影響が、電機各社の戦略と業績にどんな影響を与えるのか注目の1年となりそうだ。

 「X'mas Day」のキーワードの中には含まれなかったが、3Dプリンタや、ソフトバンクの「Pepper」に代表されるロボットも、2015年は普及に弾みが付きそうだ。この部分は、「X'mas Dayのプレゼントに欲しい」というオチでご勘弁いただきたい。

(大河原 克行)